ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第199話: またまたまた……しても何も知らない千賀子さん

 

 

 さて、無事に小学3年生になったエマだが、その日、エマのテンションはけっこう高かった。

 

 

春人(はるひと)?」

 

 

 その名を呟くと同時に、エマは……柔らかい布団の上に寝かされた、弟の寝顔を見つめる。

 

 

「春人……弟の、名前?」

「そうよ、エマの弟の名前よ」

 

 

 まだ、実感がわかないのだろう。

 

 何度も、春人、春人、小さな声で呟きながら首を傾げるエマに、千賀子は笑みと共に頷いた

 

 

「この子は、お正月の前……冬の寒い時期に生まれた子でしょ?」

「うん」

「でも、冬の寒い場所から、温かくおねんねできる場所に来られたでしょ?」

「うん」

「だから、冬を乗り越えた先、春の名前を付けようってなったの。温かい名前が良いよねって、エマのお爺ちゃんとお婆ちゃんがね」

「うん」

 

 

 神妙な顔で頷くエマに、千賀子は分かりやすくエマに名前が決まった経緯を話す。

 

 千賀子の息子となったこの子の名前が『春人』になったのは、両親の意向もある。

 

 誠実な男になってほしいという意味で『誠』と名付けるか、強い子になってほしいという意味で『剛』と名付けるか。

 

 あるいは、頭の良い子に育ってほしいという意味から『学』が良いのでは……といった感じで、いくつか候補が出ていた。

 

 そんな中で、やはりというか、話題に出たのが……出生に関すること。

 

 この子……春人は、冬の寒い時期に親に捨てられた子だ。ゆえに、両親は冬や冷たさを連想させるような読みや漢字を使いたくはなかった。

 

 だからといって、当てつけのように反対の季節である夏を連想させる名前にするのは、逆に縁起が悪いのでは……と、思ったわけだ。

 

 

 そこで、千賀子は提案した。

 

 

 この子は、寒い冬を乗り越えてすくすくと成長している。だから、それにちなんで、命が育まれる『春』の漢字を使おう……と。

 

 これに、両親は賛成した。

 

 そしてそこから、あ~でもない、こ~でもない、うんうんと頭を悩ませた両親と千賀子(あと、電話で相談を受けた和広も)は……そうして、『人』にしようと決めたのである。

 

 どうして、『春』と『人』なのか。

 

 それは、先述したとおり、寒い冬を乗り越え、新たな命が育まれるという意味と、温かさを連想させる意味も込めて、『春』。

 

 そして、ただ時の流れに任せて春を待つよりも、自ら考え、歩いて春を広げていく、そんな男になってほしいという意味を込めて、『人』を。

 

 この二つを合わせて、『春人(はるひと)』、となったわけである。

 

 

「だから、エマもこれからは春人と呼ぶように。お姉ちゃんなんだから、出来るよね?」

「うん!」

 

 

 元気に頷いたエマは……そこで、ふと、首を傾げて尋ねてきた。

 

 

「ねえ、ママ。私の名前には、どんな意味があるの?」

「エマの名前にも、色々な意味が込められているのよ」

 

 

 そう、エマの名前にも、ちゃんと意味が込められている。

 

 エマは、『宇宙』や『すべて』を意味する言葉であり、そこから、多才や博識といった意味を含むようになった名前でもある。

 

 同様に、エマという名には、恵真、恵麻、恵茉といった漢字を当てはめることができる。

 

 意味はどれも、誠実さや純粋さ、思いやりや優しさ、逞しさや柔軟さといった、強く生きてほしいという意味がある。

 

 そして、エマは……言うなれば、ハーフの子である。

 

 この先、どこかでエマはどちらからも心無い言葉を、似たような意味合いで言われることがあるかもしれない。

 

 そんな時に、どちらからも言われたとしても、どちらの名前にも素敵な意味があるのだと……そんな思いも込めて名付けたわけである。

 

 

 ……と、その時。

 

 

 眠りから、覚めたのか。

 

 うにゅうにゅと、唇をキュッと締めた春人が、うっすらと目を開け……あうあう、と両手を天井へと伸ばす。

 

 もう首はすわっているが、まだちょっと怖いのだろう。困ったように、エマは視線をさ迷わせる……まあ、それも致し方ないというか、当然でもある。

 

 なにせ、春人はおおよそ生後4~5ヶ月だが、既に体重は生まれた時の2倍以上になり、6kgを超えている。身長も、既に60cmを超えている。

 

 エマの身長の半分以下とはいえ、一般成人女性で換算すると体重20kg以上かつ体長80cmの生き物を抱えるようなものだ。

 

 犬に例えるなら、中型犬の中でも大型に属するシベリアンハスキーぐらい……と聞けば、想像しやすいだろうか。

 

 なので、自分の身体の大きさを分かっているエマは、千賀子へ視線を向ける。

 

 さすがに、千賀子としても万が一落とすと危ないので、笑みと共に抱き上げ……どうやらお腹が空いたわけではないようで、ポンポンと優しくあやしてやる。

 

 

「じゃあ、ママは?」

「うん?」

 

 

 そんな千賀子に、エマは……先ほどと同じく、好奇心のこもった視線を向けた。

 

 

「ママの名前って、ちかこ、って言うんでしょ?」

「うん、そうだね」

「どんな意味なの?」

 

 

 言われて、千賀子は……思い出しながら、答える。

 

 千賀子の名前の由来もそうだし、兄の和広もそう。意味が込められていて、悩みに悩んで名付けてくれた名前なのだ。

 

 

「そうなんだ、名前ってとてもだいじなんだね」

「ええ、そうよ。エマも、何時か自分の番が来た時には──」

 

 

 そこまで話した時であった。

 

 

「マスター、お電話です」

 

 

 スーッと、ロボ子が、音も無く滑るように(というか、実際に滑ってきた)して廊下の向こうから正座の姿勢で姿を見せたのは。

 

 傍から見たら奇妙を通り越して不気味な動きだが、あまり深く考えてはいけない。ロボ子は誰に似たのか、時々こういった悪ふざけをするから。

 

 まあ、エマが面白がっているから放置しているだけで、ロボ子もそれが分かっているからふざけている可能性が高いけど……まあ、いい。

 

 そのロボ子の膝には黒電話が置いてあり、既に受話器が外れている。

 

 やろうと思えばコードレスなど余裕で可能なのだが、エマの目がある。表向きは、ちゃんと昭和の時代に合わせておいた方が良いという判断である。

 

 

「誰から?」

 

 

 軽く考えてみても、候補はいっぱいある。

 

 しかし、わざわざ千賀子へ直接電話をかけて来るとなれば、候補は絞られる。

 

 だって、千賀子は事前に子供の世話があるからと関係者には通達を済ませてある。当然ながら、競馬関係にも同じだ。

 

 急を要する事態ならば、ロボ子が既に察知して千賀子へ伝えて来るはずで……と、なれば、関係者以外から? 

 

 

「──宇都宮オリオン通り商店街振興組合からです」

「宇都宮……え、どこだっけ?」

「栃木県です。栃木県の宇都宮市の中心地にあるオリオン通り商店街の、組合からの電話です」

「はあ、商店街から……え、なんで?」

 

 

 あまりにも思いもよらなかったところからの電話に、千賀子は首を傾げた。

 

 ちょっと記憶を探ってみるが、宇都宮市はおろか栃木県の方に、なにかをした覚えがまったくない。

 

 当然ながら、両親からそっち方面の話を聞いた覚えはないし、明美や道子からもそうだし、競馬も相撲も……唐突過ぎて、警戒心を千賀子は抱かなかった。

 

 

「……ちょっと今は春人が寝入るまであやしているから、代わりに用件を聞いといて」

「了解しました」

 

 

 なので、素直に興味を抱いた千賀子は、とりあえず春人が再び寝息を立てるまであやしつつ……眠ったのを確認してから、改めてロボ子に尋ねた。

 

 そうして、語られた電話の内容は、だ。

 

 

「……手形を使わせてくれないかって?」

「はい、結論はソレです」

 

 

 来年の1980年、栃木県にて行われる第35回国民体育大会『栃の葉国体』を盛り上げるために、ボランティアで協力してほしい、というものだった。

 

 詳しく聞けば、どうも『栃の葉国体』開催を記念して、なにかしらのモニュメントのようなモノを作ろうという話が出ているらしく。

 

 栃木県内最大規模の商店街であるオリオン通りでも、『俺たちも盛り上げよう』という話が出ており……その一つとして、著名人の手形を作って設置してみては、という意見が出たようで。

 

 とにかく伝手が無い中で、誰もが知る有名人たちにお願いしてまわっている……という状況らしく、千賀子の方にも順番が回って来た……という話であった。

 

 なお、こうして集められた著名人たちの手形(メッキなどで加工済み)が埋め込まれた通りは『スターロード』と命名され、市民に親しまれることになるのだが……まあ、それはそれとして、だ。

 

 

「なんでまた、私に? 芸能人でもないしスポーツ選手でもないし漫画家でもないのに……」

「…………」

「もしかして、馬主として? 競馬場オーナーだから? いや、でも、芸能人よりはずっと知名度ないだろうし……」

「…………」

「……ロボ子?」

 

 

 なんだろう、ずっと沈黙を……その姿に、そこはかとない違和感と、なんとも言い表し難い悪寒を感じずにはいられなかった千賀子は、素直に隠している事を言えと視線で促した。

 

 

「その、単刀直入に申しますと」

「うん」

「要は、『愛し子カワイイもうどこから褒めたら良いのか分からないうう涙が出そうああ出ちゃったカワイイ愛し子カワイイぺろぺろしたい会社』案件です」

「あっ(察し)」

 

 

 すると、飛び出して来たのはまさかのアレであった。

 

 そう、それは、女神様が千賀子の心情など欠片もかえりみずに作った、あのヤベー会社である。

 

 なんでヤベーのかって、この会社……まず、千賀子自身が会社の存在を感知出来ないということ。有り体にいえば、千賀子も正確な会社の姿を知らないのだ。

 

 ロボ子曰く、『いちおう、本社はある』らしい。しかし、より正確に語るならば、そこは本社ではないのだ。

 

 つまり、『本社がそこにある』という情報をそれぞれの頭にインプットされるが、実際にそこには本社は無く、さりとて、存在しない本社の情報はしっかり頭の中にある。

 

 これの何が恐ろしいって、全員が全員別々の場所にある、異なる本社のイメージを語ったとしても、誰一人として疑問に思わず、同じ会社だと認識する……というところだ。

 

 直前まで『本社は20階建ての高層ビルだ』と語っていたのに、直後に『本社は平屋で、意外と小さいんだぜ』と語っても、全員が違和感をまったく覚えず納得してしまう。

 

 それでいて、この会社を通して契約なり何なりを行うと、誰もがその異常性にまったく気付けない。

 

 たとえば、一般的な会社に発注した場合だと3年が掛かる大規模工事を、この会社に頼めば2日で完了する……なんて、意味不明な事が起こっても、誰も気に止めない。

 

 言うなれば、『春木競馬場(?)』のアレと同じである。

 

 工事が始まり完成まで2日間だというのに、3年前から工事が始まっているという記憶と、現在に至る3年間の間にそこで起こった様々な出来事、存在しない記憶が事実として記憶され、記録されているのだ。

 

 これを恐ろしく思わない者が居るだろうか? 

 

 残念ながら、千賀子以外は誰も恐ろしく思わない当然の事だと認識しているので、その一端を感じ取れるのは千賀子とロボ子ぐらいである。

 

 

「……ちょっと待って」

 

 

 で、だ。

 

 例のアレの恐ろしさを説明し終えたところで、場面を戻す。

 

 しばし呆然としていた千賀子だが、ここである事に気付く。

 

 

「どこで、商店街の人達はアレの事を知ったの?」

 

 

 それは、今さらと言えば今さらな、しかし、千賀子にとっては寝耳に水に等しい疑問であった。

 

 と言うのも、例の『愛し子カワイイもうどこから褒めたら良いのか分からないうう涙が出そうああ出ちゃったカワイイ愛し子カワイイぺろぺろしたい会社』……さすがに、何時までも誤魔化し入れないようだ。

 

 とにかく、千賀子ですら意識してガードしないと無意識に会社名を思い浮かべてしまう例のアレだが、当然ながら宣伝らしい宣伝は何もしていない。

 

 当たり前だ。

 

 なにせ、商品を売っているわけではなく、そもそも建物の所在すら正確には断言できない会社だ。

 

 実体としては、書類上存在するだけのペーパーカンパニーみたいなものである。

 

 これまで千賀子は何度か利用してきたので、どこかで知る機会があったにせよ、直接関係した事がない栃木県の商店街の人が、いったいどうやって例のアレを……そう思うのは、当然の疑問であった。

 

 

「……これを」

 

 

 そんな千賀子に対して、ロボ子は一冊の本をスッと差し出す。

 

 その本のタイトルは、『文ぶん春秋』。

 

 千賀子はそういった月刊雑誌を買った事が無いので知らないが、千賀子の前世では文藝○○と呼ばれている本によく似ていた。

 

 そして、その本の表紙には……こう、言葉を濁すわけではないが、あえて言葉にするなら……千賀子に似た女性の姿が描かれていた。

 

 

「この本に、『愛し子カワイイもうどこから褒めたら良いのか分からないうう涙が出そうああ出ちゃったカワイイ愛し子カワイイぺろぺろしたい会社』のことが特集で記されています」

「え? 取材とか受けた覚えがないのだけど?」

 

 

 これまた当然の疑問に、「はい、私もメモリーにございません」ロボ子は頷いた。

 

 

「同様に、この本を出版した会社の方々も、『愛し子カワイイもうどこから褒めたら良いのか分からないうう涙が出そうああ出ちゃったカワイイ愛し子カワイイぺろぺろしたい会社』を取材した形跡はおろか、取材をしたという人物も、情報を受け取った人物も発見出来ませんでした」

「はい?」

「つまり、誰も取材していないし書いていないのに勝手にそのページが追加され、されど誰もその事に気付けないどころかマスターの似顔絵に変えられていて、誰もその似顔絵がマスターの似顔絵であることにも気付けず」

「はい???」

「誰しもがその本を手に取って『愛し子カワイイもうどこから褒めたら良いのか分からないうう涙が出そうああ出ちゃったカワイイ愛し子カワイイぺろぺろしたい会社』を知ることができる状態になっていました」

「なんて?????」

「ちなみに、読む人によって会社の概要やら何やらが変わるようですが、それらも当然のように誰一人として疑問を抱かず、同じ事が書いてあると認識するようです。マスター、わたし大変な恐怖を覚えております」

「ちょっと、女神様????? あんた、また勝手に何をしくさったの?????」

 

 

 さすがに色々物申したくなった千賀子は、春人を起こさないよう注意しつつ、女神様に文句を言う。

 

 ちなみに、その春人とエマは、そっと姿を見せた4号が部屋の外へと連れ出され……満を持して、襖を開けて入って来た女神様は……全身の手を蠢かせながら、率直に答えた。

 

 

『──愛し子があまりにも可愛らしいのが悪いのです』

「はい?」

『──その愛らしさを、少々おすそ分けしたいなあ……と、思いまして』

「相変わらず、ぶっ飛んでいますね」

 

 

 これの何が恐ろしいって、女神様は10000%善意で動いているという事……っと。

 

 

『──ああ、愛し子、貴女は一つ大切な事を忘れております』

「え、なにが?」

 

 

 本当に心当たりがない千賀子は首を傾げる。

 

 そんな千賀子を見て、女神様は深々と『か、可愛い……!!』ネッチョリした溜息を吐いてから……そっと、どこからともなくくす玉(明らかに、デカい)を取り出すと、それを千賀子の頭上に掲げた。

 

 

『──さあ、引いてください』

「え、嫌なんだけど?」

 

 

 しかし、断ったところで意味はないので、それはもう嫌そうな顔で……恐る恐る、垂れ下がっている紐を引けば。

 

 

 

 ──祝! 第200話記念ガチャ開催!! 

 

 

 

 そんな垂れ幕と共に、色鮮やかな大量の花びらと、千賀子のプライベート写真(意味深・含む)がパラパラと落ちてきたのであった。

 

 

『──あ、先に言っておきますけど、プロローグは除きますね』

「…………え?」

 

 

 これには、千賀子だけではない。

 

 成り行きを見守るしかないロボ子も、2号や3号も、ポカンと呆けた様子で見つめるしかなかった。

 

 

『──愛し子、愛らしく、ああ本当に可愛らしい貴女の活躍も、番外編を除いて今回で199話になりました。次回が、200話になります』

 

 

 そして、そんな千賀子たちを尻目に、相変わらず……千賀子には理解出来ない、意味不明な言葉を一方的に投げつけ。

 

 

『──200話記念ガチャ、開催の時がやってまいりましたよ』

 

 

 うぞうぞ、と。

 

 全身の手を蠢かせながら……それはもう、ねっとりとした声で、千賀子の耳元へ囁いたのであった。

 

 

 

 




※ 女神様は大まじめです
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