ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第201話: ロボ子史上最大最悪の長い一日

 

 

 

 ──子を失う。

 

 

 それも、血の通った我が子を失う痛みとは、どれほどのモノなのか。

 

 それだけでなく、身内も親友も全て失って天涯孤独の身となる、その辛さと苦しみは……同じ立場にならなければ、本当の意味で知る事はできないだろう。

 

 けして比べるつもりはないが、エマが熱を出した時ですら、不安と恐怖で胸が張り裂けそうになったぐらいなのだ。

 

 これ以上失うことを恐れて、遠ざけるのが正しいのか。

 

 あるいは、自然のあるがままに時が過ぎ去ってゆくのを見つめるのが正しいのか。

 

 それとも、適当に声を掛けてきた者と一緒になって、子を授かるという幸運を待つのが正しいのか。

 

 少なくとも、千賀子はその答えを出せなかった。

 

 そして、選択した悪女千賀子のことを責めるつもりも肯定するつもりもなかった。

 

 何故ならば、彼女は納得したからだ。

 

 自分で考え、自分で納得し、自分で選んだ結果だ。

 

 明らかな犯罪行為ならばまだしも、だ。

 

 それを、何様でもない己が訳知り顔で説教なんて……恥知らずにも程がある行為をするほど、千賀子は厚顔無恥ではなかった。

 

 

『マスター、どうなされましたか?』

 

(……少し、考え事をしていただけよ)

 

 

 けれども、それは小さな棘のように千賀子の中に突き刺さる。しばらく、それはなんとも言えない痛みを千賀子に与え続けるだろう。

 

 そのせいか、時々心が浮つく。声を掛けられて、ハッと我に返った千賀子は、天上に貼り付いているロボ子にそう返事をした。

 

 

 ……天井、とな? 

 

 

 おそらく疑問を覚えた者は多いだろうから、簡潔に説明しよう。

 

 現在、千賀子は宇都宮行きの電車に乗っている。

 

 たまには他の人達と同じ移動の手間暇を身に染みて体感しておかねば、あまりにも感覚が浮世離れし過ぎてしまう……と、思ったからだ。

 

 今さら語るような話ではないが、千賀子のワープ能力は誇張抜きで反則技である。

 

 能力を得た当初こそ、ガス欠を警戒して長距離移動なんて出来なかった(実際、ガス欠になったし)が、それも昔のこと。

 

 かつてに比べて桁違いに巫女的パワーが増している今の千賀子にとって、100回ぐらい連続ワープをしたとて、今は平気である。

 

 なので、ここ数年は……それはもう、バシバシ遠慮なくワープを使いまくっていた。余力を残せるようになると、本当にこの能力が便利過ぎたせいだ。

 

 現代ですら移動時間は様々な部分でどうしようもないネックとされているのに、千賀子の場合はノータイムでいきなり現地へ到着である。

 

 だからこそ、その感覚に慣れ切ってしまうのは色々と危ないのでは……と以前から考えていた千賀子は、久々に普通の移動をしてみようと思ったわけである。

 

 

 ……その結果、千賀子はもう移動だけで精神的にグッタリしていた。

 

 

 なにせ、1979年の時点ではまだ大宮駅~盛岡駅との間に新幹線が開通していない。つまり、移動時間が明らかに多くなる。

 

 始発電車に乗って移動したわけだが、身体がもうバキバキである。軽く肩を回せば、骨が派手に鳴る。

 

 天井にてステルス状態(なので、誰もロボ子の姿を確認できない)で張り付いているロボ子より、コソッと電気マッサージを受けていなければ、もっとグッタリしていただろう。

 

 そう、ロボ子が天井に貼り付いているのは護衛の他に、こうして千賀子をアシストするためである。

 

 実際、隣の席に腰を下ろしていた男も最初の頃はジロジロ(当人は誤魔化しているつもりだが)と千賀子の胸元に視線を向けたり話し掛けてきたりしていたが、途中から疲れたのか寝息を立てていた。

 

 果たして、本当に疲れているのか。

 

 それとも、千賀子が下手に声を掛けてはならない類の令嬢だと察して寝たフリをキメて誤魔化しているのか……判断に迷うところだ。

 

 まあ、この頃の電車移動……座席が固いこともあって、大人でもクタクタになるから、途中で本当に寝ちゃったっぽいけれども。

 

 

『──バイタル確認、異常無し。不安要素があるようでしたら、先方にキャンセルの電話を入れますが、どう致しましょうか?』

(これぐらいでキャンセルしないわよ。向こうだって、時間を作ってくれているのだから……それに、エマのお土産も買わないとだし)

 

 

 そんな中で、通信にて会話を続けるロボ子は当然として、肉体的にはぜんぜん疲労していない千賀子は、そこらの男よりもよほどタフだろう。

 

 

『では、分身を派遣しますか?』

(いくら向こうが区別付かないからって、それは失礼でしょ。私だって、本当は春人のお世話に残りたいわよ)

『しかし、せめてタクシーの手配ぐらいするべきでは?』

(そうすると、寄り道出来なくなっちゃうでしょ。近くに寄るからって感じで話を通しているし、私がそれで良いって思っているんだからグチグチ言わないの)

『マスターは、もう少し自分の立場を考慮するべきと進言します』

(そうね、考えておくわ)

 

 

 なにやらプリプリ怒っているっぽいロボ子をなだめつつ、千賀子の脳裏には、朝のエマとの会話が浮かぶ。

 

 最初は学校を休んで一緒に行くかと提案したが、『お仕事の邪魔はしない』と言われ、千賀子1人で行くことになった。

 

 お仕事というよりは、地域交流みたいなものよ~っと話してみたが、駄目だった。

 

 どうやら、エマの中ではそこらへんをキッチリ線引きしてあるようで、子供の自分がお邪魔するのは違う……と、考えているようだ。

 

 う~ん、賢いというか、大人びているというか。

 

 千賀子としては、一日ぐらい学校を休んでも良いのではといった感じだが、エマ曰く、『それでズル休みとか言われるのは嫌』ということらしい。

 

 本音を言えば春人のお世話をしたいわけだが、経済の活性化は『恐怖の大王』へのカウンターになるので、こういったお誘いには積極的に参加しておいた方が吉である。

 

 

(まあ、私のところは分身が世話をするわけで、リアルタイムで春人の状況を確認出来る分だけ、世のパパさんママさんよりはずっとマシなんだろうけど……)

 

 

 あっちを立てたら、こっちが立たず……そう己を慰めつつ、千賀子は『宇都宮~、宇都宮~』アナウンスを聞いてから、よっこらせと座席から立ち上がった。

 

 

「しかし、久しぶりに電車を乗り継いで来るのは大変だ。早く新幹線でも開通してほしいものだわ……ほら、あんたも起きなさい、宇都宮で降りる予定なのでしょ?」

 

 

 次いで、寝息を立てている隣の男を叩いて起こす。

 

 ペラペラ口説いてきた時に、宇都宮には急用で来ているとかどうのこうのって話していたのを覚えていたからだ。

 

 そこまでしてやる義理はないが、かといって、寝過ごすのが分かっていて放置するのも可哀想だし。

 

 う~ん、と。

 

 大きく伸びをして、凝り固まった筋肉を解す。

 

 ある程度はロボ子よりマッサージしてもらっているが、それでも座りっぱなしは色々と辛いモノだ。

 

 なお、伸びをしている最中、寝ぼけていた男の目がまん丸に見開かれ、眠気が吹っ飛んでいるようだったが……まあ、千賀子は見て見ぬふりをしたのであった。

 

 

 ちなみに、だ。

 

 

 千賀子の呟きが現実のモノとなるのは、今より約3年後の1982年。その頃になって、ようやく新幹線は宇都宮駅に停車するようになる。

 

 暮らしは日を追うごとに便利になってゆくが、現代では当たり前に存在しているインフラもまだ作られていない……というのは、まだまだ当たり前な状況であった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………さて、と。

 

 

 気持ちだけで良いという千賀子を他所に、『それじゃあ気が向いたらこの店行ってみてよ、おススメだから!』と、叩き起こした男から手渡された紙を見やる。

 

 そこには、オリオン通りにあるカレー店の名前と住所が殴り書きされていた。

 

 ロボ子曰く、徒歩で約20分強とのことで、目的地に行く途中で寄れる位置にあるそうな。

 

 

(……とりあえず、お土産をちょろっと先に買って、ご飯を食べてから行こうかな)

 

 

 駅を降りてけっこうすぐに広がっている商店街を通りながら、何を買ったら良いかな~、と悩む。

 

 酒などを買って帰る……う~ん、とりあえず、清酒を何本か買うとして、食べ物関係が鉄板だが……どういうのが良いだろうか。

 

 う~ん……けっこう必死になって考えている千賀子だが、だからこそ、千賀子は気付いていなかった。

 

 何を気付いていなかったのかって、それは自分に向けられる視線である。

 

 いや、それは気付いていないというよりは、視線の雨に晒されることに慣れ過ぎて気にも留めなくなっている……というのが正しいのかもしれない。

 

 まあ、考えてみたら、致し方ない話ではある。

 

 なにせ、そういった視線を向けられ始めたのは小学生の頃からで、それから今に至るまで、街中を歩いて視線を向けられない事は一度としてなかったのだから。

 

 事情を知らない者からしたら、なにを自意識過剰な……と思われそうな話だが、千賀子の場合は一切の誇張が無い。

 

 ただ、立っているだけで視線が集まる。

 

 ただ、歩いているだけで視線が集まる。

 

 

 スタイルの良さは、次いでだ。

 

 

 その身より放たれるカリスマに似た『魅力』は、巫女的パワーを持ってしても、その片鱗をうっすら感じ取れる……それほどなのだ。

 

 その後ろ姿が、横顔が、真正面は手の施しようがなく、何をどうしようが視線を集め、近くを通り過ぎようものなら、それはもう誘蛾灯に引き寄せられる羽虫が如き吸引力。

 

 そんな美女が、立ち並ぶ商店を興味深そうに見ていたら……はたして、どんな反応をされるか。

 

 

「そこのねえちゃん、ちょっくら試飲してくか?」

「あんた美人ねえ、どこから来たの?」

「芸能人か? これ食べてみろ、美味いぞ」

 

 

 そりゃあもう、客引きされまくるのが必然であった。

 

 もうすぐ30歳になろうとしているなんてのは、関係ない。

 

 そんなのは明言しなければバレないので、その場に居る誰もが、千賀子を実年齢どおりには認識していなかった。

 

 そう、千賀子の見た目は、誰がどう見ても二十歳前後。世辞抜きで、そこらの10代の子よりも若々しいし、実際に肌も若々しいのだ。

 

 忘れてはいけないが、匂いやフェロモンなどは巫女的パワーで抑えられても、物理的な……すなわち、肉体そのものを抑え込んでいるわけではない、ということ。

 

 何時ぞやのプール撮影時、土師田が千賀子の実年齢を聞いて化け物かナニカを見るかのような目を向けた理由が、そこである。

 

 人によっては未成年……いや、ボディがあまりにもダイナマイト過ぎるので未成年とは思われないが、千賀子は目に映る部分だけでも化け物のような美貌なのである。

 

 

「あっ、そう? それじゃあ、お言葉に甘えて……」

 

 

 で、まあ、そんな美貌の女性が居れば、必然的に人が集まるのもまた、必然である。男女関係なく、美人の周りには人が集まるものである。

 

 ここが『春木競馬場』だったならば、だ。

 

 まだ千賀子の事を知っている者はいるし、知らなくとも、なんか時々出現するめちゃ胸デカい姉ちゃん(たぶん、偉い人)……といった感じで覚えられているので、そこまではいかない。

 

 なので、店を一つ移るたび、試食品を出せるところは次々に出されて……いちおう、せっかくだからと購入はしているのだけど、思っていた以上に時間が掛かってしまう。

 

 

『──マスター、飲み過ぎです』

(え、そう?)

 

 

 そして、時間をかけていると、問題が生じ始める。

 

 

『──試飲とはいえ、既に短時間での総量が1合半(約240ml)を超えています。幸いにも顔に出ていないので誰も気付いていませんが、ビール換算で350ml缶を2本飲んだ状態です』

(そんなに? そんな気はしないのだけど……)

『かなり口当たりが良いやつが選ばれているので自覚しにくいでしょうが、日本酒は酒類の中では酔いが後から来ます、後で地獄を見ますよ?』

(う~ん、そっかぁ……)

 

 

 それは、酒屋を覗いた時に試飲させてもらえるのだが、千賀子自身が自覚する前に飲酒が進んでしまう……という点だ。

 

 千賀子は別に、酒が嫌いではない。むしろ、大好きな方である。

 

 ただ、自分が悪い酔い方をしてしまうことを知っていたので、外では飲まないようにしていた。

 

 エマを我が子とした時から、明美や道子との集まりの時ですら1滴も飲まないようにしていた……誰だって、子供の前ではそんな姿見せたくないし。

 

 今回も、そんなつもりはなかったのだが……試飲だからとまあ大丈夫かと、油断したのが悪かった。

 

 久しぶりに酒を口にしたからなのか、ロボ子から指摘されるまで、千賀子はスイスイとアルコールを摂取していたのである。

 

 塵も積もれば山となる。しかも、空きっ腹だ。

 

 合間にたまり漬けのらっきょなどを食べたが、ただのアテでしかない以上、アルコールの回りを遅くさせるほどではなく。

 

 

「……は~、あっつい」

 

 

 ロボ子が指摘していたとおり……自覚出来ないままアルコールが脳に回ってしまった千賀子は、感覚のおもむくがまま、シャツのボタンを一つ二つ外して胸元を開ける。

 

 すると、当然ながら……それはもう深い谷間が露わになるわけで、周囲からの視線が一気に……けれども、千賀子はふわふわとした頭で……テクテクと、別方向へと歩き始める。

 

 

 しかも、ただ歩いているのではない。

 

 

 いつぞやと同じく、もうこの時点で千賀子は自分の状態が分からなくなっていた。

 

 自分が外で……それも、周囲に大勢の人が居るという感覚が、スポッと抜け落ちてしまっていた。

 

 普通ならば、周囲が心配して警察を呼んだりしてくれるところだ……が、今回は相手が悪かった。

 

 千賀子の持つ神通力、巫女的パワーによって違和感を軽減されたことで、誰も彼もが『陽気なお姉さんだな』としか認識できず、誰一人として介抱に動こうとする者はいなかった。

 

 

 ……そう、たとえ。

 

 

 たとえ、アルコールでテンションが上がって、子供のように足を高く上げて、わははは、と満面の笑顔で歩いていても、誰も。

 

 現在の千賀子は、スカートである。

 

 そんなので足を高く上げれば、当然ながら……スカートがまくうれて、パンツが露わになる。おまけに、激しく身体を動かすわけだから、胸もたぷんたぷんと揺れる。

 

 すると、周囲の視線が集まる。巫女的パワーによるガードがあるので最悪の事態にはならないが、注目はばっちり集まる。

 

 

『……仕方がありません、一時的に気絶させたうえで、アルコールが抜けるまで安静にさせましょう』

 

 

 ゆえに、事態を重く見たロボ子は、ステルス状態のまま、周囲に気付かれぬよう距離を詰め。

 

 音も無く、速やかに千賀子を気絶させようとテーザー銃を構え──ピシュン、と極小の針を発射した。

 

 

『──なに!?』

 

 

 しかし、その針は当たらなかった。

 

 千賀子に着弾する直前、どう考えても不自然な軌道を描いて外れたのだ。考えるまでもなく、千賀子の無意識の防御の結果であり……この時点で、ロボ子は気付いた。

 

 

『これでは、自然に酔いが醒めるまでは見守るしか──』

 

 

 と、同時に、ロボ子は思い知った。

 

 

「おっ、学生さん? 友達同士で集まっているの?」

 

「じゃあさ、ちょっとお腹空いているから美味しい店知らない?」 

 

「案内してくれたら奢るからさ、ねえ~ちょっとぐらいさ~」

 

「ほ~ら、おっぱいウリウリしちゃるよ~どうだ~良い匂いだろ~柔らかいだろ~」

 

「や~も~、可愛いね~顔真っ赤だよ~大丈夫、ちゃんと奢るからさ~遠慮せず、一揉みぐらい良いぞ~」

 

「ん~、こうらん? へ~、餃子のお店? 美味しいんだ~、よし行こ行こGoGo~」

 

 

 そう、酒に酔った千賀子は……非常に性質の悪い酔い方をするということに。

 

 

『……っ!! ま、まさか、この状況で私はマスターの尊厳を守らねば……な、なんて厳しいミッションなのでしょうか……!!』

 

 

 そして、ロボ子は知らなかった。

 

 己が千賀子の下へと来るキッカケとなった、『月面神社』が生まれた原因が……酒に酔った千賀子の暴走の結果だということに。

 

 この時のロボ子はまだ、知らなかったのであった。

 

 

 

 

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