ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
その始まりは今より少しさかのぼり、1978年の年の瀬から続く事、約半年。
1979年(昭和54年)の春から夏にかけて大流行し、地方新聞だけでなく全国紙と言っても過言ではない週刊雑誌にまで掲載され、社会問題と言えるほどに発展した、とある事件がある。
全国の小・中学生に強烈な恐怖を与え、相当数の登校拒否を生み出したそれは、パトカーの出動騒ぎは序の口。
臨時的な集団下校が執り行われるだけでなく、一部では教師が沈静化に駆り出されて大変な状態になり、逮捕者まで出たという……この事件。
そう、皆様方も一度は聞いたことがあると思われる……『口裂け女』の都市伝説が本格的に姿を見せたのが、この頃であり。
後に様々なホラー作品などに転用される『口裂け女』という都市伝説キャラクターが人々に知られたのは、この頃なのであった。
……さて、だ。
現在ではもはや過去の存在になりつつある口裂け女だが、知らない人も多いと思うので、改めて説明しよう。
まず、口裂け女というキャラクターというのは、だ。
口元を完全に覆い隠すマスクを装着した、若い女性の姿をしている。基本的に、若い女性だというのは全てにおいて共通している。
美形な場合もあれば、そうでない場合もある。
具体的に、とある女優に似ているという話もあれば、酷い火傷の痕、あるいは手術の痕などが確認されたという話もある。
髪の長さは特に決まっているわけではなく、一般的な女性の長さだったり、腰より下まで長かったり、短い場合もある。
遭遇するのは、主に1人で歩いている子供だけ。
服装は一般的なモノもあれば、全身を覆い隠す長いコートを着ている場合もあり……出会うと、必ず同じ質問をされる。
それは、『わたし、きれい?』というもの。
この時の返答や対応によって口裂け女の行動が変わるとされており、まずは、普通に返答を行った場合だ。
──『きれいだよ』、あるいは、それに類似する言葉。
そう答えると、『これでも?』という言葉と共にマスクを外して、耳まで裂けた口を見せて来る。
この時、驚いて逃げ出すと追いかけてくる。
ただ驚かすだけの時もあれば、怒って八つ裂きにされてしまう、二つのパターンがある。
また、醜いといった否定的な返答をしても、無視して通り過ぎようとしても逆上してくるらしく、同様の結果になるらしい。
逆に、逃げずにその場に留まっても、結果は同じ。
『お揃いにしてあげる』という言葉と共に、同じように耳まで口を切り裂かれてしまうから。どちらにしろ、出会うとろくな目に合わない、そういう類のキャラクターなのだ。
なお、ちなみに、だ。
この口裂け女だが、そのルーツは江戸時代にまでさかのぼるという説がある。
それは、江戸時代の怪談集や読本に登場し、そのどちらも口が耳まで裂けているというもの。
ただ驚かせて終わる場合もあれば、出会ったことで命を落としてしまった(呪い殺された?)という話もあり、その歴史はけっこう深いのである。
……で、話を戻そう。
この口裂け女の話はあくまでも千賀子の前世の世界での話だが、残念なことに、この世界の1979年の6月にも、前世と同様に大流行していた。
この頃は、とにかく子供間での口コミの広がりは凄まじかったのだ。
現代のようなSNSは無く、情報源がとても限られていたからなのか、それは分からない。
誇張とかではなく、誰かが話した怖い噂話が人から人へ、子供から子供へと伝達し、爆発的に広がって……という話は、この頃けっこう起こったことであった。
……それは、千賀子の大事な愛娘であるエマが通っている小学校でも、同様で。
「なにか、言い残す事ある?」
「──誓って! 誓って、アタイらは無実です! 信じてくだせえ、姐さん!!!!」
「有罪のやつって、だいたい似たような言い訳を吐くのよね……」
「話し合いましょう! ね、話し合いましょうよ!! アタイたち、走り屋なんで! そんなの知らないっす!!!」
エマを怖がらせるなんていう事を仕出かした口裂け女たちを、千賀子が成敗に動き出すのは……まあ、当然と言えば、当然で。
いつものように峠道を愛車にてドリフト決めていた口裂け女たちの溜まり場に突撃してきた千賀子より。
『おまえら、エマを怖がらせた、覚悟しろ』
有無を言わさず、拳をパキパキと鳴らして威圧感を増してくる……当の鬼から化け物と名指しで思われている、人間の巫女を前に。
『──す、すいやせん! アタイら何かしましたか!?』
ツッパリだとか、メンツだとか、そんなのは何の役にも立たず。
初手でその場に両手をついて頭を下げた、レディースと世間的には呼ばれている女暴走族たちの対応は……悲しいかな、大正解であった。
──結論から言えば、ただの誤解であった。
まあ、そりゃあ、そうだ。
テレビなどで子供たちを騒がせている『口裂け女』は、噂が噂を呼んで生まれ、それを色々な人たちが面白おかしく改変した存在。
そして、千賀子の眼前に居る口裂け女たちは、確かに耳の辺りまで口が裂けているが、別に子供を襲ったり殺したりはしない。
レディースなんて呼ばれている女暴走族の彼女たちだが、別に悪事を働いているわけではない。
まあ、スピード違反とか、バイクの違法改造とか、そういう点では悪い事ではあるけど、誰かを傷付ける類の悪事はやっていない。
「……え、マジ? アタイら、ガキんちょども怖がらせちゃってるの?」
「そうだよ、1人で帰るのが怖いって小学生が続出してるぐらいだよ」
「えぇ~……そうなんすか? なんか凹むんすけど……」
だから、口裂け女たちからしても、まさに寝耳に水みたいな話であり、むしろ、千賀子の話を聞いて滅茶苦茶驚いていた。
総長含め、この場に居る口裂け女たちにとっては、心外もいいところというやつなのだろう。
まあ、普段から喧嘩に明け暮れる荒くれ共でも、だ。
ある日突然、身に覚えのない罪状を責めたてられ、しかもその罪状があまりにも酷いモノとなれば、そりゃあふざけるなと怒るのは当然である。
「嘘でしょ、総長こりゃヤバいっすよ。ていうか、マジメに落ち込むんすけど……」
「あたしら、そんな怖がられる風貌なんすか? 地元のガキんちょども、けっこう手を振ったりしてくれるんすけど……」
「あんま迷惑かけるのもなんだし、ドブ掃除とかもしていたんすけど……」
「あたい、このまえ畑持っている小津さんところから、獲れたばかりの野菜貰ったんすけど、もしかして上納金代わり……?」
「それを言ったら、アタシもこの前公園で遊んでいた子供たちに付き添っていたんすけど、もしかして怖がられ……」
あと、なんか総長以外の口裂け女たちも地味に精神的ダメージを負っていた。
そう、こいつら口裂け女は、見た目こそ気合入れたレディースな風貌だが、それはあくまでも外見の話に過ぎない。
パーマを掛けたり特攻服を着たりサラシを巻いたり、バットなんかがバイクに取り付けられていて、パッと見は壊そうではある。
しかし、よ~く見てみると、実は当人たちは……どちらかと言えば優しそうな顔で、メイクを落とせば、ほわほわ系のお姉さんみたいな顔立ちをしていた。
そう、そうなのだ。
この気合の入った口裂け女たち……見た目とは裏腹に、その中身は善良というか、素朴だったのだ。
ブンブンブブブンと愛車を転がして峠を日夜攻めているが、それ以外は、むしろそこらの一般人よりもよほど善良で。
街中を走る時は、愛車とは別に用意してあるスーパーカブを使用し、そこらの車よりよほど安全に配慮した運転を行い。
率先して公園清掃などの慈善活動を行い、夜の街では堅気にちょっかいを掛けるやつらと真正面からぶつかり合う……つまり、そういうやつらなのだ。
……ちなみに、だ。
千賀子は知る由もないことだが、実は口裂け女たちが見に纏っている特攻服……全て、手作りである。
裾の長さやボタンに至るまで、こだわり抜いた一品であり、定期的に洗って、ちゃんとアイロン掛けもしている、愛用の衣装でもあった。
「一方的に疑って悪かった、ごめんなさい」
瞬間的に頭に血が上って突撃を掛けた千賀子が、全面的に悪い。今回の件は、完全に千賀子の勇み足……というよりは、早とちりであった
「いや、まあ、いいっすよ。アタイたち、そういう目で見られるのを上等で走り屋やってるんで」
「──ひゅ~、さすが総長! そこに痺れる憧れるぅ~!!」
「──っぱ、総長かっこいいっす! よっ! 女の中の女ぁ!」
「──で、出た~!! いつものかっこいいやつ~~!!!」
対して、口裂け女たちの総長は、実に大人な対応であった。あと、いつもの調子に戻ったのか、合いの手も入って来た。
実際、総長のその言葉は事実である。千賀子だけに限らず、何かしら問題が起こると引き合いに出される立場だ。
それを甘んじて走りの世界に居る以上、総長たちはその点に関しては気にしていなかった。
「……その、ソレとは別件なんすけど、一ついいっすか?」
ただ、それはそれとして、だ。
「その、ガキ共を脅かしている、アタイらのそっくりさんって、どんなやつなんすか?」
「え? そりゃあ、口裂け女としか……」
改めて尋ねられたけど、よく考えたらそんなこと深く考えていない千賀子は知らず……チラッと、傍のロボ子に視線を向けた。
「……あくまでも人伝での噂になりますが」
それで、察してくれたロボ子は2,3度瞬きをしてから……ポツポツと、箇条書きのように話し始めた。
1.服装に一貫性は無い。
血が目立たないよう、全身を赤色でコーディネートした派手な恰好をしている場合があれば、血が目立たせるために真っ白なコーディネートの恰好の場合もある。
豪奢な着物姿の時もあれば、薄汚い恰好の時もあり、サングラスを掛けている場合もあれば、ブーツを履いていたり、傘を所持している場合もある。
2.基本的に武器を所持している。
武器は様々で、口を切り裂くための長いハサミを始めとして、出刃包丁、ナイフ、カマ、鉈、斧、手術用メスなど。
基本的にどれも非常に鋭い切れ味があり、常に血が付いているとか、錆びて赤黒くなっているとか、特に決まりは無い。
3.襲うのは子供だけではない。
『わたし、きれい?』の言葉と共に襲われる……というイメージが先行しているが、それ以外の噂もある。
たとえば、出会いがしらに大きく広がった口で丸のみするといった話や、肩を叩かれて振り返ったら切りつけられて殺されるとか、泣いている時に出会うと即座に殺されるとか。
4.出現場所も一貫性が無い。
学校の地下に潜んでいるとか、神社に寝泊まりしているとか、墓場の陰から現れるとか、日が落ちて点灯した街灯の下に出現するとか。
地名に特定の文字がある場所には特に出現するという話もあるけど、当然ながら、これにも一切の根拠は無い。
……。
……。
…………といった話を、ロボ子はつらつらと語った。
「え、子供以外も襲うの?」
「あくまでも噂の段階ですけど、大人も襲われたという噂だけは確認できています」
その中に、千賀子も知らなかった情報が含まれていたので、軽く驚く。
まあ、噂なんてのは一日毎にコロコロ変わるものだから、千賀子が知らない話が増えていたり変わっていたりしても、なんら不思議なことでは──っと、その時であった。
「……ゆ、許せねえ」
それまで黙って話を聞いていた口裂け女の総長が……ポツリと、呟いた。
思わずそちらに目を向けた千賀子が目にしたのは、目元しか見えないのに……いや、だからこそ余計に、怒りに燃え上がっている総長の感情を読み取れた。
いや、それは、総長だけではない。
同様に、聞きに撤していた舎弟たちも……それまでのお調子者な雰囲気は成りを潜め、総長同様に、怒りの炎を目に宿していた。
「コソコソこそこそと、口裂け女の風上に置けねえやつが、いっちょまえにアタイたちの名をかたって外道な事をしてやがる……!!」
そう呟きながら、総長は己の愛車へと跨ると……ぶおん、とエンジンが稼働し、キツイ臭いの排気ガスがマフラーより吐き出される。
「落とし前付けねえと、ならんよなぁ!!??」
「「「──ならねえっす!!」」」
ぶおん! ぶおん! ぶおん!
互いの怒りを呼応させるかのように、総長のアクセル空ぶかしに合わせて、次々に舎弟たちが愛車へと跨り、空ぶかしをする。
「この中にぃ、怖気づいているやつ、いねえよなぁ!!??」
「「「──いねえっす!!!」」」
ぶおん! ぶおん! ぶおん!
夜の峠に鳴り響く、義憤に燃えるバイクの排気音。
彼女たちの怒りは、フルスロットル。もはや点火してしまったエンジンを止める術はなく、今にも弾けんと誰も彼もが号令を待っていた。
「──マスター、何をしているのですか、お早く!」
「え、お早くって──いや、なにしてんの?」
そんな中で、千賀子が振り返れば……いつの間に用意したのか、何時ぞやの改造スーパーカー、通称『ロボ子号』がそこにはあった。
そう、フルスロットルになっているのは口裂け女だけではない。
気高き友の、同じ峠を攻めた仲間の憤りを受けて、居ても立ってもいられなくなった……走り屋ロボ子の姿が、運転席にあった。
「ナメた態度の外道に、お仕置きの時間です」
その言葉と共に、ビューン、とロボ子号のエンジンが稼働する。
直後、かしゃこん、かしゃこん、と内装を含めて外装も少し変わり……すぐに、腹に響く強烈なエンジン音が辺りに響いた。
「…………」
「…………」
総長の視線と、ロボ子の視線が、交差する。
言葉は、不要。
既に、言葉は走りの中で語り終えていたのだから。
「──行くぞぉ!! おまえら気合入れろぉぉぉぉ!!!!」
「「「──っしゃぁぁぁあああ!!!!!」」」
そして、アクセル全開で走り出すレディースたち。
夜の闇に、バイクのライトが、まるで流星のようにきらめきながら……爆音を奏で始めた。
そして、それを見送る形になったロボ子は、「……ふっ、腕を上げましたね」キリッと、なんか格好良さ気な雰囲気を醸し出しながら、ぶおんとアクセルペダルを軽く踏むと。
「さあ、マスター……ケジメを、付けに行きましょう」
「……あ、うん」
その言葉と共に、助手席を開けたので……千賀子はもう、考えるのを止めて……そっと、助手席に乗り込んだのであった。
……。
……。
…………一方その頃、同時刻。
『……ここが、報告書にあった『神社』、というやつか』
この頃の日本では非常に珍しい、金髪の外国人が複数人……とある山の麓に集まっていた。
彼らはみな、ピシッとビジネススーツを着こなしている。
場所が場所なら注目を浴びる恰好であり、今が夜で、周囲の目がまったく無いようなその場所でなければ……誰しもがそう思うぐらいに、似合っていた。
『ふん、田舎臭い場所だ』
『よせ、どこで聞かれているか分からないんだ』
そして、彼らの会話は全て英語である。
東京ならまだしも、そんな場所で英語で会話をしていたら、それだけで注目を集めそうだが……先述のとおり、この場には彼ら以外誰も居なかった。
『分かっているよ、ここからは無言、それ以外は日本語での会話のみだ』
『まったく、わかっているならいいんだ』
そして、彼らは観光で来たわけではなく……とあるミッションを達成するために、はるばる海の彼方、アメリカより特命を受けてやってきたのだ。
「チカコ・アキヤマ……!!」
その目的は、アメリカが再始動しようとしているアポロ計画遂行のための資金援助の協力。
すなわち、『愛し子カワイイもうどこから褒めたら良いのか分からないうう涙が出そうああ出ちゃったカワイイ愛し子カワイイぺろぺろしたい会社』のオーナーである、秋山千賀子の協力を得ること。
それが、彼らに課せられたミッションであり……そのために、彼らはとにかく一刻も早い接触を行うため、千賀子の住居へと向かっていたのであった。
「カナラズ、せいこう、させます」
固い覚悟と決意を、胸に秘めて。