ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
掟破りの走り方で『道路? なにそれ?』みたいなとんでもないスーパーテクニックで走り続けること、しばらく。
車内に鳴り響く、ユーロビート。
ズンズンと腹に響く、重低音。
振り回され、車ごと震わせるかのような、サウンドウェーブ。
ちなみに、ユーロビートとは電子楽器を使用したダンス・ミュージックの一種であり、千賀子の前世でそれが表舞台に登場したのは、1980年代に入ってからだと言われている。
その前身に当たるのがディスコ・ミュージック。いわゆる、ユーロ・ディスコ。
なので、より正確には1970年代半ばを過ぎた頃から、ゆっくりと注目を浴び始め、1980年代中頃からグッと人気が広がったのだが……話を戻そう。
とにかく、社内はロボ子・チョイスによる選曲が、激しくノリノリである。
なお、今回は千賀子の兄の歌声ではない。いったい、誰の声なのだろうか?
なんか、聞き覚えがあるような……なんとなく、先ほどの総長の声に似ているような……う~ん、なんだろうか。
もしかして、こいつらけっこう仲良し……そう思ってみれば、ロボ子も、なんかいつもとは目付きが違う気がする。
こういう状態になっている時のロボ子に、下手に話し掛けてはいけない……ので、千賀子はもう色々と諦めて静観の体勢に入っていた。
伊達に、これまで様々なとんちんかん共に振り回されてきたわけではない。
この程度の出来事、もはや乾いた笑いで受け流せるぐらいに図太くなった千賀子の敵ではないのだ。
……ただし、だ。
それで精神的にも疲れないのかと問われたら、疲れるのはもう、どうしようもないことだという諦めがあるわけだけど。
まあ、それも致し方ない。
この場で唯一の常識人である事から来る、弊害。この空気に身を任せて同化することのできない、常識人ゆえの苦労なのだ。
そうして、だ。
あっという間に県境を超えて、街並み見える場所まで来たわけだが……ここで、千賀子は気付く。
(その、口裂け女の場所……誰か知っている人いるの?)
そう、勢いに押されるがまま乗り込んでいた千賀子だが、件の『口裂け女』の居場所に関して、何も知らないに等しい。
ロボ子から話は聞いているけど、基本的には神出鬼没。目撃例も一貫しておらず、噂話はしょせん、噂話でしかない。
(う~ん……なんとなく、あっちの方角に居そうな感じがするのだけど……)
巫女的直観では、ロボ子たちの進行方向とは異なる方向に、それっぽい直感を覚えたわけだが……あえて、千賀子は口には出さなかった。
何故ならば、ロボ子だけでなく、総長もまた、アレほど前へ前へと突っ走っているのだ。
おそらく、己の知らない方法で、あるいは、UMAたちの間のネットワークというか、超能力的なアレで、居場所を既に割り出しているのかもしれない。
ならば、下手に声を掛けて勢いを削ぐのは、悪手になるかもしれない。
「ロボ子、飲み物ってある?」
「グローブボックスを開けていただければ、そこが冷蔵庫になっております」
「おお、こんなところが……ジュースもらうね」
そう判断した千賀子は、ビュンビュンと通り過ぎて行く景色を眺めながら、ボケーッとだらけることにしたのであった。
……。
……。
…………だが、しかし。
この時の千賀子には、知る由も無いことなのだが……実は、一つだけ千賀子は見誤っていた。
それは……ロボ子たちが、目的地へ向かって走っているという……思い込み。
総長たちも、ロボ子も、例の『口裂け女』の居場所など欠片も知らず……ただ、誰かが知っているだろうと思ってスロットルをふかしていた。
そう、この場に居る誰もが……『口裂け女』の居場所を、知らなかったのである。
悲しいかな、千賀子とて例外ではなく……この場に居る誰もが、雰囲気に流されるがまま、暗闇を切り裂いていた夜の街を駆けていたのであった。
……一方その頃、場面は変わり、『神社』へと続く『山』の中。
空には、まん丸に輝く月が浮かんでいる。
それはどこか冷たさを思わせるほどに美しく、雲一つない夜空に浮かぶそれは、夜の太陽と名付けても過言ではない輝きを放っていた。
「……スミス、少しトマれ、様子がおかしい」
そんな中で、当然ながら外灯なんぞ設置されているわけがない、神社へと続く参道の途中にて……彼らは、足を止めた。
「ここの階段は、こんなに長いのカ? ドウイウコトだ?」
その質問に、誰もが返答できなかった。
そう、それは、この場に居る誰もがうっすらと考え始めていた、疑問であった。
彼らは、生まれも育ちもアメリカであり、日本に足を踏み入れたことはあっても、日本の寺院を訪れたことは一度もない。
興味など無かったし、リスペクトする気も無かった。とはいえ、仕事は仕事としての分別はある。
なので、ちゃんと事前に日本の寺院に関する資料は頭に叩き込み、日本人ですら誤解していたり覚えていないような、参拝の作法も身に着けていた。
……だからこそ、その異常性に気付いた。
彼らは、このミッションに選ばれたエージェントである。
その経歴は様々だが、厳しい訓練を受けており、軍属にも匹敵する身体能力を有し、体力だって人一倍を自負している。
そんな彼らですら、だ。
既に、少々の疲労を覚えるぐらいに参道を進み……つまり、階段を登っていて、既にその高さは200階分にも達していると思われる。
200階と言えば、アレだ。建物の作りによって異なるが、1kmにも達するほどに高いのだ。
幸いにも一つ一つの段差が小さく幅が大きいこともあって、肉体的な負担は抑えられているが……それでも、屈強なエージェントたちが疲労を覚えるぐらいなのだ。
だからこそ、おかしい。
麓から見た限りの目測だが、この山はそこまで高くなかったはずだ。既に、山頂に到着してもおかしくない高さにまで登っているはず。
夜なので感覚が誤っていたとしても、既に目視で神社が見えても不思議ではない距離にいるはず……それなのに、それらしいものは何も見えない。
道を間違えたかと思ったが、ここに至るまでの階段は一本道。
横道らしいモノは何もなかったし、万が一そうならないよう、チーム全員がしっかり注意していたぐらいで……で、だ。
「ドウスル? 引き返すか?」
「ヒキカエス? どうしテ?」
「ジンジャ、見えない。これはおかしい」
「もう少しイケば、着くダロ」
「不測のジタイだ、一旦、引き返した方がヨイのでは?」
「ソウナン、するのはマズイ。トチカン、無いからな」
「ふむ……少しマテ」
この場において、リーダーの立場にある男は、考える。
このミッションに、失敗は許されない。
なにせ、狙っているのはアメリカだけではないのだ。とにかく、一国も早く『チカコ・アキヤマ』に接触し、スポンサーを承諾してもらう必要がある。
何故ならば、アポロ計画は、というより、宇宙開発事業は兎にも角にも金が掛かってしまうから。
確かに、『シャイニング』の栽培に成功すれば、アメリカはこの先数十年、いや、100年以上先まで続く絶大なアドバンテージを得られるだろう。
だが、それだけのリターンを得るためには、相応のリスクを呑み込まなければならない。
そのうちの一つが、マネー。
すなわち、計画を遂行するために掛かる、必要経費の捻出だ。
莫大な資産を持つ『チカコ・アキヤマ』がスポンサーになってくれるだけでも、そのリスクの大半が解決するといっても過言ではない。
だからこそ、リーダーの男は考える。
仲間の言う通り、遭難してしまうのは非常にマズイ。
この程度の山ならとりあえず下れば麓の方に着くだろうが、参道を外れた場所など、まともに整備されているとは思えない。
懐中電灯の明かりなんぞ、夜の暗闇の中では大して役に立たないだろう。
それに、暗闇の中で身動きが取れない状態になり、そんな姿を『チカコ・アキヤマ』に見られ、悪印象を持たれてしまう可能性もある。
どの勢力よりも早く接触しておきたいが、かといって、無理をして無用なトラブルを引き起こすよりは……っと。
「──おや、あそこにあるのは光じゃないか?」
誰かが思わず呟いたその言葉に、リーダーの男は顔をあげ……おお、と目を瞬かせた。
視線の先には、光が見える。
時刻が時刻なので、光の大本までは分からないが、しかし、こんな場所だ……自分たち以外に、誰かが居るとは思えない。
つまり、あの光は、自分たちがこれから向かおうとしている『神社』であり、『チカコ・アキヤマ』の住まいでもある。
「……ヨシ、これからが本当のミッションだ。作戦を、セイコウさせるぞ」
改めて、男がそう告げれば……仲間である彼らもまた、一息入れてから……思考を切り替え、再び階段を登るのであった。
……。
……。
…………同時刻。
闇に紛れて先へ行こうと暗躍するアメリカのエージェントたち……だが、しかし、彼らは知らなかったし、気付いていない事が一つあった。
それは……アメリカのエージェントは、彼らだけではなかったということ。
そう、彼らは、彼らだけではなかった。
彼らとは別ルートから『山』へと潜入し、秋山千賀子へと接触を図ろうとしているチームが居た。
彼らは、全身より自信が満ち溢れていた。
鍛え抜かれた四肢はパンパンに空気を詰め込まれたタイヤのように太く、盛り上がる上腕二頭筋と前腕のおかげで腕が組めないほどだ。
彼らは、全身より熱気が放たれていた。
入念なパンプアップのおかげか、その身体より立ち昇る熱気は湯気となり、迫りくる夏の熱気を先取りするかのように、ほのかに周囲を温めていた。
彼らは全身のヌメリを誇り、鍛え抜かれた身体を誇っていた。
そう、彼らはパンツ一枚であった。
だが、ただのパンツではない。まるで1人1人に合わせて作られたオーダーメイドのように、彼らの棒を、ふぐりを、すっぽりと納めていた。
そんな彼らは、夜の闇への恐れなど欠片も感じさせず、行く。
鍛えた肉体を固辞するかのようにポージングをしては、リラックスポーズを取り、再びポージングを取る。
一見すると、あまりにも無駄しか感じさせない動き。
だがしかし、それはけして無駄ではない。
彼らにとって、その動きは無駄ではない。いや、それどころか、無限にも等しい力を生み出すインフィニティパワー。
彼らは、無敵であった……が、しかし、それはあくまでも、狭い世界での話でしかない。
「あいや、またれい!!!」
何故ならば、彼らの前には……日本が誇る、古来から脈々とその魂を受け継いできた(自称)侍が居た。
「今は総力を結集させて事に当たらねばならない大事な時……我らも垣根を超えて協力関係を築こうと手を取り合っている……それを知っての狼藉か!?」
侍たちの身体は、ヌメリを帯びてテカっていた。
その身体はどこか生臭く、なんか青臭く、それでいて妙に筋肉質で、暑苦しく、頭にはツルリとした皿が……河童と呼ばれた侍たちは、ムキムキッと筋肉を隆起させて、ポーズを取る。
それは、威嚇であり、暴力である。
並みの肉圧では、思わず膝を屈するほどのパワー。けれども、此度の侵入者は誰一人として逃げる素振りも無く……まるで武者震いをするかのように、胸筋を震わせていた。
「我らの、いや、世界の命運を賭けた戦い、それを我が物顔で踏み荒らさんとする不届き者どもめ……名を名乗れぃ!!!」
そうして、放たれたその雄叫びに。
「……OK、マイ、ネーム……!!!」
彼らは、一斉にポーズを取った。
それは、まさしく広大なアメリカを夢想させる、雄大な肉体であった。そこには、アメリカン・ドリームがあった。
それは、愛であった。
ふさふさと、頭の皿を彩る黄金の髪。
それは、優しさであった。
ニョキッ、と伸びる高い鼻。
それは、力強さであった。
ケチャップとチーズとバーベキューの香りをうっすらと漂わせた、アメリカ・フレグランスが魅せる。
「アメリカン・カッパ……!!!」
そして、そこには、絶大なる自信があった。
彼らこそが、アメリカが誇る最強の河童集団、アメリカン・カッパ。
旧約聖書に記述されている試練の物語、天より飛来する悪魔たちに対して、ラッパを鳴らして迎え撃つ天使たち……そんな天使たちを鼓舞する儀式。
非常に薄くデリケートなブーメランパンツのみを装着し、神の雫をその身に浴びながら天使たちへ捧げられる踊りは、皆さまもご存じの。
通称、『おペニス・パーク』。
光あれ……その言葉より始まった世界の始まりだが、光を生み出した主が思わず光を消そうとしたという創世記の逸話にも登場する、あまりにも有名な踊りである。
「貧弱なヒガシのモンキーカッパは、シャラップデース。おとなしく、ナードのようにキュウリを食べてナサーイ……!!」
「資本主義の河童め……ポテトとケチャップで全てを悟ったかの物言い、哀れなり。侘び寂びの奥行きを知るが良い……!!」
そして、今ここに……戦後より30年以上を経て、第三次日米対決が始まろうとしていた。
※ アメリカ「アメリカン・カッパ……え、なにそれは????」