ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第206話: ミッション開始より、179日経過(局所にて)

 

 

 

 ──ファン、ファン、ファン。

 

 

 鳴り響くBGMの中で、ふと、そんな感じの効果音を聞きとめた千賀子は、はて、と眠りの中を漂っていた意識が浮上した。

 

 さすがは『ロボ子号』というべきか。

 

 地球外の優れた技術力によって魔改造された車の機能性は、社内にも十二分に及んでいる。

 

 スペースギリギリまで大きくスペースを使って設置されたシートの座り心地は素晴らしく、千賀子の体形や姿勢の癖に合わせて設計されているようで、実に心地良い。

 

 そのうえ、振動もほとんどない。まったく無いのではなく、わずかに感じ取れてしまうから、逆にそれが眠気を誘う。

 

 あと、普通に足を延ばして寝られる。シートを倒してしまえば、寝るには十分であった。

 

 実際、景色を眺めるのも飽きて、ラジオを聞くのも(ノイズキャンセラー付きのヘッドホン装着)飽きて。

 

 かといって、勝手にやっておけと放置するわけにもいかないので、『捕まえたら起こして』と告げてあっという間に眠りの中に入ろうと……そこまでは、覚えている。

 

 ふわぁ、と。

 

 大きな欠伸をこぼした千賀子は、窓から真っ暗な外を見やり……社内に備え付けられていた櫛で軽く髪をすく。

 

 

(今、何時だろう……)

 

 

 あまり遅くなると、エマたちにお休みを言えなくなるなあ……と思いながら、ふと、視界の端に赤い光を見つけ、振り返り……ヒュッと息を呑んだ。

 

 何故ならば、その赤い光の正体は、パトカーのランプであり……そして、その数は1台や2台なんてものじゃなかった。

 

 

「ちょ、ちょ、ロボ子、後ろ、後ろ!!」

「──はい、後続から警察車両が接近していますね」

 

 

 あまりにもアッサリした物言いに、スン……っと、千賀子は冷静になる。無言のままに視線を向けたが、ロボ子の目つきは鋭く、冷徹なまでに前を向いたままだった。

 

 

「……来ているなら、なんで走り続けているの?」

「そこに道がある限り、であります」

 

 

 駄目だこりゃ、口裂け女のこと忘れているんじゃないか? 

 

 そう思った千賀子は、悪くない。

 

 何故ならば、今のロボ子は、普段のロボ子ではない。

 

 速さに憑りつかれ、エンジンの鼓動に魅せられ、タイヤが駆けてゆく音に耳を傾けた今のロボ子は、車体と一心同体。

 

 そう、今のロボ子は、一匹の狼になったのだ。

 

 夜の暗闇を切り裂いて走り抜ける、孤独なスピード・ハイに。しかも、今のロボ子は独りではない。

 

 ロボ子には、強敵(ライバル)がいる。

 

 ロボ子には、マブダチがいる。

 

 それは、一般的な友人関係とは少しばかり異なるかもしれない。だが、そこには確かな友情があった。

 

 風と一体化して走る、その時だけの奇妙な友情……あ、いや、違うか、なんかけっこう仲が良いっぽいから、別に交流があるかも……とにかく、だ。

 

 いったい誰に似たのか、変なところがあるやつだな、と千賀子は思って……もう、色々と諦めることにした。

 

 考えたところで意味は無いし、考えるだけ疲れるだけだし、それで背後より聞こえてくるサイレンの音が無くなるわけでも……ん、そういえば。

 

 

「ところでロボ子、この車ってちゃんと偽装工作はしてあるのよね? プレートから持ち主を割り出されるのはごめんだわ」

「ご安心を、カモフラージュは完璧です」

 

 

 気になった事を尋ねてみれば、すぐさま返答された。

 

 そう、いくら魔改造されている(外観も少し変わっている)とはいえ、いちおう、公的には千賀子が所有している車である。

 

 ナンバープレートから持ち主が特定されてしまうし、それ以前に、今のこの車は、下手したら改造車扱いで違法にされてしまう可能性がある。

 

 なので、持ち主である己にさえ手が回って来なければ……という心配があった。

 

 でも、ロボ子が問題ないと言うなれば、問題ないので、そこで安堵した千賀子は……ふと、社内に取り付けてある電話を手に取る。

 

 その電話の見た目は、完全に千賀子の前世にあった携帯電話である。充電器より外したソレを、千賀子はポチポチと操作する。

 

 

 ──ちなみに、この世界においては未来の話だが、日本で初めて民間の自動車電話サービスが開始されたのは、1979年12月である。

 

 

 今よりも通話性能は低いが、当時としては画期的であり、それまで警察や消防などの特殊車両にほぼ限定されていたあたり、いくらか想像出来るだろうか。

 

 この自動車電話は重さが約7kgもあったとされており、バッテリーの問題からも、まだ技術的には気軽に持ち運びできる段階ではなかった。

 

 なお、当時、このサービスの基本料金はおよそ3万円。現代価格にして約4万5000円。通話料は6秒10円と、かなり高価な設備であった。

 

 それゆえに、このサービスを利用した車は主に政治家(官僚含む)、大企業、報道関係者などが乗る高級車などだったと言われ……話を戻そう。

 

 

「ロボ子、土師田さんところの番号って何番だっけ?」

「こちらで繋ぎます」

 

 

 その言葉と共に、勝手にピッポッパと音が鳴り……しばしのコール音の後……『はい、土師田です』、お目当ての人物が出た。

 

 

「あ、土師田さん? 夜分遅くごめんなさいね、千賀子です」

『え、秋山さん? いえいえ、僕は構わないのですが、いったいどうされたのですか?』

 

 

 念押しするわけではないが、電話の相手は土師田である。

 

 1979年の当時、日本では急速に家庭用の固定電話が普及し始めていた時期であり、この頃にはもう一般の家庭に固定電話がある家は珍しくはなくなっていた。

 

 とはいえ、まだ全国民に普及しているというわけではなく、普及しているのは都市部ぐらいで、まだまだ地方では固定電話を持っていない家もそれなりにあったけど。

 

 で、まあ、土師田の家は比較的都市部の方にあり、それなりに名が売れてきていることもあって、仕事上の問題から、自宅に固定電話を既に引いてあるのであった。

 

 さて、そんな土師田に対して、どうして千賀子が電話をしたかと言うと……有り体に言えば、暇を持て余していたからである。

 

 つまり、大した理由があるわけではない。

 

 強いて挙げるならば、せっかく警察に追われているような(ような、ではない)状況なのだ。

 

 千賀子の知り合いで、そんな状況に己がいると聞いて心配をせず、不安になったりせず、千賀子らしいやって笑い飛ばしてくれそうな人……を考えたら、土師田の名前が最初に浮かんだからである。

 

 だから、特に深い意味はなかった。

 

 ただ、これこれこういう流れでなんか知らないうちにこうなっちまったぜ、しばらく暇だから話し相手になってくれや……その程度の感覚だった。

 

 

『……ズルい』

「え?」

『ズルいじゃないですか! なんで、なんで僕を誘ってくれなかったんですか!?』

「待て、おまえは何を言っているんだ?」

 

 

 だが、千賀子は見誤っていた。

 

 というか、うっかり忘れていた。

 

 土師田が、千賀子ですらドン引きし、河童たちですら恐れ戦く……骨の髄まで映画キチであるということを。

 

 冷静かつ客観的に考えたら、当たり前の反応である。

 

 なにせ、20代にて全財産どころかヤクザが動くレベルの借金を抱えて、それでもなお一世一代の映画を撮ろうとしたやつだ。

 

 そのうえ、その狂気を多分に孕んだ映画熱は、制御を介抱した千賀子の『魅力』すらも耐えしのぎ、それどころか、色々とあ~でもないこ~でもないと注文を連発するような男である。

 

 そんな男に対して、『ちょっといま、警察に追われているんだよね、なんかサイレンがすごいんだよ~』みたいな話をしてみろ。

 

 一般人なら、『え、そんな、どうして……』って驚いて不安視し、あるいは犯罪者だと思って距離を取ろうとするところだが、土師田は違う。

 

 土師田の脳裏を過ったのは、『そんな大迫力な緊迫した場面を、どうして自分の身で体験出来ていないのか』という、嫉妬である。

 

 そう、UMAですらドン引きさせる、ある意味最恐なこの男。

 

 まず考えたのが千賀子への心配ではなく、そんな体験を得て次の映画に活かせないか……という、己が経験を積むチャンスを逃したとかいう、とんでもサイコな事であった。

 

 

『秋山さん、場所を教えてください! 僕もそこへ行きますから!』

「待て、待ちなさい、あんたもうそんなこと出来る立場じゃないでしょ!?」

『立場とか、そんな問題じゃないんですよ!』

「そういう問題だよ、バカたれ!!」

 

 

 ……なんか、思っていた暇潰しと違う。

 

 

 なんとかヒートアップし始めている土師田を宥めつつ、思い付きで適当に電話した罰が当たったなあ……と、千賀子は猛省するのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………一方、その頃。

 

 

 場面は変わり、『神社』へと続く『山』の中。

 

 夜空には、美しく曲線を描く三日月が浮かんでいる。

 

 それはどこか冷たさを思わせるほどに美しく、雲一つない夜空に浮かぶそれは、夜の宝石と名付けても過言ではない輝きを放っていた。

 

 

「……スミス、少しトマれ、様子が変ダ」

 

 

 そんな中で、当然ながら外灯なんぞ設置されているわけがない、神社へと続く、所々に雑草が伸びっぱなしの参道途中にて……彼らは、足を止めた。

 

 

「ここの階段は、こんなに長いのカ? ドウイウコトだ?」

 

 

 その質問に、誰もが返答できなかった。

 

 そう、それは、この場に居る誰もがうっすらと考え始めていた、疑問であった。

 

 彼らは、生まれも育ちもアメリカであり、日本に足を踏み入れた夢を幾度となく見ていたが、実際に日本の寺院を訪れたことは一度もない。

 

 興味など無かったし、リスペクトする気も無かったが、教科書には載っていたので覚えている。また、仕事は仕事としての分別はある。

 

 不幸中の幸いというべきか、ハイスクールで習う項目だ。

 

 ちゃんと事前に日本の寺院に関する資料は復習していたので、日本人ですら誤解していたり覚えていないような、参拝の作法も身に着けていた。

 

 

 ……だからこそ、その異常性に気付いた。

 

 

 彼らは、このミッションに選ばれたエージェントであり、かれこれ5年も前から日本に居を構えている。

 

 その経歴は様々だが、厳しい訓練を受けており、軍属にも匹敵する身体能力を有し、体力だって人一倍を自負している。

 

 そんな彼らですら、だ。

 

 既に、少々の疲労を覚えるぐらいに参道を進み……つまり、階段を登っていて、既にその高さは41階分にも達していると思われる。

 

 41階と言えば、アレだ。建物の作りによって異なるが、日頃より運動をしている人でも辛さを覚える高さだ。

 

 幸いにも一つ一つの段差が小さく幅が大きいこともあって、肉体的な負担は抑えられているが……それでも、屈強なエージェントたちが疲労を覚えるぐらいなのだ。

 

 だからこそ、おかしい。

 

 麓から見た限りの目測だが、この山はそこまで高くなかったはずだ。既に、山頂に到着してもおかしくない高さにまで登っているはず。

 

 夜なので感覚が誤っていたとしても、既に目視で神社が見えても不思議ではない距離にいるはず……それなのに、それらしいものは何も見えない。

 

 道を間違えたかと思ったが、ここに至るまでの階段は一本道で、目印となる地蔵を数えてから既に78体を超えている。

 

 横道らしいモノは何もなかったので、万が一にも道を間違えないよう、チーム全員がしっかり注意していたぐらいで……で、だ。

 

 

「ドウスル? 引き返すか?」

「ヒキカエス? どうしテ?」

「ジンジャ、見えない。昨日も、ミテナイ。おかしい、コレハ」

「もう少しイケば、着くダロ」

「不測のジタイだ、一旦、引き返した方がヨイのでは?」

「ソウナン、するのはマズイ。トチカン、無いからな」

「ふむ……少しマテ」

 

 

 この場において、リーダーの立場にある男は、考える。

 

 このミッションに、失敗は許されない。

 

 なにせ、狙っているのはアメリカだけではないのだ。先ほども彼らと話をしたが、アメリカだけではないのだ。

 

 とにかく、一国も早く『チカコ・アキヤマ』に接触し、スポンサーを承諾してもらう必要がある、アメリカだけではないのだ。

 

 何故ならば、アポロ計画は、というより、宇宙開発事業は兎にも角にも金が掛かってしまうから。

 

 確かに、『シャイニング』の栽培に成功すれば、アメリカはこの先数十年、いや、100年以上先まで続く絶大なアドバンテージを得られるだろう。

 

 だが、それだけのリターンを得るためには、相応のリスクを呑み込まなければならない。

 

 そのうちの一つが、マネー。

 

 すなわち、計画を遂行するために掛かる、必要経費の捻出だ。

 

 莫大な資産を持つ『チカコ・アキヤマ』がスポンサーになってくれるだけでも、そのリスクの大半が解決するといっても過言ではない。

 

 だからこそ、リーダーの男は考える。

 

 仲間の言う通り、遭難してしまうのは非常にマズイ。

 

 しかし、既に麓を出発してから相当な日数が経過している。このままでは、日が昇ってしまうかもしれない。

 

 この程度の山ならとりあえず下れば麓の方に着くだろうが、参道を外れた場所など、まともに整備されているとは思えない。

 

 持っていた懐中電灯はとっくの昔に電池が切れてしまっている。幸いにも、道は分かっているから無くてもなんとかなる。

 

 ただ、暗闇の中で身動きが取れない状態にあるのは、傍目から見れば不審な存在でしかない。

 

 そんな姿を『チカコ・アキヤマ』に見られ、悪印象を持たれてしまう可能性もある。

 

 どの勢力よりも早く接触しておきたいが、かといって、無理をして無用なトラブルを引き起こすよりは……っと。

 

 

「──はてな、あそこにあるのは光じゃないか?」

 

 

 誰かが思わず呟いたその言葉に、リーダーの男は顔をあげ……おお、と目を瞬かせた。

 

 視線の先には、光が見える。ずっと前から見える、光だ。

 

 時刻が時刻なので、光の大本までは分からないが、しかし、こんな場所だ……自分たち以外に、誰かが居るとは思えない。

 

 つまり、あの光は、自分たちがこれから向かおうとしている『神社』であり、『チカコ・アキヤマ』の住まいでもある。

 

 

「……ヨシ、これからが本当のミッションだ。作戦を、セイコウさせるぞ」

 

 

 改めて、男がそう告げれば……仲間である彼らもまた、一息入れてから……思考を切り替え、再び雑草だらけの階段を登るのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………同時刻。

 

 

「──ぬぅ、なにやつ、姿をみせい!!」

「どーぶらいぶぃーちぇ……真打ち登場、というやつだ」

「むむ! その手にあるウォッカ、極寒をものともせぬ鍛え抜かれた鋼の肉体美……まさか、シベリア・カッパか!?」

 

 

 第三次日米対決は、勝敗が付くことなく、混沌を極め。

 

 

「Badな臭い……Hey! そこにHiddenしているやつ! カンポウヤクが、ここまで臭うデース!!」

「ふふふ……ワンシャンハオ。アイヤー、筋肉(にく)に魅せられた者たち集うここ、魔境ね」

「Oh、その佇まい、ミステイクでありながら、Meの筋肉を震わせる威圧感……OK、Youがチャイナ・カッパか……!!」

 

 

 戦いは、新たな局面(れいせん)へと移行しようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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