ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
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──結論から述べよう。
結局、『口裂け女』は見つからなかった。
何故ならば、誰も……『口裂け女』を探していないからだ。
いや、正確には、探しているつもりではあったのだ。
しかし、いつしか口裂け女たちは、ロボ子は、風を切って走ることへ心が傾いてしまっていて、すっかり忘れてしまっていた。
彼女たちは、一筋の流れ星になっていた。
それはけして、背後よりサイレンを鳴らして怒鳴り散らす警察車両たちに対してテンションが上がったわけではない。
そう、彼女たちは、ただ風になっていただけである。ただ、夜の闇を切り裂いていただけで、そこに意味などなかった。
つまり──『口裂け女』の事を覚えていたのは、千賀子だけであった。
ロボ子なら覚えているのではと思われるかもしれないが、残念ながら、そのロボ子もすっかり忘れているようであった。
いや、正確には忘れているというよりは、だ。
走り屋であり友でもある口裂け女たちとのランデブーなランナウェイにばかり気が行ってしまい、端から聞いていなかっただけ……なのだろう。
本当に、いったい誰に似たのだろうか?
おまえロボ子をやり直せって思ったけど、千賀子はあえて触れなかった。
なにやら小声で『チューニングが……』とか、『サスペンションが……』とか、『オイルの具合が……』とか、それはもう真剣な様子だったからだ。
さすがに日常生活にまで問題が生じるレベルならともかく、だ。
緊急事態的ではあるけど、別に自分たちに義務が生じているわけでもないこの問題がおろそかになるぐらい、千賀子としては、特に思うところはなかった。
……そうして、警察を振り切った夜の暴走集団たちは、なにやら朗らかな雰囲気で次の対戦を約束してから別れ。
今度はちゃんとした安全運転で『神社』へと帰宅した千賀子は、もうすっかり夜も更けて真っ暗な境内の中で、大きく伸びをした。
既に念話でエマたちの事は聞いている。
さすがに時間が時間だし、別に夜更かしが得意でもないエマもそうだけど、赤ちゃんである春人に至っては起きているわけがない。
だから、音を立てないよう、そ~っと、そ~っと、動く。夜泣きが癖になると、本当に大変だから。
『これで、良かったかしら?』
『そうそう、これこれ』
これまた事前に待っていてくれていた2号より、『弓』を受け取る。
それは女神様のガチャ……で手に入ったものではなく、普通にお金さえ出せば買える、市販されている練習用の弓である。
ただし、
何故ならば、これを使用して放つ『矢』は普通の矢ではなく、千賀子の巫女的パワーを凝縮した、エネルギー的な矢であるからだ。
なので、物質である弦で引くのではなく、弦もまた巫女的パワーによって形成された、エネルギー的な弦を使う。
これはけっこう優れ物で、引いた弦は物質をすり抜けるので、千賀子の……どどんと前に飛び出している乳房に当たる事が無いのだ。
そう、なんで普通に弦を張らないのかって、千賀子のバストサイズで弓を使用する場合、胸当てで保護しないと、最悪乳首がスパッとやられてしまう危険性があるからだ。
服を着ているから大丈夫……残念ながら、まったく大丈夫ではない。
矢をちゃんと放てるぐらいに太く重く強くしぼった弦は、まともに当たれば乳首ぐらい切断してしまうし、そうならなくとも、しばらく動けなくなるぐらいの激痛をもたらす。
実際、胸当てなどが無かった古来の弓矢を使う女性の中には、乳房を片方切り落として……というリスクの高い対処法があったぐらいなのだから、いかに危ないかが窺い知れるだろう。
そして、それを防ぐ画期的な方法がコレである。
それっぽい動作で、それっぽい感じに、狙った相手へと巫女的呪いパワーが矢の形になって飛んでゆく仕様になっており。
今回、狙うのは……件の『口裂け女』である。
正直、千賀子はこのやり方があまり好きではない。
直接顔を合わせてぶん殴るのが一番効果的だし、こういう脅しはキッチリしておいた方が良い。
カッパだって、最近は顔を合わせると『──ッス!』と、敬礼のマッスルポーズだとかを……思い出したくないから、話を戻そう。
とにかく、顔を合わせて説得(?)した方が色々と手っ取り早いのだが、もう色々と面倒臭くなった千賀子は、コレで済ませることにしたのである。
「ん~……さて、と。ちゃっちゃと済ませますかな」
その言葉と共に、千賀子は弓を掲げ……巫女的パワーによって作り出した弦をしぼって、巫女的呪いパワー(矢)を乗せる。
そして──一瞬の沈黙の後に、千賀子は矢を放った。
矢は、音も無ければ跡すら残さず暗闇の中へと消えて……しかし、確かに『力』が彼方へと……勘ではあるが、『口裂け女』へと向かったのを感じ取った千賀子は。
「……さて、寝よう。夜更かしは美容の大敵だものね」
一つ、欠伸をこぼしたのであった。
……。
……。
…………さて、そんな千賀子の脅しのおかげか、あるいは、『風に、なってきます』といってチラホラ夜に外出するロボ子たちのおかげか。
正解がどちらなのかはさておき、『口裂け女』の話題は全国の小中学校が夏休みに入ったあたりで、パタリと途絶えた。
まあ、千賀子の前世においても、だ。
社会現象にもなった口裂け女騒動が終結したのは、『子供たちの情報交換=学校での口コミ』が途絶えたからだと言われているぐらいだ。
この世界でも子供たちの情報交換の大部分は学校なので、その学校がお休みに入れば、自然とそういった噂話は一旦収まるのが常であった。
そうして、夏休みに入ってしばらく。
すくすくと成長してゆく春人と、宿題に四苦八苦しつつも、順調にこんがり……というほどではないが、ほんのり肌が小麦色になっていた。
純粋な白人は日焼けし難く、黒くなるというよりは赤色になってしまい、すぐにまた白く戻ってしまうのだが、エマはハーフなので、ちょっとだけ……といった感じなのだろう。
言い換えたら、白人は日光に弱い。メラニン色素が少ないので、実はダメージを多く受けている。
なので千賀子は、エマの入浴後には必ず『ガチャ』にて手に入った保湿剤やら何やらをしっかり塗ってやり、肌のケアを欠かさないよう努めるのが日課になっていた。
……いや、だって、エマって美少女じゃん? (by・千賀子)。
せっかく美少女に生まれたのだから、それを維持させたいって思うのは、親心って言うじゃん? (by・千賀子)。
千賀子としては、すくすく元気に育ってくれるのが一番ではある。
だけど、それはそれとして、綺麗に育ってくれた方が良いよねって思うのは、親じゃなくても考えることでもある。
少し、話が逸れるのだけど。
意外と誤解されている方が多いかもしれないが、千賀子自身は己の外見に対して、コレのおかげで他人より色々と得をしているな……っと、けっこう本気で考えている。
もちろん、客観的に見たら、賛否両論あると思う。
あくまでも結果論ではあるし、巫女的パワーのおかげで最悪の事態にならなかっただけで、この美貌のせいでトラブルが起きた事は一度や二度ではない。
それでも、千賀子は自分が恵まれているな、と本気で思っている。
紆余曲折なんて言葉では収まらないぐらいに色々あったけど、美人だから得してきたなって経験も、一度や二度ではないからだ。
実際、美容整形という言葉があって、より美人になることへの需要は古今東西途絶えたことはないが、より不細工になることへの需要なんてのは、皆無に等しい。
それはつまり、美人になるということは、それだけ得をするということを誰しもが言葉にされなくても身を持って知っているからだ。
胸のサイズだって、同じ事だ。
世界的に見ても、圧倒的に豊胸への需要が多い。縮小への需要も無いわけではないのだが、比べると明らかに少ない。
また、胸そのものをそのまま小さくしたいというよりは、形を良くしたり左右のバランスを整えたりといった感じで、その目的は『美容』な場合が多い。
つまり、美しさがあるというのは、それだけで、基本的には得をするのだ。
それを、身を持って知っているからこそ、どうせ美しく生まれたのだから、その美しさを維持した方が良い……と、千賀子は考えているのであった。
「ママ! 今日の24時間テレビ、アニメがやってる! マリンエク……なんか、電車のアニメなの?」
「見るのは、塗り終わってからですよ、おとなしくなさいな」
「わあ、『鉄腕アーッ! トム!』だって、どれがトムなの……え、ボブが主人公なの? トムじゃなくて?」
「エマも、かつての私と同じ疑問を覚えるのね……」
まあ、もっとも、まだまだ色気より食い気なエマに、母親としての千賀子の真心の1%も、通じてはいないのだけど。
……。
……。
…………とまあ、そんな感じで夏休みも終えようとしていた……そんな時であった。
「マスター、お電話です」
「ん~、どこから?」
「日本陸上競技連盟からです」
「はい? 陸上競技? なんでまた?」
その日の日記帳も書き終わり、観察日記も終えて、「明後日は学校か~」っと呟きながら、春人のオシメを変えているエマを眺めている千賀子の下に。
「今年より開催される東京国際女子マラソンにゲストランナーとして出て見ないかとのことです」
「連盟は気でも狂ったの???」
「おそらく、話題性を集めるため、客寄せパンダみたいなモノかと」
「だからって、『りくじょう』のりの字も関わっていない私に電話してくるやつがあるか……誰かから紹介でもされたの?」
「……かねてより張り巡らせているスパイ衛星からのデータですと、総理が少しばかり関わっているようですね」
「はい?」
「おそらく、酒の席でポロッとこぼしたのでしょう。マスターのような美人が出たら華があって目立つし、彼女なら走りきれるだろうから、誰か勇気があるやつは声でも掛けてみたら……と」
「えぇ……」
「ほんの冗談のつもりだったのでしょうけど、どうやら、人から人へと話が渡る間で、駄目元で電話してきた者が居た……ということでしょうね」
「う~ん、この……」
1979年東京女子国際マラソンにゲストとして参加しないかという、電話が掛かって来たのは。
……。
……。
…………一方、その頃。
場面は変わり、『神社』へと続く『山』の中。
夜空には、シリウス(おおいぬ座)ぐらい小さくなっている月が浮かんでいる。
長い月日を経て遠ざかり続けている月も、引力の関係か、どうやら地球との公転軌道が噛み合ったのか、遠ざかるのは止めたようだ。
──スミス、少しトマれ、様子が変ダ
そんな中で、神社へと続く、どこまでもどこまでも傾斜ばかりが続いている途中にて……彼らは、足を止めた。
──ここの傾斜は、こんなに長いのカ? ドウイウコトだ?
キンキンキン、仮にこの場に人間が居たら、まるで耳元でハウリングが起こっているかのような音を聞いただろう。
声ではなく、思念。波紋のように広がる念話に、誰もが返答できなかった。
そう、それは、この場に居る誰もがうっすらと考え始めていた、疑問であった。
彼らは、生まれも育ちも──であり──見ていたが、実際に日本の──ない。
興味など──リスペクトする気も──には載っていたので覚えている。また──アレはなんだっただろうか。
不幸中の幸いというべきか──彼らは互いに送り合う思念で情報を共有していた。
……だからこそ、その異常性に気付いた。
彼らは、このミッションに選ばれたエージェントであり、かれこれ──年も前から──思い出せない。
だからこそ、先を急がなくては。
キンキンキン……彼らは互いに思念を送って会話をする。
言葉という不確かなモノは、遠い過去の事。効率性を考え、思念による対話を覚えた彼らの前では、意思の不一致も誤解もない。
そのために肥大化した頭脳は、この時も正確な対話が行われていた。
──ドウスル? 引き返すか?
──ヒキカエス? どうしテ?
──ジンジャ、見えない。昨日も、ミテナイ。おかしい、コレハ
──もう少しイケば、着くダロ
──不測のジタイだ、一旦、引き返した方がヨイのでは?
──ソウナン、するのはマズイ。トチカン、無いからな
──ふむ……少しマテ
この場において、リーダーの立場にある男は、考える。
巨大化した口と鼻から、大量の酸素が脳へと送り込まれる。ひゅご~っと、それはまるで、大型のファンを想起させる音にも聞こえた。
とにかく、一国も早く『チカコ・アキヤマ』に接触する必要がある。肥大化した頭脳で、彼らは考える。
どくん、どくん、どくん。
思考が加速するに合わせて血管が脈動し、肥大化した大脳に大量の血液が回される。それを円滑にするために、同時に酸素を送り込みながら……リーダーの男は……っと。
『──(=^ω^=)アソコニヒカリガアリマスヨ』
誰かが思わず呟いたその言葉に、リーダーの男は顔をあげ……おお、と被膜に覆われた眼球を震わせた。
視線の先には、光が見える。ずっと前から見える、光だ。
あの光は、自分たちがこれから向かおうとしている『神社』であり、『チカコ・アキヤマ』の住まいでもある。
──ヨシ、これからが本当のミッションだ。作戦を、セイコウさせるぞ
改めて、男がそう思念で告げれば……仲間である彼らもまた、一息入れてから……どくん、どくん、と肥大化した頭部に張り巡らせた血管を、脈動させるのであった。
……。
……。
…………同時刻、あ、いや、正確にはちょっと違うけど、とりあえず、そんな感じの別の場所では。
『(=^ω^=)ナニヤッテンノキミラ……ジャマダカラ出荷シマスヨ―』
「う、うわぁぁぁぁああああ!!!」
既に18ヶ国の河童たちが集まっていたが、さすがにうっとうしくなったどこぞの女神様の手で、現実世界へサヨナラばいばいされたのであった。
なお、18ヶ国の河童たちの集団を目撃したトイレのUMA曰く、『地獄絵図とはこの事か……』といった光景だったとか。