ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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※ ロボ子は本気です


プロジェクトロボ子 ~双子山への挑戦~

 

 ──ロボ子の朝は早い。

 

 

 

 メンテナンス時やエナジーチャージ中を除いて休息の必要がないロボ子にとって、朝と思った時が朝であり、夜と思えばずっと夜なのだ。

 

 しかし、人間は原則として朝日が昇り始める時間帯からを朝と定め、日が落ちてからを夜と定めている。

 

 ゆえに、ロボ子は人間社会のルールに従って、人間たちと同じ時間間隔で朝と夜を認識し、毎朝千賀子の起床を見守っていた。

 

 なお、夜間もちゃんと見守っている。

 

 

 そうして、だ。

 

 

 ロボ子の一日はまず、マスターである秋山千賀子の起床を見届け、挨拶をすることから始まる。

 

 基本的にそこまで寝起きが悪いわけではないのだが、今は春人の世話もあって眠りが不規則なためか、身体を起こすまで少しばかりの時間を要している。

 

 ちなみに、身体を起こしても、すぐには頭が動いていない。

 

 ほとんど無意識に傍の布団で寝息を立てているエマを見やり、

 

 次いで、足早にベビーベッドの春人を見やり……それから、のそのそと自分の布団の上に座り込むまでが、ルーチンみたいになっている。

 

 ただ、寝ぼけているわけではない。

 

 本当に無意識の動きであり、ロボ子や分身たちが気付いていない予兆を感じ取って対応する時もあるのだから、母の愛とは偉大である。

 

 

 ……で、ボケーッと意識を飛ばしている千賀子を静観しているかと言うと、そんなわけがない。

 

 

 そのまま横になってしまえば寝息を立て始めるので、アタッチメント・アームにて千賀子の身体を固定しつつ、まずは寝癖から。

 

『魅力ガチャ』の底上げと、『アイテム』の内の一つにある髪用薬液によって手入れされ整えられてきた千賀子の髪は、寝起きであっても艶やかさを保っている。

 

 それでもなお、ロボ子は妥協しない。

 

 これまた専用のアタッチメント・フィンガーにて頭皮のマッサージと必要に応じて洗浄を行いつつ、頭皮に付着しないよう気を付けながら髪全体のトリートメントを行う。

 

 それから櫛を通すのも、絡まった寝癖を直すというよりは、薬液を馴染ませるため。

 

 それが終われば、今度は顔も行う。

 

 千賀子は千賀子なりにちゃんと洗顔などを行うが、疲れている時や子供のことに意識が行っている時は、けっこうおざなりになる。

 

 それは、千賀子に仕えるロボ子としては許せない。

 

 なので、代わりにロボ子が自主的に行うのだ。

 

 素早く顔全般の洗浄とケアを終わらせてから、首から下へ。

 

 局所的ヒートカバーを使用して千賀子を中心にほんのり温めつつ(さすがに、いきなり裸になるとちょい寒い)、寝間着を脱がす。

 

 寝ぼけてはいるが、既に慣れたもの……意識は飛んでいるけれども、千賀子はそのままされるがまま。

 

 湿らせた専用のタオルで、全身を手早く優しく拭う。

 

 なんでかって、一晩経った千賀子の身体は本来、暴力的なまでに本能を掻き立てる、果実にも似た甘い匂いを発している。

 

 いくら巫女的パワーで抑えているとはいえ、本来ならば、そんな事はしない方が楽であり……少しでも匂いを抑えるために、優しく全身を拭うのである。

 

 それが終われば、再び全身に保湿剤を……ちなみに、この拭ったタオル。

 

 なんの心構えもしていない青少年の顔に当てると、別にそういう気分になったわけでもないのにその場から動けなくなってしまうというデバフを引き起こすタオルになっていたりする。

 

 

 で、だ。

 

 

 それらが終わると、さすがに千賀子も完全に目を覚ますので、後はその時々の流れに合わせて動く……というのが、ロボ子にとって、ある種のルーチンワークになっていた。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………だが、しかし。

 

 

 そんな、平凡かつ平和な日常を送っていたロボ子の下に……ある日、一つのミッションが生まれた。

 

 それは──人類の英知を超える、まさにロボ子にしか成し得ない難題であり、神が与えた試練。

 

『42.195km走っても絶対に怪我せず痛みも感じさせず、放熱を妨げず運動の妨げにならない、Lカップ(Mカップ寄り)のスポーツ用ブラを作れ』

 

 と、いうものであった。

 

 

 

 

 

 ──ロボ子の朝は早い。

 

 

 以前から早かったが、チョモランマのようにそびえ立った難題を前にして、休息している暇などなくなったからだ。

 

 なにせ、本番まで3ヶ月と無いのだ。

 

 勝手にトライ&エラーを繰り返して完成に近づけられるのであればともかく、今回のミッションは千賀子の協力が必要不可欠。

 

 なにせ、千賀子が身に着けるブラジャーなのだ。

 

 それも、日常生活ではなく、40km以上も走り続ける中で、その身体を傷付けず負担を抑えるブラジャーだ。

 

 当然ながら、普通のブラジャーでは駄目である。

 

 アレは、あくまでも日常生活を送るうえで想定されて作られたものだから、マラソン用に想定されたモノではない。

 

 

 ……ここで少し話は逸れるが、どうしてそういったブラを代用するのは駄目なのかを説明しよう。

 

 

 とても、大事な事である。

 

 さて、どうして新たにブラジャーを作る必要があるのかというと、マラソンという行為は、乳房にとって多大な負担を強いるからである。

 

 乳房というのは、要は筋肉の上に乗せられた皮下脂肪や組織であり、それに乳頭やら乳腺やら何やらが組み合わさっている……いや、逆か、いや、問題はそこではない。

 

 つまり、筋肉やじん帯によって固定されているのは、繋がっている土台の部分だけ。

 

 例えるなら、人体という名の台座の上に乗せられた、乳房という名のプリンのようなものだ。

 

 台座を動かしてもそれ自身はビクともしないが、その上のプリンは揺れて、激しく動かせば倒れるし崩れてしまう。

 

 さすがに乳房がそうなるわけではないが……けれども、人工物の台座とは違い、筋肉もじん帯も……酷使すれば、ダメージを負う。

 

 2,3分飛び跳ねるのとはワケが違う。

 

 何千、何万、歩を重ねるたび、乳房は重力と慣性に従って上下左右に弾み、それを支え続け、筋肉とじん帯は身体の方へ引っ張り続けるわけだ。

 

 個人差にもよるが、『走ると胸が痛すぎてヤバい』という話は大げさではなく、人によってはそれで走れないという人もいるのだ。

 

 千賀子とて、日常生活を送るうえで『ガチャ』より手に入るブラが無かったら……それはロボ子も知っているからこそ、いつになく本気の顔になっているのであった。

 

 

 ……しかし、何も考えず出来たそばから試すわけにはいかない。

 

 

 時間の猶予が無いうえに、マスターである千賀子に負担を強いるのは本末転倒であるし、ロボ子の感性として考えると、それは横着である。

 

 あくまでも、最低限のチェックをクリアした試作品を使ってもらう。

 

 それが大前提であり、その試作品の制度を上げるためにも、ロボ子は休んでなどいられないのであった。

 

 

『──おはようございます』

「おはようございます、女神様」

 

 

 そうして意気込むロボ子のもとに、なにやら千賀子の事を嗅ぎつけた女神様が話し掛けて来る。

 

 

『──これからの、ご予定は?』

「マラソン用の、マスターのブラの開発であります」

『──私が、用意いたしましょうか?』

「完成しなかった場合はお願いします。ですが、どうか私に挑戦させてください」

『──その心意気、認めましょう』

 

 

 効率性や合理性を考えたら、女神様に任せるのが一番楽である。

 

 しかし、ロボ子はそれを良しとはしなかった。

 

 なんでもかんでも女神様の御力で済ませてしまうのは、プライドが許さない。

 

 マスターのために最高のブラジャーを……それも、マラソンに耐えられるだけでなく、着心地も最高な……そんなブラジャーを。

 

 そんなロボ子の熱意に、女神様も胸を打たれたのだろう。珍しく、頑張りなさいという言葉すら掛けた。

 

 その姿は、まるで後方で腕を組んで見守る親方のようで……そう、負けられない戦いが、ここにある。

 

 その日より、ロボ子の孤独な挑戦が始まったのであった。

 

 

 

 

 

 ……スポーツ用ブラにおいて避けては通れない問題。

 

 

 耐久性や汗などの揮発性もさることながら、ある意味ではそれ以上に重視しなければならないのは……摩擦対策である。

 

 そう、摩擦というのは非常に厄介な問題であり、軽視してよいことではない。

 

 

 と、いうのも、だ。

 

 

 実は、女性に限らず、マラソン中(というか、運動中)に乳首が勃起してしまう……というのは、けして珍しいことではない。

 

 何故ならば、それは生理現象であるからだ。

 

 別に性的に興奮しているというわけではなく、言うなれば、寒ければ鳥肌が立つのと同じこと。

 

 体温の急激な上昇、外気の影響による寒暖差、衣服の動きによる摩擦という名の刺激、運動による脳内分泌液の影響。

 

 水を沢山飲めばトイレが近くなるのと同じく、マラソン中に乳首が勃起するのは自然なことであり、そのための対策は必須なのである。

 

 ──しかし、いや、やはり。

 

 一筋縄ではいかないと思っていたこの挑戦……早速、一つ目の問題がロボ子の眼前に立ち塞がった。

 

 

「──っ! 3ヵ月前に測った時よりも、乳首や周りが少し大きくなっている……!!!」

 

 

 それは、『千賀子の乳首や周りが大きくなっている問題』、である。

 

 いや、その、けして平均よりデカすぎる……まあ、一般女性よりはデカいのだけど、それも、そこまで大げさな話ではない。

 

 むしろ、バストサイズに比べて小さい方である。

 

 だが、千賀子の現在のバストはLカップである。それも、Mカップ寄りの、Lカップだ。

 

 個人差はあるけど、基本的には乳房の大きさと乳輪の大きさは比例する傾向にある、と言われている。

 

 Lカップというサイズのせいで目立たないだけで、千賀子もまたその傾向に漏れず、乳輪は大きかった。

 

 少なくとも、100円玉ではまるで収まらない。

 

 絆創膏を近付けてみれば、まるで絆創膏が縮んでしまったかのような錯覚を覚えても不思議ではない。

 

 

 ……とはいえ、だ。

 

 

 既にそれは3ヵ月前の検診の時点で分かっていたことなので、ロボ子は驚かない。

 

 ロボ子が驚いたのは、たった3ヵ月の間にどうしてサイズが変わっているのかという点で……原因は、すぐに思い当った。

 

 

 ──乳幼児である、春人の存在だ。

 

 

 というのも、春人は現在に至るまで粉ミルクの一切を使用せず、完全母乳を続けているが……当然ながら、千賀子が行っている。

 

 つまり、一日平均して10回前後の授乳を千賀子は行っているわけだが、これまた当然ながら、その分だけ千賀子の乳首は吸われるわけだ。

 

 乳首というのは、赤ちゃんが吸いやすいよう、ある程度は伸びるようになっている。

 

 そして、千賀子の肉体は普通ではない。春人が吸いやすいよう乳首の形も変化する……つまり、春人の成長に合わせて常に変化し続けている、というわけだ。

 

 

「……つまり、今のサイズに合わせるのではなく、3ヵ月後の本番時の大きさを想定して……」

 

 

 それは、挑戦の出だしを根本から挫く問題であった。

 

 

「……そうだ、マスターは今、母乳が出る……つまり、運動中の刺激によっては、出てきてしまう可能性が……」

 

 

 しかも、問題はサイズの変化だけではない。

 

 これがまだ平時であったならばともかく、現在の千賀子は育児中……すなわち、平時よりもずっと多くの母乳を生産している状態にある。

 

 直前に搾乳して小さくしておくか、あるいは、あえて噴き出すまで放置した状態でのサイズで作るか。

 

 

「……漏れ出た場合、それが気化して体温を余計に下げてしまう……短距離ならともかく、長距離の場合は肉体へのダメージが……」

 

 

 そんな難題を前にしても、ロボ子の心は折れない。

 

 孤独な挑戦ではあるが、ロボ子の熱意に陰りはなく……千賀子のバストサイズ模型を見やりながら、ホワイトボードに次々に案を出しては、数式を書き足していくのであった。

 

 

 

 

 

 ──そんなロボ子の前に新たな難題が立ち塞がったのは、開発を開始してから約1ヶ月が経とうとしていた頃だった。

 

 事前練習として、試作に試作を重ねて作られたブラを装着し、ゼッケンを付けた本番同様の恰好で、実際に10kmほど走った時に、それは起こった。

 

 

『──走ると、股ズレして痛い──』

 

 

 そう、それは、『千賀子の太ももが思っていたより太かった問題』である。

 

 いや、まあ、これも、実際は言うほど太いわけではなく、しっかり筋肉が付いているし、肥満体形でもない。

 

 ただ、むっちりはしているけど。さわると赤ちゃんの肌を思わせるぐらいにムチムチなだけで、スベスベなだけでもある。

 

 なら、どうして股ズレをしてしまったのか? 

 

 残念ながら、スベスベだろうが人の肌なのだ。そして、千賀子がランナーとしての走り方を知らなかったのも原因であった。

 

 そう、素人目には分からないことではあるが、実はマラソンという競技にも、正しい走り方というものがある。

 

 若い頃はこれぐらいで息切れしなかったのに……という誰しもが経験する話も、だ。

 

 詳しく調べれば、体力筋力の衰え以外に、身体が走り方を忘れてしまっていたり。

 

 脂肪の付き具合や、足運びに変な癖が付いてしまっていて……というパターンもある。

 

 千賀子の場合は、後者のパターンが当てはまった。

 

 最後に全速力で走ったりしたのは学生の時ぐらいで、それから約10年以上……そりゃあ、身体も走り方を忘れるというものだ。

 

 ロボ子指導の下で定期的に運動を行ってはいるが、それは体力筋力維持を目的としており、全力疾走なんてしないわけで。

 

 ましてや、10km以上も走らせるなんてさせていなかったから……まさか、太ももなんていう完全なダークホースが出現するだなんて、想定外でしかなかった。

 

 

『──どうしますか?』

 

 

 あまりの状況に、しばし言葉を失くしていたロボ子に、後方にて腕組みしていた女神様が声を掛ける。

 

 

「……越えなければならない頂きは、登れば登るほど見つかるというもの」

 

 

 けれども、やはりロボ子には職人としての意地があった。

 

 そこに、愛があった。

 

 そこに、熱意があった。

 

 そこに、言葉にはできない……夢があった。

 

 

「ネバー・ギブアップ。生涯挑戦一筋、前を向き続け、良い物を目指し続けるだけです」

 

 

 そして、ロボ子は諦めない。

 

 まだ、その頂に向かって手を伸ばしただけなのだから。

 

 そう、ロボ子の朝は早い。

 

 今はまだ、眠っている暇も、悩んでいる暇も無い。

 

 ただ、良い物を作る、それだけを夢見て……ロボ子の挑戦は、続くのである。

 

 

 

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