ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第209話: オマエノ、シワザ、タダノカ

 

 

 そうして、幾つもの夜明けを迎えて……本番前日の、夜。

 

 

「──え、なにこれ?」

 

 

 完成したロボ子作のスポーツ用ブラジャーを拝見した千賀子の第一声が、ソレであった。

 

 どうしてかと言えば、それはブラジャーのデザインである。

 

 一見する限りでは、スッポリと全体を覆い隠し、背後へと回されるサイドベルトも太めで、ガッチリ固定するように思える作りだが……問題は、色である。

 

 結論から言うと、着色されて肌を隠している部分は乳房の前面部分、つまりはカップの前面部分のみ。

 

 サイドベルトやストラップのみならず、カップの横側部分が透明な素材で作られていて……πの3割(要は、横乳)部分が丸見えな状態であった。

 

 ぶっちゃけてしまえば、いわゆるヌーブラというやつに近い外観である。

 

 透明部分は本当に透明過ぎて、近くで見ないと分からないぐらいに透明度が高い。はっきり言えば、着ていないように見える。

 

 触るとビニールのような感触ではなく、まるで絹のようなツルツルとしていながらも、しっかり汗を通し体温も保持してくれる……そんな印象を覚えた。

 

 

「ロボ子、なんでこんなデザインにしたの?」

「機能美、というやつです」

「えぇ……」

 

 

 ロボ子の美的センスはよくわからん。

 

 そう思った千賀子だが、まあ、己のファッションセンスとて似たようなモノだから、それ以上はツッコまない。

 

 とりあえず、試着してみる。

 

 見た目とは裏腹にベルトやストラップ部分はずいぶんと伸縮性に優れていて、てこずるかなと思っていたけど、けっこうあっさり装着できた。

 

「お、おぉ……見た目とは裏腹に、かなり着心地が良いぞ……」

 

 そして、想像していたよりもはるかに心地良い感触に、千賀子はお世辞抜きで称賛の感想をこぼした。

 

 事実として、そのブラの着心地は最高以外の何物でもなかった。

 

 ピッタリ肌に張り付くけど締め付けすぎといった感覚はなく、かといって、緩いといった感覚もない。

 

 温かさも申し分がなく、かといって、熱がこもりそうな予感もない。必要分だけの熱を受け止め、一定以上は放出するといった設計のようだ。

 

 おまけに、このブラ……人類を軽く超越している科学力をたっぷり使用しているようで、胸の重さがほとんど感じない。

 

 まるで、ガチャアイテムのブラを身に着けている時のような安定感で、ケチをつけるところが一つも無い。

 

 まさに、全てにおいてジャストフィット、という言葉がこれ以上ないぐらいに当てはまる……そんなブラであった。

 

 

「でも、どうせシャツを着るわけだから、この部分を透明にする必要はないのでは?」

 

 

 ただし、デザインは……とりあえず、暗に透明部分も着色してみてはと臭わせてみたのだが。

 

 

「え? シャツを着るからですよね?」

 

 

 なにやら、不穏な言葉がロボ子から零れた。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………ちょっと待て。

 

 

「ロボ子……まさか、変なものを作ったりしてはいないよね?」

 

 

 思わず、千賀子は尋ねた。

 

 そう、意外と知られていないが、マラソン大会における服装の規定は、一般的な社会常識があれば、まず引っ掛からないような内容になっている。

 

 簡潔にまとめると、だ。

 

 清潔で、デザインも他者から不快に思われないような一般的な常識内に収まり、濡れても透けない……というもので。

 

 要は、ちゃんと洗濯してあって(あるいは、新品)、賛否両論を生み出すような強いメッセージ性のあるデザインは駄目で、公共の場であることを考えて卑猥な印象を与えるデザインも駄目、ということである。

 

 つまり、テレビとかで見掛けるような、タンクトップでなくてもOKなのだ。

 

 マラソン選手などが薄いタンクトップで走るのは、通気性の確保や、腕の振りの阻害防止、たった数十グラムでも軽量化するという目的があるから、である。

 

 たった数十グラムでもと思うかもしれないが、それはあくまでも着ていない状態での話。

 

 素材によっては汗を吸うことでもっと重くなるし、なんなら気化熱で冷え過ぎてしまう場合もある。

 

 そもそも、0.01秒でも速く先にゴールテープを切った方が勝ちの世界。ルール違反さえ、しなければ。

 

 たった数十グラムの軽量化を選ぶも選ばないも当人の自由だが、それで2着になっても一切の文句は言えない。

 

 結局のところ、スポーツの世界とはそういう世界なのだ。

 

 なので、寒いから、恥ずかしいから、そういうのを考慮して中にシャツを着ても良いし、なんなら長袖長ズボンでも問題はないのだ。

 

 ……だからこそ、千賀子は問い掛けたのだ。変なモノを作っては、いないよね……と。

 

 だって、ロボ子の背後で、なんか女神様が『──(=^ω^=)ワタシガソダテタ……』みたいな感じで腕組みしているから。

 

 あと、なんかロボ子の目がおかしい。

 

 瞳孔が合っていないというか、焦点がズレているというか、よ~く見てみると、レンズが絞られたり緩められたり、妙に忙しない。

 

 有り体にいえば、なんか様子がおかしい。

 

 ……いちおう、先に聞いておく。

 

 

「ロボ子、あんたここ最近メンテナンスしているの? 分身たちからちょろっと小耳に挟んだのだけど、作業室にずっとこもりっぱなしって……どうなの?」

 

 

 メンテナンス。

 

 ロボ子のような高性能(宇宙基準)なロボットにおいて、それは人間における睡眠と同じようなもので、けして疎かにしてはいけない作業である。

 

 やっていることは、単純明快。

 

 ロボ子が自作した専用の調整槽(ちょうせいそう)と呼ばれる専用のメンテナンスカプセルに入り、全身の調整や修復を行う、というものである。

 

 ロボ子に搭載された頭脳ユニットのメンテナンス(不要なデータの消去など)や、各種回路の状態確認、摩耗している部品の交換など、作業は多岐に渡る。

 

 これはロボ子に限らず、それなりの人が誤解している者が多いのだが、どれだけ頑丈な機械であろうとも、メンテナンスを怠る理由にはならないのだ。

 

 いわゆる、壊れないバイクとして有名(?)なやつですら、メンテナンスを怠ると普通に壊れるのだ。

 

 ましてや、様々な精密機械を組み合わせて動いているロボ子の身体ともなれば、いかにソレが重要なのかが察せられるというもの。

 

 どんな機械でも、丁寧な保守点検こそが長持ちさせるコツなのだ……その、はずなのだが。

 

 

「大丈夫ですよ、今の私は超素敵に無敵、スーパーウルトラハッピーモード、今日のラッキースターな私の朝は早いのです!」

「今すぐ調整槽に入れ、このバカたれロボ!」

 

 

 調べるまでもなく、人間で例えるなら徹夜続きで頭がハイになっているのが発覚したので、千賀子はロボ子を調整槽に叩き込んだのであった。

 

 まったく、いったい誰に似たのやら。

 

 調整槽に入れた直後、【終了予定時刻:98時間後】と表示され……頭痛はないけど頭を抱えたくなった千賀子……だが、現実は千賀子を待ってはくれない。

 

 

『──さあ、ロボ子が倒れるまで頑張った渾身の逸品ですよ』

 

 

 ズイッと、女神様より差し出されたシャツを前に、千賀子は……嫌そうに顔をしかめながらも、受け取る。

 

 不穏な気配はなんであれ、徹夜して一生懸命作ってくれたのは事実である。

 

 たとえそこに、女神様とかいうメガトン級の不安要素が注入されていたとしても……頑張ってくれたロボ子の努力を無下にはできなかった。

 

 ……で、だ。

 

 

「……あれ? 思っていたより普通……???」

 

 

 そうして、着てみたわけだが……想像していたよりもずっとマシというか、特におかしいところが無いソレに、千賀子はなんとも言えない顔で首を傾げた。

 

 そのシャツは、半袖タイプのシャツであり、色は赤であった。

 

 極端に薄いわけでもなければ、大胆なカットが施されているわけでもないし、濡れると透けるといった感じでもない。

 

 身体のラインにピッタリ張り付くインナーのような感じではあるが、それだけ。腕を振っても身体を捻っても、邪魔にはならない。

 

 むしろ、これもまた着心地はブラに並ぶぐらいで、夏場の普段着として使用しても良いのではと思うぐらいであった。

 

 

(……もしかして、透けはしないけど万が一の下着映りを考えて、透明な素材にしたとか?)

 

 

 既に調整槽の中に居るロボ子に聞くことはできないが、そうかもしれない……っと、千賀子は思う。

 

 色が赤なので、透けたところでブラの色なんて分からないだろうが、それでも実際に使用しないと分からない部分はある。

 

 変な所で気遣い過ぎるところがあるロボ子のことだ。

 

 万が一を想定して、そういった部分を透明素材にして透け防止を図るのは、特に不自然なことではない。

 

 

 まあ、他にも、だ。

 

 

 透明素材であるのを抜きにしても、ブラ自体は本当に軽い。元々ブラなんて滅茶苦茶軽いのだけど、それでも軽いと思えるぐらいだ。

 

 あと、普通に生地が薄い。

 

 改めて確認してみると、どの部分も滅茶苦茶薄い。意図的に透けない部位を用意しないと、透明じゃなくても丸見えなのかってぐらいに薄い。

 

 あと、インナーと言えば良いのか、タイツと呼べば良いのか、あるいはスパッツと呼べば良いのか。

 

 その部分もまた透明部分が多いけど、ブラと同様に肌にピタリと吸い付き、足を上げ下げしてもまったく邪魔にはならない。

 

 生地に余裕があるのではない。

 

 力を入れた分だけ伸びて、力を抜いた分だけ縮む。とにかく伸縮性に優れていて、同時に、締め付ける力も不快感を与えない絶妙な加減になっている。

 

 

『──ちなみに、防弾仕様とのことですよ』

「え、なにそれすごい」

 

 

 しかも、分かり難いところでこれまた人類の科学力を超えた機能まで備わっている。いったい、何を想定して作ったのか。

 

 ズボンに当たる部分は、女性用を意識しているのか、インナーやブラとは違ってゆとりのある構造になっている。

 

 いわゆる、現代においてはランニングスカートと呼ばれる造形が、近しいのかもしれない。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………とりあえずは、だ。

 

 

(女神様からの粘っこい視線はいつものことだけど……不審な点は無いし、今回ばかりは……ただスゴイだけのスポーツウェアなのかもしれない)

 

 

 しばらく鏡の前で自分の姿を確認し、分身たちからも、エマからも、変なところが無いのを確認してもらった千賀子は……OKサインを出したのであった。

 

 

 

 

 

 ──そして、本番当日。

 

 

 その日、会場に集まった観衆たちからはどよめきにも似た歓声と困惑が……大会関係者たちの間からは、どこか悲壮感にも似た緊張感が広がっていた。

 

 理由は、言うまでもなく……あの、秋山千賀子が参加しているからである。

 

 観衆たちの間からどよめきの声が上がっているのは、テレビや新聞などで何度か見掛けた人が出ているから。

 

 困惑の声が上がっているのは、千賀子の身体というか、他の選手たちに比べて明らかにスポーツをやっている体形をしていなかったからだ。

 

 いや、別に、千賀子が不摂生な身体をしているわけではないのだ。むしろ、誰が見ても健康的であると太鼓判を押すぐらいだ。

 

 けれども、それでも、だ。

 

 痩せているようには見えるけど、明らかに、他の選手に比べて全体的に丸みがある。

 

 太っているわけではないが、かといって、他の選手のように引き締まっているというわけでもない。

 

 ていうか、明らかにデカい。どこがって、要所が。

 

 誇張でもなく、ボールでも入れているのかってぐらいデカい。

 

 周りの選手がギョッとした顔で見ており、外人選手からも『oh……』って、ちょっと驚かれていた。

 

 これがモデル会場だったならば誰も違和感を覚えなかっただろうが……周りがアスリートしかいない場では、本当によく目立っていた。

 

 

 ……で、もう一つの方。

 

 

 どうして大会関係者の人達が緊張しているのかって、それは万が一事故が起こって千賀子が怪我でもしたら、ヤベー事になるからだ。

 

 はっきり言ってしまえば、千賀子がどう思うか、どう動くかは関係ない。もはや、メンツの問題になってくる。

 

 秋山千賀子という経済界でも財界でも、下手したら政治関係でもVIP的な存在である千賀子に、なにか事が起こってみろ。

 

 いったい、どれだけの人達のメンツに泥を塗り、どれだけの人達が責任を取ることになるのか。

 

 それを思えば、関係者たちの胃がキリキリと痛むのは、ある意味自然な事であった。

 

 なお、肝心の千賀子は他者から視線を向けられることに慣れ過ぎてしまっていて、あまり気付いていなかったりするのは、なんとも皮肉な話である。

 

 

 ──そうして、各々の思惑を他所に……スタートの合図が高らかに空に響き、一斉に選手たちは走りだしだ。

 

 

 必然的に、観衆たちの視線が選手へ……その中でも、やはりひと際目立っている千賀子へと集まるのは、自然なこと。

 

 だって、めちゃくちゃ弾んでいた。

 

 ぽよん、ぽよん、ぽよん、ぽよん、と。

 

 それはもう、弾んでいた。

 

 どこがって、言うまでもない。

 

 しかも、けっこう速い。

 

 さすがに千賀子も巫女的パワー全開なんてことはせず、制限を掛けたうえでの根性勝負にしているが……だからこそ、速いのだろう。

 

 無理も無い、千賀子は素人である。

 

 学校の授業や駆けっこなら経験はあるけど、競技性のあるマラソンに参加した経験なんてなかった。

 

 見る人が見れば、『ああ、付いていけるのはすごいけど、ペース配分が滅茶苦茶だな』と一目で分かる有様であった。

 

 

『──えっ?』

 

 そんな感じで、試合が進む中で、だ。

 

『──うん?』

 

 観衆たちの中に1人、また1人……ギョッと目を見開き、あるいは呆けて、『……溜まってるのかな?』言葉を失くす者が現れ始める。

 

 

 それは、観衆だけではない。

 

 

 たまたま傍を走っていた選手の中にも、ギョッとした様子で千賀子を見やり、目を瞬かせ、まるで白昼夢でもみたかのように、中には首を横に振る者までいた。

 

 ……いったい、何が起こっているというのだろうか。

 

 

『──( = ^ ω ^ = )──』

 

 

 走っている千賀子も気付いていないのに、周りが気付けるわけもなく……全ては、謎に包まれていたのであった。

 

 

 

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