ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
注意要
千賀子の姿は、良くも悪くも非常に目立っていた。
そりゃあ、そうだ。
何度も言うが、千賀子の体形もそうだが、顔立ち含めてすべてが一般人のソレではない。
もちろん良い意味で、である。
頭は一般女性よりも小さく、首も細い。なのに、首から下よりデデンと飛び出した双子山は、遠目にも分かるぐらい大きい。
それはもう、大きい。
現代になっても特に大きいと称されるサイズなので、たまたま目撃した子供などが、『なんで、あのお姉さん胸にボールを入れているの?』と尋ねるのも、致し方ないことである。
特注したスポーツウェアは千賀子のスタイルを隠しはするが隠しはせず、誰が見ても、一目でナイスバディであると判断するぐらいに、はっきり露わになっている。
そして、腰から下より伸びている太ももは、太いももで、それでいて程よく引き締まっているという、絶妙なバランスにある。
周囲に、競技者が集まっているからこそ、余計にその対比が分かりやすくなっている。
良いか悪いかとかではなく、ただ、違っているのだ。
はっきり言えば、モデル事務所からのゲスト出演……と、思われるのが自然な女が、国際女子マラソンに出場しているわけだ。
そんなわけだから、自然と注目が集まる。
やはり、速い選手や自国(この場合、日本)の選手には注目が集まるわけだけど、それとは別に、普通に注目される。
単純に千賀子が美人なのもあるけど……それはそれとして、色々な意味で千賀子は有名人になっているのだから、当然の結果であった。
……とはいえ、だ。
いくら有名人であろうが、いくら美人であろうが、いくら暴力的な色気を出していようが、それがまったく通用しない場面はある。
今が、ちょうどその時である。
当たり前だが、胸がデカいからといってタイムを10秒おまけされるわけがないし、美人だからと他の選手が手加減してくれるわけでもない。
今回の千賀子は巫女的パワーを抑えて走って……それでも見た目からは考えられないパフォーマンスを見せてはいるけど、限度はある。
最初の1km、2kmぐらいまではトップ層にも食い込んでいたが……5kmも走る頃には脱落し、その時点で中間層の辺りを走っていた。
その頃になると、映像を追いかけている実況も変わってくる。
最初の頃は『速い! 速いぞ! とんでもないダークホースか、トップ層に食い付いている!』といった感じで驚きを露わにした内容が多かったけど。
徐々に順位を下げていくに連れて、『よく頑張っている! 秋山選手は最後まで走りきれるのか!?』といった感じで、既に走りきれない可能性すら示唆し始めていた。
まあ、それも無理はない。
何故なら、走っている千賀子の顔がもう、けっこういっぱいいっぱいになっていたからだ。
それも、当然だ。
練習したとはいえ、そもそも、巫女的パワーによるアシストがなければ、千賀子のフィジカルは『ガチャ』で少々底上げされているだけの、一般人よりはすごい、という程度でしかない。
けっこう忘れられていると思うけど、あくまでも【ピックアップ:魅力』固定の『ガチャ』による底上げである。
その頻度は『魅力』に比べて明らかに少なく、素人よりはすごいけど、あくまでもアマチュアの中では……程度でしかなかった。
しかも、どんな事でもそうだけど、練習に比べて倍以上に体力気力精神力を消耗するのが、プレッシャーが圧し掛かる『本番』ってやつである。
練習では10kmを走りきれたとしても、本番では半分の距離を走っただけでヘトヘトになってしまう……なんてのは、けして珍しいことではない。
千賀子もまた例外ではなく、序盤からの無意識なハイペースによって、5kmを走り終えた時点で、傍目にも分かるぐらい激しく息切れをしていた。
……。
……。
…………そんな時であった。
「──えっ?」
観衆の中に居た、1人の少年が、その異常な光景に気付いたのは。
少年は最初、特に意識して行動を起こしたわけではなかった。
ただ、走っている選手の中にどえらい美人が居て、カメラもたまたまその選手を追いかけていたから、あわよくば自分も映ったら……そんな思いで、併走しようとしただけである。
……最近はあまり見られなくなったけど、昭和(平成もだが)の頃のマラソンは、けっこう少年のように併走する者がチラホラテレビには映っていた。
もちろん、コースに躍り出て直接併走なんてことではない。
区切られた一般スペースのところを全力疾走で併走するだけ。
一部、旗とか掲げたり、カメラに向かってピースサインをしたりするけど、ほとんどは10~20秒で息切れして置いて行かれて終わり。
ある意味、マラソンの風物詩みたいなものだ。
『マラソン選手って速いわね』とお茶の間に印象付けるだけで終わり、たまに少し長く食い付いた一般人を見て、『頑張るわね~』と感想をこぼされる……ただ、それだけの事でしかなかった。
ちなみに、自転車で追いかける人も……まあ、こっちの場合はあまり長く追いかけると職員などに止められたりするらしいけど……で、だ。
この時の少年も、他の者たちと同じくそれで終わるはずだったし、少年自身もそうなると思っていた……思って、いたのだけど。
(──は、裸!?)
そうは、ならなかった。
どういうわけか、少年の目には……人の切れ間に見え隠れする秋山千賀子選手が、裸で走っているように見えたのだ。
最初は、見間違いかと思った。
こんな人の目がある場所を裸で走っているのに、気に止めた様子もなく、誰一人として止める様子を見せなかったからだ。
だから、少年もナニカと見間違えたのだろうと最初は思った。
実際、次に見た時はちゃんとスポーツウェアを着ていて……それでも、興味を引かれて、息苦しさを覚えても走る事を止めなかった。
(──や、やっぱり、裸だ!)
その結果、少年は再び目撃した。
生まれたままの姿で、全身を汗で湿らせながら、顔を真っ赤にして走る千賀子選手の姿を。
理屈は……分からない。
だが、今の一瞬で、少年は無意識に気付かされた。
どういうわけか、何かしらの偶然が重なった瞬間だけ、千賀子選手の衣服が消えて、己は裸を見る事ができる……ということに。
(わ、わ、わ、お、おっぱいだ! おっぱいが、あんなに……!!)
それを理解した瞬間、気付けば少年は……かつてないぐらいに真剣な眼差しで、千賀子選手を追いかけていた。
だって、弾んでいるのだ。
なにがって、πが。
それはもう、たぷん、たぷん、と弾んでいて、先端の淡く赤い乳首の色も、確認出来た。
息苦しさも忘れて、少年は目を皿にして千賀子選手を追いかける。吸い込む空気に、血の臭いが混じっているような感覚がした。
同じ人間とは、クラスメイトの女子とは比べ物にならない美貌の裸を前に、この時ばかりは本気も本気である。
しかも……視線を下げれば、おっぱいだけではない。
己の身体にはない、股の亀裂。
母親のですらまともに見た覚えはなく、教科書の簡潔な絵でしか見たことがない……女の証までもが、確認出来た。
(見えっ、見えっ、みえ、みえ、みえ──)
けれども、そちらはπとは違って一瞬で、見るのは難しい。
πの場合は横の線に並んでさえいればそのうち目撃出来るが、股の場合は追い越したうえで振り返り、そのタイミングで裸になる瞬間が重なる必要がある。
だからこそ、少年は本気である。
それはもう、何も知らない通行人が思わず二度見するぐらい、本気の全速力で──まあ、そんなわけだから。
「あっ!」
酸欠で足がもつれた少年は、ドテッと派手に転び……周りの人達より、『お、おい、大丈夫か?』と心配そうに声を掛けられる結果に終わったのであった。
(ま、○○こ、ちゃんと見たかった……)
ぜえぜえぜえ、と返事すらできず息を整えるしかない、少年の心残りをその場に残して。
……そして、それは少年だけではなかった。
それまでチリンチリンとのんびり追いかけていたお兄さんが、ギョッと、とあるタイミングで目を見開いて、自転車を止めたかと思ったら。
まるで人が変わったかのように力強くペダルをこぎ始めて走り始め……危ないのに、何度も何度もよそ見をして、挙句の果てに、タイヤが滑って転倒した者がいたり。
それまでパタパタと旗を振って見ていた人も、大きく目を見開いて──それから、しばし目を擦って……そのまま、幾度となく首を傾げた者がいたり。
あるいは、一瞬ばかり呆気に取られた後、慌てた様子で千賀子選手を止めようとした警察官が……一歩を足を踏み出した途端、目を瞬かせてから、また元の位置に戻ったり。
異変を体感したのは、1人ではなかった。
だが、誰もがそれを他人には伝えられなかった。
何故ならば、裸を目撃したのは一瞬だし、次の瞬間には元に戻っているからで、誰しもが見間違いかナニカだと思ったからだ。
実際、後の記録映像などに、その異変を残せたモノは一つとしてなかった。
あくまでも、個々人の肉眼のみ。当人の視界にのみ、その異常な現実を認識出来た。
そんなの、誰かに相談出来なくて当たり前である。
なにせ、大多数の者たちはそんな異常現象を体感していないわけで。
良くて下品な戯言、悪ければ性欲過多が起こした幻覚を見ていたと思われるだけだから、誰もが口を閉じるしかないのだった。
……で、だ。
そんな異常現象が起きているだなんて、いっぱいいっぱいになっている千賀子は気付けるわけもなく。
なんとか走り続けること、30kmほど。
この頃になると、もうすっかり先頭集団はおろか、最後尾集団からも離されていた。
遅いと一言で終わらせるのは簡単だが、実質素人枠(しかも、たいして練習していない)でしかないのに30kmも走っているだけ、十分すぎる話である。
とはいえ、時間の流れは平等である。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」
もはや歩いているって言われても不思議ではない速度になっていた千賀子が、給水スポットにて足を止め……ペタッと、座り込み、仰向けになった。
肉離れなどそういった怪我は一つもないけど、体力の限界である。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」
「──本体の私、かなり限界のようね」
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」
「……返事するのも無理、か。マッサージするから、ギブアップするなら、ギブアップしなさいな」
これまた先に控えていた分身(変装済み)が駆け寄り、手早く太ももやら背中やらを摩り、疲労回復に努める。
巫女的パワーのおかげで怪我だけはしていないが……このペースだと、ゴールする時は一般参加枠の中に混じったタイムになるのは、明白であった。
……。
……。
…………その時、それは偶然の出来事であった。
(──あ、おし、おしっ──だ、うっ!)
たまたま、仰向けになってマッサージを受けている千賀子選手の、目の前の位置に、その男の子はいた。
偶然、道路と補導を隔てる柵越しに、その光景を目にした……中学生の男の子は、ビクッと腰を震わせ、精通を迎えてしまったのだ。
それは、本当に予期せぬ偶然であった。
たまたま、その男の子は偶然が重なって、かなり遠い位置から千賀子の裸を目撃出来て、ずっとその裸を見る事ができていて。
たまたま、疲労のあまり制御が疎かになった千賀子の全身より立ち昇る……甘い体臭に腰が疼き、思わずまっすぐ立てなくなって。
たまたま、マッサージを受けている千賀子選手の足が持ち上げられ……男の子に向かって、大きく股を開いた形になってしまい、隠されていた秘部をハッキリと見てしまい。
たまたま、腰を引いたことで背後の人にぶつかってしまい、『ご、ごめんなさい』慌てて謝罪し背筋を伸ばし……そのせいで、ズボンの中で固くなったのが擦れてしまい。
あっ、と思った時にはもう、遅かった。
こみ上げてくる衝動を抑えきれず……男の子は、『も、漏らし……』腰砕けになりながらも、濡れてゆく下着の感触に顔色を悪くしながら、その場を後にしたのであった。
……しかしながら、事はそこで終わらなかった。
ポテ、ポテ、ポテ、と、力無い足の動き。
もはや、ノロノロっていう擬音がピッタリな速度で前を行く千賀子のもとに、一般参加枠の人達が追い付き始めたのだ。
テレビの向こうより見ていた者たちならともかく、現地で走っている人たちに、女子選手たちがどのあたりを走っているのかは分からない。
だから、千賀子を見た人たちは例外なく驚きに目を瞬かせ……次いで、心配そうに速度を落とし、1人、また1人、千賀子の後ろをゾロゾロと追走する人が増え始めた。
一般参加の人達が速度を落とすのも、致し方ないことだろう。
というのも、最初のスタートの時を除けば、一般参加枠の人達が選手集団を目撃することはまず無いからだ。
何故ならば、一般男性のフルマラソンのタイムは、おおよそ4~5時間で、初心者では6~7時間なんてのも普通なのに比べて。
女子プロのトップ層なら3時間以内には確実に完走し、そうでない者でも、遅くて3時間30分ぐらいでゴールしてしまうのだ。
時間にして、おおよそ1時間ぐらいの猶予が間にあるわけで。
本来ならば居ないはずの女子選手がまだ前を走っているのだから、一般参加者たちからすれば、追い越してよいものか迷ってもなんら不思議な話ではなかったのだ。
そして、それは……大会運営側からしても、判断の迷い所であった。
これが、アスリートとして参加していた選手であるならば、厳しい話だが途中棄権させるといった判断を下せるが……この場合、相手が相手だ。
専門のスタッフを自分で用意するぐらい意気込んでいるうえに、当人は走りきろうとしているのに、他の選手と同じ対応を取れるかと言えば……である。
もちろん、取ろうと思えば、取れる。
だが、誰がそんな貧乏くじを引くかが問題なのだ。
千賀子が用意したスタッフが止めようとしない以上、運営側としては……とりあえず静観するぐらいしか出来なかったのである。
……。
……。
…………その結果、何が起こったのかと言えば。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」
と、いった感じでヨタヨタと走る千賀子の後方より続く、一般参加枠の大渋滞……だけでは、なかった。
擬音にすれば、ぷりん、ぷりん、ぷりん。左右に振られる、お尻の動き。
必然的に、後ろから追いかける形になっている一般参加者たちは、目撃し、身を持って体感し続けていた。
汗でピッタリとウェアが張り付いた、千賀子の後姿を。
後ろからでも、角度によってはπの揺れが見えるだけではない。千賀子から流れてくる、なんとも表現し難い匂い。
そして、彼らもまた例外ではなく……ふとした偶然が重なり見てしまうのだ、千賀子の裸体という暴力のような色気を。
おまけに、彼らは走っている。
普段ならまだマシだが、制御が疎かになっている千賀子の身体から立ち昇る匂いは、普段よりもはるかに濃い。
そんな中で少しずつ、少しずつ、気付かぬうちに影響を受け続け……走る事で、大なり小なり擦れて、意識せずとも刺激が蓄積していたのだろう。
1人、また1人。
唐突にこみ上げてきた感覚に誰もが驚き、堪えることもできず腰を震わせ……足を止め、後方へと下がって行く。
そこに、年齢の区別はない。
さすがにまだだったり、枯れてしまっている者はともかく、既に肉体的には正常に大人になっている者に……射程距離外に逃げる以外の対処法はなく。
──結局、千賀子がゴールを果たした時のタイムは、約5時間50分ぐらいであった。
なお、さすがに時間が掛かり過ぎて道路使用関係の問題が生じるということなので、運営側よりアナウンスが入ったのは、これより30分後のことで。
辛うじて影響範囲外に居た後方の者たち(その中でも、千賀子の裸体を目撃しなかった者)が、続々と追い越してゆく中で。
不幸にも(もしくは、幸運?)、腰が少しばかり抜けてうまく走れなくなっている、一般参加枠の速い人達が居たが……まあ、そういうことであった。
……ちなみに、だ。
当人たち以外もそうだが、テレビを見ていた者たちは不思議なことに、誰もこの異変には気付くことはなかった。
そう、腰が引けて、明らかに変な走り方になっている者がそれなりに居たというのに。
誰も、その事に疑問を覚えていなかった。
いったい、どのような力が働いているのか……それは、誰にも分からないけれども。
『── ( = ^ ω ^ = ) ──』
ただ、一般人には認知できず、認知すると例外なく発狂するか、耐えきれず脳が破裂してしまう存在が。
『……惜しい、ヘロヘロな愛し子も可愛い、私の息も乱れそう、息していないけど』
そんな事をポツリと呟いていたが……まあ、気にするような話ではなかった。
※ なお、千賀子さんは後日「2度とこんな疲れる競技には出ない」と固く誓った模様