ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第212話: このレースに限り、競馬場内の空気がちょっと変わる

 

 

 

 意外と誤解されがちだが、1979年のこの頃でも、都市部と地方とでは大晦日の様子はかなり異なっていた。

 

 

 都市部の方ではまあ、ぶっちゃけると現代とそこまでの違いは無い。

 

 何故ならば、多少なり飾りつけをしたり餅を飾ったりはするけど、それなりの人数が借家暮らしだから。

 

 家族で住んでいるならともかく、借家で1人暮らしとかカップルで暮らしているとかだと、そんな事をする者は少なかった。

 

 もちろん、大家などが飾り立てたり指示を出したり、あるいは大晦日が近付いているから掃除をせねば……みたいな常識が、現代よりもはるかに根強かったので。

 

 多少なりいつもより念入りに掃除をやることはあっても、ドラマや漫画のように一家総出で何日も掛けて大掃除……なんてのは、もうこの頃には減少し始めていた。

 

 

 ちなみに。

 

 

 いわゆる『大晦日の大掃除』と呼ばれているやつは、大晦日に掃除をする……というのは間違いというか、後になって生まれた誤解だったりする。

 

 実際には、大晦日の時点で大掃除を完了しているのが正しく、この大掃除が始まるのは12月の半ばぐらいで、半月掛けて行うのが、本来の大掃除だったりする。

 

 まあ、この大掃除という恒例行事なのだが。

 

 この頃のドラマや漫画とかはだいたい持ち家が基本だし、制作している側も当たり前だが成人済みなので、イメージがどうしても当時より大なり小なり遡るわけで。

 

 学園ドラマとかが、それに近いかもしれない。

 

 いくら現在の学校に似せたとしても、それは又聞きのイメージであり、制作している側は多少なり自分たちの学生時代の光景が混ざるわけで……ちなみに、だ。

 

 地方ではけっこうアニメやドラマや漫画のような光景が広がっていたので、そこまで誇張とは……いや、誇張というよりは、イメージが付いてしまったせいだろう。

 

 おそらく、後に国民的アニメとして認知されるようになる『サザエさん』の影響……大多数が想像する昭和のイメージが大きいのではないだろうか。

 

 というのも、日本人なら一度は見た事があると思われる『サザエさん』だが、この作品の時代設定が何時頃なのかを考えた者は少ないと思う。

 

 原作では戦後の1946年(昭和20年代)から約30年間の間という設定で、連載初期は戦地での話や、傷痍軍人の話があったりもしたのだとか。

 

 しかし、アニメはかなり後の方で、平成や令和の人達が見ているのは、後半辺りの頃の時代設定での話。

 

 つまり、大半の人達が記憶している『サザエさん』は、1964年の東京オリンピックや1970年の大阪万博の頃の昭和な世界観なのである。

 

 同じ昭和とは言っても、10年変われば生活観もまたガラリと変わる。

 

 ましてや、昭和20年代と昭和50年代では、それこそ昭和と令和ぐらい生活が変わっているわけで……皆が思うより、けっこう暮らしは現代的になっていた。

 

 

 ……まあ、とはいえ、だ。

 

 

 先述のとおり、あくまでも都会での単身暮らしにそういうのが増えているだけであり、全体としてはまだまだ『年末は大掃除!』という意識でいるのは多く。

 

 特に、お店関係は、今も昔も……いや、むしろ、昔の方が色々と忙しなかったりする。

 

 理由はまあ色々あるけど、よくあるのが棚卸作業だろうか。

 

 現代のようにパソコンを使った管理アプリなんてモノはないから、全て手書きで手作業での確認。

 

 アプリを立ち上げてファイル読み込み……なんてサクサク進むわけがなく、時には書き殴ったかのような文字を解読するわけだ。

 

 在庫管理だって、全て手作業。

 

 まあ、これは現代も変わらないのだろうけど、そもそもが管理アプリなんて無いわけだから、どこかしらに間違いが出てくるわけで……だからこそ、大変なわけなのだけれども。

 

 

「──マスター、ココとココで数字の不一致を確認。そこのダンボール箱に該当の物が入れられていますので、確認致します」

「本当に、ロボ子が居てくれて毎年助かるよ……(涙がほろり……)」

 

 

 そんな時に大活躍するのが、ロボ子の存在であった。

 

 そう、昔に比べて寂れつつあるものの、まだ現役でやっている千賀子の実家である『秋山商店』では、他の店と同じく毎年棚卸作業をしているのだが。

 

 これがまあ、ロボ子の本領発揮というやつで、

 

 ロボットだからなのかは分からないが、ロボ子はとにかく作業が正確で、事故とは無縁の効率的作業……あと、とにかく数字に強い。

 

 特に、こういった計算関係では無類の強さを発揮し、それはもうサクサクと棚卸作業が進むわけで……父と母も、それはもう大助かりであった。

 

 

(……お母さんはまだ大丈夫だけど、お父さんはちょっと白髪が……かな?)

 

 

 そして、久しぶりに顔を見せたエマと、もうすぐ1歳になる春人と接して、楽しそうにしている両親を見て……千賀子は、時の流れを感じるのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………さて、そんな感じで年も暮れてゆく最中……そのレースは、『春木競馬場』にて開催される事となった。

 

 

 

『帰って来た千賀子だ~び~:3歳以上 ダート700(右) ポニー限定』、である。

 

 本賞金:1着4000万円/2着2000万円/3着1200万円/4着600万円/5着300万円/その他、出訴奨励金や出走手当・計800万円。

 

 

 

 このレースは、その名のとおりポニー限定である。

 

 サラブレッドではなく、ポニー……さて、お久しぶりな方も居ると思うので、軽くだがポニーとはナニカを説明しよう。

 

 ポニーとは、特別な品種を指すわけではなく、肩までの高さが147cm以下の馬の総称である。

 

 つまり、147cm以下であれば、どんな品種であろうとポニーに区分される。今回のレースは、そういうとても小柄な馬限定のレース、というわけだ。

 

 

 ──ざわざわ、ざわざわ、と。

 

 

 年の瀬が近付いている最中、気温もグッと寒くなる。

 

 けれども、さすがは世界でも有数の春木競馬場、何度か天皇陛下がお忍びで見学しに来た(存在しない記憶)だけの事はある。

 

 冬の寒波にも、負けず劣らずの熱気が満ちている。

 

 まあ、この春木競馬場では不思議なことに、寒いは寒いけど、競馬場の外よりも冬場は温かく、夏場は涼しいとかいう……で、だ。

 

 

 

 

 

 

 

『──師走の空とはよく言ったもの、まるではやし立てるかのように熱気が満ち満ちております。皆様、いかがお過ごしでしょうか。実況の──です』

 

『今日は、あの秋山オーナーによる二度目の開催となる、ポニー限定のレースの日』

 

『世界広しといえど、ポニー限定のレースはここだけではないでしょうか』

 

『全国より集まった、可愛らしいけれども立派な優駿たちが、今か今かと鼻息を荒くしているでしょう』

 

『さて、レースがスタートする前に、知らない人が多いと思われますので、ポニーとはナニカ……という説明をします』

 

『ポニーとは、特別な品種を指すわけではなく、肩までの高さが147cm以下の馬の総称です。147cm以下であれば、どんな品種であろうとポニーに区分されるのです』

 

『つまり、今日のレースは肩までの高さが147cm以下の、ポニーに区分される小さい馬に限定された競馬……というわけであります』

 

 

 そこで、実況が一瞬ばかり途切れる。

 

 それに合わせて、コースに姿を見せた小さな優駿たちと共に観客たちの歓声が響くのを確認してから、実況は再開される。

 

 

 

 

 

 ──1番:コンヤハパレード

 

『馬体重168kg。春木競馬場に出走させたいという馬主の夢を叶えた孝行馬。とても愛嬌のある性格で、笑っている人の下に駆け寄ってきます! 愛称は、ペロペロと舐めて甘えてくることから、ペロちゃん!!』

 

 

 ──2番:ワンポイント

 

『馬体重160kg。流星の貴公子に憧れる、優しくもやんちゃな子! 付いた異名は草原の子牛! 額に流星はありませんし、けして速くはありませんが、その愛らしさと図太さは貴公子にも負けないとか!』

 

 

 ──3番:バナナボーイ

 

『馬体重180kg。バナナが大好きで、馬体重を落とすのに苦労したのだとか。バナナを見付けると遠くから駆け付ける食いしん坊。頭が大きいのがチャーミング、とのこと!』

 

 

 ──4番:トウキョウボーイ

 

『馬体重170kg。実はバナナボーイの弟さん! 兄とは違ってバナナは好きではないようですが、馬主の息子さんが東京に就職して寂しくてしょんぼり、とのこと!』

 

 

 ──5番:タケシトモー

 

『馬体重171kg。野武士とも称された怪物タケシバオーのファンである馬主のタケシさんが名前を呼ぶと、モーと返事をすることから。調教師曰く、走るのは苦手な子、だそうです!』

 

 

 ──6番:ヤングエース

 

『馬体重185kg。走ることより食べるのが好き、厩務員の傍を離れようとしない甘え盛りなヤングホース。厩務員のお尻を鼻で押す遊びに夢中な追い込み脚質が勝利の鍵か!?』

 

 

 ──7番:メシハサンマ

 

『馬体重168kg。3200mは無理でも、320mぐらいは頑張ってくれる、後は気合と根性で、安全に走り抜けますとは調教師より! サンマを焼くと必ず寄ってくるそうです!』

 

 

 ──8番:スピードオシボリ

 

『馬体重174kg。乗馬クラブでは客からおしぼりで身体を拭かれるのが大好きとのことで、そういう時だけ素早いことからその名が付いた! 先日の追い切り脱走時には、厩務員が疲れて足を止めると立ち止まる憎いやつ、だそうです!!』

 

 

 ──9番:ケジメトリマス

 

『馬体重合計217kg。これは果たしてポニーなのか!? 賞金は一切もらわず、ゲスト出演とのこと! 近付くと接着剤の臭いやガムテープの剥がれる音がします! 3人の力を合わせて走りきります、だそうです!』

 

 

 

『──以上、8頭と3人が本日のレースへの出走となります!』

『お客様の誰もが幻の9頭目を見ておりますが、ご安心ください、ケジメトリマスへの馬券は買えませんので、ご容赦願います』

『はたして、誰が今年のだ~び~の座を手にするのか……出走の準備が整いました』

 

『……いま、スタートを切りました!』

 

『今年のだ~び~馬の称号は、いったいどの馬が手にするのでしょうか!?』

 

『まず、9番のケジメトリマスが出遅れ! あっといきなり転倒して、中身が零れ出ました! 慌ててガムテープを張り直しているぞ!』

 

『そして、どのポニーも小さな足を精一杯動かして前へと進む! 横一列、坂をのぼることは出来ませんので、カーブ無しでの直線勝負!!』

 

『残り500m──おっと、早くもスピードオシボリが後方へと下がってゆく! やはり、オシボリが無いと力が出ないか!?』

 

『しかし、騎手がオシボリを取り出して拭いている! これにはご満悦、スピードオシボリが息を吹き返す!!』

 

『あ~っと、タケシトモーの加速が鈍い! 走るのは苦手という前評判通り、目に見えて失速! これには騎手も安全を考慮してコース脇へ!』

 

『残り400mを前にして早くも1頭が脱落! 今年のだ~び~は波乱なままにレースが進んでいく!』

 

『ついに半分を切ったあたりで、続々とポニーたちの動きが鈍くなり始めた。だが、誰もが諦めていない! 世界記録ではなく、走り抜けることが大事なのです!』

 

『おっと、ゴールより前方にて馬主さんたちが集まって……バナナです! バナナボーイの馬主さんがバナナを掲げて応援しています!』

 

『これには会場に笑い声が響く!』

 

『しかし、ご安心ください! このレースに限り、妨害行為でさえなければ許されます!』

 

『バナナだ! バナナだ! 客からもバナナの声! これにはバナナボーイ、息を吹き返し前へ、前へ、前へ!』

 

『対して、メシハサンマ! さすがにサンマは焼けないので、焼いた後のサンマを掲げられています!』

 

『しかし、効果が薄い! やはり焼きたてでなければ駄目なのか、メシハサンマ、ついに脱落! ポテポテと後方からゆっくりゴールを目指すようです』

 

『残り200mを切って、ワンポイント失速! どうやら疲れたようで、騎手が前へ行けと指示を出していますが、足が完全に止まってしまったようです!』

 

『その隙を突いて、コンヤハパレードが先頭!』

 

『このまま逃げ切るか、コンヤハパレード!』

 

『トウキョウボーイとヤングエースはいっぱいいっぱいなのか、足が鈍い! 上がって来ているバナナボーイだが、これはもう御どかないか!?』

 

『コンヤハパレード! コンヤハパレードが独走! 今年の千賀子だ~び~の座は……1番のコンヤハパレードだ~!!!』

 

 

 実況の声が、競馬場内に響く。

 

 そんな中で、馬主席より見ていた千賀子は、とりあえずお客さんが楽しんでくれたらいいか……という、生暖かい視線で結果を見届けたのであった。

 

 

(……本当に怒っていないのだけど、まあ、これで治まってくれるなら、それでいいか)

 

 

 まあ、それはそれとして、必死になって走っている9番を見て、千賀子はちょっと反省するのであった。

 

 

 

 

 

 





※ 実際のレースで、こんなことをしてはいけません
間違いなく警察沙汰になります
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