ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第213話: スペシャルサンクス(UMAたち) ←なお、千賀子は知らない

 

 

 

 ──1980年(昭和55年)と言えば、何を思い浮かべるだろうか。

 

 

 

 おそらく、大半の人が「……何があったっけ?」と首を傾げると思う。というか、1980年に限らず、この辺りは何があったっけと思う人が大半だろう。

 

 それもまあ、無理はない。

 

 この頃にもなれば、戦後の混乱期は遠くに過ぎ去り、高度経済成長の熱気も冷め始め、良くも悪くも社会が安定し始めてきたからである。

 

 ただ、ここで誤解してはいけないことだが、安定とは言っても、あくまでも、それまでに比べたら……という程度の話。

 

 まず、少し時をさかのぼるが、この頃はまだ前年(1979年)の第二次オイルショックの影響が色濃く残っていて、人々の意識は省エネ志向に向かっていた。

 

 いわゆる、『低燃費・低価格』を人々が求めるようになり始めたわけである。

 

 

 もちろん、全員が全員そうだったわけではない。

 

 

 ただ、それまで使っていたマイカーを手放す人が増えたのは事実であり、それは千賀子の前世の世界でも同じであった。

 

 だが、千賀子が生きているこの世界では、少し違う。

 

 千賀子の協力によって前世界の時より混乱やショックは抑えられているおかげか、いくらかマシにはなっていた。

 

 また、不定期に開かれる千賀子主催の競馬場レースも、けして無視出来ないことである。

 

 

 と、いうのも、だ。

 

 

 この頃(1980年前後)のサラリーマンの平均年収は、幅が広いので断定は出来ないが、おおよそ300万円だとされている。

 

 そんな頃の有馬記念の優勝賞金が5500万円。

 

 つまり、この時点での一般サラリーマンの約18年分の賞金額となるわけだが……実際に、全てが懐に入るわけではない。

 

 なんでかって、税金である。

 

 さて、そこで、千賀子が開催した直近のレースの賞金額を比べてみよう。

 

 

 

『怒ってはいないけど、もう二度とフルマラソンに出ないぞ記念:3歳以上 ダート:4219.5m(右)』。

 

 本賞金:1着2億円/2着1億円/3着5000万円/4着2000万円/5着1000万円/その他、出訴奨励金や出走手当・計4195万円。

 

 

 

 そう、2億円である。

 

 この頃の一般サラリーマンの約66年分に相当する金額だ。

 

 しかも、ここに出走手当などが入るから、その合計金額は約67年分にもなる、莫大な賞金額である。

 

 2着ですら、合わせて約34年分。レースに出ただけでも、他のレースの掲示板入りを果たしたぐらいの賞金となる。

 

 レース出走関係者だけでも、それだけのお金が動くのだ……しかも、それだけではない。

 

 それだけ高額なレースともなれば、一目見ようと人々が押し寄せてくる。

 

 『春木競馬場』は世界でも有数の大規模競馬場にして、まるで昨日完成したばかりのように清潔で、また、様々な店がテナントという形で入っている。

 

 それまであった鉄火場のようなイメージとは異なり、家族連れや旅行代わりに子供を連れてくる親御さんは多く、中にはデートスポットの一つとして利用しているカップルもいる。

 

 それほどにもなれば、影響は競馬場だけではない。

 

 交通移動もそうだし、周辺の店もそう。

 

 人が動くということはお金が動くということであり、千賀子が特別レースを開催するたび、まるでお祭りが開かれたかのような経済効果を生む。

 

 そのうえ、千賀子が関わっている限り、そういった祭事には付き物な観光災害(この頃、そんな言葉は無いけど)とは無縁である。

 

 なにせ、いまだ拡大し続けている『春木競馬場』は、いつの間に建物が立ち並ぶ住宅街すらも因果を曲げて広げていたらしく。

 

 競馬場周辺にあった商店街の広さが、千賀子が知る広さよりも1.7倍近くにまで大きくなっていたのだ。

 

 もちろん、全て存在しない記憶で帳尻が合わせられた状態で。

 

 何がどうなっているのかサッパリ分からないが、どうやら近場の駅すらも『春木競馬場』の影響を受けていたらしく。

 

 これまた知らない間に駅全体が真新しくなっていて、専用のバスターミナルすら設けられ……なんか知らないうちに千賀子が出資した事になっていたのである。

 

 これを知った時、千賀子は震えて一時的に布団の中から出られなくなったのだが……まあ、それは置いといて。

 

 

 実は……そう、本当に恐ろしいのは、ここではなかったりする。

 

 

 千賀子も考え出すと怖くなって触れないようにしているので、ロボ子以外にはけして気付かれない話なのだが……恐ろしいのは、税金関係のところ。

 

 そう、実は千賀子開催のレースで得られた賞金などは、一切の例外なく非課税扱いになっているのである。

 

 

 ──そんなめちゃくちゃな話があるかと思うかもしれないが、事実なのだ。

 

 

 税務署すら一切の例外なく存在しないモノとして認識すら出来ていないし、存在しない記憶が生えてきて誰も疑問を覚えないのだから、仕方がない。

 

 

 

 つまり、まとめると。

 

 

 

 千賀子が特別レースを開くたび、本来ならば掛かる必要経費が、どういうわけか常識では説明できないぐらいに低いのに。

 

 得られる経済効果はとんでもなく、それこそ『アメリカン・ドリーム』とまではいかなくとも、これで人生を浮上させた者は多かった。

 

 しかも、レースの賞金には税金が掛からない。実質的には、中央レースを五つも六つも優勝したぐらいの賞金が入ってくるわけだ。

 

 たかが一地方、されど一地方。

 

 さすがにココだけで日本全体の景気を押し上げるのは無理でも、それでも『春木競馬場』には、『秋山千賀子オーナー』には、足を向けては寝られないと本気で思っている人が非常に多かった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 ………………まあ、しかし。

 

 

 他者からすれば、『神様、仏様、千賀子様』な扱いではあるけれども、当人からしたら、だ。

 

 『自分はそんな大それた者ではない、所詮は歴史に埋もれる1人に過ぎない……そう、今も、私など足元にもおよべない者が生まれているでしょう』

 

 そんな感覚なので、そこらへんの見解の不一致によって脳とか心とか焼かれて灰になっている者がいるかもしれない。

 

 まあ、千賀子は煽りとかそんなつもりは一切無く、『御労しや、○○……』と言っちゃう感じなアレなので……とりあえず、千賀子はそんな感覚であった。

 

 

 

 

 

 ──さて、話を戻して1980年だが、実はこの年、とある国民的アニメの大長編劇場版が公開された年でもある。

 

 

 その名を、『ドラえもん のび太の恐竜』である。

 

 これは当時から人気が高まっていた『ドラえもん』の第一作目となるアニメ映画であり、後にリメイクもされた、『ドラえもん』映画の金字塔とも言える作品である。

 

 この人気は凄まじく、後にゴールデングロス賞というやつを受賞したり、かの有名なスピルバーグ監督もこの映画を大絶賛し。

 

 これまた、かの有名な『E.T.』を生み出すキッカケにもなったというのだから、驚きである。

 

 ちなみに、その時のスピルバーグ監督は、ドラえもんではなく、同時上映されていた『モスラ対ゴジラ』が目当てだったのだと……ん? 

 

 

 同時上映とは……なにかって? 

 

 

 そうそう、その説明をしていなかった。

 

 現代では、一本の映画が終わればそのまま全席入れ替えの完全指定制が普通になっているが、この頃は2本あるいは3本の映画を抱き合わせて上映なんてのは珍しくはなかった。

 

 つまり、30分で終わる映画を三つ抱き合わせて、合計90分で一本の映画にしていた……というのが、当たり前のように行われていたのである。

 

 長いやつだと、朝に入って終わるのが昼過ぎ……合計3時間なんてのもあったのだから、驚きである。

 

 

 ……で、だ。

 

 

 なんでいきなりそんな話をしたのかといえば、それはエマを映画館に連れて行っているからである。

 

 いくらエマが利口でお姉ちゃんぶったところで、小学生である。甘え盛りというやつで、まだまだ愛情を求めて当たり前の時期だ。

 

 普段は春人の事で掛かりきりになりやすく、エマも我慢してくれているが……やはり、まだまだ手の掛かる子供というわけだ。

 

 

「──ママ、早くはやく!!」

「大丈夫よ、映画は逃げないから」

 

 

 だから、千賀子は意識的に、春人の世話を丸一日分身たち(主に4号)に預けて、エマと出かける日を作っている。

 

 その日ばかりは、エマはお姉ちゃんではない。

 

 秋山エマという1人の女の子であり、千賀子の娘であり、千賀子は家に帰ってもしばらくは春人の事を一切口には出さないようにしている。

 

 何故ならば、その日はエマだけのお母さんになるからで、千賀子はエマを第一に考えて動いているからだ。

 

 エマもその日ばかりは弟の春人の事は頭から追い出し、存分に甘えたおしていた頃と同じく、ママ、ママ、と無邪気に千賀子の腕を引っ張っていた。

 

 差別とか、そういう意図は無い。ただ、エマだって子供なのだから、そういう日を作ってやらねば不公平だと思ったからだ。

 

 

「ママ、サイダー買って、サイダー!」

「いいけど、途中でトイレに行きたくなるわよ、それでもいいの?」

「いいの!」

「それならいいけど、ガラス瓶だから落としちゃ駄目よ」

「うん!」

 

 

 満面の笑みを浮かべるエマに、千賀子もにっこりと笑みを浮かべる。

 

 店員より水滴が付いたサイダー瓶を受け取ったエマは、側のテーブルに置かれている栓抜きで……うんしょ、と可愛らしい掛け声と共に王冠を開けた。

 

 

 ……ペットボトルじゃないのかって? 

 

 

 この頃はまだ、ペットボトルと言えば一般的にはしょう油ボトルぐらいしか使われておらず、清涼飲料水の方に使用許可が下りるのはまだ後のこと。

 

 なので、缶に入っているか、紙コップか、あるいは瓶飲料か。

 

 そのどれかしかなく……瓶飲料の場合は、だいたい店側が栓抜きを用意してくれているので、客が必要なら自分で蓋を開けるのが一般的であった。

 

 なお、王冠とは蓋のことで、今でも瓶ビールなどで使われている栓の一種である。

 

 

「ママは、何にするの?」

「……そうね、ママはコーラにしましょうか」

 

 

 そう注文すれば、頬をほんのり赤らめた店員より冷えたコーラ瓶を手渡され……それをエマに渡せば、エマはむふふんとちょっと自信ありげに、パカンと栓抜きで王冠を外した。

 

 

「はい、外したよ!」

「ありがとう、エマは綺麗に外すのが上手ね」

「えへへ、そう?」

「そうよ。ねえ、エマ……余ったら、飲んでね」

「──っ! もう、しょうがないなあ!」

 

 

 ギュッと手を握られた千賀子は、エマがいきなり走り出さないよう気を付けつつ……内心にて気合を入れるので……ん? 

 

 

 なんで、気合を入れるのかって? 

 

 

 そんなの、これから最低でも3時間は映画の椅子に座りっぱなしになるからである。

 

 なにせ、今日見る映画はなんと3本同時上映。

 

『銅鑼と衛門と恐竜』と、『モスは見た、ラゴジラの秘法』と『妖怪お化け道中~鬼巫女よ、怒ることなかれ~』とかいう作品の三つである。

 

 千賀子としてはどれも子供向きで退屈だが、エマにとってはそうではない。まあ、当たり前の話だ。

 

 好きな事に集中しているエマは良いとして、千賀子からすれば、エマの付き添い……エマが喜んでくれるから良いけど、それはそれとして、3時間も座りっぱなしは堪える。

 

 なにせ、現代の映画館とは違って、この頃の映画館の椅子はそこまで柔らかくはないし、長時間座れるように設計されているわけでもない。

 

 2,3時間も座ればお尻は痛くなるし、腰はバキバキになるし、肩だって……でも、仕方がない。

 

 何故ならば、エマが喜んでいるから。

 

 これもまた、母親の務めだぞ……と、覚悟を固めた千賀子は……それを、おくびにも出すことなく、エマに手を引かれるのであった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………ちなみに、だ。

 

 

 一つ目の、なんか妙に極道っぽいというか、未来からやってきたそんなキャラがポケットから銃や短刀を取り出しては『しょうがねえぜよ、坊はよぉ』って物騒なことを言い出すのが、妙に面白く。

 

 二つ目の、モスもラゴジラも最初に名前が出ただけで全然話に絡んでこないけど冒険スベクタクルな内容にけっこう興味を引かれ、気付けばエマと同じぐらい真剣な目で見ていて。

 

 三つ目の、なんかどこかで見た事あるというか聞いた事あるような設定の巫女が、悪さした妖怪たちを懲らしめたり、神様から無理難題を言われて災難に見回り……な作品に。

 

 

(……よく見たら、最後のやつ……土師田さんが監督をしているじゃん。あの人、こんな作品も作っていたのか……)

 

 

 意外と、子供向けも侮れないなあ……と、興奮冷めやらぬといった様子のエマを見やりながら、そう思ったのであった。

 

 

「──お母さん、ご飯食べたらもう一回見よう!」

「え?」

「だって、さっきは途中でトイレに行ったから……見ていないところ、ちゃんと見よう!」

「……そうね」

 

 

 そして、これは下手したら一日コースになるかも……と、千賀子は色々と改めて覚悟をしたのであった。

 

 

 

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