ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
1980年の6月、それはつまり、エマが小学4年生になり、春人もまた1歳6ヶ月ぐらいの年齢を迎えたということ。
子供の変化というのはどの年齢でもすごいモノで、エマもそうだったが、春人の成長具合はまさしく日進月歩というほかなかった。
おぼつかないながらも1人で立ち上がって歩いたり、千賀子やエマの言葉を真似したり、テレビの言葉を真似したり、色々な言葉を話し始めたり……そうそう。
いきなり話が変わるけど、実は1980年というのは、空前の漫才ブームが起こった年でもあったりする。
現代に表すと、いわゆる漫才界の大御所が一躍時の人になった年であり、その名を聞けば、大半の者が『あ、あの人か』と思いだすような……ちなみに、だ。
現代人には、にわかに想像しにくいかもしれないが、実はこの頃の漫才というのは、現代とは違った側面があったりする。
それがナニカって、ずばり、この頃の漫才というのは、若者言葉の発信源でもあったのだ。
誇張とかではなく、この頃の漫才師たちの人気を支えたのは、ご年配の人たちではなく、若者たち。
そう、この頃の漫才とは、言葉の革命でもあったのだ。
そんな年代に会わせた様々なフレーズは、自然と若者たちにウケて、日常会話に混ぜて使うのが当たり前になっていて……子供たちの間にも、それは大流行していた。
……もちろん、さすがに人前でしゃべっては駄目なやつは、千賀子がこっそり矯正していたが……話を戻そう。
離乳食も進み、その事に千賀子は、エマの見ていないところで咽び泣いていたりしていたけど、少しばかり柔らかくした固形物を食べられるようになり。
大病を患うこともなければ病院直行のような大怪我をすることもなく、すくすくと春人は大きくなっていた。
また、それは春人だけではなく、エマも同じであった。
小学4年生……個人差はあるが、おおよそ10歳頃というのは、女の子にとって成長曲線が活発になり始める時期でもある。
いわゆる、女の子の方が早く身体が成長する、というやつで。
男子の場合は女子より遅れて2年ぐらいとされており、それは昭和のこの頃でもそこまで時期は変わらず、エマもまた例外ではなかった。
具体的には、去年の服が明らかに入らなくなってきていた。
ハーフであるエマは、純粋な日本人に比べて骨格が少しばかり太いようで、去年の同じ時期に買った服は軒並み着られなくなっていた。
まあこれは、エマの好みの服装が身体にフィットするタイプだから、余計にそうなのだけど……で、だ。
服が入らないということは、当然ながら下着も入らない。下着が入らないということは、靴だって窮屈になるわけだ。
お金に余裕が無いなら我慢してもらうしかないが、幸いにも千賀子には余裕があった。
必要なモノは全て買い揃えられるうえに、衣服は『アイテム』から……いや、それは成長期に着せるモノではないので除外するが、とにかく、衣服はすぐに用意出来た。
……しかし、金はある千賀子でも、どうにもできない事があった。
「……ママ、足が痛い」
「我慢だよ、エマ。こればかりはお薬でも治せないから……」
それは、成長痛、である。
女子の場合は男子よりもいくらか早い時期から起こりやすいと言われているが、あくまでも傾向である。
痛みの強さ事態には男女差は無いとされており、全ての子供がなるわけではなく、おおよそ全体の1~2割ぐらいとされている。
ちなみに、原因は明確にあるわけではなく、主に夜間時に起こるとされている。
子供の筋肉は未熟でありながら、関節が大人よりも柔軟なこともあり、日中の疲労が夜間に痛みとして現れる……という説や。
当人すら意識出来ていないストレスによって発症する場合や、ビタミン&ミネラルその他諸々、栄養素の偏りも関係しているとされている……が、なんにせよ。
「お布団に入っていればそのうち眠たくなるから、それまで我慢するのよ」
「うん、お休み、ママ……明日、ちゃんと来てくれるの?」
「ちゃんと行きます。だから、早く寝なさい」
外傷でも内傷でもないうえに、何かしらの疾患というわけでもない。
なんでもかんでも千賀子の巫女的パワーを使って治療なんてしていたら、エマ自身の身体にはよくない。
痛そうに顔をしかめているのを見て何かをしてやりたくなるが、それは親として、我慢して見守るしかないことであった。
……。
……。
…………さて、そんな感じで、だ。
布団に入ったエマが寝息を立て始め、春人もスヤスヤ特注のベビーベッド(ロボ子製)でおねむな頃……久しぶりとなる、自分会議が開かれようとしていた。
その名も、『千賀子会議』である。
内容はいたってシンプル、千賀子(本体)と千賀子(分身)が一堂に集まり、特定の議題に対して意見交換を行うというもので……今回集まったのは、他でもない。
『エマの授業参観について』
で、ある。
本当は色々と議題があるわけだが、千賀子にとってそれらは二の次、明日に控えているのは、エマの授業参観の日。
既に何度も授業参観には行っていて、毎回こうやって千賀子会議が開かれているのだが……今回は、何時もと少しばかり様子が違っていた。
「ロボ子号での送迎は……今回は見送りましょう」
「──えっ!?」
「いや、なんでそこまで驚くのよ、ロボ子。前回も前々回も目立ちまくって仕方がなかったじゃないの」
「し、しかし……」
「エマからも違う車がいいって話が出ているんだから、今回は違う車にするわよ」
それは、これまで学校送迎で使用していたロボ子号に対する、事実上の戦力外通告であった。
いったい、どうしてか?
答えは、先ほどの千賀子の発言のとおり、目立つからだ。
それはもう、目立って目立って目立ちまくりで、あんまりにも注目が集まってしまうせいでエマが恥ずかしがったからだ。
どうしてそこまで……理由はまあ、改めて語るわけもないことだが……ロボ子号の見た目が、高級車(スーパーカー)であるからだ。
いくら高級車だからって……おそらく、現代人の感覚からしたらそう思うかもしれないが、少し立ち止まって考えてほしい。
千賀子の前世でもそうだったが、この頃(1980年)の日本は、第二次オイルショックの影響下にあった。
今生の世界では、千賀子の尽力によって前世よりもさらに影響を抑えられているとはいえ、まったく無いわけではない。
実際、この世界でも前世と同じく、低燃費低価格を売りにした商品が販売されたり開発されたりしているわけで。
金食いマシンである高級車は、高燃費高価格。
そのうえ、現代とは違って、この頃はインターネットなんて無いわけだから、高級車を見ようと思ったら、お金を出して専門誌を買うか、テレビでたまたま報道されるか、それぐらいしかない。
そんな中で、見ようと思っても見られるものではないスーパーカーが姿を見せてみろ。
大人でも野次馬となってジロジロ見るのに、制御の利かない子供たちの場にそんなの見せたら、下手しなくても人だかりで大変である。
文字通り、昨今の風潮の真逆を行くわけだから、そりゃあもう目立って当たり前であった。
「……で、その違う車だけど……私、車に関して特にこだわりとかないから、誰か良いやつ出してよ」
とまあ、そんな流れで、千賀子は候補となる車の名前を出すようにと分身たちに提案した……わけなのだが、ここで千賀子はミスを犯していた。
それは……本体である千賀子が興味を持てないモノに対して、分身たちが興味を持つわけがないのである。
けっこう誤解している人がいると思うが、『同期』をしなくなったことで分身たちにも個性がチラホラ現れてはいるものの、根本の部分は本体である千賀子である。
つまり、基本的には千賀子が好きなモノ興味があるモノに対しては同様に視線を向け、そうではないモノに対しては欠片の視線も向けないわけだ。
千賀子にとって、車とは移動するための道具であり、それ以上でもそれ以下でもない。それは、分身たちとて同じ事。
壊れたらそりゃあ嫌な思いはするが、いつか壊れるモノだからと諦められる……その程度の意識しかなかった。
「……無難に、今のところの売れ筋にしましょうか」
だから、結局は車関係だから……ということで、思考を切り替えたロボ子が……どこからともなく取り出したカタログ雑誌を広げ、千賀子たちに見せるのであった。
……ちなみに、だ。
「マスター、とりあえずどのメーカーにしますか?」
そうやって、ロボ子は様々な車を示した。
それらは、あくまでも千賀子の前世だと。
たとえば、濃い水色が華やかなニッサンスカイライン。
たとえば、二年前に販売された三菱初のFF車ミラージュ。
たとえば、去年販売された低価格車のスズキアルト。
たとえば、最新車のマツダファミリア(5代目)。
たとえば、中々イカスよとロボ子一押しのトヨタ2000GT(改造済み)、といった名前で、今生の世界では少し名前が違ったけど。
見る人が見れば『同じやないかい!』とか思わずツッコミを入れそうな……とにかく、色々とロボ子は候補を上げてくれたわけだけども。
「ん~、なんでもいいよ、4人乗れるなら」
「では、トヨタ2000GTで……」
「それ、どう見ても高級車じゃないの……」
結局、ロボ子の熱意は欠片も届くことはなく、ズラッと並べたカタログや写真は一べつされただけで、スパッと決められたのであった。
ああ、悲しや、情熱の空回り。
たとえば、各メイカーのエンジンの駆動音を聞き比べて『いい……うん、いいね、これ……』と、ロボ子が力強く頷く場面でも。
『……え、うるさい』
千賀子からしたら、ブンブンうるせえなって感覚でしかなく……タイヤがどうとかオイルがどうとかマフラーがどうとか、ロボ子の熱意はどこまでも空回りするしかないのだった。
……。
……。
…………さて、それは、それとして。
とりあえず、『愛し子カワイイもうどこから褒めたら良いのか分からないうう涙が出そうああ出ちゃったカワイイ愛し子カワイイぺろぺろしたい会社』を通して、だ。
既に組立済みのやつが有れば速やかに購入して用意はするが、さすがに明日の午前中(すなわち、登校時間)に合わせるのは難しい。
なので、ロボ子号に乗るのが嫌ならば、ワープで移動するか、タクシーやバスなどを使って移動するしかない……と、ロボ子は話を続けた。
一からロボ子が本物そっくりに作るのは簡単だが、それはまあ、盗作というか、あまりよろしくない……ということなので。
本当にどうしようもない時はともかく、金で解決出来るならそうしましょうってことで、千賀子はふむと顎に手を当てて考えた。
……楽なのは、タクシーやワープである。
しかし、ワープを使う時は一目を避けなければならないし、授業参観日のように人が集まって来ている場所でのソレはまあ、あまり使いたくない。
ならばタクシーだが……しかし、ここで千賀子は考えた。
(……せっかくだし、エマにもバスを使わせて体験させてみようかしら?)
いつか、エマも1人でバスを使う時が来るだろう。
そうならなくとも、バスの利用の仕方というやつを、実際に体験させて覚えさせた方が良いかもしれない。
知識というのは役に立たないことはあっても、有って損をすることはほとんどない。
些細なことだが、些細なことが身を助ける時があることを、身をもって知っている千賀子は……一つ頷いて、明日の予定を決めるので──っと。
『──愛し子よ、もうすぐお正月ですね』
そんな時であった。
襖をスーッと開いて、女神様がのっそり全身の手をうごめかせて室内に入って来たのは。
「え? あの、女神様、正月はもう半年前に……」
対して、発言の内容というか、女神様の勘違いに、千賀子は思わず目を瞬かせ──。
『──ゆく年くる年、お年玉ガチャ開催ですよ(=^ω^=)』
──そこで、(あ、これは聞くだけ無駄だな)と、色々と諦めたのであった。