ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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※ 女神ガチャ要素あり、注意要


第216話: 歩きたばことか日常的な光景

 

『新春お正月ガチャ』

 

 

 そう書かれた、なにやら後光が差している看板の下に出現した、ルーレット盤。

 

 それ自体は、そこまで珍しいモノではない。むしろ、これまでのモノに比べて、外見はシンプルであった。

 

 

 だが、そこで油断をしてはならない。

 

 

 今さら語るようなことではないが、このガチャルーレットの恐ろしさは、ルーレットそのものよりも、その中身。

 

 どのような当たりがラインナップされているのか……それに尽きる。だって、このルーレットには実質ハズレが無いからだ。

 

 一見、ハズレが無い方が良いじゃんと思われるかもしれないが……勘違いをしてはいけない。

 

 その『当たり』が、人の身に足りる程度のモノであるならば、千賀子とてここまで恐れたりはしない。

 

 幼少期は肉体が未成熟であるがゆえに(もしかしたら、後輩女神が抑えていたのかも……)、手加減されていたっぽいが、今は違う。

 

 肉体的に成熟している愛し子に対して、女神様は遠慮などしない。

 

 むしろ、それでもまだ無制限に恩恵を与え続けるわけではなく、『ガチャ』という制約を間に挟んでくれているだけ、マシと思うべきだろう。

 

 

 まあ、それはそれとして。

 

 

 通常のルーレットであるならば、まだハズレが出る余地はある。

 

 しかし、今回のような特別なガチャ……特に、『お正月ガチャ』のように、1年に一回だけとか、そういう時にだけ行われるガチャというのは、まずハズレが無い。

 

 女神様が愛し子を甘やかす(おそらく、プレゼントのつもり)意味もあって、ほぼ100%の確率でSSR以上が当たるのである。

 

 そのうえ、それが1回限りとは限らない。

 

 女神様の事だから、おそらく複数回は強制的にSSR以上確定ガチャになっているはず。

 

 せめて、巫女的パワーで抑えられる程度ならばまだ、大丈夫……ではある。

 

 問題は、因果や時間や空間に作用するような恩恵になると、千賀子の巫女的パワーでもどうにもならない場合が多いのだ。

 

 たとえば、『愛し子カワイイもうどこから褒めたら良いのか分からないうう涙が出そうああ出ちゃったカワイイ愛し子カワイイぺろぺろしたい会社』が、まさしくソレである。

 

 あれは何ともまあ、ふざけ素晴らしい会社名ではあるけれども、その中身は因果の改変を引き起こす、とんでもない代物である。

 

 アレほどになると、もはや千賀子でもどこをどう抑えれば良いのかさっぱり分からない……ゆえに、だ。

 

 とにかく、そういったレベルの当たりさえ引かなければ、ひとまずはヨシ……そんな覚悟を持って、千賀子はダーツを構え……投げた。

 

 

「ナムサン!!」

 

 

 既に、気持ちが負けかけているが、この場において誰もツッコミを入れることはなく──ダーツは、ポスンと呆気なく的に当たった。

 

 

 

『女神R:忘れられぬ思い出の楔(New)』

 

 要約:様々な形で、特殊な空間を生み出します。生み出した空間内では、誰もが幸せになるのです。もちろん、私はちゃんと愛し子の気持ちを理解しております、けしてお互いを傷付ける結果にはなりません(by 女神)

 

 

 

 その瞬間、千賀子はゾクゾクっと背筋を走る怖気に、思わず腰が抜けかけた。

 

 

(め、女神R……だと!?)

 

 

 なんと、おぞましい言葉なのか。

 

 ここまでド直球に恐ろしい言葉があるだろうか……千賀子は、それを知らない。

 

 しかし、知らないけれども分かることがある。

 

 それは、この『女神R: 忘れられぬ思い出の楔』が、間違っても千賀子にとって喜ばしい類の恩恵ではない、ということ。

 

 そして、この恩恵は、千賀子の巫女的パワーでもどうにもならない類であり、おそらくは完全に制御することはできない……ということ。

 

 

 なんとなくだが、手応えというか、感覚的に察せられる。

 

 あっ、コレ、無理だ……というやつ。

 

 

 直感的に、コレは千賀子の意思に関係なく発動するというか、発動させないよう抑えることができない類の、改変系の恩恵であるということを千賀子は察した。

 

 せめてもの情けなのか、少なくとも巻き込まれる誰かを傷付ける結果にはならないのが確定しているっぽいが……いや、そこに己を含めてくれよと千賀子は率直に思った。

 

 

 ……要約では、千賀子も傷付ける結果にはならないって書いてあるって? 

 

 

 甘い、甘いよ。

 

 女神様の判断基準は人のソレじゃないから。

 

 それこそ、痛みに呻いているのを見て、痛みを快楽に感じるようにしましょうって心からの善意でそうするのが女神様なのだ。

 

 それを、幾度も身を持って経験した千賀子が言うのだ……間違っても、女神様に人間基準での善性を期待しては──っと、その時であった。

 

 

『──おや、ルーレット盤の様子が……???』

「え?」

『──ま、まさかコレは……』

「え? え? え?」

 

 

 なんか、女神様が急に変なナレーションを始めた。

 

 その事に千賀子は非常に嫌な予感を覚え……しかし、そんな千賀子を他所に、ルーレット盤はグニグニと形を変え……なんか女神様がカウントしつつ……そして、0のコールと共に、ルーレット盤は姿を変えた。

 

 具体的には、なんか派手派手しい感じになった。

 

 いや、まあ、派手になったとはいえ、所詮はルーレット盤なので、せいぜい飾り付けが増えて大きくなったか……という程度だが。

 

 

『──ルーレットットット!! 我が名はキングルーレット! この世で一番可愛くて可愛らしい愛し子のために、参上してやったのだ!』

「なにやっているんですか、女神様?」

 

 

 それよりも、なんか女神様が変なアテレコというか、腹話術みたいな事をし始めて……不覚にも、ちょっと可愛いことし始めたぞと思った千賀子だけど。

 

 

『──可愛くて可愛いけど可愛い愛し子のために、もう一度ルーレットを投げさせてやろう!』

「いや、けっこうです」

『──特別だ、投げると自動的に分裂して10発になるようにしてやろう……ルーレットットット、投げるがよい!!』

「聞いて、女神様?」

 

 

 可愛いと思ってしまった直前の己を殴り飛ばして現実を改変したいと千賀子は本気で思った。

 

 でもまあ、そんなことが出来るわけもなく。

 

 心底嫌そうに顔をしかめながらも、千賀子は震える指先に力を入れて……この後倒れてもよいつもりで、渾身の巫女的パワーを込めて──少しでもマシになれと願いながらダーツを放った。

 

 ……その結果。

 

 

 

『女神SSR:忘れられぬ思い出の楔はいつまでも(New)』

 

 要約:様々な形で、特殊かつ快適な空間を生み出します。女神SSRになったことで、愛し子の分身を送ることが可能になりました。空間内では常に愛し子の身体を最良の状態にします。生み出した空間内では、誰もが幸せになるのです。もちろん、私はちゃんと愛し子の気持ちを理解しております、けしてお互いを傷付ける結果にはなりません(by 女神)

 

 

 

 10本の内、9本。

 

 どうやら、先ほど当てた恩恵を強化する類の当たりだったようで、ひとまず、『女神R』が10個も得てしまう……なんてことにはならなかった。

 

 

 

『女神R: 振り返れば、あの頃に(New)』

 

 要約:愛し子が望んだ年齢時の姿になります。ただし、あくまでも現在のステータスを保持した状態になりますので、そのまま若返ったり歳を取ったりするわけではありません。(『女神R: 忘れられぬ思い出の楔』を発動しますと、自動的にコンボ技となります by 女神)

 

 

 

 けれども、その残り一つが、『女神R』を引き当ててしまった。

 

 しかも、どうやら既に当てた『女神R』とは相関関係にある能力のようで、これも結果的には自動的に発動する類のアレなようだ。

 

 というか、コンボ技って……女神様って、なんかそういう変なところは素早く学習するよなって。

 

 そんなの学習する前に、もっとこう……他に学習するところ、あるんじゃないかなって思うのは、千賀子だけなのか。

 

 まあ、それにしても、恐ろしきは『お正月ガチャ』というやつか。

 

 さすがに女神様もコレで満足したのか、ルーレット盤が元の姿に戻る。ルーレット盤が戻るってなんだよって思ったのは、はたして千賀子だけか。

 

 とにかく、いそいそとソレを仕舞い込む……のを眺めながら、千賀子は……無言のままに、分身たちへと視線を向ける。

 

 

(『女神SSR:忘れられぬ思い出の楔はいつまでも』とやらが発動したら、あんたら誰か身代わりになってね)

 

 

 言っていることは滅茶苦茶というか、千賀子の代わりに犠牲になれという話である。

 

 ものすごく酷い事を言っているようにも思えるだろうが、こればかりは、仕方がない部分はある。

 

 なにせ、千賀子自身にも、実際に体感しないと分からない類の恩恵である。

 

 逃げ出すだけなら可能か、それとも条件を満たさなければ駄目なパターンか、下手したら死ぬまでそこに閉じ込められるのか。

 

 三つ目の可能性は低いだろうけど、おそらく二つ目の可能性が高い……そんな状況だからこそ、そうするしかないわけだ。

 

 不幸中の幸いという言い方はなんだけど、分身たちが命を落としたところで、分身たちは別に肉体的な痛みがあるわけでもなく、死に対する感覚も特に無い。

 

 分身たちは、ちゃんと自分たちが分身であることを理解しているからで……なので、分身たちは特に気にしていなかった。

 

 

(はあ……なんともまあ分身使いの荒いやつ……まあ、こういう時に分身を使わないとだものね、本体の私に何かあれば、私ら全員がダメージを受けるわけだし)

 

(4号は仕方がないとして、私と2号が身体を張らんと……とはいえ、最悪の場合、コレ専用の分身を新たに作ることも考えないとダメかもね)

 

 

 むしろ、それが正しい選択だと言わんばかりに了解し……ひとまず、最低限の警戒はしばらくしておくかと心の片隅に留めつつ。

 

 そこで、ふと……改めて、千賀子は思った。

 

 

(……正月って、今じゃないよね? 女神様の中では、6月が正月なのか……?)

 

 

 それは、今更なツッコミであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そうして、翌日。

 

 

 いつもなら千賀子だけだとワープなどを使うが、今回はバスを使うということで、カモフラージュ用の東京の家より歩いてバス停へ。

 

 普段は途中まで千賀子(時々、ロボ子)が付き添い、集団登校の集合場所まで送るのだが、今回はあえてバスを使う。

 

 東京の家は、立地の問題から少々学校まで距離があるのだ。

 

 エマも、そろそろ色々な事を自分でやってみたいと思う時期……バス利用一つとっても、経験させておこうと思ったわけだ。

 

 

「エマ、バスの中では静かになさい」

「は~い」

 

 

 何時もとは違うルートを通るだけでなく、始めてバスに乗ることもあって、エマのテンションはちょい高め。

 

 子供なんてのは、そんなものだ。

 

 嫌な事と思っているならばともかく、そうでないのなら、未知に触れてテンションが上がらない子供なんてのは稀である。

 

 まあ、それとは別に、だ。

 

 さすがに授業参観の時間には早すぎるので、学校へと着いたら、一旦千賀子は時間が来るまで暇を潰すつもりだが……で、だ。

 

 

 ……現代では考えられない光景かもしれないが、この頃(1980年)の停留所には、当たり前のように灰皿が設置されている。

 

 

 なんでかって、この頃の喫煙率はおおよそ80%であり、女性でも2割弱が喫煙していた時代だ……現代とは明らかに人々の煙草に対する認識が違っていたからだ。

 

 停留所は当然のこと、駅のホームでは灰皿設置が当たり前なぐらいに多く、お店などでも禁煙席が無い……なんてのも、けして少なくはなくて。

 

 そんなわけだから、朝だろうが子供が傍に居ようが、プカプカ煙草を吸い始める人はけっこう多かった。

 

 そう、エマがタバコの臭いで嫌そうにしても、千賀子は断腸の思いで、これぐらい我慢する事を覚えなければ……と見守るのである。

 

 これは意地悪でも何でもなく、この頃はまだその程度の我慢すら出来ない者なんぞ、どこに行っても相手にされない……という認識があったから、千賀子はそうしているわけで。

 

 

 ちなみに、だ。

 

 

 さすがに市の路線バス内や短距離間の電車内では、この頃にはもう禁煙が常識になっていたが、中距離路線以上の路線や観光バスなどでは灰皿が設置されていて喫煙OKなのも多かったりする。

 

 

「バスの料金は、降りる時に支払うのよ。お釣りは出ないから、バスに乗る時はちゃんと小銭を用意するようにね」

「は~い」

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そうして、だ。

 

 

 ひとまず、エマに関してはトラブルに遭うこともなく無事にバスでの移動を終えて、一安心。

 

 それから、必ず授業参観に行くと約束し、学校にてエマを見送った千賀子は、だ。

 

 さて……と気を取り直し、近くの喫茶店へと向かい……ミルクセーキを一口飲んで、ふうっと肩の力を抜いた千賀子は。

 

 

(……ええっと、2号? そっちの様子はどう?)

 

 

 テレパシーにて、現実世界に戻ってきた2号の様子を確認する。

 

 どうしてかって、それはバスに乗っている時に、なんか『女神SSR:忘れられぬ思い出の楔はいつまでも』が発動するっぽい気配を感じ取って、2号を身代りにしたからだ。

 

 その特殊な空間に引っ張られる際、周囲は一切知覚できず、時間も止まっているようなので、人ひとりが消えたのが目撃されて大騒ぎ……なんてことにはならないのは、せめてもの優しさなのか。

 

 たぶん、そこまで深く考えていないんだろうなあ……と。

 

 千賀子は上空より己を見つめている女神様の気配に頬をひきつらせながら、溜め息をこぼしたのであった……ちなみに、だ。

 

 さすがに寝ている時とか、千賀子自身が何かしらの怪我や病気などで動けない時には発動しないっぽいようで、そこだけはまあ安心である。

 

 言い換えたら、それ以外の時はヤバいということだが……で、だ。

 

 

(……2号? どうしたの? もしかして、動けなくなっているとか?)

(……ああ、ごめんなさい、本体の私。ちょっと、急いでシャワーを浴びないとならないことになったから、返事をするのが遅れたわ)

(シャワー? え、何があったの?)

(う~ん、そうね……簡潔に、この能力がどのようなモノだたのかをまとめると──)

 

 

 なんだろう、嫌な予感がする……そんな思いで再び問い掛ける千賀子だが。

 

 

(──要は、○○しないと出られない空間ってやつね)

(は? まるまるしないと? なにその怪しい伏字は……)

 

 

 なんだろう、不穏な言葉が飛び出したぞ……嫌な予感が的中しそうな気配に、千賀子は。

 

 

(ぶっちゃけると、あっは~ん❤なことをしないと出られない空間よ)

(     )

 

 

 言葉を、無くした。

 

 

(幸いにも向こうは嫌がっていなかったけど、まさか、始めてを貰う日が来ようとは、さすがの私も思わなかったわ)

(たまたまバスに居合わせていた……年若いのが巻き込まれたっぽくてね……どう頑張っても条件を満たさない限り出られそうになかったから……まあ、そんな感じ)

(    )

(とりあえず、今回は私が身代わりになったけど……今後の事を考えたら、本当にこの能力対策のために分身を3,4体は常駐させておいた方が良いかもしれないわね)

(   あ、うん)

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………反射的にコップを割らなかった自制心がまだ、千賀子にはあった。

 

 

「……女神と名が付くだけあって、なんて恐ろしい効果なんだ……!!!!」

 

 

 しかし、誰にも聞かれないよう声をひそめながらも、思わずそうツッコミを入れるしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






『──これで、終わりと思いましたか?』

『──安心してください』

『──皆さまにも、愛し子の可愛らしさを存分に知ってもらえるように……幸せを、おすそ分けしましょう』

『──お正月、ですのでね、フフフ……』
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