ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第219話: それもまた経験なり(by 千賀子)

 

 

 

 1980年代の北海道というのは、二回目となるオイルショックの影響から素早く立ち直ろうとしている本州とは裏腹に、斜陽期に入ろうとしていた時期でもある。

 

 もちろん、全体がそうだったわけではない。

 

 ただ、北海道経済を支えていた産業の一つである、炭鉱事業が目に見えて衰退の一途を辿り始めた時期ではあった。

 

 原因は、ひとえに世界規模の、石油産業の飛躍的な推進であり、石炭産業の衰退はかねてより予測されていた。

 

 石炭よりも膨大なエネルギーを取り出すことが可能で、石炭に比べて様々な使い道があった石油産業の影響はすさまじく。

 

 実は1970年代に入った当初から、北海道に限らず日本において、石炭は過去のエネルギーになろうとしていた。

 

 特に、1973年の第一次オイルショックによって多少なり需要が増えはしたが、それでも閉山する炭鉱は後を絶たず、全体としては焼け石に水。

 

 また、かねてより設備の老朽化などが問題視されると同時に、石炭発掘の危険性もまた指摘され続けていて。

 

 実際、毎年のように死者が出るぐらいの危険な作業だった。

 

 そもそもからして設備を石油使用に変えてしまっていたところも多く、石炭の排出量を増やしても、それを運用できる機械がもう無いというところも多かった。

 

 なにせ、石油の使い勝手が良いからだ。

 

 当然、使い勝手が良くなるまでに必要となる設備やらインフラやらの用意が大前提での話だが、それさえ用意出来て、運用できる人員が居たならば、どう足掻いても石炭に勝ち目などなかった。

 

 で、少し話が逸れたので戻すが、とにかく北海道の炭鉱である。

 

 前述したとおり、日本のエネルギー需要が石炭→石油へと移行し続けていたこともあって、規模が縮小されたり、閉山したりといった対応が取られ続けていた。

 

 それは、昨日今日で決まるような話ではない。

 

 おのずと〇〇炭鉱が閉山したとか、〇〇会社で大規模な作業員リストラとか、縮小を予感させるような話が幾度となく入ってくる。

 

 それは石炭産業に関わっていない者たちとて例外ではなく、だれそれから聞いたとか、噂が流れてきたとか、そんな感じで話が広がっていくわけで。

 

 

「え? 夕張新炭鉱が閉山?」

「ええ、そうなんですよ」

 

 

 せっかくだからと、北海道にある千賀子の牧場にて余生を送っているハイセイコーに挨拶しに行った千賀子は、そんな話を厩務員から雑談がてら聞いたのであった。

 

 

「わぁ、すご~い! たか~い!!」

「お嬢さん、ハイセイコーは大人しい方ですけど、あんまりはしゃいじゃ駄目ですよ」

 

 

 その傍で、エマを乗せたハイセイコーがゆるやかに歩いている……厩務員も、オーナーの娘なだけあって畏まった対応をしている。

 

 なお、春人はお留守番、4号と自宅に居る。

 

 せめて春人が6歳7歳になっていたならば連れて来たけど、さすがに、まだ遠出したところで覚えていられる年齢ではない。

 

 慣れぬ環境に晒されて無駄に怖がったり疲れたりが関の山だし、それならば、分身である4号が帰宅まで面倒を見ていた方が良いと千賀子は判断したのだ。

 

 で、話を戻すが、北海道とはいっても、夏場はまあまあ暑い。

 

 さすがに茹るような暑さってのは言い過ぎだけど、それでも時間帯によっては半袖でも十分な暖かさであった。

 

 まあ、それでも本州よりマシというのは断言できるけど……そんな中で、はしゃいでいるエマの笑顔を眺めていた千賀子は……ふむ、と考える。

 

 考える内容は、先ほどの炭鉱閉山の噂に関して。

 

 別に、閉山したからといって、千賀子の生活に少しばかり影響が出るかもしれないが、そこまでダイレクトに影響が出ることはない。

 

 悲しいかな、日本全体としての規模として考えたら、遅かれ早かれの事。

 

 炭鉱の存在によって経済が回っていた周辺はともかく、全体としたら、大きなニュースの一つとして取り上げられるだけで、それで終わり……みたいな話でしかなかった。

 

 

(……恐怖の大王、発生するかな?)

 

 

 けれども、千賀子だけは、そうも言っていられない事情があった。

 

 そう、『恐怖の大王』である。

 

 前回に関しては『悪女千賀子』のおかげで、未然に防がれた……アレを防いだと評するかは分かれるところだが、とにかく、防ぐことはできた。

 

 しかし、本当の意味で問題が解決したかと言えば、そういうわけではなく……結局のところ、人が存在する限り、『恐怖の大王』は生まれるのだ。

 

 これまで現れなかったのは、そうなる前にバンバン人が死んでいたからで。

 

 医療技術が発達し、科学技術が発達し、人口爆発が起こった時点で、避けては通れぬ存在になった……というわけである。

 

 

 まあ、それでも、だ。

 

 

 巫女的パワーによる破壊ではなく、受け入れるという形で昇華させたことで、『恐怖の大王』を形成するエネルギーははるかに少なくなったのは事実。

 

 そのうえ、千賀子の協力もあって第二次オイルショックの影響も抑えられたこともあって。

 

 こんな事を言うのはなんだけど、炭鉱一つ閉山したぐらいの影響なら、放置してもまず間違いなく『恐怖の大王』は出現しないだろうなあ……と、思ったわけである。

 

 実際、巫女的なシックスセンスによる予感では、『今回は、私が何かしなくても……』といった感じに思えるあたり……まあ、うん。

 

 

(さすがにエマも春人も居るわけだし、そう何時までも他所に目を向けていられないよ……)

 

 

 少々、判断に迷う。

 

 最近になって考えるようになったのだが、何時までも何時までも己が出張って影響を軽減させ続けるのも、そのうち限界が来るだろうということ。

 

 でも、放置したところで状況が改善することはないし、結局のところ、『恐怖の大王』が誕生した時点で、無関係な立場ではいられないわけで。

 

 

(う~ん……また、ばんえい競馬の主催でもやってみるかな?)

 

 

 エマが居るのに、なんか仕事の事ばかり考えて嫌だなあ……と、千賀子はちょっと憂鬱になったのであった。

 

 

 

 

 

 ──さて、仕事関係の話は一旦横に置いて、千賀子の土地の話である。

 

 

 一時期、千賀子は日本全国の土地を買いあさっていたが、今は買っていない……というわけではない。

 

 表に出ていないだけで、今もタイミングさえ合えば、ロボ子を通じて土地の購入はしている。

 

 ただ、そういった土地は本当に使い道がなさすぎるうえに、途中から『愛し子カワイイもうどこから褒めたら良いのか分からないうう涙が出そうああ出ちゃったカワイイ愛し子カワイイぺろぺろしたい会社』を通しているから、あえて千賀子の方からは触れていないだけである。

 

 千賀子自身に使用目的はなくても、ロボ子が所有している装置とか設備とかを隠しておけるし、一部のUMAとかの隠れ里として機能してくれたら……という思いからである。

 

 

 ……けっこう忘れている人が多いと思われるが、千賀子は『(ヌシ)』である。

 

 

 法的にしろ、事実上にしろ、だ。

 

 千賀子が所有した時点で、その山の主は千賀子となり、主として、千賀子はその山の事が手に取るように分かるようになる。

 

 つまり、辺鄙な場所過ぎて重機はおろか自動車すら入るのに一苦労な土地(実質、山のこと)で、まともに調査が行われていなくても、千賀子はその内情を瞬時に把握することができる、ということ。

 

 たとえば、これから千賀子が向かおうとしている山だが、一般的には採れるのが山菜ぐらいで、地元民も何があるのか知らないって場所でも。

 

 山の主である千賀子からすると、〇〇地点に少量ばかり××が埋まっているな、とか、△△地点に温泉が湧き出ているな……とか、現地に居なくても分かるわけだ。

 

 また、『主』という権能は、所有している土地や山が増えれば増えるほど、千賀子の神秘的なパワーを補強してくれるという副次的な効果もある。

 

 いざという時の保険もあって、千賀子は今も所有している土地を増やしていたりするわけで……話を戻そう。

 

 さすがに距離があるし、遠出をするということを肌で体感してほしいこともあって、ワープを使わずちゃんとホテルの部屋を取る。

 

 そのうえで、これから入るのが自分所有の山だとしても、地元の猟師を3名、案内&護衛として雇うことも忘れない。

 

 

 当初、エマは不満そうにしていた。

 

 そりゃあ、そうだ。

 

 

 エマが想像していたのは探検で、これではハイキングとか遠足とか、そういう内容になってしまう……それは千賀子も分かっていた。

 

 でも、予定を立てている最中……ふと、思ったわけだ。

 

 

 この際だから、山に入るということの危険性をちゃんと経験させた方が良いかも、と。

 

 

 その結果、半ばだまし討ちみたいな形にはなったけど、この点に関しては千賀子も一歩も引かなかった。

 

 理由は、山は人間にとってけして安全な場所ではなく、獣の世界に足を踏み入れるということを、ちゃんと理解してほしいからだ。

 

 そりゃあ、『主』である千賀子なら、どこに何があるのかが手に取るように察知できるし、クマやイノシシや蛇も千賀子の気配に怯えて自ら距離を取ってくれる。

 

 

 しかし、エマはそうではない。

 

 

 頭ではわかっていても、何事も無かったという経験は必ず油断と慢心を招く。

 

 特に、エマはこれまで陰から千賀子が守っていたこともあって、そういったどうにもならない危険に対する認識が薄い傾向にある。

 

 だから、謝ったところで何一つ事態が好転しないどころか、そのまま命を落としてしまう……という、本当にどうにもならない危険がこの世界にはあるということを、エマは知らない。

 

 もちろん、まだ子供だから知らないのは当然だけど、だからといって、知らないことが自然であるなんてのは間違いなわけで。

 

 これに関しては千賀子にも問題はあるけど、それはまあ、わざわざ危険な目にあってほしくないという親心なわけだから……で、だ。

 

 

「……いやあ、聡明なお子さんですね。うちのせがれよりもよほど聞き分けが良い、うらやましい限りです」

「ふふふ、お上手ですね」

 

 

 一つ一つ、事前の約束事を復唱させていた千賀子は、今回雇った猟師のその言葉に、微笑んで返答した。

 

 

「それにしても、雇われた俺らが言うのはなんですけど、こんな辺鄙なところまでわざわざ子供を連れて来て、昆虫採集でもするので?」

「昆虫、ですか?」

 

 

 想像すらしていなかった言葉が出てきて、千賀子は首を傾げた。

 

 

「おや? 学校によっては違うんですかね? 夏休みの自由研究といったら、昆虫観察とか昆虫標本が多いって小耳に挟みましたけど」

「え? そうなんですか?」

 

 

 思わず千賀子がエマを見やれば、「クラスの男子が採集セットを使って標本を作っていたよ」そんな事を言われた。

 

 

「今どきはカブトムシとか、昆虫も買う時代ってテレビで見ましたけど、実際のところはどうなんですかね?」

 

 

 尋ねられて、千賀子は首を傾げた。

 

 

「ど、どうだろう……あ、いや、でも、カブトムシとかクワガタを売っているのは前に見かけたような……」

「えぇ、虫を買う人がいるの?」

「う~ん、東京だとカブトムシなんてまず見かけないから、ほしかったら遠出するか、買うしかないかしら?」

「私は嫌だな、わざわざ虫なんて買いたくない」

「ママも同じ気持ちだよ」

 

 

 嫌そうに顔をしかめるエマに、千賀子も素直に賛同した。

 

 

 ……そう、実は、だ。

 

 

 現代人(若い方)にはにわかに信じがたい話かもしれないが、この頃までは、まだ『昆虫採集セット』という道具が市販されていた。

 

 その内容はいたって単純、採集した昆虫を標本にするための道具一式である。

 

 これは現代で言う学習教材の一種であり、この頃はまだギリギリ買うことができた商品……だったらしい。

 

 

 ……なんで売られなくなったのかって? 

 

 

 それは、昆虫採集セットに入っている道具そのものに問題があった。

 

 具体的には、注射器。

 

 この注射器、子供用ではない。

 

 ちゃんと医療用としても使えるモノだった。

 

 そのうえ、値段の高い採集セットにもなると、なんと解剖用のメス(当然、切れ味は良い)まで入っていたというのだ。

 

 そして、中に入っている標本制作用の殺虫液と防腐剤だが、ともに猛毒で、人体に入れば危険である。

 

 つまり、子供がちょっと使い方を誤れば、容易に体内に毒液を注入してしまえるような……そんな状況を生み出してしまう一式になっていたのだ。

 

 これがまあ、時が進むにつれて、とても問題になった。

 

 やろうと思えば小学生でも人を殺すことが可能な道具がおもちゃの一種として販売されているというのが、PTAなどでもやり玉に挙げられた。

 

 その結果、60年代、70年代は普通に買えた『昆虫採集セット』は、80年代に入った辺りで少しずつ店から姿を消していくのであった。

 

 他にも、メーカーによって入っている薬液成分もバラバラで、粗悪品の場合はただ着色しただけの水溶液なんてものもあったりしたのだとか。

 

 そして、ちょうど昆虫採集セットが大ブームになっていた時期に子供だった千賀子だが。

 

 

(わ、私の時はどうだったかな……虫なんて欠片も興味なかったから、覚えていないわね……)

 

 

 ごらんの通り、虫に対する興味なんて皆無であり、標本を見ても興味も嫌悪感も覚えないタイプだったせいで、何も覚えていなかった。

 

 

 ……ちなみに、だ。

 

 

 千賀子はまったく覚えていないのだが、千賀子が小学生の時にも昆虫標本を夏休みの自由研究として持ってきていた男子が居た。

 

 道子は大の虫嫌いで近寄ることすら嫌がっていて、明美の方はといえば、虫は潰すモノという意識なので話題にすらまったくあげなかったので。

 

 それにつられる形で、千賀子も特に記憶に残らず……なお、これは千賀子が知らない事なのだが。

 

 実は当時、昆虫標本を作った男子は、千賀子の気を引こうともしていたのだが……まあ、その願いは欠片も届かなかったのだけれども。

 

 

「私たちは昆虫採集とかではなく、エマの自然体験……みたいなものかしら。ほら、昔より東京ってすっかり建物だらけになりましてね」

「ははは、そうですな。東京は周りが全部建物だらけですからな、周り全部が自然なんてのは、遠出しないと見られんでしょうな」

「それでしたら、せっかくです。焚き火のやり方とか、アウトドア……って名前でしたっけ? そういうのも、体験してみますか?」

「それがいい。せっかくだ、なにか思い出になるような事をやってみましょうや」

 

 

 とりあえず、この場の猟師たちは理解してくれたようで……連れてきて良かったなあ、と千賀子は思った。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………それから、数時間後。

 

 

「本当に、ごめんなさいね」

「いえいえ、仕方ないですよ。そりゃあ、ご飯も食べたら眠くもなりますわな」

 

 

 猟師の一人が、疲れて歩けなくなってエマを背負うことになり。

 

 その後のホテルで、話を聞いたエマは猟師にお礼の電話を入れつつも、恥ずかしがって千賀子に文句を言う場面があったのだけれども。

 

 

「疲れて寝てしまうのが悪い」

 

 

 キッパリと、〆るところは〆るのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………一方、その頃。

 

 

『……なんということだ。我が艦隊は、ついにあの下等生物たちを突破できず、撤退を余儀なくされたというのか』

『総統……ご決断を』

『なぜだ、なぜやつらを殺せぬ……どうして、負傷させたそばから傷をいやしていくのだ』

『総統……このままでは、帰還もままならなくなります、ご決断を!!』

『……全速転進!! 全艦隊、帰還せよ!!』

『了解! 全艦に告ぐ! 全艦隊、帰還せよ!! 全速転進し、速やかに帰還せよ!! 繰り返す、全艦隊──』

 

 

 太陽系の端っこにて繰り広げられていた、地球の命運を賭けた戦いは。

 

 

 ──おちん〇〇ランド開演の儀を執り行う!! 

 

 いくら傷を負ったところで、互いを信頼して肩を組合い、セルフ開演の儀を疑似的に行うことで無限回復を行うダイカッパの持久力と。

 

 

 ──見えるわ、見える。プールではしゃぐ女子たちのきらめきが……!!! 

 

 地球へと残した分身花子たちより伝わってくる、無限エネルギーにも等しい少女たちの戯れる光景によって、無限の耐久力を得たビッグ花子の前に。

 

 

 星系にその名を轟かせている侵略者たちは……撤退を余儀なくされていたのであった。

 

 

 

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