ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
──意外に思う者がいるかもしれないが、千賀子は基本的には脳筋と揶揄されるタイプの、とりあえず困ったらごり押しするタイプの人間である。
と、同時に、これまた意外に思う者がいるやもしれないが、千賀子は基本的に頭が良くないのだ。
それは、知能指数が低いとか、そういう事とは少し違う。
いわゆる、教科書の問題は解けるけど、それを実際にやってみせ……という段階になると、『ナムサン!』の言葉と共に、エイヤっとやっちゃうタイプの人間である。
有り体に言えば、カーっと熱くなると天井までガチャを回しちゃう、重課金を通り越した廃課金タイプの人間である。
また、毎回ではないが、時々は後先考えず動いちゃうし、ダメだと分かっていても手を出してしまう時がある。
今よりも後世に生を受けていたら、推しのアイドルに億単位の課金を行っちゃうような、そんなダメダメな女……それが、秋山千賀子なのである。
当然という言い方はなんだが、そんな人間だから、酒が入るとヤベー状態になるのは自然の成り行きでもあった。
不幸なのは、その時の千賀子は、記憶を完全に飛ばしてしまうということ。
そう、千賀子はかなりの酒好きでありながら、平均よりかなり酒に弱く、さりとて二日酔いにはならない。
けれども、絡み酒に甘え酒であり、酒乱の傾向がありながらも暴力的な行動を取るわけではない。
そんな、あまりにも取り扱いに困る酔い方をするのが、秋山千賀子という女なのである。
あと、酔っている時は脱ぎ癖も出たりするのだが、止めよう、今はそういう話をしている時ではないのだから。
最低限、千賀子は無意識に巫女的ガードを常時発動させているので、最悪の最悪な展開にはならないのが救いと言えば、救いか。
それでも、仮に酔っている時の記憶があったなら、三日は布団から出られないような事ではあった。
──そして、今日、この夜、三日は布団から出られない暴挙に出る女が、ビアガーデンに現れたのであった。
……。
……。
…………某月某日、とある都市のビルの一室にて
『あ~、ありましたね、あの頃は色々と』
その時に行われた取材対談の中で、白髪の爺さんは昔を思い出したのか、懐かしそうに己の白い髪を撫でた。
『今の若い人には想像もつかないけど……そうだね、僕たちのような爺さん婆さんぐらいなら、よく知っていると思うんだけど』
『あの頃って、今みたいに規制とか全然厳しくなくて、なんでもかんでもなぁなぁでやれちゃっていたわけ』
『海とか行くとさ、木陰とかで若い男女が水着に着替えてとかもあってさ、もちろん、全部が全部そうってわけじゃないけど、今よりもずっと大らかだったのよ』
『テレビとかでもさ、今ならちょっと派手な水着で出演しただけでクレームとかなんでしょ?』
『あの頃は、そんな水着なんかで文句言うやつが頭おかしいって風潮でさ……深夜番組とかだと、普通におっぱい丸出しになっても、笑い話にしちゃう……そんな空気だったんだよね』
『そうそう、若い人なのに、よく知っているね』
『だから、昔のバラエティドラマとか、権利の問題もあるけど、今では過激すぎるってクレームが来るから再放送出来ないって……え?』
『ノーパン喫茶?』
『あ~、ありました、ありましたよ、ノーパン喫茶。貴方もよく知っていました……あ、名前だけで詳しくは知らない?』
『そうだよね、アレって一時期増えはしたけど、元々風営法のギリギリを突いていたっていうか、あの時代だからこそやれたっていうか……どういうのだったかって?』
『そうだねえ……とりあえず、貴方も知っているとは思うけど、女性店員がね、パンツを履かないで接客するんだよ』
『もちろん、店員はスカート。床がピカピカでね、本当に鏡を敷いていたり、ピカピカに磨いたアルミ板を敷いたりとか』
『それも床全面じゃなくて、通路だけとか、テーブルの傍だけとか……まあ、店によって違ったね』
『僕も何回か通ったけど、これがまあ意外とはっきりとは見えないんだよね』
『うまく店員が立ち止まってくれたら良いんだけど、店員さんもけっこう接客で動き回るから、ノーパンだなってのが分かるぐらいで』
『……そうそう、だから注文するわけ』
『なにかと注文して自分のテーブルまで来てもらうんだよ。注文している間は、店員もさすがに足を止めるからね、その間に、目を凝らしてジ~ッと見るんだよ』
『……ん? ああ、お触りは禁止だったよ。あと、店にもよるけど、全員がノーパンじゃなかったってのもあったなあ』
『給料はその分だけ低くなるけど、そういう子ほど顔が可愛かったから……まあ、良し悪し人それぞれってやつ?』
『もちろん、当時でも色々言われてはいたけど、そんなのいちいち口出してくるやつなんて暇人扱いだったから……』
『──そういえば、あの頃はノーパン喫茶以外にも、ビアガーデンとかでも、そんな感じの催しがチラホラあったなあ』
『あ、これは知らない?』
『そうなんだよ、あの頃ってビアガーデンとかでも、そういうちょっとエッチな催し物とかもあったんだよね』
『いやあ、懐かしいなあ……言っておくけど、全部が全部そうじゃなかったよ』
『バンドチームを呼んで演奏とか、漫才師を呼んでとか、あくまでも、そういうのをやっていたところもあったって話だから、勘違いしちゃダメだよ』
『……で、そうそう、ビアガーデンなんだけど、当時あったのは、ローションを使った女子レスリング? プロレス? まあ、そういうやつ』
『もちろん、本気じゃないよ。あ、中にはけっこう本気でやっているところもあったよ』
『でもまあ、あくまでも、お色気だからね。多少なり練習はしているけど、本命は若い女の子だから』
『他には……ああ、そうだ、一度だけ、いまだに忘れられないやつがあった』
『なにかって……ボクシングだよ』
『そう、ボクシング。若い女の子が上半身裸でやるボクシング』
『こっちは、もっとお遊びな感じだったかな?』
『今でも女子ボクシングってマイナーでしょ? その頃はもっとマイナーでさ……女子がやるボクシングって、エクササイズとか、そういう……それでさあ』
『僕はまあ、その時たまたまそのビアガーデンに居たわけよ』
『別に、そこが行きつけだったとか、そういうのじゃない。本当にたまたま、今日はここで飲もうかって感じで立ち寄って、たまたま今日の催しはトップレスボクシング~ってのを知ってね』
『正直、最初はあまり期待していなかったんだよね』
『せいぜい、可愛い子が出てくれたらいいなって……その日は暑かったし、冷たいビールが飲めたらいいやって』
『それがまあ、見るとけっこう良いもんだったんだよ』
『顔はまあちょっと可愛いぐらいだけど、若い女子がおっぱい丸出しでボクシングしているのが新鮮で……言ってしまえば、それだけだけどね』
『でもまあ、こんなもんかなって思って見ていたんだよ……その人が出てくるまでは』
『──誰かって?』
『そりゃあ、あんた、言えないよ』
『こればかりは、その時にその場にいた人たちの特権だよ。それに、間違っても口には出来ないよ、老い先短い爺だけど、晩節を汚したくはないもの』
『……まあ、それでも一つだけ言えるなら』
『あんな綺麗でエロい身体、一国の大統領だってそうそう見られるものじゃないってのは確かだよ』
……。
……。
…………某月某日、日も暮れた頃、一軒の古びた飲み屋にて。
『──あん? 昭和の頃の話を取材しているって?』
『そんなのアタシに聞いてどうするんだい? 90歳も過ぎた婆に聞いたって、つまらない昔話しか出てこないよ』
『そりゃあ、そうさ』
『今どきは、ほら……パソコンとか、スマホとか、そういうので探せばいいだろ、アタシよりよっぽど物知りさ』
『……そういうのじゃダメ?』
『よく分からないけど、あんたも物好きだね……まあ、いいよ、アタシが覚えていることぐらいなら教えてやるさね』
『わざわざそれを聞くために、半年も前からうちの店に通っていたんだろう? そこまでされちゃあ、暇つぶしがてらぐらいなら教えてやるのが客商売ってもんさ』
『でもまあ、いざ話せって言われてもねえ……バブルの頃の事とかが良いかい?』
『……バブルの前? バブルの時期は目立っていているけど、その前のことは……はあ、なるほど、わかったよ』
『話ばかりすると喉が渇くだろう、何を飲むさね……ハイボールかい? 最近、人気みたいだね。ちょっと前は低アルコールだとかそういうのが人気だったんだけどね』
『……さて、バブルの前ねぇ……どういうのが知りたいんだい?』
『はあ、ちょっとしたこと? 何気ない話が聞きたい……う~ん、そういうのが一番困るってんだよ、この子は……』
『でもまあ、そうだねぇ……バブルの前の頃といやあ、けっこう色々あったんだよ』
『そうさね、選挙が始まってすぐに、議員の一人がバタっと倒れちゃってね、そりゃあニュースになったんだよ』
『他にはね、炭鉱だね……これもね、けっこう大きな炭鉱が閉鎖になってね……おまえさん、炭鉱が一つ閉鎖になるってことがどういうことか、分かるかい?』
『今で言えば、大きな工場が丸ごと一つ閉鎖したようなものさ』
『辛い話だよ、そこが閉鎖されたから、そこの町一つがそのまま寂れちゃったっていうんだからさ……もう死んでいるアタシの友達も、それで仕事無くなっちゃって、出稼ぎさ』
『でもさ、仕事って言ったって、そんなすぐに見つかるもんじゃないんだよ』
『そりゃあ、昔は多かったよ、今に比べたらずっと仕事は多かった。でも、女の身でやれる仕事って、そう多くはなかったんだよ』
『差別とかじゃないよ、単純にそういう仕事は力仕事が多くてね……その子は線が細かったこともあって、そういう仕事に就けなかったんだ』
『だから、その子は結局すすきので働いてね……最初はちゃんとした店で働いていたらしいけど、すぐに安い店に回されてね……ちょんの間で、しばらく……ん?』
『ちょんの間だよ、知らないのかい?』
『男と女の、大人の店さ。でも、あんまり良いもんじゃないよ』
『畳3畳4畳ってくらいの狭い部屋に、1回30分ぐらいでハイおしまい。ちょっと入って出すだけだから、ちょんの間さ』
『その子は頭が悪かったけど、とっても愛嬌があって、優しい子でね。あんまり客が取れなかったらしいけど、ポツポツと常連が居たらしいよ』
『──でも、歳がいってそこでも働けなくなって……その頃、アタシもようやくこっちで店を持てるぐらいまで金が貯まったから、一緒にやろうって……あ』
『そうだ、思い出したよ。その頃かね、まだその子と連絡を取る前、働いていた店で、すごいのを見たんだよ』
『そう、アレだよ、アレ、夏の暑い時期に外でビルの屋上とかで店がさあ……そう、ビアガーデンってやつ』
『アタシ、その頃はそこで雇われていてね』
『あんたも知っているだろう? 料理ができたからね、若者ばっかりの店だったけど、評判良かったんだよ』
『……そうそう、今のは知らないけど、あの頃のそういう店って、とにかく派手だったんだよ』
『若い女の子が短いスカート履いて接客してさ、店員が屈んだりするとパンツが見えて、客の男がわざとらしく物を落としてさ……懐かしいねえ、あの頃は』
『……それで、その日はねえ……女の子がボクシングをやるって出し物をしていたんだよ』
『そう、ボクシング。それもねえ、普通のボクシングじゃないんだよ』
『若い女の子がおっぱい丸出しでボクシングをしていたんだ……いやあ、そんなたいそうなもんじゃないよ、ただのお遊びみたいなものさ』
『今の子はプライドばかり高くてね。たいして身持ちが固いわけでもないのに、やれ胸を触られた、やれパンツ見られた、そんなので何時までもグチグチと……ん、あ、そうそう、いろんな子がいたよ』
『評判が良かった子は、やっぱり可愛い子だね。それと同じぐらい良かったのは、おっぱいが大きい子だよ』
『……いやあ、違う違う』
『お遊びって言ったって、客商売さね。ただ若いだけのボンクラを雇って白けさせるなんてマネはしないよ、けっこう高値で雇っていたんだよ』
『特に人気の子だと、一晩でアタシの1ヵ月分の給料が出たってぐらいだから……そうだよ、それ目当てで来ている女もいたんだよ』
『でも、どうやって雇われたかは知らないんだ』
『聞くのはご法度みたいになっていたしね、そういう子たちも、貰うモノ貰ったらさっさと居なくなっちゃうし……そう、そうそう、それでね、アレは80年だったかな』
『いつものように裏方で料理していたらね、何時もとは違うすごい声が聞こえたんだよ』
『あんまりにも普段と違うから、アタシは何か事故でも起こったかって、慌てて表に出てね……そこでまあ、思わずアタシもため息漏らしちゃったよ』
『──いや、もうすごかったよ。本当に綺麗な人って、頭の先から足先まで違うんだろうねえ』
『相手の子も、可愛かったんだよ』
『話はほとんどしないけど、賄いぐらいは作るからね、その時に顔も見ているし、掃除とかしている時に着替え中を見たりするから……可愛かったんだよ』
『でも、その人が出てきちゃったせいで──もう、引き立て役さ』
『ありゃあ、相手が悪すぎたんだよ。あの人じゃなければ、その夏は売れっ子やれたぐらいだったのに』
『その子さ、おっぱい大きかったんだよ』
『でもね、あの人の方が大きくて、そのうえ形も良くて、張りまで良くてさ』
『その子さ、肌も綺麗だったんだよ』
『でもね、あの人の方がずっと綺麗で、足も長くて、腰も細くて、一目で別格だって感じでねえ』
『顔にいたっては、もう勝ち目なんてまったくなかったよ』
『もう、何から何まで、違い過ぎてさあ……アタシも色々な女を見てきたし、色々な女の裸を見てきたけど』
『後にも先にも、あんなに綺麗な身体を見たのは一度きりだよ……』
……。
……。
…………某月某日、とある喫茶店にて。
『──あの人のグラビアを撮りたいって?』
『あなたねえ……なんでそれを俺に言うんですか? 本人に聞けば良いじゃないですか』
『え? 本人に聞いても断られるからって……そんなの当たり前ですよ、あの人、別にそういう売り方をしたいわけじゃないですから』
『だいたい、どこに需要があると思っているんですか、あの人、もう還暦過ぎているんですよ』
『還暦過ぎている人のグラビアとか、マニアック過ぎて……え、どう見ても30代にしか見えないって?』
『それはソレ、これはコレ』
『そりゃあ、俺もあの人おかしいって思いますよ』
『なんで還暦過ぎているのに下手なグラビアアイドルより色気あるんですかってね』
『あの人だけライト当てなくても年齢不相応にしか見られないって、考えるだけ無駄なんですよ』
『……俺がカメラマンを目指した理由って?』
『こらまた、露骨に話を逸らしたね……まあいいよ。この話、けっこう他でもしているし、隠すようなことでもないしな』
『俺ね、カメラマンやる前はサラリーマンやってたの』
『別に、嫌じゃなかったんだ。性に合っているっていうか、苦じゃなかったし、俺ってこんなもんだなって納得してたんだ』
『カメラはまあ、趣味って感じ?』
『本当にその頃は本気じゃなくて、たまたまめぐり合わせて良いやつが手に入ったから、風景とか動物とか、そういうのを趣味に撮っていたってやつでね』
『憧れないわけじゃなかったけど、わざわざ職を捨ててまで目指そうとかまでは思っていなかったんだよね』
『……でもね、そんな俺だけど、運命っていうか、人生のスイッチが切り替わる瞬間ってのがあったんだよ』
『アレは忘れもしない、1980年の夏……蒸し暑くて、ビアガーデンに俺は同僚たちと居たんだ』
『あんた、知っている?』
『その時さ、出し物として女子のトップレスボクシングやっていたんだよ……いやいや、嘘じゃないよ、ガチで、おっぱい丸出しでさ』
『そんときの俺は、同僚たちと同じくニヤニヤしながら見ていたんだよ……うん、あの人が出てくるまでは、同じだった』
『でも、あの人が出てきた瞬間……他の女性と同じく、トップレスの恰好でリングに上がったあの人を見て……俺はね、心の底から公開したんだ』
『──なんで、俺は今、カメラを持っていないんだって』
『本当に、苦しかったよ。あのカメラがここにあれば、10万円払っても良いから、いますぐ用意してくれって』
『こんなに綺麗な人を目の前にしているのに、どうして俺はカメラを持っていないんだって……酔いも何もかも、吹っ飛んじゃった』
『あれから、脱サラして色々下積みしてカメラマンになって、色々な女性を撮った』
『アイドルデビューを目指す新人も、AV写真の撮影で裸で並んだ女性も、読者モデルの卵も、売れっ子グラビア女優も……500人以上撮ったかな』
『それでもなあ……それでも、今になっても、俺は思うんだよ』
『……あの時、どうして俺はカメラを持っていなかったんだ~ってね』
──時は戻り、1980年の夏。
『お~っと、飛び入り参加のスーパー美人のボインがボインボインと揺れている! これはどうしたことだ、アルコールが回ったのか!?』
「ぎ、ぎぼちわるい……」
『あ~っと、ここでタオルだ! セコンドよりタオルが投げられた! どうやら駆けつけ三杯してからの乱入だった模様です! 皆様、勇敢なるボインちゃんに盛大な拍手を!!』
「ろ、ろぼご……せ、せんめん……うっぷ……」
未来にて、様々な人たちの脳を焼くことになった肝心の人物は、グルグル回り始めたアルコールに地獄を見ようとしていた。
いくら二日酔いしないからといって、ほとんど一気飲みペースで酒を飲んでからボクシングとか……言うまでもなく、当然の結果であった。
※ 良い子のみんな、酒を飲んだ後での激しい運動は控えようね!