ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
そんなこんなで、だ。
銀河の彼方で大変なことが起こっている(というか、なんか解決している?)なんて知る由もない千賀子はその日、『春木競馬場』に来ていた。
理由はまあ、オーナーだから、としか。
しょっちゅう様子を見に来る社長って、部下からしたら気が張って嫌なのは分かるけど、競馬に限ってはまあ仕方ない事ではある。
何故ならば、競馬というのは即物的にその場で金銭が動くからだ。
他の会社も同じだが、銀行など現金を取り扱うことを主業務にしているところや、入金&出金日を除けば、1日に行き来する金銭の額が桁違いすぎるのだ。
そりゃあ、何百万という金を動かすことが珍しくはないにせよ、日常的に、それも数時間ごとにそれだけの金銭を出しては入って、入っては出して、なんて。
ぶっちゃけてしまえば、レースが起こるたびに数十万~数千万の金銭がプラスしたりマイナスしたり、冷静に考えると相当に恐ろしい場所である。
ましてや、『春木競馬場』にて行われる特殊レース……『通称:千賀子レース』の開催日にいたっては、数億~数百億なんて規模の日本円がアッチコッチに行き来しているのだ。
冷静に考えなくても、魔が刺してしまう……なんてことがあるわけで。
信じる信じないの問題ではなく、けっこう目を光らせているぞという目に見えないアピールも兼ねて、千賀子はけっこうな頻度で様子を見に来るわけである。
……まあ、実際のところ、そう思っているのは千賀子だけであり、働いている職員たちからは、むしろ有難がられている面も多かった。
何故かと言えば、トラブルが発生した時、真っ先に動くのが千賀子当人だからである。
そう、このやたらとおっぱいが大きくて、やたらと美人で、やたらと余計なところで行動力を出したりする秋山千賀子という女は、なにかしらのトラブルがあると、それはもう誰よりも速く突撃をかますような女なのである。
大半のクレーマーは、相手がガチで反撃しに来た、あるいは旗色が悪いと判断すれば、何食わぬ顔で、あるいはすっとぼけて逃げようとするのだが、千賀子はそれを逃がさない。
しかも、千賀子という女は、相手が難癖を付けてきていることが分かれば、一歩も引かないし、なんなら逆に追い込みを掛けに行く女でもある。
相手が『もういいよ』と捨て台詞を吐こうものなら、『ここまでケチ付けたんなら、なあなあでは逃がさんぞ、このクソボケが!!』っと、とんでもねえ怒声もぶつける。
仮に相手が拳を振るってきたら、もうその時点で色々な意味でヤバい。
相手の攻撃をわざと腕で受けてからの、巫女的パワーによる拳での話し合い……もちろん、絶対に死なないよう手加減しながら、とにかく痛みだけを残すよう殴りまくる。
奥歯どころか顔が変形するまでボコボコにされるだけではない。
相手がいくら『勘弁してください』、『ごめんなさい』、『悪かったです』と謝ったとしても、千賀子は一切許さず、前歯すべてがへし折れるほどの拳を叩き込むのだ。
当然ながら、警察は動かない。
これが外ならばともかく、魔改造が現在進行形で続いている『春木競馬場』の中だ。
そういった事が起こっても、誰もその時は警察の事を考えないし、外に出てから思い出しても、わざわざ警察に連絡しようとする者は皆無であった。
……酷過ぎないかって?
やれやれ、忘れてはいけない。
千賀子は基本的に、他者に対してはまず優しさを持って接する人柄ではあるし、それが無知から来る無礼だと分かれば、笑って流してやる器量はある。
しかし、意図して威圧的な態度を取ってきた相手や、ナメてきた相手に対しては、その限りではない。
伊達に、これまで様々な形で色々な人を見てきたわけではない。
ちゃんと職員側に落ち度があれば頭を下げに行くし、場合によっては、職員側を叱る場合もある。
かと思えば、本当に些細なすれ違いで発生したトラブルの場合は、『私の顔に免じて……』といった感じで双方に向かって頭を下げたり、お土産を渡したりして場をおさめてしまう。
そんな、絶妙な塩梅をつけてくれることもあって、むしろ、登場すると笑顔で手を振る職員が居るぐらいであった。
……ちなみに、だ。
客側の目線からだと、むしろ登場を狙って通う者も一定数居たり……そりゃあまあ、致し方ない話である。
これまで幾度となく説明されてきたことだが、秋山千賀子という女はとにかく美人である。
そのうえ、スタイルも良い。
変にビクビク怯えたりもせず、わざと見せびらかしているわけでもないから、見ていても変に咎められることもない。
堂々と振舞っているし、『他者が自分を見つめるのは致し方ない』といった雰囲気を醸し出しているから、いやらしい気配もしない。
いや、まあ、見た目は色気の化身がごときアレなのだが、とにかく、見る分にはタダといった感じで、一目見るためだけに通う熱心なファンも一定数居た。
そう、今や秋山千賀子という女は、『春木競馬場』の名物オーナーとしての顔だけでなく、ご当地アイドルとしての側面も生まれていたのだ。
これはまあ、明確な『職業:アイドル』というやつではなく、アイドルみたいな感じで目で向けられているというやつだが……言い得て妙というやつだろう。
実際、競馬場関係者に限らず、千賀子を生で目撃した人たちのほぼほぼ考えることが。
『──なんて綺麗な人なんだ』
で、あり、その次は。
『──デッッッ!!!!』
といった感じである。
アイドルになる条件、身も蓋も無い言い方をするならば、人の注目を引き付けられるナニカがあるか、それが全てである。
それは、即物的なモノでも良いし、目に見えないモノでも良い。
見た目が綺麗であるのが望ましいけど、無くてもアイドルには成れる。
目に見えない部分が酷くても、見た目が良ければアイドルには成れる。
それが長く続くか、一瞬で終わるか、それは当人の気質や努力や環境に左右されるが、なんにせよ、秋山千賀子という女は、アイドルになる条件を十二分に満たしていた。
なので、千賀子が『春木競馬場』に限らず、人気者みたいな扱いというか、そういう意味で注目を集めてしまうのもまあ、致し方ないことである。
たまたま接近した通行人から握手を求められる時があるし、手を振り返せば歓声があがる事だってあるし、まるでスターを見るような眼を向けられる事だってある。
『話しかけられちゃった』と嬉しそうに語る者も居れば、冗談半分で作られた千賀子のプロマイド写真を買っていく人も居るし、千賀子のファッションを真似る人だって居る。
千賀子自身は他人から視線を向けられることに慣れ過ぎて、逆にそういった感覚が鈍く無頓着になっているから、そういった扱いをされても欠片も気にしていない。
だからこそ、余計にそういった部分がアイドル化に拍車を掛けてゆき……当人だけが気付かないまま、秋山千賀子という女は、春木競馬場のアイドルにもなっていたのであった。
……。
……。
…………まあ、そんな千賀子だからこそ、自覚出来ていなかったのだろう。
いや、あるいは、自覚が足りなかった……どちらにせよ、千賀子は少々迂闊であった。
雑貨屋の娘だった頃ならともかく、今の己の立場が、その立場に立つというデメリットを、いまだにちゃんと理解していないのは間違いなく千賀子の落ち度だろう。
でもまあ、しょうがないのだ。
祖父母からの教えは、『ナメられた相手にはガツンとやり返せ』であり、当たり前だが、そんな立場に立った者の責任を教えられるわけもなく。
両親からの教えは、『誰かのためにではなく、自分が正しいと思った道を』といった感じで、これまた、そんな上流階級の考え方なんて知らなかったし。
兄の和弘からは、『程々に、やり過ぎないよう心掛けて』といった感じで。
小学校時代からの友人たちは言うまでもなく……いや、道子からは、彼女なりに心構えみたいなモノを諭していたりはしていたけど、そこまで強くは言わず。
「……ふと思ったのだけど、もしもこの競馬場を売るとしたら、いくらぐらいになるんだろうね」
その結果、千賀子は……『春木競馬場』内にある自室(オーナーの私室だ)にて、そんな事を呟いてしまったのだった。
先に明言しておくが、別に千賀子は売却を考えていたわけではない。
ただ、たまたま点けていたテレビに、『急速拡大の落とし穴! 老舗が陥った倒産騒動!』のテロップと共に、夏ごろに倒産しかけていたらしい牛丼屋の事が放送されていたのを見たからだ。
……千賀子は知る由もないことだが。
実は、千賀子の前世の1980年、現代では誰もがその名を知っている全国牛丼チェーン店『吉野家』は、その年の7月に倒産したのである。
その衝撃はすさまじく、『まさか、あの店が!?』と業界を震撼させ、行き過ぎた店舗拡大がもたらす歪、そのリスクを改めて可視化する出来事であった。
……で、話を戻すわけだけど、千賀子は別に売却云々はまったく考えていなかった。
例えるなら、ゴールドの価値が上がっていますというニュースを見て、何気なく『タンスにある、金のネックレスを売ったらいくらになるだろう?』と呟いた程度の話であった。
ただ、規模があまりにも桁違いなだけで、他意はまったくなかった。
「……値が付けられないかと。常に拡大を自動的に続けている土地と建物なんて、それこそ人類が用いるすべての金銭でも対価になり得ませんでしょうね」
当然ながら、それを分かっていたロボ子も、あっけらかんとした様子で答えた。
その手には……手作りのロボ子号の模型がある。
好きが極まって、自作で模型を作ったわけで、その目はあまりにも真剣だ。たとえそれで通算31個目になろうとも、その情熱は欠片も落ちてはいなかった。
「そんなに?」
「実際、金で代わりを用意できませんから」
「なるほど」
「そもそも、売り出そうとしたら骨肉の争いが勃発するでしょうから、それ以前の話ですね」
「言われてみたら、そうね」
本気で尋ねたわけでもないし、本気で検討されても困る。
本当に、にゅっと頭の中に出てきたことをそのまま口走っただけだから、それ以上でもそれ以下でもない。
「……へえ、すごいわね。八馬口桃絵ってアイドルが引退するらしいけど、ファンが引退記念に銅像立てるって騒いでいるのね、何時の時代もファンの熱意ってすごいわ」
「人気絶頂期に引退宣言するわけですから、その熱意は当然かと。根本的にファン層が若いですし、一番熱気が出ている時期に引退ですからね、そりゃあ銅像の一つも立てるでしょう」
「アイドルかぁ……ねえ、ロボ子。もしも私がアイドルを目指していたら、それなりに上位に食い込んでいたかしら?」
「見た目は最上位ですけど、マスターの性格上、プロデューサーの顔を引っぱたいて引退しそうなんで、無理かと」
「あら、そう……なら、女優とかは?」
「本当に目指そうとしていたならともかく、興味半分だと、どこまで食い込めるか……といった感じでしょうか」
「中々に辛口な評価だわね、とても納得する評価だわ」
湯気立つお茶を啜りながら、流れるニュースに対して独り言のように呟き、それをロボ子が返答する。
そこに、意味など無い。
千賀子もロボ子も、雑談程度にニュースをネタに雑談しているだけで、そこには何の意図もなかった。
「それじゃあ、政治家を目指していたら、どうなっていたかしら?」
「おや、政界を目指すおつもりで? それならば、議員の一人がかなり体調を悪くしているので、近々補欠選挙が行われる可能性が……」
「私に政治家だなんて、ガラじゃないわよ。ただ、どうなっていたのかなって思っただけで、成りたいだなんて言ってないでしょうよ」
「ふむ……マスターは良くも悪くも他者からの注目を集めやすいので、意外と良い線行く可能性が高いかと。目指すのであれば、何時でもおっしゃってください」
「だから、ガラじゃないってば」
苦笑する千賀子──そんな主を他所に、ロボ子の視線が出入口のドアへと向けられ──
「ところで、ロボ子。エマと春人の誕生日の件だけれども……」
──たのだけど、その話を出されてしまえば、ロボ子の注意は千賀子へと戻された。
「今度の誕生日は何が良いかしら……誕生日ケーキのほかに、やっぱり、服とかかしら?」
「服の場合、エマ様の好みもありますので、一緒に買い物に行く必要がありますが……いちおう聞きますけど、何着までをご予算に?」
「今年のエマはとても良い子だったから、そうね……30着ぐらいかな?」
「HAHAHA、ご冗談を──え、冗談では……ない???」
そして、千賀子から向けられる本気の視線を受けて、ロボ子は足音を殺して遠ざかってゆく者を認識しつつも、優先度は低いと判断したのであった。
……。
……。
…………この判断が、駄目であった。
この時、もしも千賀子がエマと春人の話を持ち出さなければ、ロボ子は優先度を下げなかっただろう。
千賀子もまた、この時にエマと春人の事を考えなかったら、ロボ子の話に耳を傾けていただろう。
ぶっちゃけてしまえば、タイミングが悪かった……ただ、それだけの話だけれども。
──え、えらいこっちゃ!!
この時ばかりは、本当にタイミングが悪く。
──秋山オーナーが、この競馬場を売り払って……女優や政治家を目指すって……え、えらいこっちゃ!!!
青ざめつつも強張った形相で離れていく……とにかく、だ。
この、ほんのわずかな雑談が生み出した火種が一気に爆発したのは……年が明けて、1981年になってからの事であった。
激動昭和・宇宙艦隊vsUMAvsアメリカ(略)は、ここで終わります。
次回、『激動昭和・千賀子クライシス(75日で解決したら良いな)編』です