ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第224話: 結局、机に置かれていたコレは……??

 

 

 12月中旬から発達して停滞し、強い冬型気圧配置によって記録的な豪雪となった『五六豪雪』。

 

 東北から近畿にかけての日本海側に、積雪による災害ニュースが流れ始めたのは、1981年(昭和56年)を迎えてすぐのことだった。

 

 この年の積雪被害は相当なもので、雪捨て場が雪で溢れ、雪崩によって家屋がなぎ倒され、そうでなくとも積雪で家屋が倒壊し、電車も運休を余儀なくされた。

 

 商店街などに入り込んだ雪によって通行止めとなった個所がいくつも設けられ、交通が妨げられたことで物資不足を招き、最終的には死者が100人を超える災害となった。

 

 

 ……とはいえ、だ。

 

 

 どうしようもない、仕方がない事とはいえ、ショッキングなニュースから始まった1981年だが、けしてそれだけの1年ではなかった。

 

 たとえば、この年の3月20日に神戸にて開幕された、『神戸ポートアイランド博覧会』。

 

 愛称は、ポートピア‘81。

 

 1970年の大阪万博の計画準備時に、第2の会場誘致を図り、それから紆余曲折を経て、この年に開幕となった。

 

 当初は1978年の開催を予定していたのだが、1975年に開かれた沖縄国際海洋博覧会から5年と経過していないことや、跡地利用の問題などが考慮され見送られていた。

 

 このポートピアは海の文化都市をテーマにした博覧会であり、閉幕まで約1610万人の入場者を記録し、純益60億円を記録した。

 

 この博覧会の成功は、後に『地方博覧会ブーム』の火付け役となるだけでなく、都市経営のモデルとして賞賛されるキッカケにもなった。

 

 また、この年には『なめ猫』という、暴走族風のコスプレをした猫のキャラクターが一躍ブームと……ちなみに、だ。

 

 1980年頃(特に、1981年のこの年)の日本は、校内暴力やら暴走族(いわゆる 、ツッパリ)の全盛期というやつで、それはもう凄まじかった。

 

 ある意味では若者文化である暴走族と、かわいらしい猫を融合させた、皮肉とも取れるしユーモアとも取れる見た目もあって、それはもうウケたのである。

 

 なお、『なめ猫』の正式名称は『全日本暴猫連合なめんなよ』であり、そのキャッチフレ―ズが『なめんなよ』である。

 

 そこから略され、『なめ猫』となった。ちなみに、国外にも販売され、かなりの売り上げを記録したのだから、かわいいは正義である。

 

 

 さて、話を戻して、だ。

 

 

 世界初となるスペースシャトル『コロンビア』がお披露目絵されたのはこの年で。

 

 現代にも続いている『浅草サンバ・カーニバル・コンテスト』の第1回が開かれたのも、実はこの年で。

 

 今では誰もが知っているコンビニエンスストアの『ファミリーマ―ト』……株式会社ファミリーマートが設立したのも、この年で。

 

 現代の育児の必需品である紙おむつの『ムーニー』が発売されたのもこの年で、これによって紙おむつが爆発的な勢いで普及したとも言われている。

 

 この年は様々な事故や事件や災害が多発し、当時の有名人(職業問わず)がこの世を去った年でもあるけど、けしてそれだけではない。

 

 光も有れば、闇も有る。始まる事もあれば、終わる事もある。

 

 臭い言い方だが、1981年とは、そういう年でもあった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………さて、そんな年を迎えた千賀子が何をしていたかと言うと……それは、総理含めた議員たちへの説教である。

 

 

 なんでそんなことをしたのかって? 

 

 

 それは、年明け早々に、豪雪で被害が出ているのに、それはそれ、コレはコレと言わんばかりに挨拶に来たからである。

 

 

 これには、千賀子が待ったを掛けた。

 

 そりゃあ、気持ちは分かるのだ。

 

 

 千賀子自身の思惑はどうあれ、日本唯一の競馬場オーナーであり、多数の有力馬を所有し、資産価値こそそこまででも大地主であり、その他様々な資産を保有している、日本はおろか世界でもトップクラスの資産家である。

 

 そんな人へ挨拶をしておこうという気持ちは分かる。

 

 千賀子がまったく政界にノータッチならともかく、先日385人目の秘書を雇用することになったとはいえ、総理と直通ホットラインを持っている……だけではない。

 

 政治基盤とは、蓋を開ければ、出馬地域の生活基盤にどれだけ密接に関わっているか、それに尽きる。

 

 千賀子は欠片の興味が無いから気付いていないが、『春木競馬場』がある辺り一帯の秋山千賀子の人気は、そこらの芸能人よりはるかに高い。

 

 

 それもまあ、当然だ。

 

 

 芸能人はあくまでも娯楽的な人気ではあるが、千賀子の方は生活に直結した人気……はっきり言うなれば、足を向けては寝られないという話なのだ。

 

 誇張抜きで、千賀子が居るから地域経済が活性化していると言っていい。

 

 影響を抑えているとはいえ、だ。

 

 第二次オイルショックの影響はちゃんと出ていて、不景気の風がジワリジワリと日本列島へと吹いている。

 

 さすがに失われた30年(もうすぐ……)程では無いにしても、それでも省エネ低燃費が持て囃され、コレを機にマイカーを買い替える人が続出していた時期でもある。

 

 そんな中で、『他所は大変だねえ』みたいな感じで不景気ってなぁに……な感じで、高度経済成長期程ではないが、不景気とは無縁な状況が続いているのだ。

 

 よほどの世間知らずor偏屈思考でなければ、嫌でも気付く。

 

 

 ──神様仏様千賀子様!!! って。

 

 

 実際、千賀子は知る由もない事だが、毎朝千賀子のポスターに向かって手を合わせている人も一定数居たりする。

 

 また、直接的な影響を受けていない人でも、安く使える子供の遊び場として重宝している母親も一定数居て、ここが無くなると子供の行き場が……と考える人も一定数居る。

 

 

 つまりは、だ。

 

 

 そんな人から、仮に嫌われでもしてみろ。

 

 票数がそのまま命運を分ける議員たちからしたら、そりゃあもう、是が非でも挨拶しておきたい相手として認識されて当たり前である。

 

 しかも、千賀子は一時期日本中に寄付金を行っており、篤志家としても一部では有名で……つまり、票田という意味ではかなり幅広いのだ。

 

 むしろ、なんで挨拶に行かないのかってレベルであり……まあ、だからこそ、千賀子も苦笑いで済ませていたのだが、さすがに災害が起きている最中にそれは止めておけと忠告したのである。

 

 挨拶は大事だ、それは幼少から家業の手伝いをしていた千賀子とて身に染みている。

 

 だが、別に挨拶に来なかったからこといって邪険に扱うほど懐が狭いとは思っていない千賀子は、先にそっちへ尽力せよと告げたわけである。

 

 そうして、なんともスッキリしない気持ちを抱えながらも『春木競馬場』へ。

 

 

「気持ちは分かるのだけどね。1票でも負けたら廃業なわけだし……でもさ、一般国民からしたら、ちょっとちょっとって言いたくなるのも致し方ないと思わない?」

「いざという時に後回しをされる方からしたら……というやつですかね?」

「やるせない話だわ、本当に……」

 

 

 一つ、ため息を吐いた千賀子は、何時ものように自室へと入り……そこで、おやっと目を瞬かせた。

 

 別に、部屋が荒らされていたとか、そういうわけではない。

 

 重要書類はすべてロボ子が管理しているので、あくまでも『春木競馬場』の自室は、職員との連絡をスムーズに行うための、言うなれば受付みたいな場所にしてある。

 

 だから、職員が入って来ることは多々あるし、掃除の人を雇っているので、完全なプライベートルームというわけでは……話を戻そう。

 

 

「……草? いや、花か?」

 

 

 千賀子が目を瞬かせたのは、机に草というか、花が置かれていたからだ。

 

 誰かの悪戯で置いた……にしては、まるで花屋で買ってきたかのように梱包され、一輪だけがポツンとそこにあった。

 

 

「……なにこれ? なんで花が……これ、造花か?」

 

 

 手に取れば、作り物なのが分かる……が、それだけだ。

 

 

「学名:サルビア。英名ではセージ。どちらも同じシソ科に属する植物です」

「いや、私が知りたいのはそこじゃなくてね」

「一般的に、観賞用の花をサルビアと称し、調理用に使用するのをセージと分けています」

「聞きたいのはそこじゃないってば」

「花言葉は色々ありますが、『家族愛』でしょうか」

「家族愛? 余計に意味が分からん……」

 

 

 首を傾げながらも、とりあえずは捨てるわけにもいかないので、しばらく預かっているようロボ子に伝え……っと、その時であった。

 

 

 ──秋山オーナー、よろしいでしょうか? 

 

 

 ノックと共に、そう声を掛けられたので了承すれば、男が入ってきた。

 

 その男は、この競馬場に長らく務めている定年間近の役員である。

 

 かれこれ30年以上勤めあげ、長く続いた工事の最中にも、人気が離れないよう尽力した……という存在しない過去を成し遂げた男である。

 

 彼はまさしく縁の下の力持ちというやつで、オーナーである千賀子と、職員との間をじょ~ずに繋いでいる、中間管理職の鑑のような人物である。

 

 

「あの、オーナー……テーブルに置かれている花は、もうご覧になりましたでしょうか?」

 

 

 そんな彼が、なにやら額に汗を滲ませながら……ん、暑いのか? 

 

 

(え、なんだろう……なんかめたくそに緊張してない? 不安? ものすっごい不安を覚えてない? なんで?)

 

 

 あまりにも強い感情の波を感じ取った千賀子は、はて……と首を傾げる。

 

 千賀子が何かしらの思い付きでレースを始める時は、たま~に、そんな感じでビクビクする時はあるが……今年に入ってはまだ、そんな話をしていない。

 

 ならば、いったいどうして? 

 

 率直に尋ねるべきか、話してくれるまで待つべきか……なにやら、視線を逸らしつつも、モゴモゴと何かを言いたそうにしている彼を見て……ヨシっと千賀子は判断した。

 

 

「なにか、私に聞きたいことがあるの?」

 

 

 それは、率直に尋ねる、である。

 

 こちらから話を促せば、さすがに彼もソレがきっかけになったようで……ゴクリと、唾を飲み込んだ彼は……ギュッと目を瞑ってから、千賀子へと口を開いた。

 

 

「あの、秋山オーナー……つかぬ所をお聞きしますが」

「なんでしょう?」

「その──」

 

 

 そこまで言いかけた瞬間、電話のベルが響いた。

 

 パッと、彼の視線がそこへ向けられる──と同時に、ロボ子が手慣れた様子で電話に出る。

 

 

「……ちょっと、ごめんなさいね」

「い、いえ、こちらこそ急に申し訳ありません」

 

 

 一つ頭を下げた千賀子は、しばしロボ子が応対した後で……スッと、受話器を千賀子へと差し出した。

 

 

「誰?」

「田中総理です」

「また? どんな要件?」

「ホケツの件で、だそうです」

 

 

 その瞬間、ヒュウッと乾いた音が……見やれば、ゴホンゴホンと、なにやらわざとらしい咳き込み方をする彼が……首を傾げた千賀子だが、とりあえずは、彼に聞こえないよう気を付けつつ電話に出る。

 

 

「もしもし?」

『ああ、急な電話で済まない。少し時間を取らせて良いかな?』

「手短にね」

『この前、君に教えてもらった、東洋医学のやつ。補血って言うんだっけ? あれ良いね、意識して取るよう頑張ったら、朝の調子が良くなってね』

「無理し過ぎなのよ。もう無理が効く年齢じゃないのだから……私に聞くような事でもないでしょうに」

『いやあ、耳が痛い。それでね、どうも僕以外にも血圧とかに悩んでいる人が居てね……ほら、ちょっと前に教えてくれた、あの漢方の……ちょう……ちょう……とうばんだったかな』

釣藤散(ちょうとうさん)? あのね、アレはか「えほん! おほん!」……ちょっと待ってね」

 

 

 振り返れば、青ざめた様子の彼が……気まずそうに、部屋の隅に移動した彼を見て……首を傾げながらも、声を潜めて通話を再開する。

 

 

「副作用のある薬なのだから、そうポンポン気軽に飲むものじゃないわよ。あまりにもこのままだとヤバいって意味で送ったからであって、ソレを頼りにされても困る」

『う~ん、そっか……』

「漢方とは言っても、薬だから。合う、合わないがあるから……その人、おそらく合わない体質だと思うから、飲むのは止めた方がいいと思う」

『う~ん、そうか……仕方がない、僕の方から伝えておくよ。済まないね、手間をかけてしまった』

「このぐらい良いわよ。私に謝るぐらいなら、今年の7月ぐらいに英国の皇太子が結婚する気配がするから、そっちの方を考えておいた方が良いわよ」

『ふふ、そうか、7月に皇太子が──へぇ? え? 皇太子が? 本当に?』

「嘘なんて言わないわよ」

『……そ、そうだね、分かった。それじゃあ、僕はこのへんで……』

 

 

 そう言って、電話が切れた。

 

 さて、受話器をロボ子に渡して……改めて、彼の話を聞こうと──その、瞬間であった。

 

 

「あ、あの、オーナー……出馬、なさるおつもりなのですか? (政界入りの意味で)」

「……??? ああ、そうね、そのつもりよ。(マンネリって、つまらないものね。ハイセイコーの馬が1頭居るし……勝てるかは微妙だけど、という気持ち)」

「ほ、本当に、出馬を? (出馬したら絶対勝つだろう&政治家との二足なんて絶対無理的な意味で)」

「??? ええ、もちろん、八百長なんてしないわ、正々堂々挑むから、負けたらその時考えましょうか(むしろ、負けた方が盛り上がるぐらいあるわよ、的な意味で)」

 

 

 何かが、微妙に噛み合っていなかったのは。

 

 

「前々からちょっと思っていたのよ。何時までも似たような顔ぶれってのも味気ないでしょ(大番狂わせがあるって、面白い的な意味で)」

「そ、それは……そうですが(自分が春木競馬場に務めていなかったら、心から応援したであろうという気持ち)」

「まあ、出馬を正式に行った時は、あまり私が表に出られなくなるでしょうし、その時はしばらくお願いね(レース終わるまでは、オーナーは引っ込んでいた方が良いでしょ的な意味で)」

「わ、分かりました……(選挙に勝ったら、もしかしたら競馬場を別へ……という不安を滲ませながら)」

「……? 大丈夫? 顔色が悪いわよ? (急に状態が悪くなってので、心配的な意味で。いちおう、急病とかではないのは察している)」

「い、いえ……それでは、私はこれで……(ど、どうしよう、このままでは職場が……人員整理の可能性が……そんな不安)」

 

 

 そして、噛み合わないまま、彼はトボトボとした様子でその場を去り……後に残された千賀子は。

 

 

「……? あの人、なんで私が出馬することに不安を覚えていたのかしら……八百長する気なんて無いのに……おバカなテレビ番組でも見たのかしら?

「情報源なんて、今はテレビと新聞紙とラジオだけですからね」

「インターネットが広がるのは、最低でも15年は先のことね」

 

 

 結局、あの人なんの要件で来たのかしらと……ロボ子と顔を見合わせ、首を傾げるだけであった。

 

 

 

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