ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第227話: 放送できるの、これ……そう、本気で心配される心境

 

 

 CMを作るのは良い。

 

 そのCMに己が参加するのも、やぶさかではない。

 

 ただ、とりあえず、話を進めるのは後日改めてということで、ひとまず土師田を追い返した後で……ふと、千賀子は思った。

 

 

(……明美のところも、まさか影響受けてないよね?)

 

 

 それは、己の友人である明美の家業でもある、銭湯のことだ。

 

 明美のところの銭湯は、ただの銭湯ではない。

 

 千賀子の巫女的パワーや『サラスヴァティ』の能力を駆使して源泉を掘り当て流用している、実質的には銭湯の名を被った温泉施設である。

 

 この温泉自体は、日本全国に点在する温泉と、そう変わらない代物ではある。

 

 実際、新築されてから、これまで幾度となく明美のところの銭湯を利用しているが、水質に異常を覚えたことはない。

 

 だが、しかし……こうして『春木温泉ランド』とかいう何一つ認知していない施設が生えてきた結果、一つだけ気になる点が生まれた。

 

 

 それは、温泉そのものではなく……建物に使用した、『神社』がある山の材木のことだ。

 

 

 そう、実は、明美の銭湯施設を含めて新しく立て直しが決まった際、家屋などの太い柱に、山の樹木を使用したのだ。

 

 当時は、『春木温泉ランド』はおろか、『春木競馬場』すら無かった。ましてや、勝手に増殖したり進化したりするなんてことも無かったわけだ。

 

 というか、土地が勝手に増えたり広がったり、施設が勝手に生えたり増殖したり、いったい誰が予見出来ただろうか。

 

 

 ぶっちゃけてしまえば、100%善意である。

 

 

 当時の千賀子はまだ、若かった。

 

 単純に、『山の材木ならおそらく頑丈で火事にもならないだろうから、柱に使うと長持ちするだろう』という、本当に善意からの贈り物だった。

 

 だから、わざわざ女神様にお願いして許可を貰ったし、これまで不審な点を感知していなかったので、気に留めていなかったが……ここにきて、温泉施設である。

 

 考えすぎ、と言われたら、それまだ。

 

 しかし、一抹の不安を覚えた千賀子は、CM撮影よりも前に、明美へと連絡を取ったのであった。

 

 

『──もしもし?』

「もしもし、私、千賀子」

『あら、千賀子? どうしたの、急に? なにかあったの?』

「いや、その、ナニカってわけじゃないんだけど……」

 

 

 電話口に出た明美の声は、前回聞いた時と同じく元気そうだ。

 

 記憶にある光景でも、何時もと変わらず元気そうな笑顔を見せていたが……まあ、子供が騒いで叱っている姿もあるけど……で、だ。

 

 急な電話なのだけれども、さてここからどう言い訳しようかと、電話してから今更ながら千賀子は急速に頭脳を働かせる。

 

 本当に、今更ながらな話だけど、仕方がない。

 

 時々は頭より先に手が動くのが千賀子だ、むしろ、馬鹿正直に言わないだけマシになった方である。

 

 

 まあ、それ以前に、だ。

 

 

 江戸時代からあるらしい『春木温泉ランド』が少し前に完成したのだけど、その影響がそっちの銭湯に出ていないか……なんて話。

 

 冷静に考えたら、意味不明すぎてこちらの頭の状態を疑われるような話である。

 

 というか、普通は疑う。

 

 千賀子が逆の立場なり無関係な第三者だったなら、曖昧な笑みを浮かべてそっとカウンセリングを勧めていただろう。

 

 

「あ~……その、なんて言えばいいのかな……あの、さ」

『なによ、言い難いことなら、別に時間作るけど?』

「別に、時間を作るほどじゃ……その、あまりにも荒唐無稽《こうとうむけい》な事を聞くけど、覚悟してね」

『千賀子関連の意味不明な出来事なんて、今に始まったことじゃないから気にしないわよ』

「そ、それはそれで……いや、そこまでは……あ~、うん、わかった、単刀直入に聞くね?」

 

 

 なにやら聞き捨てならない言葉が出たが……ま、まあ、とにかく、だ。

 

 

「その、明美のところの銭湯に、なにか不思議な事って言うか、常識では考えられない現象とか、起こってない……よね?」

 

 

 単刀直入に、ズバッと聞いた。

 

 まさか、起こっていないよね……という、言外の予防線を張ったうえでの、希望的観測というやつであった。

 

 

『え? そんなの前から起こっているわよ』

「起こっているの!? 前から!?」

 

 

 なので、希望を真正面から打ち砕く無慈悲な返答をされて、思わず千賀子は声を振るわせた。

 

 

 いや、だって……ねえ? 

 

 

 女神様関連の出来事は、基本的には千賀子にしか利益(?)をもたらさない。

 

 言い換えれば、千賀子が幸せになるならば、周りがどれだけ不幸になろうが、女神様は欠片も気にしないのである。

 

 なんなら、それを気にして塞ぎ込む千賀子を見て、『ああ、なんて愛おしいのかしら、あまりにも愛らし過ぎて……うっ、涙が……』なんてことを言い出すのが、女神様である。

 

 最終的に千賀子はそれを良しとはせず、周りに還元させる形にしているが……千賀子が強欲な性格だったら、今頃千賀子は表でも裏でも……とにかく、だ。

 

 詳しく、明美より聞き出した千賀子は……正直、しばらく電話口で無言になった。

 

 

 一番目立つのは、一週間に一度、家のどこかの柱より、果物が実る……という異常だ。

 

 

 文字で書くと些か想像しにくいだろうが、読んだそのまま。枝がにょきっと生えて、そこに果物が一つ実るのだとか。

 

 実る果物はとくに規則性はないらしく、スイカやイチゴなんかも実る時があるのだとか。

 

 ちなみに、果物を取るとスルスルと枝は柱の中へ戻って跡形もなくなるらしく……で、まあ、その果物なんだけど。

 

 まさかの、実食済みである。

 

 にわかには信じがたい話だが……しかし、令和を生きる若年層には分かり辛いかもしれないが、これ自体は特に驚くような話ではない。

 

 80年代に生まれた子供ならばともかく、50年代に生まれた世代の感覚は、今よりもずっと繊細な面もあれば、図太い面もある。

 

 明美はカラッとした美人ではあるが、伊達に激動の時代を生きたわけではないし、なんなら伊勢湾台風があったその日に風呂敷担いで動き回っていたような女である。

 

 当時、小学生なのに、だ。

 

 そのうえ、明美の母親は……闇市への行き帰りの際に、万が一にも襲われたりしないよう自ら坊主頭になって男装し、声もわざと枯らして擬態したような人だと聞く。

 

 そんな母親の背中を見て育っているのだ。

 

 見た目とは裏腹の図太さであり、たかが柱から果物が実った程度で、何かしら害が起きないなら無視しておけという……まあ、それで、だ。

 

 

「あの、ナニカ身体に異常とかは……?」

『え、ないない、とても美味しくて、むしろ奪い合いよ。もっと実ってほしいぐらい。一番多い時は毎日なんてのもあったけど、最近は頻度も減ったのよ』

「……そ、そうなんだ、何もなければいいんだけど」

 

 

 とりあえず、無言のままに頭上から己を見下ろしている女神様の顎(?)にパンチを叩き込んでおく。

 

 とりあえず、女神様曰く『誰が食べても問題は無い、ただ美味しいだけ』な果物らしい。

 

 ただ、果物が実るタイミングは千賀子の機嫌というか、その時のコンディションに影響されるらしく、基本的に不機嫌な時は実らないのだとか。

 

 なんとも、女神様のやらかしにしては、ずいぶんと優しいというか、なんというか……まあ、案の定というか、千賀子は知らなかった。

 

 果物が実るタイミングは、基本的に機嫌の蓄積だが……実は、千賀子が悦んでいる時もまた実る、ということに。

 

 つまり、昔はどういうタイミングで実っていたのか……仮にそれを千賀子が知れば、千賀子は思わず舌を噛み切ろうとするぐらいのアレなのだが。

 

 真実は、ニヤニヤと悦に浸っている女神様しか知らないのであった……まあ、それは、それとして。

 

 ──他にも細かい異常が起こるらしいけど、とにかく、目立つ変化はそれぐらいなのがまあ、救いというか……で、だ。

 

 

「あ~、その、今更こんな事を言うのもなんだけど……今度ね、『春木温泉ランド』のCMを作ることになったんだけど……」

 

 

 言いにくいことだが、千賀子はあえて触れることにした。

 

 場所こそ違うし客層も被らないだろうけど、商売敵みたいな立ち位置になってしまったのは事実だ。

 

 あまり良い気持ちではないだろうなあ……そんな思いで、千賀子は明美に話を振ったのだけど。

 

 

『あ、そうなんだ。やっとCM作るように決めたのね、なんで作らないのかなって不思議に思っていたのよ、こっちはね』

「え、うん、その、嫌じゃない?」 

『嫌って、なんで?』

「その、商売敵とか、そういうのあるじゃん?」

『商売敵だったら、なんでわざわざうちのボイラーの件を手助けしたのよ、そんなの今更でしょ』

 

 

 意外な話かもしれないが、明美は欠片も気にしていなかった。

 

 

『ていうか、そもそも規模が違い過ぎるじゃないの。こう言っちゃあなんだけど、銭湯業界ってもう斜陽ってやつなのよね』

「えぇ、明美がそれを言うの?」

『真剣にやっているから見えてくるものがあるのよ。うちはまだマシよ、千賀子のおかげでやっていけているし……でもねえ、やっぱ時代の流れってやつよ』

「あ~……やっぱり、そういうのあるの?」

『あるある、すっごいある。やっぱりね、今の若い子たちってお風呂は家で入るものって常識になっちゃっているから、新規の顧客がねえ……』

 

 

 そのうえ、なんか千賀子以上に色々と達観していた。

 

 

『色々とあの手この手でやってはいるけど、やっぱ全体としては、新しい顔ぶれを見る頻度が減ったなあって……』

「それでも、子どもとか来たりはするんでしょ?」

『来るは来るけどね、まあやっぱりちょっとずつ下がってきてはいるなあって……銭湯が好きで来てくれる人も多いから、あと10年20年はなんとかやれるかもね』

「そうなんだ……」

『だから、あんまり気にしなくていいわよ。これもまあ時代の流れってやつよ。本当なら、あの時にうちらは廃業していたところだしね、来るときはやっぱり来るわ』

 

 

 そこで一つ、電話口の向こうよりため息が聞こえた。

 

 

『まあ、なんとか私の子供が大学卒業できるまでは持ちこたえてほしいから──だから、むしろ千賀子には頑張ってほしいところね』

「え?」

『外のお風呂に入るのも悪くないって、広めてほしいのよ。一人でもそういう人が増えてくれたら、巡り巡って私のところにも人が来るでしょ?』

「そりゃあ、そうなるでしょうけど……」

『そこから町の銭湯も捨てたもんじゃないって、まずはそう思ってもらわないと話にならないじゃない? だから、千賀子の美貌を活かしてCM作ってよ』

「……そう言ってもらえるなら」

 

 

 ──やってやろうかな、と。

 

 

 どことなく後ろ向きになりかけていた千賀子の気持ちが、ググっと前向きになった瞬間であった。

 

 千賀子の悪いところは、頭で考えずに手を出してしまう時がそれなりにあるところだが、裏を返せば、ちょっとしたキッカケでググっと気持ちを持ち直す素直さがあるところ。

 

 友達から応援された、ただ、それだけで。

 

 いっちょやってやろうじゃねえか、と立ち上がれる強さが、千賀子にはあるのであった。

 

 

『……ところで、さ』

「ん?」

『いちおう聞いておくけど、そのCMで裸になったりするの?』

「え? さあ、まだそこまでは……さすがに、タオルとか物で隠すし、裸で映るつもりはないかな」

『……もし良ければでいいんだけど、CM撮る前にうちに来られる? 一回、今の千賀子の裸ってやつを確認しておきたいから』

「私の? 確認って、なんでまた?」

『いわゆる、一般人目線ってやつよ』

 

 

 そう、なにやら力強く念押しされたので、千賀子はさっそく明美の銭湯へと向かった。

 

 確認は確認なので、それこそ小一時間で帰る程度の感覚であった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………なのだけど。

 

 

「とりあえず、気をつけの気をつけの姿勢で背中を見せて」

「……こんな感じ?」

「うわっ、なにそのボディライン……え、待って、それで三十路超えた女の身体なの?」

「え?」

「相変わらず脇は細いし、ムダ毛もまったく見えないし、尻だってまったく弛んでいないし、太ももだって贅肉の……ちょっと、バンザイしてみて」

「こ、こう?」

「なんで後ろからなのに、横乳が見えるの? ちょっとそのまま私の方を向いて」

「こう?」

「ぜんぜんおっぱい垂れてないじゃん。十代の頃とほとんど変わってないじゃん。え、なにこれ、垂れてないのに後ろから横乳が確認できる大きさだったって……こと!?」

「明美?」

「よく見たら小じわも無いじゃん……あ~、え~、この身体でセクシーなCM作るの? とんでもなくない? お茶の間に放送出来ないじゃないの」

「明美?」

「ちょっと、このバスタオルで前を隠して……やだ、タオルが暖簾みたいになるじゃないの。駄目よ、こんなの風が吹くだけで純情な少年を血迷わせてしまうわ……!!」

「明美?」

「これ、どうやってCM作るの? 全身エッチ人間みたいじゃないの……放送できるのかしら、これ?」

「明美?」

 

 

 ……なのだけど、まさかここまでダメ押しされるとは、この時の千賀子はまだ知る由もないことであった。

 

 

 

 

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