ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
どうして、昔はそこまでCMが重要視されていたのか。
それは単純に、今と昔とでは視聴率が桁違いだからである。
昔のテレビを知る者からしたら信じられないかもしれないが、昔のテレビは昼間でも視聴率10%超えが当たり前であった。
特に、夜の19時~22時は1日のうちもっともテレビ視聴率が高くなる時間帯を『ゴールデンタイム』と例え、その時間帯の人気番組は視聴率30%越えというのも珍しくはなかった。
そして、なによりも……視聴者層の年齢層が今とは全く違っていたということ。
現代でもテレビCMの効果は絶大だけれども、昔に比べたら、その影響は残念ながら落ちている。
なにせ、今のテレビ視聴者年齢層の大部分は60代以降と言われている。10代より下ともなれば、なんと2割がほとんどテレビを見ないという報告があるぐらいだ。
対して、この頃のテレビ視聴者の年齢層は……10代から60代以降までが、幅広くテレビを見ていた。
そして、購買欲というのは圧倒的に若年層の方が強い。記憶してくれるのも若年層の方が多く、子どもが親に話して親が覚えるなんてことも普通にあった。
つまり、この頃のCMはレスポンスが早かったのだ。
それゆえに、この頃のテレビCMは特に重要視され、テレビCMに出た時点で一流芸能人としての仲間入り……なんていう話もあったりした。
……まあ、実際のところ、そんなわけもないのだけど。
当たり前な話だが、CMに出ていなくとも人気な人は居たし、この頃にはもう、芸能人の流行り廃りなんてのは起こっていた。
いわゆる、『一発屋』と呼ばれた人たちで、チャンスを掴んで一度は打ち上がったのだけど、二発目の目が出ないまま……というやつだ。
実際、出した曲がヒットしてこれからって歌手がそのまま鳴かず飛ばずになってフェードアウトしたり。
同様にテレビCMに出たは良いけど、次の仕事が中々入らずそのままゆっくりと……とか。なんてのが、普通にあった。
現代でも一般に名が覚えられている芸能人(現役、引退、関係なく)なんてのは、本当に上澄みも上澄みだ。
1000人志望者が居たら、ちゃんとデビューできるのはせいぜい5,6人。ほとんどはデビュー前に夢諦め……まあ、だからこそ、だ。
たった1本のCMだろうと、テレビ放送に出た時点で注目する人は注目するし、声だけでも掛けておこうと動く者も居る。
ましてや、そのCMが良くも悪くも反響を生んだとなれば……放送が行われるたび、注目が集まるのも必然で。
「秋山オーナー、CM第二弾はどうしますか?」
「え? いや、この前作ったばかりじゃん」
「何を言うのですか、鉄は熱いうちに打てという言葉がある通り、注目が集まっている時にこそ、畳み掛けるのですよ!」
「えぇ……いや、そこまでは……」
いつものように土師田……ではない。
土師田も居たのだけど、話を持ち出してきたのは、全国放送局のディレクタを務めている、サングラスを付けた男であった。
彼の名は、
土師田とは子供の頃からの付き合いであり、前回のCMに関して色々と裏でアドバイスを行っていたという人物であった。
なお、最初に土師田が撮影したCMを確認した園田の第一声が。
『こ──この、おバカ! こんなエチチなのを流したら、僕たち捕まっちゃうでしょうが!! 映画とは勝手が違うんだぞ!!』
だったのを聞いた千賀子は、即座に信用した……という前置きを……それに加えて、だ。
最初に撮影したそのCMだが、別に見えちゃいけないところが見えたわけではない。
ちゃんと要所は隠されていたし、ちょっとセクシーではあるけれども、その程度のやつは別に過激ではないってレベルである。
ただ、被写体が千賀子なのが悪かっただけだ。
なにせ、普通の服を着て歩いているだけで、『はわわ……エチチが歩いている!』という目で見られたり、ご年配の人から『もっと慎みなさい』と苦情が届いたりするぐらいだ。
千賀子は、何もしていない。ただ、視覚的暴力が過ぎるだけなのだ。
その結果、目元以外は完全に隠されて、もはやなんのCMなのかってぐらいな内容になってしまったのは……さすがに、千賀子を責めるのは間違いというものだ。
ちなみに、だ。
そんなCMなのに、なんで私が出演したのがバレたのだろうかって千賀子は首を傾げていたが……その際、誰しもが一瞬ばかり千賀子の首から下を見やり、そっと目を逸らしていたが……話を戻そう。
第二弾のCM云々の話をしているわけだが、場所は『春木競馬場』ではない。
園田が務める、全国放送を行っているテレビ局内の一室だ。
CMの事で話があると土師田から連絡が来たので、せっかくだし東京に出てみるかと、テレビ局の方へ千賀子が出向いた次第である。
なんとも珍しい事だが、あまり『春木競馬場』にばかり引きこもっているのは良くないかもと考えた結果である。
なお、建物内に入った際、なにやらザワザワと緊張感が生まれたけど……いつもとは少し違う空気に、千賀子は新鮮な気持ちだったのは秘密である。
……さて、『例のCMは好評で、問い合わせがうちにもけっこう来ている、大成功ですよ』……という前置きをしてから、だ。
「また『春木温泉ランド』のCMを作るの?」
「それでは芸が無いでしょうから、いっそのこと全く別の角度からCMを出してみては?」
率直に尋ねたら、そんな話が出た。
別の角度ってどういう事ですかって聞いたら、人気俳優と一緒に出演して、もっと幅広い年齢層にヒットさせてみよう……という話だ。
千賀子が芸能人として出演するならば、今後の売り出し方やイメージを下手に固めないよう色々と考えるらしのだけど、千賀子はそうではない。
芸能界に行く気持ちなんて無いし、イメージとかそんなのは考えたこともない。
遠く離れた場所から変なイメージを持たれようが、見知った周りが分かってくれていたら、それで良いじゃん……というタイプである。
もちろん、変なイメージを持たれてナニカしてきたら、相応の反撃をするつもりだが……で、だ。
(CMねえ……別に、もう必要ないとは思うのだけど……)
千賀子としては、そもそもCMに出る気力も理由もなかった。
CMというのは結局のところ、商品や名称を知ってもらい、購入なり何なりしてもらうための宣伝である。
極論を言ってしまえば、既に一度CMを出した時点で、千賀子としてはもういいんじゃないのって感じだが……まあ、それはそれとして。
(『恐怖の大王』の新たな出現に関して今のところ落ち着いていているし……ここらで、ちょっと芸能界にも刺激を入れておいた方がよいのかな……?)
ちょっと、そんな考えが脳裏を過る。
とりあえず、長年に渡って不景気にならないよう裏からアシストし続けているおかげで、なんとか現状は平坦な状態を維持できている。
下がるのはヤバいが、加熱し過ぎて高度経済成長ぐらいになるのもヤバい。人の欲望とは、本当にわがままなモノだ。
なので、全てではないにしても、ここが不景気になると周りへの影響がヤバいところとか、地域経済的な場所にはこっそり手を回しているわけだが。
「あまり気が乗らないわね。もうアレだけで十二分に役目を果たしているし、そこまで求めているわけでもないし」
「なるほど、そうですか」
それでもまあ、気が乗らなかった千賀子は断った。
実際、禊みたいな感じで必要分を果たしたわけだし、ここから先は余分にしかならないと思っていた。
それを察したのか、園田もあっさり話を終えた。
そこまで熱心というわけでなく、興味があったら……みたいな感じだったのだろう。千賀子の視線を受けた園田は、にっこりとサングラス越しに笑うと。
「では、記念CMみたいな感じで出演してみてはどうでしょうか?」
そう、今しがた打ち切った話を再び持ち出してきたのであった。
……。
……。
…………???
「いや、別に記念だろうと何だろうと、もうCMは出るつもりないわよ」
「なるほど、そうですか」
聞き間違いかとも思ったけど、いちおう、断っておく。
園田もそれで納得してくれたようで、訝しむ千賀子の視線を受けた園田は、にっこりとサングラス越しに笑うと。
「では、春木競馬場〇〇周年ってな感じのCMで、一本行ってみましょうか?」
そう、今しがた打ち切った話を再び持ち出してきたのであった。
……。
……。
…………???
無言のままに、千賀子は土師田を見やる。
その土師田は、全て分かっていますよと言わんばかりに頷くと、園田へと。
「露出は極力抑えないとダメだぞ」
的外れな忠告を……あ、これ、アレだ。
(こいつ、土師田の同類じゃん……)
この野郎、制御解いて『魅力』を全力でぶちかますぞ……とも思ったけど、なんか耐えそうな気配を察した千賀子は……まあ、たまには良いかと流されてみることにしたのであった。
──というのも、〇〇周年って感じの放送を流すのは悪くないんじゃないのって思ったからだ。
今でこそ順風満帆だが、最初の頃は撃たれたり、自ら柵を作ったり、根回ししたり、けっこうハードな事をしていた。
それを思い出せば、『あの頃は無茶したよなあ……』ってな気持ちにもなってくるわけで。
そういう感じのCMなら良いかな……と、千賀子は思っちゃったのであった。
……そうして、数日後。
CM撮影ってそんないきなり始まるのかなって思ったけど、実際、そんなに早く進むわけがない。
当然のように、勝手に園田が話を通して撮影準備を進めていただけである。さすがは、千賀子より『土師田の同類』にカテゴライズされるだけはある。
そのまま、既に声が掛けられていたらしい人気俳優(というか、売り出し中?)もやってきて、いざ撮影開始となったわけなのだけれども。
「…………(カチン、コチン)」
当の俳優さん……それはもう、はた目にも分かるぐらい緊張していて、何度もリテイクが入ってしまい、現場の空気はかなり悪くなっていた。
いったい何故か……それはまあ、言うまでもなく千賀子が美人過ぎたわけである。
さすがに顔を隠すどころか全身隠しのアレは怪し過ぎてクレーム来るかもってことで、露出度の低い普通の衣装(サイズが用意されていた)を着ているのだけれども。
忘れてはいけない……千賀子のバストはLカップ(Mカップ寄り)である。
当たり前のように3桁サイズ。それでいて腰は細く、そこから先もまたけして太くはない。
腕を組めば、二の腕がむぎゅっと膨らみに触れるし、千賀子が間に腕を入れるようにしても、むにゅん、とブラ越しとはいえ膨らみが当たるわけだ。
それでいて、余りにもケチの付け所がない美貌を間近で見るばかりか、立ち上ってくる匂いを、どうしても嗅ぎ取ってしまうわけだ。
いくらプロとはいえ、反応を抑え込むのは難しい。
これがベテラン俳優だったならばともかく、今回の俳優は若手に分類され、実際に年齢が若かった事もあり……どうしても、身体の硬直を抑えられなかった。
……現代では色々とコンプライアンスがどうとか叫ばれているおかげで知らない人も多いが、昭和のこの頃のCMって、けっこう派手なCMも多かった。
さすがに時間帯は選ばれていたが、ラブホテルのCMを始めとして、精力剤のCMなんかもあったり、なんならちょっとエッチなCMも普通にあった。
おまけに、普通にタバコを吸うCMもあったぐらいだ。
男女が腕を組む程度のCMなんて当たり前のようにあったし、編集で綺麗に誤魔化すなんてのも現代のようには出来なかったから……どうしても、触れ合うわけで。
「あ~……うん、どうしようか?」
監督が、困ったように頭を掻く。
ちなみに、今回の監督は土師田ではない。業界ではベテランの立ち位置にいる監督さんなんだとか。
局内で子供のようにジタバタ駄々を捏ねようとした(本当に)のだけど、独り占めは良くないという園田の一言で、渋々諦めたという一幕があったりする。
で、話を戻すが、今回のCMのコンセプトは、『若いカップルで爽やかに競馬を楽しむ』というもので。
内容は特に複雑なモノではなく、『男女のカップルが腕を組んで
競馬新聞や本を読んで、今日は〇〇にしよう』と笑顔を向け合って決める……というモノであった。
先に言っておくが、千賀子の年齢に触れてはいけない。
一人の例外もなく、千賀子が三十路越えだと知った途端、『うそぉ!?』と本気で困惑したぐらいで……そこには、いやらしさの欠片も無い。
千賀子も俳優も、品は良くしつつも見慣れた恰好といった感じで、既に何度も経験している俳優の方こそ、スマートに撮影を決めるだろう……と、思われていたのだけど。
「す、すみません、監督……」
「いや、これは仕方がない。噂以上の別嬪さんだからな、緊張するなってのが無理だろ」
「なんとか、頑張りますんで……!」
「いや、止めた方が良い。なんとか撮影が上手くいったとしても、おめぇの方に変なイメージが付きかねない」
「そ、そうですか?」
「なるなる、これ、下手したらPTAとか来ちゃうかもしれないなあ」
まさか、千賀子に色気があり過ぎてダメになるとは──。
「園田ディレクター。さすがに人が悪いですよ。こんなメガトン級の極上美女、若手には荷が重すぎですって」
「えぇ~、無理そう?」
「4,50代以上のベテラン俳優じゃないと厳しいですって。気合で誤魔化すのも限度ってものがありますよ」
「ん~……秋山さん、なんとか色気を抑えられない?」
チラッと、なんとかならないかなあ……みたいな目を向けられた千賀子は。
「これ以上、無茶を言わんでくださいな」
笑顔で、そう答えるだけであった。
……。
……。
…………さて、そんな感じで根本から作り直したCMなのだが、最終的に三つの候補が残された。
どれも、内容はほとんど同じだ。
ただ、着ている衣装が違うのと、多少なり構図が違うだけで、コンセプトは変えていない。
なら、どうして三つも候補があるのかと言えば……それはまあ、どれを選んでもPTAとかから苦情が出そうと判断されたからだ。
──Q.じゃあ、どれもダメなんじゃないの?
──A.ただ映っただけの私がダメだと?
しかし、肌が派手に映ってしまったならともかく、普段着でもなんら不自然さがない恰好で、変なポーズも取っていないのに苦情って……それは私に対して喧嘩を売っているのか、と千賀子の方から異議申し立てをしたわけだ。
前回のも理不尽な評価だったが、今回もそうとなれば理不尽を通り越して非道の領域である。
さすがに、人を歩く卑猥物か何かかと千賀子も怒るわけで……局側としても、スポンサー兼出演者兼権力者でもある千賀子が責任を負うのならば、と。
その結果、一つを選んでください……と、なったわけだけれども。
(……やっべ、どれも同じにしか見えない)
当然ながら──カチンと来て前に出たは良いけど、特にこだわりなんてなかった千賀子には、どれが良いかなんて分からなかった。
ならば、適当に選べば良いのではって話だが……せっかく真剣に作ってもらったわけだし、そんな適当に選ぶのは……とも、思ってしまうわけで。
たぶん、誰も気にはしないだろうけど、それでも、千賀子の方はちょっと思うわけで。
(う~ん……でもなあ、どれが良いのか……)
だからこそ、特に意味もなく、悩んでいますという体を出すために、何度もループして確認し続けていた──。
「あ、そうだ、秋山さん。これ、出来上がりましたよ」
──そんな時であった。
唐突に、園田から一本のテープが渡されたのは。
そのテープのケースにはラベルが張られていて、『記念』の文字が記されて……え、なにこれ?
まったく身に覚えのないのだけど、園田だけでなく、土師田からも、満面の笑みを向けられ……ん~?
(二人からは悪意を感じられないが……とりあえず、見てみるか)
これはアレかな、現代で言う……なんかそんな感じのやつかなって思いながら、スタッフにテープを渡し……再生してもらう。
途端、機器に映像が映し出され、5,4,3……と数字が減り、軽快な音楽と共に風景映像が映し出され、画面端からにゅっと看板を──
『2周年記念ガチャ開催』
──手にした女神さまが、ぬるっと登場した。
「は?」
思わず、ビクッと千賀子は肩を震わせる。
反射的に隣を見やれば、土師田は……いや、土師田だけではない。
気付けば辺りは薄暗く、自分を除いてすべてが停止したかのような……ロボ子ですら、微動だにしていない、そんな中で。
ぽん、と。
千賀子は、己の肩に置かれた女神様の手と、眼前にそっと差し出された1本のダーツを見て、ゾクッと背筋を震わせたのであった。
忘れた頃にやってくる