ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第230話: ワープが便利過ぎるのが悪い

 

 

 

 ──最近、なにやら周りの様子が変だと千賀子が気付いたのは、5月に入ってすぐのこと。

 

 

 どうにも言葉では説明できないのだが、妙に……こう、職員たちの視線が以前とは異なっているように思えた。

 

 心を読めば一発で分かるのだが、悪意が感じられないので、下手に読むことも出来ず……とりあえず、こちらを想っての事なのは察していたので、放置していた。

 

 良くも悪くも美人過ぎる千賀子は、まわりから視線を向けられたり、一方的に想われることに慣れきっていた。

 

 

 その経験から、千賀子はこの感覚は一過性のモノだろうと判断していた。

 

 

 学生の時にも、なんかそんなのがあったのだ。

 

 顔はおろか名前すら知らない男子と恋仲になっているという噂が流れ、よく分からないうちに恋愛模様の争いに巻き込まれていた、あの時のこと。

 

 今回もまあ、誰かが勘違いして、己が知らないうちに気を利かせているのかなあ……と、千賀子は思っていた。

 

 こういう時、千賀子の方から無理やり止めさせようと動いてしまうと、最初に善意から動いてくれた者に責任が向かっていく場合がある。

 

 善意だから許してやれという話ではない。善意が時に、悪意よりもよほど相手を傷つける時があるのは千賀子も知っている。

 

 ただ、そこにある善意を否定してしまうのは、違うわけで。

 

 千賀子としても、優しさからにじみ出た善意を蔑ろにしたくはなかったので、あえて放置することにした。

 

 もちろん、己が反応しないことで誰それが責任を追及される……といった場合も避けたいので、そこだけはロボ子を通じて……で、だ。

 

 

「……なるほど、どういうわけか、職員たちの間では私が議員を目指しているか、芸能界入りを目指しているか、そんな話が流れているわけね」

「職員たちの反応としては、どちらに進んでも応援したい……が、その場合、ここの経営関係がどう動くのか、そこに不安を覚えているようです」

「そもそも、与党も野党も解散していないのだから、選挙に立候補するとかしないとか、それ以前の話じゃない?」

「やろうと思えば、1週間後には解散させられますけど、どうします?」

「止めなさい」

 

 

 そんな千賀子の優しさが、結果的には職員たちの意味不明な行動……ひいては、少し前から続いていた謎の現象の理由が分かったのは、ある意味では皮肉なのかもしれない。

 

 

 さて、話を戻すわけだが……ここで、問題が一つ生じていた。

 

 

 それは、『千賀子・芸能界入り』という話と、『千賀子・政界入り』という話が……思っていた以上に広まっていたということ。

 

 具体的には、つい先日総理から『選挙出るって聞いたけど、補欠選挙?』といった感じで、直接連絡が来た。

 

 それから、なんかテレビとかで耳にはしたけど、顔を合わせたことがない議員からちょくちょく連絡が来た。

 

 そのたびに、千賀子は選挙に出るつもりはないと否定しているが……どうも、一部では『油断させて……』といった感じで、あまり信じられていないっぽい。

 

 いったい、何をそこまで警戒させるのか……正直、千賀子は分からなかった。

 

 なにせ、千賀子は政治関係は素人だ。

 

 それ以前に、腹の読み合いだって本来は苦手で、女神様の存在がなかったら、田舎でまあまあ己の境遇を受け入れ、子どもを産んで暮らしていた女である。

 

 

 ──Q.すっかり忘れ去られているけど、前世は男だったんじゃないかって?

 

 ──A.そんなの、物心付いた(記憶がよみがえり始めた)時から10年も経てば、感覚はすっかり女だ。

 

 

 ぶっちゃけ、女神様が関わりさえしなければ(=^ω^=)ということでもないから話を戻す。

 

 とにかく、だ。

 

 周りは私の事を過大評価し過ぎだろ……と、思わなくはない千賀子さんアラサー(あっという間にアラフォー)世代。

 

 でも、自分がとんでもねえ美人なのはちゃんと自覚している、学生時代は初恋泥棒として不動の1位になっていた女。

 

 見た目が良いから投票する層は一定数あるわけで、けして無視して良い相手ではない……と、思われているかもしれないなと千賀子は思った。

 

 また、芸能関係……すなわち、土師田関係からの連絡も、なんか増えた。

 

 こっちはまあ断られる前提での連絡っぽいが、それでも、万が一の可能性に賭けて……といった感じで、熱意はすごかった。

 

 おまえ、そこまでして私を芸能界入りさせたいのか……と思ったけど、ちょっと詳しく話を聞けば、さもありなん。

 

 

『──そうなったら、映画に出てくれますよね!?』

 

 

 というもので、要は、もう一回出てほしいなあ(チラチラ)、というのを期待したおねだり……たぶん、周りに感化されてもっと出てくれるかもという、アレ狙いだ。

 

 別に、土師田はもう骨の髄までソレだから、今更気にはしないけど。

 

 それはそれとして、なにやらワンチャン狙いで連絡を取ろうとする人たちがチラホラ現れ始めたのは、正直面倒ではある。

 

 いちおう、自分が蒔いた種だから、誰の責任にもするつもりはないのだけど……そこまで考えた辺りで、ふと、千賀子は思った。

 

 

「ねえ、ロボ子」

「なんでしょうか?」

「私って、選挙とか芸能界とかで勝てそうに思えるぐらい、そんなに人気あると思う?」

 

 

 それは、何気ない質問でしかなかった。

 

 少なくとも、千賀子にとっては。

 

 

「は?」

 

 

 しかし、ロボ子からしたら……あまりにも今更過ぎる質問で、思わず一瞬ばかり思考プロセスがフリーズしたぐらいの衝撃であった。

 

 なお、たまたま傍を通った分身の3号は、そのままズコッとずっこけたが……つまり、それぐらい、頓珍漢なことを言い放ったわけである。

 

 

 ……もちろん、あまりにもバカげたことを千賀子が言い放った……その理由は、ちゃんとある。

 

 

 有り体に言うなれば、千賀子は基本的に他者から向けられる『ネガティブな感情』を優先的にキャッチしてしまうからで。

 

 これは、『不用意に他人の心を覗いてはならない、しかし、悪意や敵意や妬み感情は己だけでなく周りをも巻き込む場合が多いので、その部分に関しては別』という戒めを守っているからだ。

 

 意識しなくとも近寄れば香水の匂いを嗅ぎとってしまうような、反射的な部分は別として……ゆえに、千賀子にとって、他人から悪意や敵意や妬みを向けられるというのは日常であった。

 

 自分が美人であり、そういう部分で好意的に見られたり、好かれたり……というのは、ちゃんと自覚している。

 

 だが、ソレとは比べ物にならないぐらいに強烈で、それでいて絶え間なくぶつけられる悪意敵意妬みがあまりにも多すぎて。

 

 それこそ、遡れば『ジョブ:巫女』を得た中学生の時から……それなのに、変に拗れたりしないのは、千賀子の強さでもあるのだけど。

 

 だから、千賀子は己が美人なのは自覚している。

 

 でも、アイドルじゃあるまいし、一時的に注目を浴びることはあっても、『人気』というカテゴライズからは外れるだろうなあ……というのが。

 

 正直な、千賀子の感想でもあった。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………まあ、そんなわけで、だ。

 

 

「……マスター、自らが人気者であるのかどうかを知りたいのであれば、適当に商店街でも歩いてみたら良いかと思われます」

「え? なんでまた?」

「大阪人の気質から考えて、人気者だったら人が寄って来ますし話しかけられる可能性が高いので。もちろん、こっそり近くで護衛しますので」

「まあ、ロボ子が言うなら……」

 

 

 考えたところで埒が明かないだろうとロボ子より提案された千賀子は、促されるがまま『春木競馬場』……ではなく、少し離れて大阪市方面へと足を運ぶことにした。

 

 ただ、その際、せっかくだからエマと春人も連れて行こうと思ったのだけど、それは止めた方が良いと言われてしまった。

 

 理由は、大々的に二人が千賀子の娘と息子であるとお披露目しても、何一つ良い事は起こらないし、おそらくゆっくり動けないはずだから、とのこと。

 

 

 ──Q.そこまでか? (千賀子)

 

 ──A.そこまでです。(ロボ子)

 

 

 関東と関西とでは、人の気質がどうも違う。また、いわゆる下町と、土地開発済みの場所とでも、けっこう違ったりする。

 

 まあ、慣れる慣れないは別として、思い返せば千賀子は関東の方にはチラホラ行ったり、東北や九州に足を運んだりはしたけど、関西の下町なんかには足を運んだ覚えはない。

 

 いくらロボ子が護衛しているとはいえ、慣れない場所に二人を連れて行くのは些か不安が過る。

 

 それに、万が一バカなやつに絡まれでもして、それで二人が怖がったりしたら……顔の形が変わるようなパンチを繰り出してしまうかもしれない。

 

 なので、今回は二人には留守番という形にして、千賀子はロボ子に言われたとおり、大阪の商店街を歩いてみることにした。

 

 

「あ、その場合、ちゃんと公共の交通機関を使ってください」

「え?」

「ワープ使ったら意味がないでしょ。道中も、大事なのです」

「そ、そうか……」

 

 

 しかも、基本的には徒歩で。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………思い返せば、ちゃんと交通機関を使って移動したのは、いつ以来だろうか? 

 

 

 学校を卒業して、色々トラブルに巻き込まれてそのまま退学、その頃から遠方に行く時は利用したが……それぐらいだろうか。

 

 成長するにつれてパワーが上がり、日本国内ならガス欠を気にせずワープ能力を何度も使えるようになってから、とんと遠ざかっていた。

 

 ロボ子が来てからは、そもそもロボ子が車やらステルス飛行機やらを用意するから、余計に交通機関からは遠ざかっていたのだが……で、だ。

 

 

 とりあえず、まずはタクシーで最寄り駅まで向かう。

 

 

 『春木競馬場』からなら、タクシー使わずに徒歩で……と、思われるだろうが、さすがに岸和田からスタートだと人だかり確定だから、そこはワープを使う。

 

 冷静に考えたら本末転倒過ぎるムーブだが、やると決めたらとことんやろうと思った千賀子は、さっそく作戦を開始することにした。

 

 

 今回は、大阪にある三つの商店街を回る、ただそれだけ。

 

 具体的には、『駒川商店街』、『天神橋筋商店街』、『千林商店街』の三つ。

 

 

 ルートもまた、駒川→天神橋→千林の順。極力早く戻りたい気持ちがあるので、無駄は省きたい。

 

 まず、岸和田からは、ワープにてちょっと離れる。場所は適当に……そうだな、サイコロを振って、『堺市』からに決めた。

 

 正直、土地勘なんぞ無いので、近いところから順々に行きたい気持ちが強い。

 

 とりあえず、サイコロでは『平野』と出たので、堺市からタクシーを拾って、そこから電車に乗って『駒川(こまがわ)』で降りて──

 

 

『あ、マスター。その路線、南海平野線は去年廃線になったので、そのルートだと徒歩移動になります』

 

 

 ──行こうと思ったけど、ロボ子からの情報により、断念。

 

 

 商店街前で降りて向かうのはなんだか目立ちそうだが……まあ、ちょっと離れたところなら問題ないだろ。

 

 そう判断した千賀子は、まずはタクシーをばと堺市にて拾い、駒川商店街前へと──

 

 

「あんた、もしかして秋山千賀子さん? ほんまびっくりやわ、こんな有名人乗せたん知られもうたら、周りに自慢できまっせ! せや、こんなんで悪いけど、できたらサインもらえまっか?」

 

 

 ──向かう前に、なんかサインを強請られた。

 

 

 なお、運転手とは初対面だし、千賀子は顔をちゃんとヴェールで隠している。

 

 まあ、白昼堂々ヴェールで顔を隠しているすこぶるやべえスタイルの女なんて、千賀子以外……ちなみに、差し出されたのはサイン色紙ではなく、新品っぽいタオルだった。

 

 なんで、タオルなのか。

 

 視線を向けると、「これな、昨日こうてきたんやわ!」なんか笑顔で……違う、そうじゃない。

 

 そうじゃないけど、悪意も悪気も全く無いのは伝わってくるし、悪い意味での下心を感じなかったので……呆気に取られつつも、千賀子はタオルにサインをしたのであった。

 

 

 ……うっすらと嫌な予感を覚えた千賀子だが、この時、まだ気付いていなかった。

 

 

 大阪の洗礼は、これからだということに。

 

 

 

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