ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第231話: さすがに、かき氷が食えたとしても時期が早い

 

 

 

 けっこう誤解されがちな事ではあるが、大阪人だからといって、誰も彼もが陽気なわけではない。

 

 やっぱり、人には向き不向きというやつがあって。

 

 大阪人でも関東の空気の方が馴染む人も居れば、関東人でも関西の空気に馴染む人も居る。

 

 別に、良い悪いの話ではない。

 

 全体的な気質というか、傾向が偏ることがあるにせよ、関東なら〇〇、関西なら××、そういう偏見で見るのはあまりよろしくはない、という話である。

 

 まあ、それはそれとして、だ。

 

 

「やっだ~、本物はずっと別嬪さんやん! 本物? 本物のオーナーさん? 良い匂いするで、この人!」

「初めて見たわぁ! 握手して、握手! ──さん、この人手もややこいわぁ! すべすべやで!」

「ほんまに顔隠しとる! あんさん美人なんやから勿体ないで! でもまあ拝んどこ!」

「テレビで見るよりおっぱいデカいやん! 金持ちはおっぱいもデカいやん、ちょっと分けたってぇな!」

 

 

 偏見は良くないけど、それはそれとして、関西なら〇〇という人の割合が多いのもまた、事実なのであった。

 

 

 ……少しばかり時間が巻き戻る。

 

 

 そう、最初はまだ、何も起こってはいなかった。

 

 タクシー内で競馬の話とか振られたり、こっちの方も手を伸ばすのかと聞かれたり、CM見たでと言われたり。

 

 あと、真正面から『政治家とか芸能人なる言うん、本当なん?』と聞かれたのは、ちょっと驚いた。

 

 関東とかだと、こういう話はけっこう遠回しというか、回りくどい聞き方をしてくる事が多いので……真正直過ぎて、なんだか新鮮な気持ちになった。

 

 それにしても、いったいどこから話が漏れて、どこから伝わって……十中八九、競馬場関係者からなのを察して、千賀子は苦笑を零した。

 

 とりあえず、どちらも成るつもりはない……とだけは伝え、雑談を軽くしてから、現地到着。

 

 そこで、釣りはいらぬと万札を渡して車を降りて──直後、二度目の声掛け。

 

 

「──うっわ、本物やん! 初めて見たわ!!」

 

 

 その声の主は、リーゼントや金髪が立派な改造学生服の……いわゆる、不良と呼ばれた学生集団であった。

 

 

 ……この頃、日本全国では校内暴力が荒れ狂い、漫画などでも暴走族や不良をテーマにした漫画が爆発的なヒットを記録していた。

 

 

 そのキッカケを語り始めると長いので省略するが、それぐらいこの頃は不良と呼ばれた子供たちの数が増えていて……けっこう、いろんなところでその姿は見られていた。

 

 

 まあ、ちなみに、だ。

 

 

 本当に家庭環境などが劣悪で不良と呼ばれる世界に行った者もいれば、女にモテたいあまりそういう髪型にして……という子もいたりする。

 

 また、この頃はロン毛と呼ばれる長髪の髪型もそうだが、いわゆるチェッカーズカットと呼ばれる髪型なども流行っていたりする。

 

 なので、必ずしもリーゼントをしているから不良というわけではなく、一部は流行りに乗っかって……というのも実際のところであった。

 

 ……まあ、平日現在の時間にて学校に行かず商店街に居る時点で、素行が良いわけではないのは……いや、あまりにも酷い教師がすし詰めな学校もあったし……と、とにかく、だ。

 

 

「──わ、ほんまや! ──さん、来てみ、来てみ、本物おるやん!! すっごいオーラやわ、やっぱ社長さんになると違うんやな!」

「びっくりしたわぁ! なんでこんなとこおるん? ここなんておばちゃんがやっとる総菜屋ぐらいしかないで!」

「なに言うとんねん、服も売っとるわ! せや、せっかく来たんやから、ちょっと見ていってぇな!」

 

 

 一人の声をきっかけにして、ゾロゾロと……わざわざ店を離れ、駆け寄って来る者まで出てきて。

 

 さすがに、この勢いには面食らい……そして、冒頭の場面に戻るわけだ。

 

 なんというか、関東とはまた違った勢いがある。

 

 どちらが悪いというわけではないが、妙な押しの強さは関西の方が……とりあえず、千賀子は話しかけてきた彼ら彼女らに目的を……ぼかして話す。

 

 具体的には、そういえば大阪をちゃんと見て回っていないので、適当にぶらついている……といった感じ。

 

 冷静に考えて、自分が人気者かどうか、その確認のために商店街に来ましたっていうの、とんでもない自虐行為だということを理解していたから、そのようにした。

 

 なお、そう話した瞬間、なんかさっきのリーゼント集団が近寄ってきて、案内してやるとか言い出したので、ヴェールの中で思わずフフッと笑いかけたのは秘密である。

 

 

 いや、だって、うん。

 

 

 ワックスでキッチリばっちりセットしたリーゼントが目立つ、明らかにヤンキーみたいな風貌の男たちが、なんかこうデレデレした感じで「こっちです!」と先導するのだ。

 

 たとえ、その理由が、美人に良いところを見せたいという下心だとしても……まあ、男だったら相手にされないどころか因縁を付けられた可能性があったから、良いのか悪いのかは分からないけれども。

 

 

 ……で、だ。

 

 

 こっちです、と案内されたところで、そもそも千賀子は行き先なんて伝えていない。ただ、ぶらついている、それだけ。

 

 他の人に連れて行かれる前にと意気揚々と声を掛けたリーゼント少年たちだが、彼らとて、行き当たりばったりであった。

 

 つまり、エスコートなんて出来ないわけで……おまけに、金も無いわけだ。

 

 令和の時代ならともかく、この頃の若者なんてマジで金が無いやつが多かった。

 

 もちろん、バイトをすれば良かったのだが、この頃は現代とは比べ物にならないぐらいに若者の数が多く、また、校則でガチガチに禁止しているところが多く。

 

 雇う側も余計なトラブルを嫌がり、美味しいバイトは一部の者たち(具体的には、顔が良い、など)に限られていたこともあって……まあ、だからこそ。

 

 

「……お昼も近いし、ご飯奢ってあげるから、適当な店に案内してちょうだいな」

「マジぃ!? やりぃ、昼飯代浮いたやん!」

 

 

 そう、千賀子が行き先を促せば、リーゼント少年たちは喜色満面といった様子で歩き出し……そうして、案内された先は。

 

 『食堂』、であった。

 

 それは、後にかき氷が有名になる、駒川商店街において老舗である食堂(学生にも優しいお手頃価格)へと案内された。

 

 その名の通り大衆食堂みたいなもので、比較的早い時間に限らず、店内はけっこう賑わっていた。

 

 いちおう、客観的に見たら、だ。

 

 東京でもそうは見かけないレベルの超美人を連れてくるには場違いというか、悪いわけではないのだけど……という状況なのだけど。

 

 

「ここの飯、バリ美味いっすよ!」

「そうそう、おすすめはキツネソバ!」

 

 

 厳つい見た目とは裏腹に、年齢相応に笑って席へ案内するリーゼント少年たちを見て。

 

 

(こいつら、けっこう可愛いなあ……)

 

 

 思わず、心の中でちょっと情が湧きそうになった千賀子で──しかし、そんな猶予など、大阪には無いのだ。

 

 千賀子の登場に、店内に居た者たちもめちゃくちゃ反応し、なんか店員が店の奥から色紙……というより、なんかメニュー表を持ってきたかと思ったら、それを裏返したので。

 

 千賀子は……無言のまま、キュキュッとサインしたのであった。

 

 なお、ちゃんと口約束通り、リーゼント少年たちの昼飯代は奢り……ついでに、その時店に居た者たちの昼飯代もついでだと奢り。

 

 その際、奢りだからと全部大盛りを頼んでヒイヒイ言いながら気合で食べ終える少年たちと、騒ぎを聞きつけて駆け付けた、少年たちの友人にも昼飯代を奢り。

 

 腹八分目程度に頼んだキツネソバが、どういうわけか大盛り具材全部乗せ(サービス)みたいなのに変わっていて。

 

 さすがに食べきれないので、余った分を誰か食べてと言えば、なにやら男連中でじゃんけん大会を始めたり。

 

 最後に、どういうわけか居合わせた人たち全員と握手をして……それから、千賀子は店を後にしたのであった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………さて、それから、どうしたのかと言うと。

 

 

 一言で言えば、もみくちゃ、である。

 

 もう、とにかく人が多い。人通りが多い。

 

 平日だから、まだマシなのだろう。それでも、下手したら『春木競馬場』に居る時よりも熱気を感じる、それほどの重圧。

 

 ちょっと進めば握手なりサインなりを求められ、足を止め、ちょっと進めば『見てってや!』と声を掛けられ。

 

 男連中は、まだマシだ。

 

 集団になると声を掛けてくるが、あしらい方は分かっているし、真昼間から絡んでくるようなやつは、商店街にはいない。

 

 ただ、女連中は……同性だからなのだろうけど、距離の詰め方が早すぎて逆に面食らった。

 

 なんか、『これな、けっこう人気やねん、あげるわ!』と、いきなり紫色のカーディガンみたいなのを渡された時は、思わず戸惑ってしまった。

 

 まあ、体系的にどう足掻いても羽織るのも厳しいみたいなサイズ(前がまったく閉まらない)だったので、そう断ったら笑顔で引いてくれたのは助かったけど。

 

 

 とにかく、だ。

 

 

 あまりのパワフルさに無視するのも可哀そうなので、律儀に足を止めていたが……さすがに、途中からは用事を思い出したと前に出る。

 

 なにかお土産でも買っておこうかと思っていたが、とてもではないが、足を止められない。

 

 止めたら最後、『うちも、うちも』と手を振られそうで……途中、春人が悦ぶかもと少し年季が入った模型屋を見かけたけど、泣く泣く断念。

 

 そうしないと、なんか無限に人が集まってきて、あちらこちらに引っ張られそうな気配がしたからだ。

 

 特に時間制限を設けているわけではないが、だからといって、無限に時間があるわけでもない……ので、フリフリと手を振って商店街を出て……たまたま見かけたタクシーに手を上げ、乗り込む。

 

 そこで、ようやくため息をついて気を抜く。

 

 とりあえず……自分がまあまあ注目が集まるぐらいには人気だったのは実感した。

 

 ここで止めても良いのだが、せっかく来たわけだし、途中で止めるのも負けた気がするので……次は、『天神筋橋商店街』へと向かうことにする。

 

 

『──マスター、次に行く商店街は距離が長いので、気を引き締めておくことを勧めます』

(そうね、覚悟しておきましょう)

 

 

 まだ一つ目だというのに、妙に疲れた……なんだか目を瞑ったら眠ってしまいそうな気持ちになっていた──そんな千賀子に。

 

 

「すんまへん、良かったら、サインもらえんか?」

 

 

 運転手より、折り目がけっこう付いた、折り畳み地図の裏側をペラっと向けられた千賀子は……無言のままに頷き、サインをするのであった。

 

 

 

 

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