ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第232話: なお、神社や寺はスルー(下手に入るとヤバいので)

 

 

 天神橋筋商店街……それは、大阪どころか日本全国を見渡しても、これ以上ないぐらいに長~い、商店街である。

 

 その始まりは江戸時代にまでさかのぼると言われ、『天下の台所』とも呼ばれ、流通や金融の全国拠点の窓口にもなっていた地域である。

 

 現在での全長は、約2.6km。

 

 徒歩にして、端から端まで歩くのに約40分近く必要とする距離で、往復すると1時間ではとうてい足りない距離になる。

 

 明治初期の段階で既に約1.9kmもあったというのだから、驚きである。

 

 なお、商店街に初めてアーケードが建設されたのは昭和32年(1957年)のこと。

 

 あの、伊勢湾台風より2年も前のことだ。

 

 千賀子がまだ7歳ぐらいの頃で、その頃の千賀子はまだ『魅力ガチャ』に振り回されてはいない、何処にでもいるガキんちょの一人であった。

 

 自転車を操縦する祖父の背中に身を預けて、『小川』への魚釣りに行ったり、祖母とお手玉をしたり、母に手を引かれて買い物に行っていた……そんな頃だ。

 

 そして、第二のアーケードが設置されたのが、昭和51年(1976年)。

 

 その頃は、エマがまさに可愛い盛りの5歳児。

 

 世間では、『およげたい焼きくん』が……いや、それは前世の話で、今生では『泳ぐんだよ、早くしろよ!』だろうか。

 

 誕生日プレゼントとしてたい焼きを焼くプレートをおねだりされ、両腕が筋肉痛になるまでひたすら焼きまくっていた頃である。

 

 ちなみに、その前には道路カラー舗装が初めて行われたり、地下鉄谷町線が延長したりなど……話が長くなるので、戻そう。

 

 とにかく、それほどに歴史があって、距離も長~い商店街へとやってきた

 

 

「あれまぁ!? 本物やわ!!」

「おっちゃん、店から出て来てみ、本物来とるで!」

「テレビで見るよりすごいやんか……」

 

 

 途端、デジャヴュ体験。

 

 顔ぶれというか客層というか、通行人の雰囲気はそう変わってはいないが、平日ゆえに大人の方が多い。

 

 けれども、大人だからって静かなわけではなく……それはもう、気付けば団子状態になるまで人が集まって来る。

 

 もちろん、立ち止まることはしない。立ち止まったら、冗談抜きで動けなくなるからだ。

 

 さすがに、二度目ともなれば慣れたモノ。歩きながら、シャツだったり、店のメモ帳だったり、サラサラッとサインをしていく。

 

 

「このシャツ、もう洗えんわ」

 

 ──いや、洗えよと思った千賀子だが、言うと足が止まるので無視するしかない。

 

 

 合わせて、左右の店から『ちょっと見て行ってや』という声が……これも下手に立ち止まると無限にストップを掛けられるので、立ち止まらない。

 

 というか、下手に立ち止まると後ろをゾロゾロ付いてくる人たちが詰まって大変なことになるので、止まろうと思っても止まれないのが正しい。

 

 

 ……現代でも天神橋筋商店街の賑わいは相当なモノだが、1980年代の賑わいの前には霞んでしまう。

 

 

 なんでかって、単純にこの頃はまだ大型ショッピングセンターの数が少なく、商店街が生活を支えていたと言っても過言ではなかったからだ。

 

 特に、天神橋筋商店街は、その長さのおかげで、とにかく店舗数が多い。

 

 欲しいモノがあったら、だいたいどこかに扱っている店があるので、端から歩いて探せ……といった感じだ。

 

 地元育ちでも、一般客の立場からしたら、端から端までキッチリ店の位置を記憶している者はそうはいない、だいたいうろ覚え。

 

 それも、致し方ない。なにせ、徒歩にて約40分。

 

 日常的な買い物なんて、だいたい馴染みの店をいくつか見つけ、お気に入りの店をいくつかで……それでまあ、事足りるわけで。

 

 『たしか、あのあたりに……』という感じで、近くに住んでいても、ぼんやりとしか把握していないという人はけっこう多かった。

 

 

(味噌の匂い……う~ん、気になるけど、このタイミングではなあ……)

 

 

 ちらりと、人だかりの向こうにチラッと見えた味噌屋の姿に、千賀子はちょっと残念な気持ちになった。

 

 なんでかって、この頃の味噌は、現代のように白みそ黒みそ赤みそ満遍なく多種多様にスーパーで買える物ではなく、専門店にしか下ろしていないという味噌が相応にあった。

 

 つまり、高級店とは別に、その店にしか置いていない庶民価格の味噌というモノがチラホラあったのだ。

 

 これはまあ……令和の現代人にはちょっと馴染みが薄いかもしれないが、実はこの頃の味噌は、容器がプラスチックに転換し始めていた時期でもある。

 

 都心部や開発が進んだ地域などではスーパーの数も増え、プラスチック容器に入った味噌が売られていたが、場所によってはまだまだ量り売りのところもあった。

 

 これの違いは色々あるが、樽より取り出す味噌はプラスチック容器には無い風味があり、人によっては多少高くても量り売りで購入する人も居たのだ。

 

 もちろん、時代の流れ、流通網の拡充、製造技術の向上によって、徐々にプラスチック容器が主流になっていくのだが……それはまだ、もう少し先の話。

 

 そして、エマや春人(こっちは薄味だけど)には、食わず嫌いを無くしてほしいという思いから、時々だが千賀子は、味噌や調味料を変えたりしていた。

 

 

(……ただ通り過ぎるのもなワケだし、見てみるか)

 

 

 なので、次にここへ来る機会が未定な以上は……自分もちょっと興味があった千賀子は、神通力を使ってスルリと間を抜けて、店の中へ。

 

 

「おススメ、あります?」

「あるよ! ちょっと待ちぃ、お湯用意するから!」

 

 

 そう言うと、店員のおばちゃんは「あんたぁ! ちょっと熱湯持ってきて、味噌の味見するから!」、いきなり店の奥へと声を張り上げ……まあ、うん。

 

 普通は味見なんてさせないけど、千賀子というビッグネームが登場したから、セールスの……まあ、こういうのも致し方ない面はある。

 

 そうして少し待っていると、店の奥から「なんやねん、いきなり人を怒鳴りつけ──」ちょっと頭が寂しくなっている男が、湯気立つヤカン片手に……千賀子の姿を見て、ポカンと呆けてしまった。

 

 驚くのも、無理はない。

 

 ただ、圧倒されたのか、目を白黒させる……そんな旦那をしり目に、おばちゃん……奥さんの方は実に愛想よく準備を進めると、千賀子の眼前に味噌を溶かした椀を置いた。

 

 少量ゆえに、少し息を吹きつけるだけで飲める温度だ。香りは……普段飲んでいるやつとは、少し違う気がする。

 

 

(……さすがに、顔を隠したままなのは失礼かな)

 

 

 せっかく用意してくれたので飲もうと……思ったけど、さすがに外国の地ならばともかく、日本でそんな方法を続けるのは、いささか失礼ではないだろうか? 

 

 そう、郷に入っては郷に従え、というやつだ。

 

 いくら偉い立場になろうとも、従わなければならない時は従わなければならないし、相手によって失礼な態度を取って良いわけではない。

 

 そう思った千賀子は、スッとヴェールをめくる……もちろん、ただめくるわけではない。

 

 例えるなら、グッと力を入れて息を止める……といった感じだろうか。

 

 ちょっとまだ攻めの魅力とやらを抑えつけるに必要な力の加減が掴めていないから、慣れていない他人に顔を見せる時は、色々と身構えなければならない。

 

 

 ……で、だ。

 

 

 そうして、露わになった顔で椀を受け取れば……周り、というか、店の外から野次馬をしていた者たちも含め、おお……っとざわめきが生まれる。

 

 やはり、という言い方はなんだけど。

 

 映像越しではなく、生で拝見する千賀子の美貌は、一味違う。手遅れレベルの影響は避けられるが、同性ですらクラッときてしまうぐらいで。

 

 初めて見た人が思わずため息を零してしまうのもまあ、仕方がない話であった。

 

 ……そうして、味見をいくつか終えて。

 

 

「このお味噌、樽でもらえる?」

 

 

 なお、店によっては小樽で買えた。

 

 それで安くなったりはしないし、生ものなので、一般家庭で樽買いする者はそういなかったらしいけど。

 

 

「まいど!」

 

 

 太っ腹な買い方をするのもまた、今の千賀子の立場では、致し方ない面があるわけで……ん?

 

 

 ……わざわざ買う必要があったのかって? 

 

 

 令和の現代的考え方ならば、奇妙な行動に思えるかもしれないが……この頃の考え方としては、あまり間違った使い方ではない。

 

 人間、嫉妬の心はどこからでも生まれるモノだ。

 

 金を持っているやつがチビチビとした使い方をしていると、『ケチ臭いやつ』と一方的に悪く言ってくる者だって少なくない。

 

 下心があろうとも、それでも、心の一つである。

 

 元々、女神様からの貰い物だし……そんな感じで、千賀子は……たまたま近くに居た若い男に万札を渡し、出口まで荷物持ちをさせたのであった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………ちなみに、だ。

 

 

「モスクワ……行った事ないけど、こんな味なのかしら?」

 

 

 さすがにお土産が味噌ではエマが微妙な顔をするのは想像するまでもなかったので、甘いお菓子も買った。

 

 それはかつて、『モスクワの味』というキャッチコピーで関西にて親しまれていた、洋菓子・製パンの店より購入した。

 

 この頃を知る人なら、一度は目にしたかもしれないCMを覚えているかも……まあ、そんなわけで、だ。

 

 

「あのぉ、サイン、もらえんかね?」

「いいですよ」

 

 

 再びタクシーに乗り込んだ千賀子は、差し出された真新しい業務用紙の裏に、サラサラッとサインを書いたのであった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………正直なところ。

 

 

 なんかもう疲れて来たから帰りたいなって気持ちになっていたけど、最後まで頑張れと己を鼓舞しつつ……千賀子は、しばしの休憩に身体を休めるのであった。

 

 ──そうして、少しばかり車に揺られて……よっこらしょと、車を降りた千賀子に向けて。

 

 

「──っ!? うっそ、秋山千賀子やん!」

「うん、知ってた」

 

 

 そう声を掛けられ、人が寄って来るのを見て、ヴェールの中で千賀子はため息を零したのであった。

 

 

 

 

 






※ もしも千賀子が女神様にお伺いを立てずにうかつに神社や寺に入ったら、境内の大地は割れ、本殿は倒壊し、ご神体は粉みじんに砕け散り、寺の像は苦悶の顔で首がねじ切れていたところである。
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