ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第234話: 審査員「     」 履歴書を見た時の言葉を考えよ

 

 

 

 ──しばらく禁酒しよう。

 

 

『神社』の自室にて、広げた新聞紙を前に。

 

 そう、千賀子が静かに&強く決断したのは、新聞記事に己の事が出ているのを見つけた時であった。

 

 

【秋山千賀子、政界入りを表明か!?】

 

【浪速の女帝、芸能界へ殴り込み!?】

 

 

 パッと見た限りでは荒唐無稽な飛ばし記事(いわゆる、真偽不明のニュース)にしか見えないだろう。

 

 だが、しかし、悲しい事に……今回に限り、全てがそうというわけではない。

 

 だって、実際に口にしちゃっているのだ。

 

 酒に酔っていたとはいえ、だ、

 

 芸能界がなんぼのもんじゃい、政界がなんぼのもんじゃい、と。

 

 実際に口に出してしまっていたわけで、その姿を……パシャッと激写されてしまったわけである。

 

 おかげで、『春木競馬場』の関係者だけではなく、両親もそうだし、友人の明美と道子からも、本当なのかって……うっ、止めよう、この話は。

 

 

 とにかく、だ。

 

 

 事あるごとにこの話をチラホラ持ち出されるばかりな千賀子は……ちょっと、辟易していた。

 

 知らぬ存ぜぬで通すのは簡単だけど、それはそれとして、一度は口に出してしまったわけだし……言われるのはまあ、仕方がない。

 

 ただ、なんかこう……アレだ。

 

 テレビでもそうだけど、なんか芸人とかがこう……自分をネタにして漫才しているのを見て、ちょっと思うところがあるわけだ。

 

 

 ……いや、まあ、アレなんだよ。

 

 

 別に、漫才に使うのは構わないのだ。

 

 たとえ、明らかに胸元に詰め物をして、いくらなんでもオーバー過ぎるだろ……みたいな恰好をしていたり。

 

 ちょっとおまえ人によっては怒るだろ……みたいな物で顔を隠していても、別に千賀子は責めるつもりはなかった。

 

 実際、『漫才に使わせてください、お願いします』って頭を下げに来られた人も居たし……本当に、そこを責めるつもりはないのだ。

 

 ただ……まあ、その、こう言ってはなんだけど。

 

 

(漫才の事とはいえ、そこまで私をキレイどころ扱いされると……その、期待値だけ上げられ続ける感じで、ちょっと嫌だなあ……)

 

 

 その扱いに関しては、幾ばくか納得できない部分があった。ありていに言えば、持ち上げ過ぎは止めろ、な気持であった。

 

 

 ……何度も言うけど、千賀子は己の美貌というものを理解している。

 

 

 理解しているからこそ、周りから美人扱いされても動じないし、異性同性問わず、めたくそに嫉妬をぶつけられる事にも慣れている。

 

 様々な媒体や団体などから意図的に不細工な感じに描かれたり、おまえそれ歩けないだろってぐらい胸を強調されたり、根も葉もないデタラメを広められた事だって経験している。

 

 だからこそ、今さら漫才のネタとして色々と特徴を強調されるぐらい、千賀子にとっては取るに足らない些事でしかなかった。

 

 

 ……とはいえ、だ。

 

 

 それはそれとして、あまりにも美人扱いされたりされると、少々気まずい気持ちにはなるわけだ。

 

 千賀子はもう、己が一般的には好かれているし、ちゃんと美人扱いされている……というのは、身に染みて理解した。

 

 だからこそ、ちょっと考えるわけだ。

 

 

 ──いや、私だって、もう31歳だよ、と。

 

 

 今はまだ顔を隠す必要があるわけだけど、年老いて『魅力』も衰え始めた頃……そこで、素顔を出してみたとする。

 

『あれ、思っていたよりオバ──』

 

 そんなことを言われたら、さすがの千賀子もピキッと表情も凍る。

 

 さすがに、勝手に期待されて、勝手に失望されるのは……千賀子としても、ちょっとカチンと来てしまうわけだ。

 

 だから、あんまりにも期待値ばかり上げられるのは、千賀子としては嫌である。

 

 己が人外認定されるレベルの若作り(?)とはいえ、さすがに限度があるだろう……と、千賀子は思っているわけだ。

 

 だって、あと数年で40代……世間的には現時点でオバサン扱いされる年齢なのに、そこから更に進めばもう、どう足掻いてもオバサンである。

 

 人によっては、二十代でオバサン呼びされてもおかしくない……そんな年齢に差し掛かっているのを冷静に受け止めた千賀子は……ふと、自室に置かれている姿見に目を向ける。

 

 

 姿見……つまり、全身が映る鏡。

 

 千賀子はそれを、真実の鏡と内心では呼んでいる。

 

 

 なんでそう呼ぶのかって、その鏡……置かれている位置と鏡面の角度、室内に取り付けられている照明器具の向きによって、真実を映し出すから。

 

 具体的には、光の加減などによって若々しく見えたり、シワが少なく見えたり、そういった効果が全くないのだ。

 

 つまり、デブははっきりとデブとして映るし、目の下のクマは色濃く映るし、肌の弛みやシミもばっちり映ってしまう、というわけだ。

 

 

 これは、アレだ。

 

 

 自宅の鏡で己を見るのと、外で設置されている鏡で己を見るのとでは、印象がガラリと変わったように感じる、アレ。

 

 かつて、千賀子がポチャ子になった時、この鏡の前で幾度となくダイエット宣言を復唱させられたのは……っと、話を戻そう。

 

 現在時刻は、まだお昼をけっこう回った頃。

 

 平日なのでエマは当然学校に通っていて、春人も今はスヤスヤ寝ている……真実を直視するのは、今がちょうど良いタイミングかもしれない。

 

 

(……ヨシ)

 

 

 スルリ、と。

 

 巫女服を脱ぎ捨て、鏡の前へ。

 

 今日はロボ子作の下着……付け心地を追求したブラを外せば、重力を受けた膨らみが、すっかり慣れた感覚と共にズシッと肩に掛かる。

 

 次いで、パンツも脱ぎ捨て……改めて、鏡の前で気を付けの姿勢を取った千賀子は……ふむ、と納得に頷いた。

 

 そこには、わざわざ言うまでもないことだけど、等身大の千賀子が立っていた。

 

 顔は……どうだろうか? 

 

 さすがに毎日見ている部分だから、どこがどう変わっているのかを上手く説明出来ないが、それでも、昔に比べて老けたな……とは、思える。

 

 小じわは……小じわって、どれなのか……とりあえず、なんか目じりにある「──それは昔からですよ、マスター」……違うようだ。

 

 背後で控えているロボ子を見やれば、ロボ子は静かに首を横に振った……見なかったことにして、次だ。

 

 肩は丸みを帯びて、大きく膨らんだ胸は昔に比べて少し垂れ下がっている……下がって……いや、これ昔より大きい……うん、そんな気がする。

 

 その下にあるお腹はまあ、昔のようにうっすら腹筋が浮き上がってはいな……いや、どうだろう……うっすら見えるかもしれない。

 

 わき腹を抓めば、昭和のこの頃でもすっかり社会問題化しつつある肥満を示す証が……あれ、思ったよりも……と、とにかく、昔に比べたらあるような気がする。

 

 その下は……下は、どうだろう? 

 

 とりあえず、ずっと生えてこない部分は今も生えていない、ツルツルなまま。いちおう確認してみれば、黒ずんでいるといった変化も無い。

 

 太ももは……どうだろう、昔に比べたら、ちょっと柔らかくなっている感じだろうか? 

 

 以前測った時のサイズでは、昔に比べたら少しばかり太くはなっているようだけど、それでもロボ子からアウト判定を受けていないから、まあセーフ。

 

 そのほか、シミのような痕が……痕が、どこに……とりあえず、ホクロが一つ……一つ……あれ、無い? 

 

 …………しばし考えることを止めた千賀子は、頷いた。

 

 やはり、真実の鏡は正確に己を映してくれると改めて千賀子は納得し……服を着てから、改めて背後のロボ子へと尋ねた。

 

 

「ロボ子、私って客観的に何歳に見える?」

「色気が十代のソレではありませんが、三十代には間違っても見えませんね、人によるかと」

「そっかー……」

 

 

 どうやら、ロボ子の目から見ても、『オバサンを自称する年齢不詳の若い女』という判断のようだ。

 

 しかし、どれだけ千賀子が若々しさを保っていたとしても、客観的な事実は、31歳の女、これが全てである。

 

 そして、あと数年でアラサー、次は40代。

 

 いくら女神様の加護があるとはいえ、さすがにシワの一つや二つ、弛みの一つや二つ、出てくるのは確定──まあ、うん。

 

 

「ロボ子さぁ……なんかこう、合法的に、私ってそんなみんなが思うほどじゃないよ、そろそろオバサンになるよって……知らしめる方法ないかなぁ?」

「え? まだそんな馬鹿なことをお考えで????」

 

 

 ──こいつまだ変なところで意固地だな。

 

 そんな目を遠慮なく向けてくるロボ子に背を向けた千賀子は……それでも、思うのだ。

 

 

「だって、ほら……あんまり私がキレイな扱いされると、エマもそんな扱いされそうじゃん?」

「はい?」

 

 

 話の意図が分からず目のセンサーをキュインっと絞るロボ子に、千賀子は……考えすぎだとは思うけど、と前置きをしてから説明した。

 

 それは、千賀子がまだ小学生の頃。

 

 令和の現代とは違い、1950年代の小学校というのは本当に血筋の坩堝(るつぼ)みたいなもので、本当に賢いやつと本当にバカなやつが同じクラスにいた。

 

 現代なら、ストレートで東京大学に行くような地頭の子と、小学校の勉強すら難しい……という子が、同じクラスに居たりしたのだ。

 

 そんな中で、千賀子の学年には……女子たちから人気が高かった、とても美形な男子が居た。

 

 千賀子は興味無かったけど、明美や道子からは美少年という評価を得ていた、その男子だが……ある日、とても話題になった事がある。

 

 キッカケは、授業参観日。

 

 そう、その男子の両親も来ていたのだけど……その、両親の顔が問題であった。

 

 率直に語るならば、母親は美形だったけど、父親が……まあ、そんな感じだったのだ。

 

 もちろん、それだけの話なのだ。

 

 それだけの話なのだけど、女子たちのみならず、一部の男子も同じことを何度も何度も呟くのだ。

 

『おまえんちの父ちゃん、おまえと違って不細工だよな』、と。

 

 当人たちには悪気などない、ただ思ったことをそのまま呟いただけ。

 

 でも、それがその男子にはとても辛かったようで、とても悲しそうに……つまり、何が言いたいのかというと、だ。

 

 『千賀子の娘=美少女』と、周りが勝手に決めつけてほしくないのである。

 

 千賀子の娘だから美少女、なのではない。

 

 そんなこと関係なくとも、エマは美しい。

 

 己をダシにして周りがエマを評価したり、色眼鏡で見たり、そういう事を誰もしてほしくない。

 

 千賀子は、千賀子。エマは、エマ。

 

 そのためにも、何時までも若々しい人外染みた美貌を持つ魔性の女……ではなく。

 

 ちゃんと歳を取って、シワの一つや二つは出てきてオバサンになってきている女……として、周りに見てほしいわけである。

 

 

 ……世の女性たちが聞いたら嫉妬で剃刀レターを通り越して包丁を投げつけられそうな話だが、千賀子はけっこう本気であった。

 

 

 いずれ、エマや春人が主役になる時が来る。

 

 規模が小さく、誰にも見向きされていないスポットライトだとしても、必ず主役として立たなければならない時が来る。

 

 その時、何時までも若々しい己は邪魔になる。

 

 だからその時までに、己は過去の女として、年老いていたいと……ちゃんとオバサンだと周りに認識してほしいのである。

 

 

「……では、老けて見えるような化粧をしますか?」

「ぜったい途中でバレるからダメ、女神様から邪魔されそうだし」

「では、手術します?」

「今さらこんなことを言うのもなんだけど、親から貰ったこの身体に、怪我や病気でもないのにメスは入れたくない」

「なるほど、マスターってば相変わらず面倒くさい事を考えますね」

「そう思う?」

「思いますよ。だって、エマちゃんも、春人くんも、キレイなままのお母さんであるマスターに好意的ではありませんか?」

「それでも、だよ」

 

 

 キッパリと、千賀子は答えた。

 

 

「私だって、老いるんだ。まだ全然早いと思うけど、親もちゃんと歳を取っているっていうのを少しずつ教えないとダメだから」

「……マスターは、変なところでスパルタですね」

 

 

 心底面倒くさいって態度を欠片も隠さないロボ子に、千賀子は何も言わず……代わりに、無言のままに見つめた。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………しばしの間を置いてから。

 

 

「とりあえず……周りの目を、修正しましょうか」

 

 

 ロボ子はギュイインっと、ため息のような駆動音を立てた後で……静かに、行動に移したのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………で、その結果、千賀子は。

 

 

「……え、えっと、エントリー№31番、秋山千賀子ちゃん、さ、31歳……これ、冗談じゃなく?」

「はい、秋山千賀子31歳! 子どもが二人います!」

「あの、私の記憶違いじゃなかったら貴女、競馬場のオーナーさんでは……?」

「今日は知り合いに応募されてオーディションに参加した、二児の母親です! キツイと思われますが、遠慮なく落としてくださって大丈夫です!!」

 

 

 ごちゃごちゃ考えず、客観的かつプロの目から見てもらって評価してもらえ……ということで。

 

 

 千賀子は、31歳にして、アイドルオーディションへと殴り込みを掛けたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




明美&道子「あんたはもう、昔からどうして変なところで思い切りが良いの!?」
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