ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
先に結論から述べさせてもらうなら、オーディション会場に姿を見せた千賀子の姿は、誰がどう見ても不審者だと判断するぐらい怪しかった。
なにせ、顔を隠しているのだから。
それも、マスクなどで口元を隠しているなんて話じゃない。
ヴェールでしっかり、上から下まで顔を隠している。ぐるりと首から上の全てが隠れているから、横顔を確認することすらできない。
常識的に考えて、芸能界なんていうのは兎にも角にも顔を売る場であり、どれだけ売れっ子であろうとも、わざわざ顔を隠す者はいない。
この時点で、普通は警備員なり警察なりが呼ばれる事態である。
しかし、呼ばれなかった。
何故ならば、その不審者が女だったからだ。
それでいて、服の上でも分かるぐらい、御冗談だと思われてしまうレベルのボディスタイルだ。
詰め物のようなわざとらしさのない、ちゃんと肉体と地続きだからこそ伝わる、本物っぽさ。
そう、本物っぽさは、所作に出る。
歩き方もそうだし、立ち振る舞いもそう、細々とした動きに、その体系に沿って慣れた動作をしているのかが分かる。
その点を踏まえれば、その動きは誰が見ても違和感を覚えないぐらい洗練とされていた。
そりゃあ、不審者ではあるけれども、ただの不審者ではないのか……と、何も知らない者でも、思うぐらいだ。
『……まさか、ね』
そして、秋山千賀子という女を知っている者は、いやいやそんな馬鹿なと首を横に振って、見なかったフリをした。
どうして、そんな対応を……それは、オーディションが東京で行われていたからだ。
これが関西だったならば、是が非でも役員なり何なりが飛んできてご挨拶に伺うところだが、そこは関東である。
別に、誰も悪くはない。強いて悪者を挙げるならば、それは秋山千賀子、ご本人だろう。
と、いうのも、だ。
秋山千賀子の名前は関西のみならず関東でも伝わっているのだが、残念ながら、関東ではそこまで千賀子の事は知られていない。
なんでかって、千賀子があまり関東の方へ行かないからだ。
例のCMのおかげで以前に比べて名を知られはしたものの、その後は別にアピールなんてしていないから、その程度。
一部業界人は千賀子の事を知っているが、若者……特に、オーディションに出てくるような若い子は、千賀子の事を知らなくてもなんら不思議ではなかった。
……で、そんな感じで誰も止めないまま、オーディション開始となり……いざ、出された履歴書を見た審査員一同は。
「 」
「 」
「 」
しばし、言葉を失った。
ありていに言えば、絶句した。
念のため超特急で人を走らせて確認し、また言葉を無くした。
……。
……。
…………いったい、どうして?
理由はいくつかある……その中でも、一番大きな理由は、なんと言っても『秋山千賀子』であったこと。
同姓同名だったならばともかく、履歴書の写真でも顔を隠しているし、備考欄に書かれた3サイズが冗談みたいな数字だった時点で、嫌な予感がしていた。
だから、人を走らせて確認したら……まさかの、ご本人だというのだ。
これには、さすがの審査員たちも腰を抜かしかけた。
同クラスのゼミで和気あいあいな感じで発表練習をしていたら、『素人質問で恐縮ですが……』といった感じで質問してくるレジェンド教授が出て来たかのような状況であった。
あるいは、超極太スポンサーから、どう見てもアイドルをやれない風貌の人が送られてきた……いや、少し違うか。
この場合、アイドルとしてはやれないけど、女優としてなら申し分ないレベルだからこそ、余計に事の問題をややこしくしていた。
なんでかって、この頃(1980年代)のアイドルに求められていたのは、清純さだったり、若々しさだったり……とにかく、フレッシュさが流行りであった。
実際、この頃にデビューしたアイドルはほぼ十代で、二十代に入ってから芸能界入りなんてのは全体として見れば希少であった。
ぶっちゃけてしまえば、若々しいなんて言葉ではなく、単純に年齢が若くない(諸説あるが、二十歳前後がリミットだったとか)時点で門前払いなんてのも珍しくはなかった。
……で、それを踏まえたうえで、だ。
千賀子の場合、ルックスは文句なしであった。ただ、アイドルとしてやるには、あまりにも……その、色気があり過ぎた。
言うなれば、カテゴリーエラー。
出てくるところ間違えていますよって話であり、ちゃんと生かせる場所に出ていたら顔パスで合格貰える……そういう女が、だ。
『よりにもよって、アイドルオーディションに出てくるんですか???????』
と、いうわけであった。
……。
……。
…………これがまあ、普通に美人な女性というレベルだったならば、ちょっと色気があり過ぎて……と誤魔化せたところなのだけど、今回ばかりは相手が悪い。
この際、スポンサーとかお金関係とかはまあ、横に置いといて。
単純に、色気があり過ぎた。
いや、まあ、あまりにも色気があり過ぎて、周りの応募者が余計に子供っぽく見えてしまうのはまあ、致し方ないとして、だ。
秋山千賀子という女は……なんと、歌も踊りも大概にヤバかった。
踊りに関しては、正直幼少期から練習とかしている子じゃなければどんぐりの背比べみたいなモノだから、それは置いといて……ヤバいのは、声だ。
声の質は天性の才能とも言われているが、千賀子の歌声は、思わず聞き惚れてしまうぐらいの『魅力』を感じ取れた。
念のためというか、他の応募者たちが威圧されないよう、千賀子だけは別室にて審査を行ったのだが……それが、まさかの大当たり。
──こんなの聞いちゃったら、他の子たち諦めて帰っちゃうじゃん、と。
審査員全員が満場一致でそう断言してしまうぐらいの歌声で、まだ合格も出していないのに『デビューの日取りっていつ頃?』と同僚に尋ねる者すらいた。
……なお、踊りの場合は……ちょっと、テレビに出せるアレではなかった。
いちおう言っておくが、下手というわけではない。
むしろ、その逆……普通に上手い。
いや、上手いを通り越して、あんたそれほど踊れるのに一般職やっていたのって思ってしまったぐらい、明らかに動きが違っていた。
なにせ、踊りの審査を担当する者が絶句した後で、『え、すご……』と言葉を亡くしたぐらいだ。
ダンサーオーディションだったならば、それこそ顔パスで合格を出して、何時から参加出来ますかと声を掛けるぐらいには……まあ、うん。
ちょっと、あまりにも飛び出したバストがぶるんぶるんしちゃうので、テレビに出る際は注意をせねば……いや、そうではない。
──とにかく、だ。
『アイドル枠』でさえなければ即合格できるボテンシャルが確認出来ているのに、よりにもよって、『アイドル枠』で行こうとしているのが……問題なのである。
そのうえ……これまた、他の応募者たちの気力を削がないようにと別室にて、水着審査を行った……ん?
水着審査とは、なにかって?
現代だと色々と問題視されて廃れている傾向にある(さすがに、グラビアの場合は別らしい)が、この頃は水着姿による見た目の審査も行われていた。
理由はまあ、色々とある。
肉体美の確認(傷などの有無)、水着という恰好でも怖気づかず堂々と振舞えるか、緊張しても堪えて笑顔を見せられるか。
水着になれるかどうかで、仕事の幅は大きく広がる……そういうことに耐えられるかどうかを、そこで見るわけなのだが。
「どうでしょうか!? 私が言うのもなんですけど、アウトだと思うのですが!?」
満面の笑みで、そう宣言する水着姿の千賀子に対して。
「……まあ、うん、その、ちょっとばかし、色気がねえ……青少年には、ちょっとねえ……」
審査員は、非常に気まずそうに……そう述べるしかなかった。
……だって、うん。
バストが、ね。
腰の細さが、ね。
ヒップの形が、ね。
なんというか、どう言い繕っても、『アイドル』で通すには無理があり過ぎて……これはまあ、うん。
──本人も、はよう失格にしてくれって、促してくるし?
そこまで言葉と態度で示されるのであれば、ここは空気を読んで失格にするべきなのだろう……と。
審査員の誰もが考え、一旦集まって意見を統一し、そして、改めて千賀子へと審査の結果を伝えようとした──。
「──あいや、待たれよ!!」
──その時であった。
体当たりでもしたのかってぐらい勢いよく扉を開けて室内に……なんか、どこかで見たことある風貌の男が突撃してきたのは。
チェック柄のシャツに、ズボン。よく言えば無造作ヘア、分厚い眼鏡に、ちょっとポチャッとした体形、まるで人々が想像するオタクをそのまま形にしたかのような姿。
おそらく読者の大半が忘れ去っているかもしれない、うわキツ至上主義の異世界人たちのボスであり、『王』と呼ばれていた……その男であった。
「アイドルというカテゴリーから外れているから、それだけで失格にしてしまうのは、あまりにも無常ではござらんか!?」
「──っ! Mr.ヲタク……どうしてここに?」
「無論、新しいアイドルの発掘のためでござるよ!」
そんな男の登場に、審査員たちは一様に驚き、その内の一人が恐る恐るといった様子で……しかし、デュフフフコポォ、と奇妙な笑い声をあげたその者は、止まらない。
「かねてより考えてはいたのです。昨今はまさしくアイドル戦争、一人のアイドルが巨万の金を動かすのだということを!」
「Mr.ヲタク……言わんとしていることは分かる。だが、それは──」
「もちろん、仕方がない面は重々承知の上! 一人のアイドルを育てるためには膨大なお金が掛かり、大勢の人々を動かす必要がある! それは、分かっております!」
「では、分かるだろう……?」
「No! さりとて、アイドルを金を生む卵としてだけ扱うのはナンセンス! 誰しもがどこかで輝く、そういう姿を見せ、勇気を与え、安らぎを与えるのもまた、アイドルが持つ力なり!!」
「む、ムムム……」
「しかし、現在のアイドル産業には致命的な弱点があるのです。それは……アイドルが、10代、20代をターゲットにしている、ということ!!」
「──っ!!」
審査員たちの脳裏に、電流走る!!!
「30代、40代、50代にとってのアイドル……それが、圧倒的に不足しているであります!!」
「ふむ、確かに……」
「これまで、そういった役割は演歌歌手や女優と呼ばれる者たちが兼任していましたが……これからの時代は、さらに先を行くのです!!」
そう、それこそが!!!!
「世のオジサンに特化した熟女アイドル……そういうのが有って良いと、某は提案するでありますよ!!!」
「お、おおお……!!!」
思わず……そんな様子で拍手をする審査員たち。
それを、無表情のまま眺めていた千賀子に、「デュフフフ、千賀子殿、ちょっと某の真似をしてくだされ」王は……ポーズを取る。
それは、まるで子供が駄々を捏ねるかのような、大人がやるには些か『うわキツ』と言われそうなポーズで。
「さあ、ご一緒に──いや~ん、千賀子ちゃん、困っちゃう~!」
「……いや~ん、千賀子ちゃん、困っちゃう~」
なんかよく分からない流れになったぞ……と、思った千賀子だが、とりあえず、従う。
「違うでござる! 本気でやることに意味があるでござるよ!」
なのに、なんか滅茶苦茶怒られた。
「もっとこう、子どものように、童心に帰って!! 顔だってさらけ出して! さあ、ネクスト!!」
「……いや~ん! 千賀子ちゃん、困っちゃう~!!!」
それは、まさしく、『うわキツ』な姿であった。
半ばやけくそな感じで、顔を隠しているヴェールをまくり、水着で包まれた胸を抱えるように両腕で挟みながら……くねっと腰を捻りながら、セリフを口にする。
それは、まさしく、『うわキツ』な姿であった。
あまりにキツさに、ウッと言葉を無くす審査員たちと、『王』。
千賀子もまさかこんな形でこんな羞恥プレイを味わうことになろうとは考えていなかったから、その顔は真っ赤になっていた。
……だが、しかし。
けして、それだけでは終わらなかった。
審査員たちも、『王』も、あまりのうわキツさに面食らってしまったが……それでも、誰も彼もが、心の片隅にちょっと考えた。
……へえ、続けて、と。
そのまま、『王』は指示を続ける。
千賀子も、『王』の事は覚えているけど、今は審査員たちの関係者なのかと思って、言われるがまま指示に従った。
きゅるるん、と口で効果音を発してポーズを取ったり。
悪い子には、お仕置きしちゃうぞ……と、言わせたり。
時間にして、約20分ほどではあったが、その間、千賀子はただただひたすら、言われるがままに……で、最終的には。
「──千賀子殿! 目指しましょう! 貴女ならば、日本初の熟女アイドルになれますぞ!!」
「なるか! ボケェ!!」
ブチ切れた千賀子のお盆(小道具で渡された)にて、『王』のみならず、拍手をしていた審査員たちも張り倒されたのであった。
……。
……。
…………第〇〇回アイドルオーディション。
エントリー№31、秋山千賀子。
審査員の判断により別室にて審査。
その後、満場一致で合格判定を出されたが、本人の強い希望により辞退……履歴書一式は処分すること。
※ なお、対外的には厳正なる審査のうえ、不合格であったと記録を残しておくこと。