ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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※ 今日は二つ更新ね


第236話: 時には自ら身体を張る女

 

 

 

 さて、順当(?)にアイドルオーディションを落ちて、ひとまずコレで芸能界関係はお終いだと思うことにした。

 

 

 実際、それまで『春木競馬場』には『千賀子の夢を応援します』みたいな張り紙とか、なんかそれっぽい言葉を遠回しに言われていたけど……オーディションに落ちたという話が広まったあたりで、ピタッと止まった。

 

 そこで千賀子が、今後もアイドルを目指すぞ……みたいな態度を取っていたら違ったのかもしれないけど、あいにく、そうはならなかった。

 

 ちゃんと、『落ちちゃったし、スパッと諦めがついた』とそれとなくそんな話を周りに広めておいたのだ。

 

 おかげで、『秋山千賀子はもう芸能界には未練が無い』という話が密かに、かつ、確実に広まってくれたおかげで……千賀子の周りから、そういった応援がスパッと消えた。

 

 

 なんとも分かりやすい話である。

 

 

 しかし、昭和のこの頃って、そういう分かりやすい面が確かにあって、良くも悪くも現代よりはるかに素直な面があったりした。

 

 まあ、そんな素直さが、此度の騒動の一端を担っていると言われたら、それまでなのだけど……とにかく、だ。

 

 ひとまず、『春木競馬場』での不本意な噂話は治まったが……しかし、それが周辺に広がってゆくのは、少しばかり時間が掛かる。

 

 というか、噂話って基本的に捻じれに捻じれて伝わるのが普通で、事実がそのまま伝わるなんて事はまずありえない。

 

 なので、千賀子の方から宣伝する必要があるわけだ。

 

 とはいえ、わざわざ『オーディション落ちたので、これからは今まで通りの秋山千賀子になります』、と宣伝するのは、少し違う気がすると、千賀子は思った。

 

 いや、だって、初めから合格するつもりがなかったし。

 

 いったい、何が悲しくて31歳にもなってセーラー服とスカートを履いて、熟女系アイドルをしなければならないのか、と。

 

 オーディション会場別室での、あの一時は、千賀子にとっては思い出したくもない羞恥の塊である。

 

 困っちゃうぞポーズをした瞬間、壁際に居た女神様が胸を抑えて悶えていた姿も、出来るならば思い出したくない……話を戻そう。

 

 

 とにかく、目的は達した。

 

 

 客観的な事実として、千賀子はアイドルオーディションに落ちた。エマにも、勧められたけどやっぱり私もオバサンだから落ちたわと話もしておいた。

 

 ……その際、エマから、とても疑いのある眼差しを向けられたけど……とにかく、当初の目的は突破した。

 

 そして、次は……大勢の誤解を解くために宣伝をする必要があるわけだ。

 

 たとえ、それが千賀子にとって不本意であろうとも、『もう秋山千賀子は芸能界に未練はない』とはっきり周りに思わせる必要があるわけだ。

 

 あと、できたら、『政界にも行く気はねえぞ』と周りに教えたい。

 

 なんかこう、インパクトを込めてやらないと、変に曲解しそうで……それじゃあ、どうやって宣伝するのが正しいのだろうか。

 

 素直にテレビでCMを……さすがに、そこまでやるのは大げさというか、変な意味で注目が集まる予感がするから、ダメ。

 

 新聞記事に……この頃でも暇つぶしがてら読んでいる人はいたし、一面記事にするほどでもないから、止めておこう。

 

 ならば、どうするか……しばし考えた千賀子は、その日、思いついて、実行に移した。

 

 

 

 

 

 ──そして、何をしたのかと言うと。

 

 

 

『歌って踊れない千賀子だ~び~:3歳以上 ダート600(右) ポニー限定』

 

 本賞金:1着5000万円/2着3000万円/3着1800万円/4着700万円/5着350万円/その他、出訴奨励金や出走手当・計1000万円。

 

 

 

 そう、ポニー限定では久しぶりになる、千賀子記念レースの開催である。

 

 季節は梅雨……馬たちのレースもそろそろひと段落し始め、大きなレースも片手で数えられる程度になった頃。

 

 この時期の馬の管理は、冬場よりも大変である。

 

 というのも、程度の差はあるけれども、馬は本来暑さに弱い生き物であり、寒さには強い生き物である。

 

 なので、夏場に開かれるレースをサマーレースと呼ぶぐらいで、だからこそ、大きなレースはだいたい本格的な夏を迎える前には終わるようになっていた。

 

 それは今回の千賀子特別記念レースでも同様で、本格的に夏の大将軍が日本列島を蒸し焼きにしてしまう前に、やってやろう……と、決めたわけである。

 

 なお、本来の千賀子特別記念レースも近日中に開かれる予定だが……さて、話を進める前に、今回の特別記念レースの説明をしよう。

 

 このレースは、その名のとおりポニー限定である。

 

 サラブレッドではなく、ポニー……さて、前回開かれたポニー限定レースはけっこう前なので、軽くだがポニーとはナニカを説明しよう。

 

 ポニーとは、特別な品種を指すわけではなく、肩までの高さが147cm以下の馬の総称である。

 

 つまり、147cm以下であれば、どんな品種であろうとポニーに区分される。血統や種類は関係ない。

 

 今回のレースは、そういうとても小柄な馬限定のレース、というわけだ。

 

 いつもなら700mを走らせるのだが、今回は夏を目前にしているので、馬の体調を考えて100m距離を短くした、というわけである。

 

 

 ──ざわざわ、ざわざわ、と。

 

 

 梅雨明けが近付いているという予報が流れているからか、いや、そうでなくとも、客席の熱気はすさまじい。

 

 基本的に客入りが良い『春木競馬場』なのだが、やはり、賞金額が跳ねあがっている千賀子特別記念の日は、いつもより人でごった返す。

 

 けれども、さすがは世界でも有数の春木競馬場、何度か天皇陛下がお忍びで見学しに来た(存在しない記憶)だけの事はある。

 

 蒸し暑い日差しの下でも、人々の熱気を妨げるまでには至らなかった。

 

 まあ、この春木競馬場では不思議なことに、暑いは暑いけど、競馬場の外よりも夏場は涼しく、冬場は暖かいとかいう……で、だ。

 

 

 

 

 

 

 

『──幸運にも雨雲も晴れて、みごとな青空が広がっております。皆様、いかがお過ごしでしょうか。実況の──です』

 

『今日は、あの秋山オーナーによる三度目の開催となる、ポニー限定のレースの日』

 

『世界広しといえど、ポニー限定のレースはここだけではないでしょうか』

 

『全国より集まった、可愛らしいけれども立派な優駿たちが、今か今かと鼻息を荒くしているでしょう』

 

『さて、レースがスタートする前に、知らない人が多いと思われますので、改めてポニーとはナニカ……という説明を行います』

 

『ポニーとは、特別な品種を指すわけではなく、肩までの高さが147cm以下の馬の総称です。147cm以下であれば、どんな品種であろうとポニーに区分されるのです』

 

『つまり、今日のレースは肩までの高さが147cm以下の、ポニーに区分される小さい馬に限定された競馬……というわけであります』

 

 

 そこで、実況が一瞬ばかり途切れる。

 

 それに合わせて、コースに姿を見せた小さな優駿たちと共に観客たちの歓声が響くのを確認してから、実況は再開される。

 

 

 

 ──1番:ハンブンセイコー

 

『馬体重172kg。ハイセイコーに惚れ込んで馬を購入しようとしたら、たまたま牧場で見かけたポニーの可愛さに惚れ込んで購入を決意。よく見たら半分だけハイセイコーに似ているとのこと!』

 

 

 ──2番:シバホープ

 

『馬体重170kg。タケホープのように強くなって欲しいと思っていたけど、こんな穏やかな子は竹というよりは芝、よく芝の上で寝ているとのことで、最近はダイエットを意識させているとのこと!』

 

 

 ──3番:ヒラザン

 

『馬体重180kg。鉈の切れ味と恐れられたシンザンのような末脚を目指して調教したものの、どう頑張っても遅いのは変わらないので、これはもうシンザンじゃなくてヒラだなと愛称が付けられました!』

 

 

 ──4番:オシボリボーイ

 

『馬体重176kg。2年前に出走したスピードオシボリの弟! 兄とは違ってオシボリには拘りがあるようで、お気に入りのオシボリで拭かれるのが大好き! なお、足はそんなに速くない、だそうです!』

 

 

 ──5番:ドンブリーズ

 

『馬体重177kg。笑い声が大好きなようで、テレビで漫才を流してやるとすごくご機嫌。なにやら丼の器が好きならしく、最近はラーメン丼を舐めるのが趣味なのだとか。なお、調教するとよく不機嫌になるそうです!』

 

 

 ──6番:キモッタマ

 

『馬体重170kg。夢の超特急コダマにあやかって名前を付けようとした際、とにかくこいつは図太いとの評価から、満場一致でその名が付いた。先日の放馬の際、調教師より怒られたけど最後までケロッとしていたとのこと!』

 

 

 ──7番:クリナス

 

『馬体重169kg。とても心優しく、乗馬クラブでは人気者。子供に尻尾を握られたり腹を叩かれたりしても、けして暴れないのは心の優しさか。なお、好物のニンジンの時には子供へ向ける優しさは減るとのこと!』

 

 

 ──8番:シアトルドコー

 

『馬体重180kg。シアトルスルーには負けないぞと気合を入れたは良いけれど、シアトルってどこだという話からその名が付いた。先日の追い切りでは大好きな厩務員から離れなくて、とても愛らしいとのこと!』

 

 

 ──9番:セイジカナラナイ

 

『馬体重は秘密。アイドルには成らないし、政治家にも成らないという強い思いから出馬表明、秋山オーナーとはそっくりとの噂。これには競馬場関係者の度肝を抜いたが、誰も口出しできないとのこと!』

 

 

 

『──以上、8頭と1人が本日のレースへの出走となります!』

 

 

『お客様の誰もが幻の9頭目を見ておりますが、ご安心ください、セイジカナラナイへの馬券は買えませんので、ご容赦願います』

『おっと、これはどうしたことでしょうか……各馬に乗った騎手たちが、9番セイジカナラナイへ挨拶に向かいます』

『これは早くも勝負が見えたか!? 馬の世界は上下関係に厳しいとも言いますが、これは今後のレース展開に影響が出るのか、各人の腕の見せ所でしょう』

『さあ、はたして、誰が今年のだ~び~の座を手にするのか……出走の準備が整いました』

 

『……いま、スタートを切りました!』

 

『今年のだ~び~馬の称号は、いったいどの馬が手にするのでしょうか!? 各馬一斉に鞭が入る!』

『あ~っと、9番セイジカナラナイが早くも転倒!!』

『どうやら被り物がズレて前が見えなかった模様! 馬の頭が外れて露わになった秋山オーナーのそっくりさんが、慌てて頭を被って再出走!』

『速い! 速い! 女とは思えない健脚! しかし、さすがに二本足では四本足に勝てないのか、距離が縮まらない!』

『ダークホースが早くも撃沈しようとしている最中、各馬が横一列で中々前へ出ない!』

『これはいったいどうしたことか、一同足を揃えて9番セイジカナラナイを気遣っての舎弟の忠誠か──いや、違う!』

『足を揃えているのではない──これは、各馬が遅くて中々前に出られないだけだァ──!!!』

 

『会場にどよめきが走る! しかしお客様方、よ~く思い出してください!』

 

『今回のレースで出場したポニーたちの説明……一頭たりとて、速いと評した馬がいたでしょうか?』

『そう、奇しくも今回のポニーたちはみな大人しく、走るのが苦手な子たち──しかし、そんな彼らもまた若き優駿!』

『ジリジリと、各馬各騎手が前を狙ってタイミングを見計らい、今か今かとその時を待っています!』

 

『距離はわずか600m、既に残り150mを切った!』

 

『はるか後方に、明らかに動きが鈍くなっているセイジカナラナイが、たぷんと胸を揺らしながら走って──あっと、わき腹を抑えた、これは苦しそうだ!!』

 

『さあ、そうこうしているうちに各馬一斉に最後の鞭が入った! 残り70m強!』 

 

『前に出る! 前に出る! 若きポニーたちの大して切れ味がない末脚が必死に芝を蹴り上げ──今、ゴールイン!!』

『勝ったのは、わずかに前に出た1番ハンブンセイコー! 次着にシバホープ! その後は写真や映像判定となります!』

『今年の千賀子だ~び~を制したのは、1番のハンブンセイコー! 半分だけだけど、だ~び~を取りました!』

 

『おっと、ここでようやく9番セイジカナラナイがゴールイン!』

 

『さすがに被ったままは辛いのか、馬の頭が外れ、中から秋山オーナーのそっくりさんが露わになっております!』

 

 

 実況の声が、競馬場内に響く。それと、笑い声も。

 

 ぜひ、ぜひ、ぜひ……四つん這いになって必死に呼吸を整えているセイジカナラナイに、カメラを引き連れた実況の人が駆け寄って来た。

 

 

「惜しくも負けてしまいましたが、見事走り切りました、9番セイジカナラナイ! 走り切った感想はありますでしょうか!?」

「ぜえ、ぜえ、ぜえ……政治家には、ならない……!!」

「なるほど、9番セイジカナラナイ、ありがとうございました!」

 

 

 その実況の言葉を受けて、セイジカナラナイは馬の被り物を装着し……震える足腰を叩いて気合を入れ、ゆっくりと歩き出した。

 

 その背には、観客たちの拍手が……しかし、そんなセイジカナラナイのグッドサインは、1着のハンブンセイコーへと向けられる。

 

 何故ならば、このレースの勝利者は彼らだからだ。

 

 そして、なにゆえセイジカナラナイは走るのか……それは、政治家にはならないからだ。

 

 そう、その固い決意を表明するため、セイジカナラナイは走り……そして、走り遂げたのであった。

 

 

 

 

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