ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第239話: そりゃあ、意図して作られたから歪が出るわけで……

 

 

 土地の怖さというものは、千賀子とてよく知っていた。

 

 まだ学生だった時の千賀子の髪を引きちぎらんばかりに掴み、無理やり『山』の譲渡を迫られて脅された経験があるからだ。

 

 骨肉の争いというのは、あのような事を表す言葉なのだろう。

 

 それこそ、そのままレイプして脅しの材料を作っても仕方がない……という勢いだった。

 

 千賀子が『巫女』のジョブや、女神様からのアレやコレやで図太くなっていなければ、怯えに怯えて、承諾書などにサインしていただろう。

 

 年若い少女にすらそのような暴挙を恥ずかしげもなく行うのが、不動産という世界……しかし、それも致し方ない。

 

 人気が無く立地的にも良くはない土地の値段なんて大した値段にはならないが、その両方が当てはまる土地を持っていたら、その価値はとんでもないモノになる。

 

 誇張抜きで、土地の不労所得だけて一生働かなくても生きられるどころか、遊ぶお金が手に入り続ける。

 

 

 それが、ひっそりと語り継がれている不動産の世界の恐ろしい面である。

 

 

 そして、バブル景気と呼ばれていたその時代……いや、その時に限らず、高度経済成長期と呼ばれていた時期にもあったが、この頃はとにかく土地絡みのトラブルが続出した。

 

 コレは別にバブルとか関係なく、景気が良くなった時期に起こりやすい事なのだが……いわゆる、『原野商法』というやつだ。

 

 

 ……さて、『原野商法』とはなにかを簡単にまとめると、だ。

 

 

 要は、値上がりの見込みがない、あるいは実際には大して価値がない山林や原野を『将来的に値上がりする』等と美味しい言葉を並べて騙し、高値で売りつける詐欺手法である。

 

 この詐欺手法は、1970年代~80年代に横行した。

 

 現代とは違い、何かしらの詐欺被害が発生してもその情報が出回るまで時間が掛かったからなのと。

 

 また、時期的には好景気の真っただ中だった事もあり、精神的な警戒心が緩んでいる傾向にあったからだと……ちなみに、だ。

 

 当時の原野商法で使われた典型的な騙し文句は、『新幹線の駅が近くに作られる予定』だとか、『リゾートの開発計画が立ち上がっている』だとか。

 

 とにかく、その土地を所有していると将来的に値上がりするから、その前に抑えておいた方が得ですよ……というモノが多かった。

 

 それに加えて、一度騙された者に対して『その土地、売ってほしいという人が居る』といった感じで仲介業者を装い。

 

 手付金として数十万支払わせるという血も涙もない手法が……なお、この頃に起こった不動産関係のトラブルは、原野商法だけではない。

 

 本当に利益が見込まれた土地の所有者に対して、ヤクザを使って様々な嫌がらせを行って安く売らせるといった事が多発していたのも、この時期である。

 

 

 ……で、話を戻すが、千賀子のことだ。

 

 

 あまり自覚が無い千賀子だが、土地の価値はひとまず置いといて、日本有数の大地主ではある。

 

 自覚が無い理由は、所有している土地のほとんどが二束三文(あるいは、それ以下)の土地であり、転用も転売も一切していないからだ。

 

 やっている事と言ったら、自身が保有している能力の一つにある『山の主』の権能を使って、山の整備を行っているぐらい。

 

 いや、それ自体が相当にスゴイことなのだけど、現在ではほぼ無意識の自動機能みたいなモノだから、当人にはその自覚が無い。

 

 

 つまり、千賀子の視点から見ると、だ。

 

 

 時々ロボ子や道子から紹介された、売り手が全くつかなくて処分に困っている土地を二つ返事で購入しているだけ。

 

 管理しているとはいっても無意識の範疇なので、気付いた時に『あら~、キレイになったわね~』と思うぐらいで、その土地の価値なんてまったく考えていないのである。

 

 だから、日本有数の大地主になっていたとしても、当人の感覚としては『私ってば、山奥の土地だけはいっぱい持っているから~』みたいなわけで。

 

 所有している土地が再開発がどうとか、道路や線路が通るから地価がどうとか、そういう話をしたことは一度としてなく、無縁だと思っていた。

 

 

「──道子、しばらく土地を買うのは辞めるわ」

『それは良いけど~、どうしたの~』

「セールスの連絡がもう大変なの。悪いんだけど、道子の知り合いにも話を通しておいてくれない?」

『良いわよ~、千賀子も大変ね~。私のところにもチラホラ話が来ているってお父様が話していたわ~』

「これから、もっと色々なところから美味しい話が押し寄せてくると思うから、警戒を緩めないようにって伝えておいてね」

『ありがとう~、お父様に伝えておくわね~』

 

 

 しかし、電話を終えた千賀子は、ため息をこぼした。

 

 『プラザ合意』がなされてしばらく経ってから、土地売買に関する問い合わせが目に見えて増え始めたあたりで、さすがに無縁だなんて言っていられなくなったからだ。

 

 

 もうね、キリがないとはこの事だ。

 

 

『神社』にも掛かってくるし、『春木競馬場』にも掛かって来るし、何ならお手紙が送られて来る、見事な達筆で。

 

 とにかく、『土地を買いませんか?』、『共同売買しませんか?』、『余っている土地を売っていただきませんか?』、この三つ。

 

 世間の空気が徐々に好景気へ向かっているのを肌身で感じてはいたが……あまりにも露骨過ぎるだろうと千賀子はちょっと辟易していた。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………辟易していたとしても、これはもうそういう時期だからとして諦めるしかなかった。

 

 

 なにせ、話を断って遠ざかっている千賀子の下にすら、売れ行きが良いとか、設備投資をしたとか、そんな話がチラホラ入って来るのだ。

 

 ロボ子が話していたとおり、好景気の時には、土地などの売買が活発になるのは必然。

 

 その規模が大きくなればなるほど、様々な形でそういった真偽不明な儲け話がどこからともなく出てくるわけで。

 

 

(……前世の時はどうだったかな……あ~、さすがに前世合わせて何十年も前のことなんて覚えちゃいないわよ)

 

 

 とりあえず、もう少し世間が落ち着くまではと我慢するしかないのだった。

 

 

 

 

 

 ──が、しかし、そんな千賀子の願いとは裏腹に、世間の熱気は冷めるどころか、ますます過熱が加速していた。

 

 

 それもまあ、致し方ない。

 

 好景気というのは、望んで得られるものではない。

 

 不景気に関してはどれだけ嫌がっても勝手にやってくるのを知っている人ほど、今のうちにと投資に動き出す。

 

 実際、戦後最大かつ最長だった高度経済成長期では、宵越しの銭は持たねえと言わんばかりに先へ先へと投資に動く者がいた。

 

 その結果、大勢の犠牲者や被害者を生み出したが、莫大な富を国にもたらしたのだが……とにかく、そんなものなのだ。

 

 なので、後に昭和最後の好景気と言われる『バブル景気』でも、同様の事が起こるのは必然……だったのだけど、しかし。

 

 

 そう、しかし、だ。

 

 

 これまでの好景気と違って、バブル景気は非常に歪な景気の盛り上がりであった。

 

 ぶっちゃけてしまえば、実体経済にはほとんど影響ないのに、数字上ではすごい勢いで右肩上がりに上昇していたのだ。

 

 ごく一部の業界はボーナスが14ヵ月なんて出されてニュースになるのに、他の業界では恩恵が一切得られず倒産の危機……なんてのが起こっていた。

 

 もちろん、これまでの好景気でも同様の事が起こっていたのだけれども、今回のバブル景気はそれまでよりもはるかに恩恵の幅が狭かった。

 

 一部の者たちはこの歪な危険性に気付き、なんとかブレーキを掛けようとしてはいたが……一度火が点いた景気の波を止めるほどではなかった。

 

 

「──オーナー、つい先ほど××不動産からお話があると訪問を受けましたが、どういたしましょうか?」

「不動産関係はしばらく触れないって伝えておいて」

「──オーナー、〇〇組合から、所有する不動産に関するお問い合わせというお電話が来ておりますが、いかが致しましょうか?」

「私が生きている間は土地を手放すつもりはないって伝えておいて」

「──オーナー、△△商社より──のリゾート開発に関する共同出資の連絡が──」

「リゾート関係も当分は手を出すつもりはないって伝えておいて」

「──オーナー、オフィス用の最新機器に関するセールス電話が多数届いておりますが、いかが致しましょうか?」

「……今は必要ないって伝えておいて、片っ端からね」

 

 

 おかげで、『春木競馬場』の電話は酷いモノになっていた。

 

 それはもう、朝から晩までセールス電話が鳴り響いているし、直接訪問してくるセールスマンが後を絶たない。

 

 断っても断ってもやってくるあたり、人によっては苛立つだろうが……あいにく、千賀子は大して苛立ちはしなかった。

 

 だって、セールスマンの顔色が……その、あんたまともに寝られているのかってぐらい悪い人ばかりだったから。

 

 

 そう、好景気の悪い側面の一つが、コレ。

 

 

 好景気だから売れて当たり前、売ることができないやつがおかしい、そんな甘い考えで設備や人員の投資だと動く者が増えた弊害。

 

 つまり、一見華やかな時期に見えたバブル景気も、その裏で多大なノルマを課せられたセールスマンが増えたのだ。

 

 重度のうつ病や過労による病気を発症する者が続出し、好景気の裏でひっそりと命を落とす者が続出していた。

 

 それを感じ取っていた千賀子にとって、とてもではないが……やってくるセールスマンたちを冷たく追い払うことなんて出来なかった。

 

 もちろん、中には非常に横柄というか、半ば脅しみたいな感じで契約を迫る者も居たが……それも蓋を開けてみたら、だ。

 

 ほとんどの場合は度重なるノルマをクリアしていくうちに心が歪み、『売れたら正義、売れなきゃ不要』という思いで埋め尽くされていたのだ。

 

 こんなの、涙無くして見られたものではない。

 

 だから、千賀子はそういうセールスマンが来た時はわざわざ自室に通し、自らお茶を用意して、一息入れさせてから。

 

 巫女パワーを応用した簡単なカウンセリングというか、お悩み相談というか、そういうのを行った。

 

 

 だって、ねえ。

 

 

 愚痴を聞いて少しでも心を晴らしてやらないと、どこかでプッツンしてそのままビルから飛び降りそうな気配がビンビンしていたら、ねえ。

 

 元々情が深いうえに、ガチャによる母性アップしているのもあって、千賀子は……見て見ぬふりは出来なかった。

 

 

『──う、うぅ、お母ちゃ~ん……』

「ああ、ヨシヨシ、貴方はもう疲れ切っているのよ」

 

『もう疲れたよ、おれ帰りて~よ……』

「人生の道は一つと決まったわけじゃないの。生きる意味なんて誰も持っていないのだから」

 

『もういやだ、もういやだ、何も考えたくない……』

「田舎へ帰り……そう、天涯孤独? それじゃあ、清掃員として雇ってあげるから……ね?」

 

 

 だって、どいつもこいつも、本当に擦り切れてダメになる寸前だったから、余計に。

 

 その結果、中には『お父ちゃ~ん、お母ちゃ~ん』とガチ泣きする者も居たけど。

 

 それでもまあ、そこで踏み止まってくれる者がいるから、千賀子はヨシヨシと彼らの頭を撫でるのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………さて、そんな感じでバブル景気の気配が徐々に人々の中に浸透していくわけだが……そんな中で、とある問題が生じ始めた。

 

 それは、『春木競馬場』関連への就職希望者の減少である。

 

 あの『春木競馬場』関連での職を辞める者が居るのか……意外に思うかもしれないが、一定数居る。

 

 理由は単純に、結婚して遠くに引っ越ししたり、夢が叶って転職したり、中には体力が追い付かなくなって退職したり……とにかく、一定数居る。

 

 だが、これまで困った事は一度としてなかった。

 

 何故なら、『春木競馬場』からの求人は人気で、求人を出せばその日の内には希望者が電話なり、張り紙を見たと直接来る者が、だったのだけれども。

 

 初めて、求人を出してから希望者の連絡が来るまで……3日の時間を必要としたのだ。

 

 原因は、他の会社が新入社員の確保に動き始めたからで。

 

 

(……これ、ぜったいどっかで爆発して過去最大最悪の『恐怖の大王』が発生しそう)

 

 

 かれこれ100人近いセールスマンのカウンセリングを終えた千賀子は、世間の賑わいとは裏腹に。

 

 ちょっと、今後の事を思って……不安を覚えたのであった。

 

 

 

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