ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第240話: バブルの足音は、誰の下にも……

 

 

 

 バブル景気を体感していた人たちの逸話を聞けば、そりゃあもう、すごい景気が良かったんだろうなあ……と、何も知らない第三者は思うだろう。

 

 たとえば、タクシーの呼び止め方だ。

 

 にわかには信じがたいが、バブルの時に行われたタクシーの呼び止め方に、紙幣を見せるというものがあった。

 

 具体的には、万札を見せびらかして、乗せてくれたら料金とは別にこれだけ支払いますよ~という、暗黙のアピールである。

 

 なんでコレが行われたかって、タクシーの需要と供給の問題。

 

 恩恵を受けていた人たちはとにかく羽振りが良かったから、短い距離でもこぞってタクシーを使おうとしたのだけど、当然ながら台数がいきなり増えるわけでもない。

 

 なので、手っ取り早く止めるには、現金でうちわを作って見せる……というやり方が広まったのである。

 

 人にもよるが、この時期のタクシー運転手たちは、それはもう儲けたらしくて一晩で三ヵ月分の月収を稼いだ人も居たのだとか。

 

 他には、会社の行事……忘年会や求人募集、新人研修。

 

 当時流行っていた忘年会などではお馴染みになっていたBINGOゲームで、100万円の札束が商品として用意されて。

 

 新人研修では何故か社長や専務までもが参加してハワイへ……それで、研修らしい研修は何もしなかった。

 

 就職希望者に対して、少しでも良いと思ってもらえるために交通費全額+参加費用の支給なんてことが行われ。

 

 当時の一部の学生は、内定を受けるつもりもないのに説明会をハシゴして、一ヵ月バイトするよりも荒稼ぎした……なんて話もあるぐらいに、すさまじかったのだ。

 

 そりゃあ、勘違いして目が眩んでも致し方ない面はあるだろう。

 

 この歪な好景気に乗れた人たち、影響を受けた業界の人たちからすれば、高度経済成長期なんて目じゃないぐらいの勢いで資産が増えたように思えた時期だから──ん? 

 

 

 思えたとは、どういうことかって? 

 

 

 その言い方のとおり、増えたように見えていただけであり、その実態はバブルのように中身がまったく伴っていなかった。

 

 言うなれば、大勢の人たちが一斉にお金を動かして、『今日1000円で買った物が、明日には1200円で誰かが買うよ』みたいなことをし始めたのだ。

 

 もちろん、そうなったキッカケは『プラザ合意』をスタートとして、色々あるが……とにかく、大勢の人たちがそんなことを考え始めた。

 

 

 たとえば、想像してみて欲しい。

 

 

 貴方の知り合いの誰かが、『1000万円で土地を買って、1500万円で売れたぜ』と自慢し、実際に羽振りが良くなった。

 

 それに感化された別の人が同じようにして、同様に500万円の利益を出した……それを見て、また別の誰かが真似をして、また利益を出した。

 

 最初に1000万円だったのが1500万円、次には2000万円、その次は……という具合に、どんどん値がつり上がり始めたのだ。

 

 元の値段の3倍以上になろうとも、次々に土地やら物やら、とにかく何でも転売に次ぐ転売を繰り返し、誰かが買う……というサイクルが生じ始めた。

 

 

 一度こうなると、中々止められないのが経済の恐怖である。

 

 言うなれば、何時爆発するか分からない爆弾のようなものだ。

 

 

 これがただ膨らみ続けるだけの爆弾ならば、即座に止めるが……恐ろしいのは、膨らんでいる間は仮初めの好景気を与え続けるのだ。

 

 ぶっちゃけてしまえば、爆発する瞬間までは、それはそれは心地よい体験を与え続けるわけで……まさに、『バブル』だ。

 

 これはまあ、当時はまだインターネットが無くて、情報を得る方法が現代よりも少なかったのも理由の一つだと言われている。

 

 現代ならば、株一つ考えても、ただ株価だけを眺めるわけではない。

 

 株価売買で意図的に利益を得ようと思ったら、日本のみならず世界各国のニュースや独自の情報網を張り巡らせて……なんてことをするわけだけれども。

 

 バブル景気が始まった頃の庶民の情報網なんて、まだまだテレビに新聞に人伝の情報だけ。

 

 テレビや新聞で『株価上昇!』とか『驚きのボーナス〇〇ヵ月分!』とか、『外車売り上げ好調!』とか、テレビでチラホラ流され続けでもしたら。

 

 そりゃあ一人、また一人、この好景気の波に乗らなくちゃと思う者が増えて当たり前であった。

 

 まあ、見方を変えたら、それが逆に際限なく膨らみ続けるバブルを後押しする結果へと繋がったわけだけれども。

 

 膨らみ続ける間は光を受けて美しく七色に輝いているが、ひとたび弾けたが最後、跡形も無くなってしまう。

 

 後に残るのは、バブルを膨らませるためだけに費やした莫大な借金と、最後に貧乏くじを引いてしまった者の絶望。

 

 これまでの好景気とは違って実体が無いからこそ、弾けた後の反動が大きく……好景気の影響をまったく受けていない業界にまで及ぶ程であった。

 

 

 ──だが、それが起こるのは今ではない。

 

 

 それは、あくまでもバブルが弾けた後の話であり……千賀子が生きているこの世界ではまだ、バブル景気は始まったばかりであった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そして、その日。

 

 

 徐々に熱狂が広まりつつある最中。

 

 連日届く不動産関係からのラブコールに辟易している千賀子の下に、その内線通話が届いたのは……お昼も終わり、ゆっくり茶をしばいていた時であった。

 

 

「はい、こちらオーナー室……は?」

 

 

 以前はある程度は自分から出ていたのだけど、あまりにもしょっちゅう鳴るので、今ではロボ子が内線含め一旦引き受ける形になっている。

 

 今回も同じように内線通話を受け取っていたのだが。

 

 いつものロボ子とは思えない珍しい反応に、ホッと一息ついていた千賀子は、おやっと視線を向けた。

 

 それを受けて、ロボ子はしばし困惑した様子ではあったが……冷静な反応で何度か返事をした後で、千賀子へと向き直った。

 

 

「マスター、お電話です」

「誰から? 馬は買わないわよ」

 

 

 ずずずっとお茶を啜った千賀子は──

 

 

河童村々(かっぱむらむら)のカパドン、というカッパからです」

 

 

 ──その瞬間、ぶふうっと緑色の飛沫を吹いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 ……結論から言おう。

 

 

 河童村々とは、もはや千賀子が生きるこの世界にしか存在しないと思われるUMAの、河童たちが暮らす村のことである。

 

 これは皆様もご存じだと思うので説明するまでもない事だとは思うが、もしかしたら知らない者がいるかもしれないので、改めて説明させていただく。

 

 まず、河童は群れで暮らす社会性UMAである。

 

 それなりの割合で誤解されがちだが、河童たちは常に山奥でひっそり暮らしているかと問われたら、そういうわけではない。

 

 中には賢い河童が居て、そういう河童たちは村を離れて人の社会にひっそり紛れて生きていたりする。

 

 その歴史は深く、特に日本という国において日本人が気付いていないだけで、長らく一緒に暮らしている……なんてのも、けして珍しい話ではない。

 

 たとえば、江戸時代に活躍した浮世絵師の葛飾北斎代表作にして今もなお世界中に影響を残している、『富嶽三十六景』。

 

 富士山を背景に見事な景観の一瞬を描いた作品だが、手前の荒波に揉まれながらも懸命に船を操る河童の姿は、あまりにも有名という他ない。

 

 このように、意外と河童の中には社会性を有している個体もいるわけなのだが……千賀子に電話を掛けてきたのは、そういった河童たちが暮らす村からだった。

 

 理由は、『我が村の土地の権利を強請ろうとして来る人間が現れて困っている、何か良い方法はないか?』というものだ。

 

 

 詳しく聞けば、だ。

 

 

 どうも見た目が厳つい者たちが、少し前から村役場に顔を見せるようになり、〇〇の土地の所有者はどこかと騒ぎ立てるようになったらしい。

 

 当然ながら、良い男ではあるけど雰囲気も態度も怪しかったから、そんな相手には教えられないと突っぱねた……そしたら、だ。

 

 村の畑にゴミがまき散らされる、動物の死骸が役場の前に放置される、ボヤ騒ぎが連発する、等々など。

 

 明らかに何者かによる被害が連続したらしく……その間も、何食わぬ顔で土地の所有者を出せと村役場に押しかけてくるのだとか。

 

 こちらとしては傷つけるつもりはなく、なんとか穏便に済ませたいと思っているのだけど、嫌がらせは酷くなるばかり。

 

 同胞に頼めばおそらくすぐに解決するだろうが、無理やり男の道に引きずり込むのはあまりに忍びない。

 

 だって、俺たちは純愛派だから。

 

 無理やりはちょっと……という諸事情もあり、困りに困り果てて……藁にも縋る思いで電話したというのが、千賀子への電話に至る流れであった。

 

 色々とツッコミ所が多くて悩みどころ多数だが、とりあえず、傷つけないようにしたいという意思は伝わってきた。

 

 

『カパパ……何か、良い方法はありませんか?』

「良い方法って言ってもねえ……」

 

 

 だから、一言で切って捨てずに真面目に話を聞いているのだけれども。

 

 

『うちの若いやつらも、そろそろ辛抱堪らん感じでして……このままでは血が流れてしまうやもしれませぬ』

「いっその事、暴れて徹底的に抗戦するのも一つの手よ。向こうもメンツがあるでしょうけど、それ以上に『割に合わない』と思わせたらこっちのもんよ」

『それは、わたし共も考えました。ですが、昨今の人間社会では、ずいぶんと土地の値段が上がっているのでしょう?』

「まあ、そうね」

『その、『割に合わない』ところまで抵抗ともなれば、確実に死者が出ると思います。私は、それがどうにも不安でして……』

「あ~、そうね、そうよね。じゃあ、警察とかは?」

『あんなの頼りになりませんよ。そもそも私たち河童なので』

「ああ、それもそうか」

 

 

 電話口のカパドンの話に、千賀子は深々と頷いた。

 

 そう、問題は、相手がどのぐらいのラインに達したら引くのかが見通せないということ。

 

 なにせ、土地の値段は東京のみならず、一部の地方でもじわじわと値上がりしている。

 

 これの何が恐ろしいって、本当に土地開発が行われるから値段が上がっているというわけじゃなくて、理由もなく値が釣り上げられているということ。

 

 すなわち、止めようが無いのだ。

 

 そして、もしもソレが止まることがあれば、それはバブルが弾けたという意味で……う~ん、どうしたものか? 

 

 ちょっと相談してみると告げてから通話を切って……それから、傍に控えているロボ子へと振り返った。

 

 

「仮に私が動いたら、どうなると思う?」

「あまり良い手段には思えません」

 

 

 率直に尋ねたら、率直に返答された。

 

 

「今のマスターはあまりにも有名になり過ぎました。そして、実績も積み上げ過ぎました」

「いや、それほどでは……あるか」

 

 

 否定しようとしたけど、出来なかった。

 

 

「マスターが何かしらに目を掛ける。一般人から他愛のない相談を受けたから答えた……という程度なら、まだ問題は無いのですが……」

「金銭が関わるような部分になると、怪しんで覗き込もうとするやつが出てくるわけね」

「覗き込むだけならまだしも、かすめ取ろうと考える者が出てくるでしょうね」

「そこまで?」

「そこまで、です」

 

 

 思わず首を傾げる千賀子に、ロボ子の目のセンサーレンズがわずかに絞られた。

 

 

「影響力を持つ者は、何気ない言葉一つで市場が動く時があります。それと同じく、マスターの一挙手一投足は、市場を嫌でも動かしてしまう時があるのです」

「えぇ……これまではそうじゃなかったのに?」

「『春木競馬場』の件を除けば、マスターは客観的に見て気味の悪さを覚えるぐらい商売っ気が無い……という印象がありますから」

「それ、褒めてる?」

「褒めていますよ」

 

 

 キッパリと、ロボ子は言い切った。

 

 

「だから、これまで平穏でいられたわけですから……しかし、これから先どんどん景気が過熱していけば、その限りではないかと」

「そうだよね。人の欲望って、限りが無いものね」

 

 

 ──やれやれ、困ったぞ、と。

 

 河童村々の問題を解決する起死回生の一手を思いつかないまま、どうしたものかと千賀子は頭を悩ませ……ていた、その時だ。

 

 再び、内線の電話が鳴った。

 

 先ほどと同じく、ロボ子が電話に出る。

 

 それを横目で見やりつつ、千賀子は……急須に残っているお茶を湯のみに注ぎ、最後の一滴まで──ヨシ。

 

 

「マスター、お電話です」

「誰から? 河童なら、妙案が思いつかないって正直に伝えておいて」

「いえ、そうではなく──マスターの兄上である和宏様からのお電話です」

「兄さんが? 珍しいわね」

 

 

 少し時間が経っているので、冷まさずに飲める良い塩梅。

 

 これぐらいの温度が一番好きだなと思いつつ、ちょっと濃くなっている茶を、ずずずっと啜って──

 

 

「なんでも、義父が突然これからは海外の時代だと言い出して販路を海外にも──という話を出してきて、どうしたら良いのか分からないので相談にのってほしい、と」

 

 

 ──その瞬間、ぶふうっと緑色の飛沫を吹いたのであった。

 

 

 

 

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