ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第241話: 二度ある事は三度ある

 

 

 ──意外に思うかもしれないが、バブル期を象徴する物の一つとして挙げられるのは、海外ワインである。

 

 

 どういう事かというと、だ、

 

 この頃(バブル期)はまだ、海外ワインは高いイメージが根付いていて、比較的高級なお酒として取り扱われていた。

 

 これは単純に国産ワインの知名度が低く、ワイン=外国産というイメージが染みついてしまっていて馴染みが薄かったから。

 

 機械とかはまだ海外製でもそこまで拒否感はなかったけど、口に入るものは……ねえ? 

 

 あと、やっぱり関税とか輸送費とか諸々の関係で、どうしてもビールや焼酎や日本酒よりは割高になる傾向にあったせいでもある。

 

 

 とはいえ、それは以前の話。

 

 

 バブルが進むにつれてドル安円高が加速し、外国産ワインへ手が伸びやすくなったことで、一気に人々の選択肢の一つになった。

 

 これに伴い、それまで一般人のほとんどには知られていなかったワインの銘柄を知る人が増え、徐々にワイン人気が高まってゆき。

 

 バブルが弾けた後で、値段手ごろな格安ワインへと人気がシフトし、大衆にも広まって……が、しかし。

 

 

「──兄さん、前置きは抜きにして結論から言いましょう。今のご時世で、海外ワインに手を出すのはかなりの博打だと思うわ」

 

 

 ロボ子から電話を替わってすぐに、千賀子がそう言い切れば。

 

 

『千賀子は、そう思うのか……』

 

 

 電話口からは、兄の和宏の……なんとも表現しようがない、苦悩のこもった声が聞こえた。

 

 そう、その人気に対して、諸外国がどのような思いを抱くか……その事に目を向けている者がほとんどいないのが問題であった。

 

 というのも、これはワインに限った話ではないのだけど、嗜好品の類は基本的に自国内でだいたい消費されるのだ。

 

 初めから外国に売る分を想定されて作られているモノならともかく、結果的に大量に出来てしまった場合。

 

 そういう場合は、値崩れを起こしそうだから他所へと売るわけだが……しかしそこに、金に物を言わせて買い占める者が現れたらどうなるか。

 

 それなりの数の生産者や会社が、喜んで売りに出すだろうが……そうなると、不満を溜めるのはそれまで購入してきた層だ。

 

 その者たちからしたら、自分たちが買うはずだったモノを買い占めてゆくばかりか、1000円で買えたモノが1500円になった……みたいな事が発生する。

 

 また、売らないと決めている生産者からしても、けっこうな悩みどころだ。

 

 やはり彼ら彼女らも高く売って暮らしを良くしたいわけで……かといって、これまでの顧客を蔑ろにしたくはない。

 

 また、売るにしたって、『こいつら、ワインの味を分かっているのか?』という、ワインに携わるからこそのプライドもある。

 

 聞けば、自分のワインの味に惚れ込んで買い求めてきたわけではなく、ただ有名だから、ただみんなが褒めるから、そんな感覚で来られて……はたして、良い気持ちになるだろうか。

 

 

 ……実際、これは千賀子の前世の話なのだけれども。

 

 

 バブル期の一部の商社などが金に物を言わせて海外ワインを買い漁ったりして、現地民からかなり嫌われていたとか。

 

 いざバブルが弾けて、値下げ交渉をしようとしたら直後に契約を切られただけでなく、その話が一斉に広まったとか。

 

 バブル期の日本人の海外進出のやり方は、全てではないにしても、あまりよろしくなかった者も多かったらしく。

 

 この時のやり方が原因で、その先何年にも渡って、何の関係もない別の日本人にも白い眼を向けられるなんてことが……とにかく、だ。

 

 

「もう既に、大手の商社なんかが高級ワインの買い占めに走っていると思うの」

『もう、なのか?』

「むしろ、今から動くのは少し遅いぐらいよ。ここから巻き返そうと思ったら、生き馬の目を抜くぐらいの覚悟をしないと厳しいと思う」

『う~ん……千賀子がそれほど言うのなら……』

 

 

 正確には、電話をしている千賀子の眼前にて、ロボ子が現在のワイン取引事情を見せてくれているのだが……とにかく、だ。

 

 円高ドル安が進みつつある現在において、海外に販路を見出す……ということ自体は、別に悪い事ではない。

 

 だが、バブル景気に合わせて日本国民の酒の消費量が2倍3倍になっていくならともかく、実際はそこまで増えたわけではない。

 

 いや、10%でも20%でも増えたら膨大な変化なのだけれども、それでも、『バブル』に目が眩んだ者たちが想像しているほどの変化ではない。

 

 実際、日本酒を除いて全体的に売れ行きが好調にはあったのだけれども、当時売り上げが右肩上がりし続けていたのは、圧倒的にビールなどの発泡酒である。

 

 高級ワインの消費が増えたのは、東京などのごく一部の範囲。全体としてみれば、ビールのほぼ一人勝ちな状態であった。

 

 なので、どちらかといえば消費の割合が移り変わっただけ。

 

 ウイスキーの代わりにビールが、ビールの代わりにワインが、ワインの代わりに……といった具合で、当時の人々の流行りが移り変わった……さすがに話が逸れたので、戻そう。

 

 

「大手はもう既にいくつもの取引先に話を通したうえで買い占めに動いているはずだから……もしもこれに食い込もうと思ったら、大手の目が届いていない個人店なんかになるわよね?」

『そうだな、そうなる。いちおう、うちも大手から取引はあるけど……』

「兄さんの取引先や購入者層に、どれだけワインを購入してくれそうな感じなの?」

『……正直、未知数だ。ただ、俺が見た限り半分ぐらいはワインなんて考えすら無いと思う。客だって、大半はビールとか発泡酒とか焼酎だしな』

「目に見えている落とし穴じゃないの!? 止めなさいよ、下手したら首をくくるかもしれない大博打よ!?」

『しかし、言葉ではもう止まらなくて。良い義父なんだが、どうも知り合いがデカい利益を出したとか何度か見聞きしたせいで、すっかりのぼせているみたいなんだ……』

「あ~……」

 

 

 心底疲れている気配がする和宏のその声に、千賀子もそれ以上の言葉を掛けられなかった。

 

 人間、どれだけ自分は自分だと言い聞かせても、やはりどこかで他人と比べてしまう生き物だ。

 

 その比べる原因が『お金』なら、余計にその影響は強く……普段どれだけ理性的な人でも、思わずクラリときてしまっても……なんら不思議な事ではない。

 

 

 ただ、問題なのは規模だ。

 

 

 落ち込むだけで済む程度の勉強代ならば時間が解決してくれるが、顔色が青ざめて冷や汗が吹き出るような金額になると……事はもう個人では済まない。

 

 下手したら借金沙汰の極貧生活だし、酷ければ店を売っても足りず夜逃げ……最悪は、ひっそり首を……言い過ぎじゃないかって? 

 

 悲しいかな、バブルの陰では、無理に販路を広げようとしたり、美味しい話に飛び乗ったけど……といった話が実は多くて。

 

 知らない大衆がイメージするような華やかな……だけではない時代……それが、バブル景気と呼ばれていた時代なのであった。

 

 

「……分かりました」

 

 

 とはいえ、だ。

 

 これが顔も名前も知らない第三者ならともかく、さすがに兄の義家族がバブルの餌食になってしまうのは、見過ごせない。

 

 

「私が直接説得に行くから、空いている日を教えてちょうだい」

 

 

 千賀子はそう言って、ロボ子にも日程調整の指示を出すのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………さて、だ。

 

 

 そうして、本当に久しぶりに兄の和宏を始めとして、兄の家族と顔を合わせた千賀子だが、初見の印象は『老けたな』、だったりする。

 

 それも、致し方ない。

 

 年齢を考えたら、四捨五入すれば兄はもう40歳になるだろうか。

 

 現代の感覚からしたら『まだお若い方』と言われる年齢かもしれないが、この頃の感覚からしたら、和宏はもうオジサンと呼ばれる年齢であった。

 

 特に、この頃はアンチエイジングなんて考えは女性のみで、男性にその意識が薄かったからこそ、余計に。

 

 まあ、見方を変えたら、千賀子があまりにも見た目が若々しいままなせいで、そう見えるだけかも……とにかく、だ。

 

 せっかくだからと連れて来たエマと、和宏の子供が一緒に遊び始め……春人は、話をする間は和宏の奥さんが相手をするとのことで。

 

 

『あの、父の事をどうかお願いします……』

 

 

 その際、それはもう困り果てたといった感じの表情を見て、ああこれは兄が思う以上に義父が先走っているのだな……と理解し。

 

 それから、義父と和宏と千賀子とで、話し合いが始まった。

 

 名目は、『海外販売に関しては、実際に海外にも何度か足を運んでいる千賀子に相談してからでも遅くはないので、相談しよう』という感じで。

 

 幸いにも、競馬場オーナー秋山千賀子という名は義父の耳にも届いているようで、女だからと耳を貸さない……なんて事はなかった。

 

 最初のこの部分で躓くと、その後どれだけ時間を掛けようが何の意味もなくなるので、正直一番不安な部分だったり……で、だ。

 

 千賀子は……正確には、こっそり己に取り付けた通信機(ロボ子より)を通して自分が話す体でレクチャーを行った。

 

 海外に販路を伸ばす、それ自体は間違ってはいないし、将来性を考えたら、けして否定出来ることではないこと。

 

 ただし、その考えは非常に博打な面が強いということ。

 

 伝手もコネも無いのに単身海外へ乗り込んで販路を繋ぐとなれば、現地の言葉の習得を始めとして、信頼関係を築くまでの時間が絶対に必要になる。

 

 大手ならば金に物を言わせて時間を省略出来るが、そこまでの資金力が無いのであれば……正直、ものすごくリスクが高いということ。

 

 下手しなくとも、渡航費用ばかりが積み上がって何も残らない……あるいは、詐欺紛いの仲介人からカモにされる可能性が高いということ。

 

 最悪の可能性を考えて、娘と婿とは完全に縁を切った状態で挑戦するか……その覚悟が無ければ、辞めた方が良いこと。

 

 それを、千賀子は丁寧に……それはもう、自分がそういう結果になってしまった人たちを見て来たといった感じを臭わせたうえで、説明した。

 

 

 おかげで、だ。

 

 

 最初は、いくら千賀子が相手とはいえちょっと機嫌を悪くした義父も、話が進むにつれてちょっとずつ表情が変わり始め。

 

 自分が想定していた以上に時間と労力と金銭を必要とすることに思い至り、失敗すれば、一家離散も覚悟しなければならないことに気付き。

 

 途中、無邪気に部屋を覗きにきた孫の顔を見て……そこでようやく我に返り、『浮かれ過ぎていたようだ……』と、諦めたことを言葉にしてくれたのであった。

 

 

 

 

 

 ……そうして、話し合いもお開き……今から帰るのも大変だし、今日はもうお泊りしていって……ということで。

 

 千賀子たちは、兄家族の家でお泊りということになった。

 

 幸いにもエマは全く気にしておらず、むしろ初めての外泊にテンションが上がって、喜ぶばかりで。

 

 春人もけっこう図太いようで、特に嫌がる気配も不穏な様子もなく、何時もの調子のままで。

 

 

「いやあ、本当にすみません。あんまりにも周りから景気の良い話ばかり聞くから、どうにも焦っちゃっていたみたいで……」

「いえいえ、誰だってそうなりますよ。別に、お義父さんだけではありませんから」

「はは、そう言ってもらえると、気が楽になります」

 

 

 むしろ、いつも以上に賑わっていて楽しいぐらいだ……という言葉の直後、義父はそういってグイっとビールを飲み干した。

 

 家の中の空気は、千賀子が来た時よりもだいぶ明るく、穏やかになっていた。

 

 それもそのはず、家族とはいえ店のオーナーが大博打に打って出ようとしていたのだ。

 

 和宏もそうだけど、和宏の奥さんは、それはもう心から安堵した様子で、話し合いが無事に終わったと聞いた時には安心して腰が抜けてしまったぐらいであった。

 

 まあ、その姿を見たことで、自分の甘い考えがどれだけ家族を不安にさせていたのかをさらに悟らせたから、結果的には良い薬にはなったのだけど。

 

 ちなみに、千賀子は飲んでいない。

 

 さすがに、それぐらいの自制はする。和宏は付き合いで飲んでいるだけで、そのペースはかなり遅かった。

 

 

「しかし、こうして振り返ってみますと、儲けを出したアイツは大した胆の太さだなと感心しますな」

「……それは、儲けを出したとかいう知り合いの事ですか?」

「うん、そうなんだよ」

 

 

 焼きそばをモグモグと食べながらポツリとこぼれたその呟きに、千賀子は視線を向けた。

 

 

「アイツとは中学からの友人で、俺と同じく酒屋をやっていてさ。隣県だから取引先の奪い合いも起こらず、今でも連絡を取り合っているんだよ」

「旧知の仲というやつですね、素敵ですね」

「ははは、腐れ縁ってやつだよ」

 

 

 そう言えば、義父はちょっと照れくさそうにする。

 

 男ってけっこう単純なもので、お世辞でも美人に良く言われると、ちょっと照れくさくなるのだ。

 

 

「それでまあ、ちょっと前に海外との取引を中心にやっている商社の人と知り合ったらしくてさ。その人を頼りに動いてみたら、けっこうな売り上げが出たらしくて……」

「それで、居ても立っても居られず?」

「いやあ、お恥ずかしい。孫もこれから学校に塾にと色々金が掛かって来るでしょうし、その前にひと稼ぎしなければ……と、欲を掻いてしまいまして」

「人が欲を掻くのは必ずしも自分のためだけではありません。むしろ、誰かのためにこそ欲を掻くものですから」

 

 

 千賀子がそう慰めれば、義父もそうだけど、初めて義父の本心を聞いた兄夫婦も目を見開き……っと。

 

 

「まあ、俺と違ってアイツは人付き合いの上手いやつですからな。こんな洒落た名刺を渡してくるような人と知り合えるんですから」

 

 

 そんな言葉と共に、義父は財布から……一枚の名刺を取り出し、それを千賀子へ見せた。

 

 

(へえ、確かに洒落た名刺ね……金を掛けていそうだわ)

 

 

 受け取って見やれば、だ。

 

 黒と赤色のグラデーションが鮮やかで、表には『ボルドーコネクション』の文字と、裏には名前と役職が、なんと金色で印字されていた。

 

 なるほど、こんなの持っていると見せられたら、焦っても不思議では──っと、その時であった。

 

 

『──マスター、一つ報告があります』

 

 

 取り点けっぱなしだった通信機より、ロボ子のメッセージが頭に響いたのは。

 

 

(なに、どうしたの?)

 

 

 何食わぬ顔で名刺を眺めつつ、ロボ子の報告に耳を傾けた千賀子は──

 

 

『その名刺に記された会社名や名前、並びに名刺のデータ、その他諸々をデータベースにて調べた結果……詐欺師の疑いが強いです──というか確定しました、詐欺師です』

 

 

 ──その瞬間、まん丸に目を見開いた。

 

 それはもうあまりに露骨なぐらいにまん丸で、「ど、どうした?」たまたま目にした和宏が思わず声を掛けたぐらいには……が、しかし。

 

 

「……その、私の記憶違いなのかもしれないけど」

「ん?」

「この名刺とか、会社名とか、その……前に耳にした詐欺師が使う手口にそっくりだなあ……って」

「──え?」

 

 

 とてもではないが、千賀子には構っている暇は無かった。

 

 

 

 

 

 

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