ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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※ おふざけ回、本気にしちゃだめよ


第243話: ロボ子(女神様、否定はしなかったな……)

 

 ──芋煮会。

 

 たった3文字の漢字で表される言葉だが、それは時に血で血を洗う抗争が生まれる言葉として古来より恐れられていた。

 

 西洋人には馴染みが薄い話だが、日本神話において伊弉諾(いざなぎ)伊邪那美(いざなみ)が言い争うキッカケとなった話としてはあまりにも有名である。

 

 高校教育の歴史において、『天地初めて(ひら)けし時、高天の原にて芋煮会が、その後、伊弉諾と伊邪那美、生まれし具を言い争う』という言葉を誰しもが耳にしたと思う。

 

 これは、天地が生まれると共に芋煮会もまた生まれ、また神々が生まれ、末っ子的な存在である伊弉諾と伊邪那美が具材で言い争ったという話だ。

 

 海外の神話においても、パスタを茹でる時に麺を折った方がお手軽だ派閥と折るやつぜったい許さん派閥の争いを描いた話もまた有名だろう。

 

 また、竹取物語においても『芋煮の正しい具材を用意せよ』という五つの難題が出され、5人の男が悲惨な最後を迎えたり。

 

 破竹の勢いで日本統一へと動いていた織田信長が『芋煮など・なんでもよいわ・ホトトギス』という歌を残したことで恨みを買い、本能寺にて謀反を起こされたり。

 

 幕末期において有名な坂本龍馬が手紙にて残したと言われる、『芋煮を今一度せんたくいたし申候』は、幕府の腐敗した芋煮会を洗濯し、今一度本当の芋煮会へという熱い思いが。

 

 そんなわけだから、日本神話において、いや、日本の歴史を紐解けば、芋煮会はそう軽々と口に出せるような話ではないのだ。

 

 

 ……しかし、千賀子はそんな事など知る由もない。

 

 

 だって、千賀子が生まれ育った場所では芋煮会なんてやってないし、美味しければ良いのではって考えしかなかったから。

 

 なんなら、入れる味噌はおろか具材にもこだわりはないし、入れる順番も美味しければなんでも良いじゃんって感じで。

 

 人によっては、それって芋煮じゃなくて豚汁ではと言われそうなぐらいこだわりがなかった。

 

 

「芋煮の具材? ああ、そういえば、決めないとダメよね」

 

 

 だから、芋煮会をすると宣言して、後日。

 

 ポスターの発注も掛け、具材の発注や日程を決める段階にて、職員の一人が何気なく尋ねた。

 

 

 ──秋山オーナーは、どのような具材にするつもりですか、と。

 

 

 特に芋煮にこだわりがなければ、コレといった好みがあるわけでもない千賀子は、特に気負うことなく普通に答えたのだ。

 

 

「とりあえず芋って付くぐらいだし、サツマイモは入れた方が良いわよね?」

 

 

 冗談とか意地悪とかではなく、本当にその程度の感覚だし知識もそんな感じだった──だからこそ。

 

 

「    」

「──え?」

「    」

「ちょ、なに?」

 

 

 その瞬間、千賀子に質問した人だけでなく、周りに居た他の人たち(主に職員)までもがピタッと動きを止めた。

 

 これには、さすがの千賀子もちょっとビクッと肩を震わせた。

 

 なんでかって、千賀子は人の心が読める。

 

 さすがに覗き見する趣味は無いしプライバシーもあるので、極力見ないつもりでいるが……それでも、ふとした時に感じ取ってしまう場合がある。

 

 それが今で、周囲の人たち全員が一斉に思考と動きを止めてしまった。

 

 例えるなら、喧騒の中を歩いていたら突然静かになって、周りを見たら全員がその場で静止していた……という感覚が近い。

 

 そりゃあ、千賀子でなくとも驚いて当たり前であり──とはいえ、だ。

 

 

「お、オーナー……!!」

「あ、動いた。いきなりどうしたの、急にみんなし──」

「それを口に出したら戦争ですぜ……!!」

「──うん?」

 

 

 芋煮会の何たるかを知らないし興味もない千賀子に、それを事前に察して言葉を選べというのもまあ、無理な話であった。

 

 

「外ではけして、そんな軽々しい言葉を出してはいけません! 芋煮会は、そんな生易しい話じゃないんですよ……!!」

「そうなの?」

 

 

 たかが芋煮なのに……その言葉を、千賀子はそっと胸の奥に秘めた。

 

 

「はい、そもそも、芋煮会にて使用する芋は古来よりジャガイモです。サツマイモもけして悪くはありませんが、ここは無難にジャガイモでしょう」

「ふ~ん、それじゃあ芋はジャガイモに──」

 

 

 そこまで口にしたあたりで、千賀子の眼前に居た職員が吹っ飛ばされた──いや、違う。

 

 正確には、横合いからタックルをされたのだ。

 

 いったい誰にって、別の職員に。

 

 千賀子が知る限り、その職員はそんな大それた事をしそうな人物ではなく、思わず千賀子はギョッと目を見開いた。

 

 

「──騙されちゃあいけません!!」

 

 

 しかし、そんな千賀子を他所に、その職員はキッパリと千賀子へ答えた。

 

 

「芋煮会にて使用される芋はサトイモ!! これは昔から続いている伝統的スタイルです! 間違ってもジャガイモではありません!!」

「え、あ、うん、そうなんだ……」

 

 

 思わず、千賀子は呆気に取られる。

 

 

「ですので、ジャガイモなどという邪道はお止めくだ──ぐっ!?」

「いつまでもクラシックスタイルにこだわるんじゃねえ!! これからはジャガイモの時代なんだよ!!」

「バカ野郎! 伝統失くして進歩は生まれず!! おまえのソレは革新じゃない、ただクラシックを否定するだけの新人類だ!!」

「は! クラシックスタイルにこだわるやつはいつもそうだ!!」

 

 

 そして、そんな千賀子を他所に、なにやら二人は言い争いを……いや、二人だけではない。

 

 気付けば、周りの職員たちも……二人の争いに呼応するかのように、ザワザワと喧騒が広がり始めている。

 

 

(……え、芋煮の話で?)

 

 

 その事に誰も疑問を抱かない事が、千賀子にとっては疑問だった。

 

 あまりにも不自然過ぎて、思わず千賀子は傍の女神様を見やる……というか、見上げる。

 

 基本的に、女神様はいつも千賀子の傍に居る。

 

 振り返ればだいたい手を振っているし、頭上を見上げればだいたい『<●><●>』こんな感じだし。

 

 お風呂に入れば窓の向こうから見つめてくるし、トイレに行けば当たり前のようにしゃがんで耳を澄ませているし……とにかく、居ない時が無いぐらい、いつも傍にいる。

 

 視線を受けた女神様は、頭上よりジッと千賀子を見下ろすのを辞めて……クニャッと身体を曲げて首を傾げた。

 

 

『──愛し子は、芋煮が好きなのではなかったのですか?』

(別に特別好きってわけじゃ……あれ、もしかして、豚汁と勘違いしてます? 豚汁ならけっこう好きですよ)

『──??? 何か違いがあるのですか?』

(え、いや、どうだろう……具材?)

 

 

 尋ねられても違いなんて知らない千賀子は、そう答えるしかなかった。

 

 というか、そもそも気にしたことが無いのだ。

 

 肉が入っていたら豚汁とかいう感覚だから、改めて豚汁とは何ぞや、芋煮とは何ぞや、そう尋ねられても答えられなかった。

 

 しかし、困惑する千賀子を他所に、だ。

 

 職員たちの喧騒はさらにヒートアップしており、このままでは殴り合いに発展しかねない。

 

 さすがに芋煮が原因でそうなっては堪らんと判断した千賀子は、この場では決めないと宣言し、改めてアンケートを取ることにした。

 

 対象は全職員。

 

 内容は『芋煮に入れる具材を一人5つ答えよ』というもの。

 

 別に答えなくても良いけど、自分一人でアレコレ考えても仕方がないことだし……そんな思いから、アンケートに決めたのであった。

 

 

 

 

 

 ──しかし、結果は千賀子が想像していたようにはならなかった。

 

 

「──現在の時点で、総枚数──枚。職員が一人2枚以上提出している計算になりますね」

「待って、たかが芋煮の具材に不正してまで?」

 

 

 なんでかって、職員がアンケート用紙をコピーして不正に水増しするという暴挙に打って出る者が多発したからだ。

 

 金銭なら、分かる。

 

 えこひいきによる恣意的な理由も、まあ分かる。

 

 だが、芋煮会の具材を自分好みにするために、アンケート用紙をコピーして回答数を不正に水増ししようとする者が出てくるとは、さすがの千賀子も想定していなかった。

 

 

 だって、うん。

 

 

 やっている人が、普段から実直に仕事をこなし、周囲とちゃんとコミュニケーションを取っている……つまり、模範的な従業員だ。

 

 そんな人が、金庫の金をちょろまかすとか、備品を持ち逃げするとか、そんな事ではなく、芋煮の具材の不正って……。

 

 しかも、一人や二人じゃない。

 

 千賀子が調べた限り、どいつもこいつも普段から真面目に仕事をこなし、不正にも手を染めていない……それが、今回の芋煮では、魔が刺したみたいに……あのさぁ。

 

 

「いったい、何をそこまで人々を駆り立てるのか……女神様、本当に今回のコレって関与していないんですよね?」

『──さあ?』

「あ、これ、本当に取るに足らない些事過ぎて覚えていないパターンかもしれない」

 

 

 まあ、女神様が原因かどうかはひとまず横に置いといて、だ。

 

 いくらなんでも、内容があまりにもバカバカし過ぎて処分する気にはなれず……というよりも、だ。

 

 

 ──これ、下手に処分を下したら変な事にならんか? 

 

 

 という、巫女的シックスセンスが働いたからであり、千賀子はあえて見なかったことにしたわけだ。

 

 もちろん、完全に放置するとより不正を働いた人の方が有利になるから、筆跡などから同一人物によるモノだと判明した場合は排除することにして。

 

 あくまでも、一人1枚という大前提を崩すことなくアンケートを実地したのだが……その途中、千賀子はとある事に気付いた。

 

 

 ──そういえば、芋煮に使う味噌って? と。

 

 

 当然ながら、この時代にはインターネットなんてモノが無いから、自分で調べるか、知っている人に聞かねばならない。

 

 しかし、ただでさえ具材一つを選ぶのに殴り合いに発展しかけたのだ。

 

 これが味の決め手となる味噌ともなれば、下手したらもっと悲惨な事になるやもしれない。

 

 千賀子としては、別に味噌ならそれで良いんじゃねって感じなのだけど……おそらく、これも色々と派閥がある気配がする。

 

 巫女的シックスセンスが、ビシバシと訴えてくる。

 

 

 ──汝、芋煮を甘く見るなかれ、と。

 

 

 なんで芋煮をするというだけで、ここまでややこしくなるのか……正直、止めようかなという意識が芽生えてくる。

 

 しかし、せっかく動き出したのだ。

 

 止めざるを得ないトラブルが発生したならともかく、たかが芋煮の具材で……というのは、なんか違う気がする。

 

 というか、それ以前に、だ。

 

 今回の芋煮会を開く理由は『ポイ捨てをどうするか?』であり、そもそも、芋煮会はメインではない。

 

 そう、そうなのだ。

 

 あくまでも『春木競馬場』主催でのゴミ拾いに参加した者に提供するのが芋煮であり、芋煮はメインではない。

 

 何度でも言うが、芋煮はメインではないのだ。

 

 なんかこう、職員は今回の事を誤解しているというか、芋煮がメインでゴミ拾いをサブかのように……いや、まあ、それ自体は別に……ん? 

 

 

「……ねえ、ロボ子」

「はい、なんですか?」

 

 

 ふと、気になった千賀子は、隣で事務仕事をしているロボ子に尋ねた。

 

 

「今回の芋煮会って、ゴミ拾いの最後にって告知してあるよね?」

「はい、最初に行っています」

「もしかして、不正にゴミを集めて……なんて人が出てきたりするかな?」

 

 

 その質問に、ロボ子はピタリと動きを止めた。

 

 

「…………」

「…………」

「……どう思う?」

「回答を差し控えさせていただきたく……」

「芋煮のために?」

「回答を差し控えさせていただきたく……」

 

 

 結局、ロボ子は答えてくれなかったし、ボロボロと不正が見つかったのだけれども。

 

 

「ねえ、河童ども。あんたら、芋煮に何かこだわりあったりするの?」

「え? 某共は特に……美味しければ細かいことは良いのでは?」

 

「ねえ、花子ども。あんたら、芋煮に何かこだわりあったりするの?」

「サトイモ好きだから、沢山入っている方が嬉しいわね。味噌は何でも良いわよ、美味しければ」

 

 

 それとは別に、なんかUMAたちの方が冷静に見ていることが分かった事が……千賀子にとっては、そちらの方がちょっと嫌だった。

 

 そして、当日……紆余曲折を経て、ゴミ拾いがメインなはずの芋煮会が開かれるのであった。

 

 

 

 

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