ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第244話: 結局、うやむやになったという話

 

 

 

 ──波乱の種を多分に含んだ芋煮会(本命はゴミ拾い)の会場には、独特の空気が満ちていた。

 

 

 いったいどうして……それは、芋煮会の具材が当日まで発表されていなかったからである。

 

 事前にアンケートが取られたり、あるいは秋山オーナーへチラホラアピールしたり、色々あったけど……それでも、具材は極秘であった。

 

 

 つまり、当日に決まるわけで。

 

 

 この日のために参加した職員(自由意志)と、有志のボランティア200人は、事前に配られたゴミ袋とトングを両手に、とても緊張していた。

 

 場所は、『春木競馬場』の駐車場である。

 

 日々広さが増している気配を感じるそこは、去年に比べて実は1割近く敷地面積が広がっているのだが……残念ながら、気付いている者は千賀子たちを除いて誰もいなかった。

 

 そして、そこには……ブルーシートが掛けられた膨らみと、超巨大な鍋が置かれていて、ゴーっと既に着火されていた。

 

 まだ、鍋からは何の匂いもしない。

 

 今はまだ、沸かしているだけの段階のようで、オーナーの秘書であるロボ子さんが、ダシとなる鰹節を投下している。

 

 この時のために用意したのかと思うような特注巨大コンロにはチューブが伸びていて、プロパンガスのボンベに繋がっている。

 

 その数、3つ。

 

 そう、巨大な鍋が、この場には三つある。

 

 一つだけでも大したサイズだというのに、それが三つともなれば、それだけでも気合の入れようを感じ取れる。

 

 傍には、ショベルカーも3台……なのだろうか? 

 

 集まっている人々の目から見れば、なんかちょっと形が違うような……まあいい、とにかく、そんな装置が置かれている。

 

 装置の傍には、『芋煮かき混ぜ君』という文字が記された張り紙が……なるほど、これだけのためのショベルカーというわけか。

 

 誰しもが理解し、わざわざ用意したのかと感嘆のため息をこぼしていた。

 

 

『──あ~、マイクのテスト中、テスト中……』

 

 

 そんな中で、き~ん、とスピーカーよりハウリングが。

 

 この日のために用意された壇上にて設置されたマイクを手に、千賀子の声が響き渡り……ゴクリと、言葉を待っている誰もが唾をのみ込んだ。

 

 緊張している、緊張感が増している。

 

 芋煮会にそこまで……いや、それもあるけど、それだけではない部分も多々ある。

 

 言うなれば、大企業の社長が直々に挨拶に出て来たような状況でもある。

 

 普段は顔はおろか声すらまともに聞く気配がない人でも、こういう場面では顔を見る機会があるわけで……そういう意味での緊張感もあった。

 

 ……顔は隠さないのかって? 

 

 さすがに、こういう挨拶の場面ぐらいはちゃんと顔を出す。全力で『魅力』を抑えたうえでの話だが……で、だ。

 

 

『え~、本日はお日柄もよく、我が競馬場主催のボランティア活動に参加していただき、ありがとうございます』

 

 

 マイク越しとは別に、千賀子の声はよく響く。

 

 それでいて、心地よく耳に残るばかりか、記憶にも残る。

 

 これもまた千賀子が『ガチャ』で得た力であり、その気になれば声だけで相手を魅了できるパワーを秘めている。

 

 実際、千賀子が一切の手加減せず囁けば、それだけで相手を腰砕けにしてしまうほどで……それゆえに、だ。

 

 千賀子の言葉は、距離があってもしっかり届く。

 

 ちょっと耳が遠くなっている老人にも、耳が良すぎる子供にも、その中間の人たちにも、それはそれは、しっかり届いた。

 

 

『ところで、芋煮会の件ですが──』

 

 

 だからこそ。

 

 

『事前に集めたアンケートの具材を全て用意しました。これら全部を使う予定ですので、ご安心ください』

 

『ただし、全てを同量にしますとアンケートした意味があまりありませんので、より多く挙げられた具材はその分だけ量を増やしております』

 

 

 その言葉が、誰しもの耳に届いた瞬間──誰もが、己の耳を疑った。

 

 と、同時に……バサリ、と。

 

 剥がされたブルーシートの下より出てきた色取り取りの具材や、何よりも、各種の味噌があることに、集まっている人々から歓声があがった。

 

 どうしてかって、彼ら彼女らは、各自が信じる芋煮を採用してもらうために、あの手この手で細工をしていた。

 

 選ばれるのは、一つだけ。

 

 そう思っていたからこそ、彼ら彼女らは必死になっていたのだが……しかし、そんな事は全て杞憂であった。

 

 

 ──さすがは秋山オーナーだ、なんて太っ腹なんだろうか! 

 

 

 一同、感動である。

 

 こんな太っ腹な事をされてまで、余計な小細工をするのは無作法というもの……そう気持ちを改めた一同は、尊敬の意味を込めて秋山オーナーを見つめた。

 

 

『──最後にちゃんとコレも入れますので、安心するように』

 

 

 が、しかし。

 

 その宣言と共に、ドカッと置かれた大量の赤い缶を見て、誰もが……言葉を無くした。

 

 いったいどうして……それは、置かれた赤い缶に対して誰もが見覚えがあったからで。

 

 

「か、カレー粉……?」

 

 

 誰かの呟きに、ようやく彼ら彼女らは状況を理解し始め──けれども、だ。

 

 

『え~、アンケートの集計結果を軽くではありますが発表します。基本的に、一人一つ1ポイント計算です。まず、サトイモは〇〇〇人、合計〇〇〇〇ポイント──』

 

 

 呆気に取られている彼ら彼女らをしり目に、秋山オーナーは一つ一つ具材や味噌の名前を挙げていく。

 

 結局全部用意するなら、そんなのを発表する必要があるのか……何も知らない第三者が居たら、そんな疑問を抱いただろうけど。

 

 

『──え~、お察しかと思われますが、最初の一発目から、既に全職員の人数よりも多いポイントを得ている具材がありますね?』

 

『これまたお分かりと存じておりますが、アンケートは一人一枚のみ、複数での投票は許可しておりません』

 

『おそらく手違いによって複数カウントされたと思われますが、名前の表記は入れておりませんし……まあ、些細な問題ではありますね』

 

 

 事情を知る者たちからしたら、それはなんとも緊張感をもたらす発表でもあった。

 

 そう、この時点で、誰もが理解した。

 

 秋山オーナー……アンケートの不正に気付いている、と。

 

 

『──しかし、それですと、どうにもアンケート結果に対する公平性が欠けてしまいます』

 

『なので、私は考えました……何も知らない第三者の意見も入れましょう、と』

 

 

 その言葉と共に、秋山オーナーは……ポケットより一枚の紙を取り出し、広げる。

 

 

『匿名希望、世界で一番可愛い女の子より──』

 

 ──あっ(お察し)。

 

『芋煮よりカレーの方が好きです──とっても可愛いので5000兆ポイントですね』

 

 ──ああ……(絶望)

 

 

 この時点で、誰も彼もが絶望にうなだれた。

 

 匿名希望の第三者とは言いつつも、もはや、この場の誰もが……その子の正体を想像出来ていた。

 

 よりにもよって、その子がそう答えてしまったのであれば、実質的に覆すのは不可能……そう、誰もが理解していた。

 

 そりゃあ、5000兆ポイントなら明らかにカレー粉の量が多くなるよ……が、しかし、そこは秋山オーナー。

 

 

『……ただし、カレー粉投入は、この後行われるゴミ拾いにて不正行為を働いた者に対してとさせていただきます』

「──っ!?」

『良いところ見せようと他所のゴミ捨て場から回収したり、自宅のゴミをこっそり持ってきたり、そういう事はお止めください』

「…………」

『同様に、無用な喧嘩を起こしたり、挑発したり、そういうトラブルを吹っ掛けた人に対しても、問答無用でカレー粉を投入します……よろしいですね?』

「──っ、はい!」

 

 

 ちゃんと、飴と鞭の使いどころをわきまえているのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………さて、そんな感じで始まったゴミ拾いだが、千賀子の脅しが効いたのか、特にトラブルらしいトラブルは起きなかった。

 

 まあ、冷静に考えたら当たり前である。

 

 事前に周辺地域には話を通しているし、最寄りの警察署にもちゃんと話を通してある。

 

 今回のボランティアに参加している人たち全員に名札を渡して、それを首から掛けて見えるようにと通達している。

 

 他にも、基本的に他人の私有地に入ってはダメ、公共施設もダメ、基本的には路上のゴミに限定。

 

 各自に対して、集めても良いゴミを指定。

 

 あとは、公園ぐらいならば……と話を通しているので、それぐらいは許可しているが……それだけ。

 

 やっていること、ただのゴミ拾い。

 

 よほど変なモノを見つけたり騒ぎを起こしたりしない限りは、何事も無く終わるのが普通である。

 

 そして、集まったゴミは……会場にてロボ子が用意した焼却炉にて処理して終わりだ。

 

 この焼却炉は『愛し子カワイイもうどこから褒めたら良いのか分からないうう涙が出そうああ出ちゃったカワイイ愛し子カワイイぺろぺろしたい会社』を通して発注したように見せかけているので、誰も疑問に思わない。

 

 あまり頼りたくはないけど、こればかりは『愛し子カワイイもうどこから褒めたら良いのか分からないうう涙が出そうああ出ちゃったカワイイ愛し子カワイイぺろぺろしたい会社』を通さないと、『あの焼却炉はいったい!?』と騒ぎになってしまうので……話を戻そう。

 

 時間を区切っているので、終了時刻が近付けば自然と会場に人が戻って来る。

 

 元々野次馬感覚で芋煮が作られていく様を見ている者も合わせると、既にけっこうな人だかりが出来ていた。

 

 

 ……そんな中で、ゴミ袋を持っていた人たちが何をしているのかと言えば……答えは、ゴミの分別である。

 

 

 そう、実は、今回のゴミ拾い。

 

 ただゴミを拾うだけでなく、ゴミの分別において少しは知識を持ってもらおうという意図もあって企画されているのだ。

 

 現代に至っても『ゴミの分別……?』という人は大勢居るけど、この頃は逆にゴミの分別をしっかり行う人の方が少なかった。

 

 それもまあ、致し方ない面もあるのだ。

 

 缶や瓶、リサイクルとして交換出来る新聞紙や雑誌ぐらいなら分別している人はそれなりに居たけど、それぐらい。

 

 ゴミの分別に関しては始まったばかりで、いきなりキッチリしっかり分別しろというのが無茶な話であった。

 

 だから、集めても良いゴミを各自に指定したのだ。

 

 ある人はタバコの吸い殻だけ、ある人は空き缶だけ、ある人はビニールゴミだけ、ある人は燃えるゴミ(布)といった具合に。

 

 効率は悪いけど、身体を動かして実物を見て将来的にはゴミの分別を覚えてほしい……という思いがあったわけだ。

 

 

 ──で、会場では、ちゃんと出来ているかの確認作業をするわけだけれども……まあ、しっかり出来ている人は多くはない。

 

 

 吸い殻など、あまり間違えないようなゴミならば問題ないが……やはり、燃えるゴミと燃えないゴミの区別はまだ難しいようだ。

 

 まあ、間違ってもペナルティは無いし、端から指示を守る気も無い人……は、居ないようだから、まだ良いのだけど。

 

 本来ならばいちいち袋を開けて確認しないとダメだが、そこはロボ子のおかげで開封せずに中身を確認出来ているおかげで、実にスムーズに作業は進んだ。

 

 

「オーナーさん、あのね、変な自販機があったの、ガチャガチャの」

「ガチャガチャの変な自販機?」

「うん、お金を入れなくても、ボタンを押したら出てくるの。いっぱい取れたから、オーナーさんにもあげるね」

「え? あ、ええ、ありがとう」

 

 

 その最中、参加していた子どもより話しかけられた千賀子は、手渡されたカプセルを見やり、首を傾げた。

 

 それは、ガシャポンのアレだ。

 

 中身は……なんだろう、布の塊か、ハンカチか。

 

 振ってみても重さは感じられず、ロボ子からも『爆発物の類は検知されず』とのことで。

 

 

「中身は見た?」

「ううん、見てないよ」

 

 

 子どもに聞いても分からないとのことなので、とりあえず、子どもにも見えるようにカプセルを開けて……取り出した中身を広げれば。

 

 

「……ずいぶんと、派手なパンツね」

 

 

 中身は、パンツだった。それも、女性用の。

 

 それでいて、スケスケで……言ってはなんだけど、子どもにはあまり見せられない類のパンツであった。

 

 ちょっと気になるのは、誰かの中古品なのか、ちょっとゴムが伸びているというか、生地が……うん。

 

 これには、興味津々に眺めていた他の人たちもちょっと眉根をしかめ……子供は分かっていないが、次いで、首を傾げた。

 

 なんでかって、単純に悪戯にしては手が込み過ぎているからだ。

 

 わざわざガチャガチャの機械を用意して、カプセルに下着を詰めてセットするだなんて。

 

 しかも、この下着……悪戯で使うにしては質が良いというか、かなり値が張るタイプなのが手触りから察せられる。

 

 愉快犯にしても意図が……ん? 

 

 

(あれ、なんかコレ、見覚えがあるような気が……あっ)

 

 

 その瞬間、千賀子は反射的かつ素早くソレをポケットに入れた。

 

 突然の反応に困惑する周囲をしり目に、千賀子は簡単に挨拶をしてからその場を離れ……関係者以外立ち入り禁止にしてある千賀子の待機スペースへと戻ってから。

 

 

「あの、女神様……私の気のせいでなければ、これってタンスに入れっぱなしの私の下着だったと思うのですが?」

 

 

 そう、己とロボ子以外誰も居ない室内にて、そう呟いた。

 

 

『──はい、愛し子の下着になりますね』

 

 

 それから、少し間を置いてぬるりと姿を見せた女神様は、何時ものようにあっけらかんとした様子でそう告げた。

 

 当然ながら、千賀子は普通に怒った。というか、怒らない人の方が少数派だろう。

 

 なにせ、勝手に己が使用していた下着(幸いにも、洗濯済みだった)をガチャガチャの景品にされていたのだから。

 

 

『──だって、愛し子ったらいつまで経ってもボロボロの下着を捨てずに使うではありませんか?』

「それは──」

『──ゴムも伸びて、刺繍がほつれ、色も一部抜けてきているのに、どうして私が用意した他の下着を履かないのですか? ブラジャーもですよ』

「……いや、だって、まだ履けるし」

『──そういうの、あまりよろしくないのでは? せっかく用意してあるわけですし、物持ちが良いを通り越して貧乏性というやつでは?』

「…………」

 

 

 しかし、今回は少し旗色が悪くなりそうな気配がして、千賀子は黙ってしまった。

 

 いや、そもそも、勝手に人の下着を景品みたいにするなって話なのだけど……それはそれとして貧乏性かと言われたら、否定できない。

 

 タンスに入れっぱなしにしていたのも、まだ履けるから、まだ使えるから、そのうち使うだろうと勿体ない精神を発揮しただけである。

 

 実際、女神様が用意してくれた下着はたいへん着心地良く、丈夫で長持ちなのだけど……ちゃんと劣化はするのだ。

 

 おそらく、いっぱい作っているから色々付けてってな意味なのだろうけど……っと。

 

 

「マスター、これに関しては私も同意見です」

「ろ、ロボ子、おまえもか……」

「ゴムや生地が伸びて薄くなっているシャツを寝間着代わりにするのはお止めください、エマお嬢様が真似をしたらどうするおつもりですか?」

「で、でも、ある程度使い古した服って着心地良くて寝心地最高なんだよ……」

「透けて乳首の色が分かるような寝間着は限度を超えていると、私は思うのですが?」

「…………」

 

 

 まさかの、ロボ子参戦に……千賀子は、そっと目を逸らしたのであった。

 

 

 




次回で芋煮会は終わりです
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