ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
──何度も言うが、別に千賀子は芋煮に対してこだわりはない。
なにせ、豚汁の具材が芋なら芋煮という程度の認識しかなかったぐらいで、地方によってぜんぜん違うよって事も知らなかった。
だからこそ、白みそ、赤みそ、しょう油、この三つの味付けなった芋煮を前にして、千賀子は素直に『まったく別の料理みたいだ』とこぼしたわけだ。
実際、芋煮において、味の土台となる味噌やしょう油は非常に大事である。
この頃にはもうどんどん全国のスーパーにて均一かつ安定した質の味噌が帰るようになり、それが主流になりつつはあったが……それでも、個人店の味噌屋は現代よりも多かった。
なので、同じ市内であっても、だ。
『〇〇店の味噌を使わないと……』というこだわりを持つ人が多い地域や、『〇〇店で買えるしょう油を使わないと……』というこだわりを持つ人が多い地域は多かった。
……しかし、さすがに今回は、そんなわがままをいう人は居なかった。
いったい、どうしてか……それはひとえに、時々思い出したように秋山オーナーがカレー缶に手を伸ばすからだ。
喧嘩したり言い争うようなら問答無用でカレー粉をぶちこむぞという脅しは、けして、ただの脅しではない。
そう、秋山オーナーは、やる時はやる。
相手が子どもであろうとも、本当にしなければならない躾だと判断した時点で、衆人環視の中で尻たたきを行う女傑なのだ。
しかも、いつの間にか用意したのか……カレー粉の傍にはなんと、うどんと蕎麦まで置いてある。
それだけで、誰もが察した……この人、カレー汁にするだけでなく、カレーうどんにする気だ、と。
それも、邪道も邪道なカレー蕎麦まで作る気だ……蕎麦の香りを根本からかき消してしまう、邪道なやつまで。
それを知っているからこそ、職員たちもそうだけど、参加している者たちは誰も触れなかったし、表向きは互いが手を取り合っているように見せた。
……そうして、表向きは平穏なまま……ついに、芋煮は完成した。
時代が時代なら、ギネスブックに載ることになっていたかもしれない……巨大鍋で作られた芋煮が三つ、そこにあった。
『無事に完成致しました。芋煮調理のために鮮やかにショベルカーを運転してくれた、高司さんに拍手をお願いします』
千賀子がそう促せば、一斉に拍手が降り注ぐ。
運転席から降りた高司さんは、とても照れくさそうに頭を掻いていた。
『どうでしょう? 私が言うのもなんですけど、こういう事でショベルカーを使うのって初めてだと思いますが……』
「そうですね、最初にこの話を聞いた時は正直耳を疑いましたけど……なんというか、けっこう楽しかったですね」
『そう言っていただけると、この催しを開いた甲斐があったというものです。それでは、この後の芋煮も是非に』
「ご馳走になります」
そんな感じで、主催者としてプログラムを進めて、一通り話し終えた後は……ついに、実食の時間である。
この際、職員より『ぜひ、秋山オーナーから』と声があがったが、千賀子はそれを拒否した。
理由は、『この催しを盛り上げ頑張ったのはあくまでも貴方たちなのだから、貴方たちから椀を取りなさい』、という思いから。
もちろん、それだけではまだ遠慮する者がいるので、そこで千賀子はあえて参加している子供たちの事を出した。
私はここでふんぞり返っていただけで、実際に動いているこの子たちもお腹が空いているから……と。
そこまで言えば、さすがに彼ら彼女らも拒否は出来ず……一人、また一人、思い思いに芋煮へとお玉を差し込み、掬っていった。
それを、千賀子は眺めつつ……ふと、少女たちの集団に千賀子の視線が向かう。
その中でも、ひと際深く帽子を深くかぶり、色付きの眼鏡を付けた少女を見つけ……ジッと見つめる。
その少女は……いや、語るまでもないことだ。
その子の事は、実は最初から目を付けていた。ずーっと、その位置を常に確認していた。
当人には気付かれないよう、ロボ子に頼んでボディガードロボットをステルスモードで待機させているが……まあ、気付いては──っと。
ふと、千賀子の視線に気づいたのか、少女は振り返り……視線が合ったのを千賀子は感じ取った。
直後──少女はピロピロと舌を出した後、ニコッと笑って手を振ってから──友たちを伴って、芋煮の列へと駆け足で並びに行った。
……。
……。
…………その後ろ姿を見送った千賀子は、しばしの間、遠ざかって人ごみの向こうへと消えたのを確認してから……ふう、と息を吐いた。
「大きくなったわね」
その呟きに、ロボ子が頷いた。
「そうですね、去年に比べて身長が──」
「そういう話じゃないわよ……いや、そういう話でもあるのだけど」
そんなロボ子のどこかズレた返答を遮りつつ……堪らず苦笑をこぼした千賀子の目は。
(大きくなったなあ……少し前まで、私がお乳をあげていたのに……気付いたら、もう高学年か)
(私があの子ぐらいの歳頃は何をしていたっけかなあ……家の手伝いしたり、爺ちゃんが引く自転車の荷台に座っていたり)
(……そういえば、小学生の時だっけ、台風が来たの)
(あの時は大変だったなあ……よくまあ家族全員無事だったよ……あ、私は入院したんだっけ?)
(色々あったなあ……あの子の未来にも色々あると思うけど、健やかに育っていってほしいなあ……)
どこか遠い場所を見つめていたのであった。
……。
……。
…………さて、そんな感じで芋煮会(メインはゴミ拾い)は終わったのだが……効果は、さほどなかった。
そりゃあ、そうだ。
これまで数年、十数年、数十年と続けていた感覚が一昼夜で改善なんてするわけがない。
せいぜい、いつもなら何も考えずまとめて同じ袋に入れる缶や瓶を、時々は分ける……それぐらいでも御の字。
1000人の内、2,3人が改めて続けてくれるだけでも……という話であり。
あとは、ポイ捨てする時にちょっと立ち止まって、ゴミ箱を探す……という行動を取るようになってくれたら、なおさらヨシ。
その程度の事だけど、最初は、その程度の事でもしてくれるようになったらヨシ……であった。
……さて、と。
そんな感じでひとまずゴミに関する啓蒙もどきを行ったわけだが……それはそれとして、大本の問題が残っている。
いったい何がって、それは河童たちが住まう村の近隣で増加している不法投棄のことだ。
こればかりは他県からやってくる車や、そもそも分かったうえで捨てて行っているから、どうにもならない。
なにせ、事の問題は膨れ上がり続ける物価高、全体的なゴミ処理能力の不足、全国的な建造ラッシュが生み出す歪だ。
根本的に解決しようと思ったら、それこそ物理的に処理センターを開設して、他よりも格安にして、それでいて不法投棄者を根こそぎ厳罰に処すぐらいをしなければ……う~ん。
「何か良い方法ある?」
「そうですね、ドルに介入して物理的に円高を止めて逆にドル高へと推進すれば、ひとまずゴミ問題は軽減されます」
「それ、やったらどうなるの?」
「にわかに燃え上がったバブル景気に対して急激なストップを掛けるわけですから、下手しなくても急激な景気減退が起こります」
「それって、どれぐらい?」
「そうですね、全国的にも零細工務店がバタバタ倒産したり、それに合わせて商社などでリストラの嵐が吹き荒れるかと」
「ヤバくない?」
「この程度、序の口です。下手したらドル安が進まないアメリカがブチ切れて経済戦争を起こされますよ」
「……そっかぁ」
なんとも世知辛い話に、千賀子は一つため息を吐いた。
「現在の日本は、産業構造を輸出中心から内需中心にシフトしようとしているのですが……産業を新しく起こすにしても、猶予がが短すぎるのです」
「なんでまた内需に?」
その問いに、ロボ子は……いつの間にか掛けている眼鏡を、クイッと指で位置を整えた。
「これまでは円安ドル高だったので輸出が好調だったのですが、円高になれば……なので、これからは外へ売るだけではなく、国内にも……と、考える者がいるわけですけれども」
「……ども?」
「技術を確立し、産業を起こそうと思えば5年、10年、15年、それだけの月日を必要としますが……土地の売買という即物的な取引で利益が出ることに人々が気付き始めてしまい、その目論見が外れようとしています」
「つまり?」
「当たるかどうか分からない苦しい技術革新に邁進するより、土地を右から左に転がすだけで数千万円の利益が出るのですから、誰だってリスクは取りませんよ」
……もちろん、全員がそうではない。
この頃にもちゃんと実体の無い好景気を警戒し、資金がある今のうちに新技術の開発に動いている者はいた。
むしろ、先を見越していた者たちほど、そのように動いていたのだ。
しかし、あまりにも変化が早過ぎたうえに、出したら出した分だけ売れるという異常な状態が長く続いてしまった。
苦労して新しい技術を生み出しそれを活用した商品を売り出すのではなく、既存の商品を少しアップデートしただけの商品を売り出すなんてところも多かった。
これはまあ、当時実際にあった話らしいのだけど。
とある部品製造会社は、このバブル景気に合わせて新しい機械を導入したのだけど……それは、製造していた部品をより高性能にするための設備ではなく。
性能はそのままで、一度に製造できる量が増えただけの最新機械を導入したというやつで……実際、短期的に見たら正しい判断ではあるのだ。
何度も言うが、出せば出しただけ売れた、そんな時期でもあったのだ。
倍の量の部品を作れば、倍の売り上げが出た時期だから……そりゃあ、もっともっとたくさん作って売り上げ出すぞと思っても致し方ない時期でもあったのだ。
なので、当初はそれで利益がしっかり出て、業績も右肩上がりだったのだけど……バブルが弾けてすぐに、それは重い負債となって圧し掛かり。
結局、そのまま負債を返し切れず倒産……というのは、この頃けっこうありふれた話だったのだ。
「技術か……ロボ子がパパっと教えて解決とかは……?」
「技術というのは一歩ずつ自らの進んでいかなければ、必ずどこかで致命的な躓きが発生しますので……」
「それもそうか、さすがにそこまで面倒見るのは傲慢ってやつかな」
あっちを立てたら、こちらが立たず。
こちらを立てたら、あちらが立たず。
1980年代ともなれば日本経済はすっかりグローバル化が進み、世界経済との関わりが浸透しつつあった。
実際、バブル景気だって意図的に仕組まれた代物ではあるし、それが生まれた理由は様々な経済的、貿易的な摩擦が積もり積もった結果ではあるし。
以前のように、我が国さえ良ければ全てヨシな気持ちで動いていたら、そのうちどこかで必ずしっぺ返しが来る……というのが、1980年代の日本なのである。
これまで通りに寄付や援助を続けるにしても、果たしてそれだけで足りるか……しかし、あまりにもやり過ぎると、嫉妬や不満が渦巻いてしまうし。
「なんとかなりませんかね、ロボ子くん」
「無理でしょうね、人の欲望に限りはありませんし。下手にブレーキを掛けようとしたら、儲けを独り占めしようとしていると反感を持たれるだけかと」
「ああ、やっぱり……」
「ですから、会社とか作ったらどうですか?」
「え? もうあるじゃん」
思わず首を傾げれば、「いえ、例のアレではなく……」ロボ子は無表情のままに答えた。
「そういう女神様の御力とは関係のない、マスターご自身の『<●><●>』会社よりも、やはり女神様との共同会社を新たに作ってはどうでしょうか?」
「女神様、ロボ子に悪気はないから、私のためを思って言っているだけだから、そんな睨まないでね?」
目に見えてブルブル震えているロボ子と、今にも顔がくっつかんばかりにロボ子を見つめる女神様をなだめつつ……話の続きを促す。
「つまり、寄付という形ではなく、広く薄くお金を使えば良いのです」
「ほう?」
「バブルを止められはしませんけど、少しは崩壊へのショックを和らげられるかもしれません」
「なるほど」
言われて、千賀子は納得し……次いで、ジ~ッとこちらを見つめてくる女神様へと視線を移す。
「はい、なんでございましょうか、女神様」
『──アニメを作りましょう』
「……はい?」
『愛し子と私のアニメを作りましょう、予算を掛けて』
「……はあ、まあ、女神様が言うのなら」
そしたら、なにやらそういう事になった。