ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第248話: 何度目かとなる、何も知らない千賀子さん(アラサー)

 

 

 

 ──そうして、少しばかり時は流れ。

 

 

 大して興味は無いけどロボ子が作るアニメはすごいなあ……みたいな感覚で見ていた千賀子は知る由もなかったのだけど。

 

 アニメーション業界は『かぐや・竹取りと呼ばれた者 ~MIKADO 帝の逆襲~』という作品が与えたとてつもない衝撃をまだ吞み込めていなかった。

 

 理由はいくつかあるが、もっとも大きな理由は、なんといっても作画全体から感じ取れる莫大な予算の気配……ん? 

 

 

 普通は作画とかアニメーションの上手さじゃないのかって? 

 

 

 もちろん、そこも見る。

 

 しかし、それ以上に働いているアニメーターたちが気にするのは、その作品に掛けられた予算(偏見)だろう。

 

 なんでかって、兎にも角にもアニメの業界というのは、ごく一部の売れっ子を除いて大半が薄利多売な構造になっている。

 

 より多く、より短時間で、より正確に描ける人ならば、その分だけ報酬も増えていくが……それにも限度がある。

 

 

 なにせ、『予算』という絶対的な限度があるからだ。

 

 

 仮に30分アニメの1話で3000万円という予算が付けられたとして、それが丸々制作会社に入るわけではない。

 

 実際は放送や宣伝などにいくらか割かれ、中抜きという形で抜かれたりする時もあり、実際に入って来る金額はかなり減額される。

 

 あまりに酷い例だと、予算3000万円から抜かれに抜かれて、最終的に残った数百万円しか制作会社に……というのもあったらしいのだから驚きである。

 

 しかし、残念ながらアニメ業界ではこういった事が常態化していた……いや、正確には、常態化されようとしていた。

 

 

 いったいどうして? 

 

 

 それは、業界の中でもレジェンド的な存在になっていたとある漫画家が影響していると言われている。

 

 ただし、これはあくまでも所説の一つであり、今日にまで続く問題を常態化させた側が全ての罪をその漫画家に押し付けたという説もある。

 

 どちらにせよ、この問題は非常に根深く、誰か一人が悪いという話では収まらないわけで……そんな中で、だ。

 

 アニメーターだからこそ、『かぐや・竹取りと呼ばれた者 ~MIKADO 帝の逆襲~』の異常性に真っ先に気付けたのだ。

 

 

 ──これ、1億とか2億なんてレベルの予算じゃねえぞ、と。

 

 

 そのうえ、全編に渡ってフルアニメーションの時点で、予算だけの話では収まらなくなっている。

 

 単純に、日本では主流になっている製作日数の3倍……いや、フルアニメーションだからこそ作画を統一させるために、それ以上の時間を必要とする。

 

 製作日数が伸びるということは、その分だけ必要となる予算も増えるわけで……それが約70分だ。

 

 製作期間は1年、2年……推定される予算も10億、20億なんて話になってゆく。

 

 そんな作品を、宣伝などを使わずぶっつけ本番で上映したのだ……そりゃあ、誰だって気になるだろう。

 

 そうして気になったから調べてみたら、だ。

 

 なんと、スポンサーはあの『春木競馬場』オーナーの女傑、秋山千賀子氏だというのだから、業界人は一人の例外もなく驚いたわけだ。

 

 

 秋山千賀子。

 

 

 一般人からしたら、競馬場を経営しているすごい社長さんといった程度の認識だが、ちゃんと知っている人からすれば、その名が出て来た時点で身構えるほどの超大物である。

 

 なにせ、肩書だけでも、だ。

 

 日本でも有数の資産家(なお、誰も実際の資産を調べることはできない)で。

 

 日本でも有数の大地主(なお、持っている土地のほとんどは二束三文)で。

 

 日本でも有数の篤志家(なので、足を向けて寝られない人多数)で。

 

 日本でも有数の実業家(なお、千賀子自身も把握出来ていない)で。

 

 日本唯一の競馬場個人オーナーであり、ある場所では教祖をやっていたり、ある時は外国競馬場オーナーと懇意にしていたり。

 

 なんか政界にも角界にも、下手したら一部の芸能界関係者、そのほか様々な業界にも顔が通じていると言われていて。

 

 冷静に考えたら、『この人が万が一倒れたら日本経済ヤバない?』という認識を持たれている人物である。

 

 そんな人物が、成長著しいとはいえ、薄利多売が常態化しようとしている業界に参入してきたのだ。

 

 それも、日本のアニメーション業界関係者の度肝を抜くような作品を引っ提げて……これで注目しない方がおかしいという話なのである。

 

 

 ……で、話を戻すが、アニメーターたちの興味を引いたのは、千賀子に雇われている人たちの収入である。

 

 

 噂でしか知らないが、秋山千賀子という女傑は従業員を安く使い潰すようなことはせず、適正あるいは少し上の給料を支払う人だと聞く。

 

 ……いくら、夢の仕事、望んだ仕事、やりがいがあるとはいえ、だ。

 

 

 やっぱり、給料は欲しい。

 

 やっぱり、お金が欲しい。

 

 やっぱり、色々と物欲があるわけで。

 

 

 チラチラ、チラチラ、チラチラ、と。

 

 さすがに相手が相手なので、『そっち、人手必要ですか?』なんて気軽に電話することも出来ず……多くのアニメーターたちの注目を集めるばかりで、誰もがやきもきする状態になっていたのであった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………だからこそ、彼ら彼女らは知らなかった。

 

 

 当の千賀子はアニメーションの事なんて何も知らず、「ディ〇〇〇みたい」と感心しているだけで。

 

 もっぱら動いてたのはロボ子と、作画ロボットたちだけで。

 

 むしろ、『こんなの、こんなのはアニメーションじゃない!!』といった具合に芸術肌を発揮し始めているロボ子をなだめることに忙しかった。

 

 そう、いつの間にかロボ子、両方の意味に取られる面倒臭さを発揮し始めていた。

 

 フルアニメーションで作ったかと思えば、『こんなのはディ〇〇〇の焼き直しだ!』って途中でセル画を投げ捨てたり。

 

 それが落ち着いたら、『より精密に近づければ、それはもう実写の二番手よ!』と、なにやらアニメ描きまくるロボに演説したり。

 

 かと思ったら、『リアリティの追求、それもまたアニメーション!』とか言い出してガリガリ描き始めて……うん。

 

 いちおうは、広く浅くお金を使って……という目的のために、まずは知名度をという方針を違えているわけではないのだけど。

 

 なんかロボ子の悪い癖というか、凝り性が表に出始めて来たぞ……と、思わないわけではなかったのだが。

 

 

(こういう時のロボ子に下手に口出すと、しばらく拗ねるからなあ……まあ、あまりにも酷くなるまでは放置でいいかな)

 

 

 とりあえず、その程度の認識しか千賀子にはないのであった。

 

 まあそれは、映画を見たエマが『とても面白かった!』と喜んでいたからなのと。

 

 

「あっ、ロウシだ(ナミダポロポロ……)」

 

 

 女神様が用意する映画を見せられ、時々ポロリと涙を零してしまうからでもあった。

 

 

 

 

 

 ……とはいえ、だ。

 

 

 さすがに1から10まで何でもかんでも任せっきりなのは……いや、それ以前に、アニメ映画制作にだけ力を注ぐのは違うので、ちゃんと千賀子も動く。

 

 具体的には、各制作会社へのスポンサー契約である。

 

 金額が金額なので電話などでは済ませず、スポンサーの中でも一番出資金が高いところと、制作会社の代表を交えて……になるのだけど。

 

 ただ、コレに関してはこれまでのように……とは、中々スムーズには進まない……というか、進められない。

 

 なんでかって、やっている事は横入りみたいなモノだから。

 

 初期の段階から入ったならばともかく、途中から入ってきて、金を払ったから我が物顔で……というのは、あまりよろしくない。

 

 理屈の問題では……いや、理屈の問題ではあるのだけど、同時に感情の問題でもあるわけで。

 

 制作会社からしても、大口の契約は喉から手が出るほど欲しいけど、元々の付き合いがある相手を蔑ろにするわけにもいかない。

 

 そして、アニメ制作においての発言権とはすなわち、出資金の量。より多くの資金を積んだ方が上であり、作品全体の方向性すら左右させることが出来るのである。

 

 だから、どこの制作会社も嬉しい反面……みたいな反応を見せたし、話を耳にした各スポンサー会社も微妙な反応を見せた。

 

 もちろん、千賀子もそこらへんは事前にロボ子から話を聞いていたので……出資金は控えめにすることにした。

 

 

「とりあえず、各1話ごとに1000万円ほど──」

「ひ、ひぃぃ!! (椅子から転げ落ちる)」

「え、あの、私なにかやっちゃいましたか?」

「あわわわわ……(震えて立ち上がれない)」

「もしかして、低すぎるってことですか? (懐より、追加で札束を五つ)」

「ぎゃ、ぎゃ、逆ですよ……!」

 

 

 初手、1500万円。

 

 この頃の基準で言えば、単独で30分アニメ1話分の制作費(豪華版)を出してきたようなものである。

 

 あまりのインパクトに、スポンサーも制作会社も椅子から転げ落ちるしかなかった。

 

 なお、その金額の基準は、ロボ子が作った映画を実際に人の手で作ったらいくらになるか……という算定の1%以下にまで抑えた金額というだけである。

 

 ちなみに、ロボ子から1話あたりの値段は聞いていたのだけど。

 

 せっかくお金があるわけだし、そもそも元の金額が低すぎるという話も聞いていたから……これでもうちょっと精の付くモノを食べてという思いが強かった。

 

 

「あ、著作権とかそういうの、私は関与しないのでご自由になさってください、後から口を挟んだりはしませんので」

「──っ!? (白目を剥く)」

「足りなさそうならおっしゃってください、必要ならば追加で出資致しますので」

「……(とんでもない怪物を前に言葉を無くす)」

 

 

 この時点で、制作会社はギブアップ。

 

 これほどの大金を積まれて理由も無く首を横に振れば、逆に千賀子の反感を買ってしまうと判断したからだ。

 

 ゆえに、自然と視線がスポンサーの職員(来年昇進予定)へ……だが、今回ばかりは相手が悪かった。

 

 なにせ、相手はそんじゃそこらのヒヨッコではない。人によっては出会った瞬間、撤退を視野に入れる女傑である。

 

 多少なり出資金を積まれたとて、社会的な常識を説いて落としどころを作るようにと気合を入れていたのだが……想定していた金額の倍近くともなれば、さすがに前提が変わって来る。

 

 発言権が……それ自体が、完全に千賀子へと傾いてしまう。

 

 これを言葉だけで覆すのは至難の業……進むも地獄、引くも地獄、サラリーマンの戦場とはなんと厳しい世界なのか! 

 

 

「……あの、秋山さん」

「はい」

 

 

 されど、実質的に昇進が既に確定している、その男は……タダモノではなかった。

 

 

「実はですね、アニメというのは、それ自体では儲けが出ないというか、出にくい代物なんです」

「あら、そうなんだ」

「なので、何度も再放送をしたり、玩具などを販売したりして……言い方はなんですけど、アニメとは宣伝も兼ねているわけでして」

「ふむふむ」

「そして、いざという時のために、泥を被るのもまたスポンサーである私た──」

「泥なんて被ってないでしょ? 何か起こったらすぐに撤退して、ほとぼり冷めたら戻って来るじゃん」

 

 

 さりとて、千賀子もまたタダモノではなかった、色々な意味で。

 

 

「アニメという世界に投資して美味しく実ったら収穫するわけだから、それを泥を被るだなんて表現はちょっと違わない?」

「ははは、これは手厳しい……」

 

 

 結局、基本的には千賀子は口を出さないという条件の下、細々とした話し合いが続き。

 

 無事に落としどころを作ってこの話を終わらせた男は、その頃になると体重を10kgも落としたというが……翌年昇進し、結婚したらしいけど。

 

 当の千賀子には、知る由もないことであった。

 

 

 

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