ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第256話: 千賀子、偉大なる1歩を踏む前の経緯

 

 

 

 時は流れ1985年(昭和60年)……千賀子の前世ではまだバブル景気は始まっていない。正確には、バブル景気が始まるきっかけとなるプラザ合意が成された年である。

 

 しかし、今生の世界では様々な要因から前倒しになってしまっている。

 

 すでにプラザ合意が成され、バブル景気が始まって(というより、行われて?)から2,3年が経過している。

 

 これによる影響はもう、既に……ごく一部の地域で起こっていた。具体的には、東京だ。

 

 やはり、様々な事柄の中心地になりやすいだけあって、景気の異常な底上げ具合はすさまじい事になっていた。

 

 いわゆる、万札を掲げてタクシーを呼び止めたり、新卒社員にはハワイ研修が用意されたりなど、後世の人たちからしたら冗談にしか思えないような光景が現実のモノになっていた。

 

 まあ、光も有れば影もある。

 

 きらびやかなバブルの光に照らされたのはごく一部の範囲であり、そこから外れたモノたちは上昇し続ける物価や、それに伴う経営苦などが重なり、けしてすべてが良い時期ではなかった。

 

 

 ……実は、千賀子はかなり警戒していた。

 

 

 いったい何をって、それは『バブル景気が弾けてしまう』可能性を、だ。

 

 けっこう誤解されがちな話なのだけど、バブル景気とそれまでの経済成長期とでは、同じ好景気に見えてその中身はかなり違う。

 

 説明すると非常に長くなるし面倒くさいし誰もそんな事知りたくねえよって話だから省略するが、要はこれまでの好景気には、そうなる要因が必ず一つはあったからである。

 

 例えば、戦後最大最長となる高度経済成長期の要因はというと

 

 他国に比べて安い労働力が賄え、様々な新技術の導入によって生産性が上がったり、政府による積極的な経済成長策が行われたり、石炭から石油へと移行するエネルギー革命、為替相場関係による日本にとって有利な輸出環境等々など。

 

 こういった要因がいくつも重なった結果、様々な混乱が生じたにせよ、投資が次の投資を生み、それが好循環となって日本経済を後押しし続けた……という原因があった。

 

 

 しかし、バブル景気にはそれが無い。

 

 

 あの時のように安い労働力が無尽蔵なぐらいに賄えていたわけでもなく、発展しているけどその時よりは鈍く、経済成長策を積極的に行ったわけでもなく、エネルギー革命が生じたわけでもなかった。

 

 頼みの綱の輸出産業も、プラザ合意による政策によって円高ドル安が進んだことで、むしろ苦境に……見方を変えれば仕方が無かった面があるにせよ、この苦境を助けるために行ったのが、バブルが始まるキッカケになってしまった。

 

 日本銀行が、大幅に金利を下げた。企業も本業ではなく土地や株の売買によって利益を出そうとしてしまった。

 

 というか、実際にそれでジャンジャカ利益を出してしまえたからこそ、次は我らだと言わんばかりに続いてしまったのが不幸だったのかもしれない。

 

 それによって銀行はますます土地を担保にお金を吐き出し続け……これこそが実体が伴わない好景気、『バブル』と呼ばれる理由であった。

 

 そして、千賀子(というか、ロボ子)がどうして警戒を強めているのか……それは、バブルと同じく弾ける時は一気に弾けるからだ。

 

 ロボ子と相談して、ある程度の緩和を続けてはいるが……それでも、弾けるときは弾けるし、それを完全に防ぐことはできない。

 

 そんな状況で、下手に一か所でもつまずいてしまえばどうなるか。

 

 断続的にゆっくり右肩下がりならば最善……現実的に考えれば、だ。

 

 右肩上がりだったのがそのまま右肩下がりに反転し、2年掛けて頂点まで達したならば、そのまま2年掛けてどん底へ……といた具合だろう。

 

 そして、そこから何年掛ければ浮上出来るのか……現時点では、実際にその時になってみないと何処で何がどう作用するか分からないから静観するしかない状況。

 

 それゆえに、千賀子は警戒を強めつつも平静を保ち、しばらくは何食わぬ顔で振舞うという……まあ、消極的な方法に留めていた。

 

 

「……ごめん、もう一回言って?」

「この際ですし、マスターも人工衛星の一つや二つを打ち上げてみてはいかがでしょうか?」

 

 

 ──そんな千賀子の下に、ロボ子から提案が成されたのは……1985年を迎えて、そう月日が経っていない頃であった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………さて、どうしてロボ子が急にそんな事を言い出したのか……それはひとえに、つい先日流れたニュースに原因があった。

 

 

 そのニュースとは、『日本初の惑星間空間探査機(人工惑星)である、『さきがけ(MS-T5)』の打ち上げ成功』というニュースである。

 

 この『さきがけ』とは、後に打ち上げられる予定の、ハレ―彗星探査を目的とした宇宙探査機『すいせい(PLANET-A)』の試験機である。

 

 この『さきがけ』には、新たに改良されたロケットの性能確認や、宇宙探査技術の習得なども目的にしていた。

 

 この頃の日本はバブルだとか何だとかばかりが後世では取り上げられるけれども、その陰ではこういった快挙がひっそりと達成されていた。

 

 ……で、話を戻すけど、ロボ子はこの『さきがけ』を見て……思ったのだ。

 

『──私が、私がね、本気になったら……もっとすごい探査機が作れるんですよ!!』、と。

 

 おまえ、自分が太陽系の外からやって来た超科学文明を保持した宇宙人が作ったロボットだということを忘れてない? 

 

 そう千賀子は思ったのだけど、あまりにも憤慨するロボ子の姿に、千賀子は何も言わなかった。

 

 このロボ子、公私に渡って非常に有能なロボットなのだけれども、どうにも地球の機械というか装置というか、とにかく非常に上から目線でマウントを取る。

 

 最新の電話機に対しては『ぷっ、ずいぶんとお太りですね(笑)』と鼻で笑い。

 

 最新の洗濯機に対しては『無駄に頑張りますね、汚れ落ちてませんよ(笑)』と可哀そうなモノを見る目で慰めたり。

 

 電気街なんかに行けば、それこそず~っとマウントを取りまくってしまい、店主からマジ切れ5秒前みたいな目を向けられる……つまり、それぐらい露骨な態度を取るわけだ。

 

 そんなロボ子にとって、ロボ子基準からしたら『やっとひらがなで文字を掛けるようになっただけなのに拍手喝采を受けている新人を見て、白けた眼差しを向けるレジェンド的ベテラン上司』みたいな感覚らしく。

 

 

「……なんか私怨とか混じってない?」

「とんでもありません! 私はマスターのためを思って提案しているのです!」

「あ、そうなんだ、疑ってごめんね」

「構いません、マスターが疑うのはごもっともです」

「それじゃあ、寄付しようか」

「──え?」

「いや、さすがに宇宙関係のレベルになったら誤魔化しできないでしょ。アニメならまだ金に物を言わせて人を集めて人力でやってますって体が取れるけど、そっちになったらもう『愛し子カワイイもうどこから褒めたら良いのか分からないうう涙が出そうああ出ちゃったカワイイ愛し子カワイイぺろぺろしたい会社』を活用しないとダメになるけど、いいの?」

「そ、それは……!!」

「やろうと思えばロボ子自身で隠蔽できるのでしょうけど、あんまり私怨でそういうのはねえ……」

「え、そんな、私は私怨など……」

「そうなの? 実は先日のニュースでやっていた『さきがけ』、けっこうハイテクな見た目をしていましたよね?」

「チィッ!! (糞デカ舌打ち)」

「とんでもなくデカい舌打ちをするじゃん?」

「マスター、少しセンスがお古いかと……最先端の人工衛星、作ってみませんか?」

「作るのも上げるのも止めたりはしないけど、他人様の迷惑になるような事をしちゃダメだよ」

「…………寄付の話でしたね?」

「めちゃくちゃ嫌そうな顔をするじゃん?」

「そんな事はありません。ただ、私の方からいくつかアドバイスをした方が今後の事を思えば──」

「ダメ」

「あ、はい……」

 

 

 面倒臭さを覚えるぐらい食い下がってきたのだけれども、そういう技術提供だけは一線を引いていた千賀子は、けして許可を出さなかったのであった。

 

 そう、お金ならば、世界中全ての通貨がどこにどのような流れで動いているのかを完ぺきに把握出来ている者なんていないから、まだ誤魔化せる。

 

 しかし、宇宙開発レベルの新技術をわざわざ提供なんてしてしまったら、さすがに誤魔化しようがない。

 

 ましてや、『愛し子カワイイもうどこから褒めたら良いのか分からないうう涙が出そうああ出ちゃったカワイイ愛し子カワイイぺろぺろしたい会社』を通すのも怖いわけで。

 

 

 それに、だ。

 

 

 そもそも、わざわざ新しく衛星を打ち上げなくたって、既にロボ子は人類に対して秘密裏にけっこうな数を打ち上げている。

 

 ぶっちゃけてしまえば、押し入れに収まりきらないぐらいのプラモデルを積みっぱなしな状況なのに、また追加で積むとか言い出しているようなものだ。

 

 千賀子としては、誰の邪魔にもならないなら好きにしなさいという感覚だけど、このロボ子……わざわざソレを見せびらかそうとするから千賀子はダメだと判定したのだ。

 

 ただでさえ、宇宙は千賀子にとっては鬼門だ。

 

 宇宙の彼方からやってくる奴らがそうだし、月にある『神社』もそうだし、今のところ『宇宙』という単語が出てくるとだいたい面倒くさい結果になる。

 

 だからこそ余計に千賀子としては、『もう不必要に人類を挑発するな』という感覚であり、『もう宇宙は放って置け』なのであった。

 

 

 ……が、しかし、だ。

 

 

 千賀子はうっかり忘れていた。ロボ子に対して曖昧な返事をすると、ロボ子は好き嫌いで我を通す時がある事を。

 

 本当にダメだと判断した時は、1から10までしっかりダメだと命令しないとダメで、他人様に迷惑を掛けない形ならば……なんて条件を付けてしまうことがダメなのだということを。

 

 千賀子はすっかり忘れてしまっていた。

 

 そして、忘れてしまっていたからこそ、千賀子はこの件はこれでお終いと判断し、そのうちロボ子が適当な寄付金の送り先をピックアップするだろう……そう、楽観視していた。

 

 だからこそ、それから数日後。

 

 

『──続いてのニュースです』

 

 

 何気なく見ていたニュース報道にて。

 

 

『──『愛し子カワイイもうどこから褒めたら良いのか分からないうう涙が出そうああ出ちゃったカワイイ愛し子カワイイぺろぺろしたい会社』より、有人宇宙船の打ち上げが発表されました』

「──ぶふぅ!?」

 

 

 まったく身構えていなかった千賀子は、ぶふうっとお茶を噴き出した。

 

 

「きゃ、ママ、汚い!」

「ご、ごめんね……」

 

 

 げほ、げほ、と咳き込む千賀子を他所に、手早くテーブルを拭くエマ……娘の成長にほっこりするのと同時に、千賀子は──テレビを見やる。

 

 

『──本日は、様々な宇宙関連施設にも寄付を行っている秋山千賀子氏より選任された、宇宙部門総合責任者のロボ子さんがインタビューを受けてくれ──』

 

 

 そこまで聞いた時点で、千賀子は振り返る。

 

 そこには──先ほどまで見慣れた格好だったはずのロボ子はおらず、代わりに、なんか体形に合わせた宇宙服を着たロボ子が居た。

 

 

「……言い訳を聞きましょう」

「長い道のりでした。しかし、我々はここまで来たのです」

「てめえ数日前にでけぇ舌打ち誤魔化していたでしょうが」

「もちろん、マスターには……日本人初の月面着陸を成し遂げてほしいという思いも……」

 

 

 ──月面自体はとっくの昔に足跡を付けているんだよ、神社のせいでな! 

 

 そう、千賀子は言いかけた。なんで、言いかけたかって? 

 

 

「え、ママ、宇宙飛行士になるの!?」

 

 

 心底驚いているエマの……なんだろう、「お土産よろしくね!」無邪気なお願いをされてしまった千賀子は。

 

 

「……あまり、期待しないようにね」

 

 

 そう、言うしかなかったのだった。

 

 

 

 

 






次回、掲示板形式、この時期の千賀子の事を未来の人が話しているといった感じです
カツラギエースのレースのこともちょこっと触れます

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