ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
──まあ、そんなほのぼのとした話を他所に、再び話をシャトル関係へと戻す。
とりあえず、宇宙船というかスペースシャトルは確認した。そこへの行き方も分かったし、場所も分かった。
次からはワープで一瞬。いちいち『春木競馬場』を経由していく理由は無くなった。
だが、ここで問題が一つ生じる。
それは、やはりあまりにも現地への道のりが通りということだ。
片道4車線の海底トンネル。
すごい事に、高速道路のように途中にサービスエリアが設けられていて、休憩することが出来るようになっている。
それ自体は、とても良い事だ。なにせ、直線距離で450kmもあるのだ。
さすがに休憩なしで450kmをぶっ通しで走らせ続けろというのはかなり危険を伴うというか、危険そのものだろう。
それは、本当に良いと思う。
ただ、そんな良さを差し引いても、やはり450kmは遠すぎる。というか、下手しなくてもオーバーヒートして立ち往生してしまう車が多数出てくるだろう。
長距離を走らせる前提のトラックなどならまだよいのだけど、一般利用の普通車の場合は……それに、だ。
1985年ともなれば車の性能も飛躍的に増しており、日常使いの遠出程度ではオーバーヒートなんてしなくなったけど……それでも、条件次第。
やはり、そういった技術は現代よりも未熟。
しっかり点検手入れをしていれば往復しても問題はないけど、それでも現代の車よりはオーバーヒートや故障の確率が高いのは変わらないのである。
だからこそ、この距離の問題を解決しないとヤバいのでは……と、千賀子は苦言を呈したのである。
「それなら大丈夫です。マスターの危惧するところは既に対策を済ませてあります」
「あ、そうなんだ」
しかし、その苦言はどうやら既に解決済みのようだ。
「ここへと通じているトンネルも『チカコチャンカワイイコレハモウユルサレナイデモヤッパリカワイイカラユルス島』の一部ですので。車を5分も走らせれば着きますよ」
「は?」
なんだろう、あまりにも意味不明な事を言われて、ちょっと千賀子ちゃん(あと数年でアラフォー)、首を傾げちゃった。
「5分走らせればって、450kmあるんでしょ?」
「はい、あります」
「それを5分って、トンネル内を通る車をマッハまで加速させるの? それとも、すべてワープさせるとか?」
「いえ、ちゃんと法定速度で走りますし、ワープなんて危なっかしくて使えませんよ」
「……? それだと5分なんて絶対着かないじゃないの」
「いえ、ちゃんと5分で着きますよ」
「??? 5分で着くのなら、間のサービスエリア必要なくない?」
「何をおっしゃいます、450kmも走るのですから休憩するためのエリアは必須ですよ」
「???????」
「???????」
なんだろう、お互いに嘘偽りなく同じ言語で会話しているのにまったく会話が噛み合う感覚が無い。
ロボ子なりの冗談かと最初は疑ったが、あまりにもロボ子が普段通りに話してくるから、そんな感じにも思えない。
ていうか、巫女的シックスセンスでも感じ取れない時点で……しかし、これはいったいどういう事なのだろうか?
その原因は……ぶっちゃけてしまえば、女神様である。
そう、源流が同じ力である千賀子が気付けなくて当たり前なのだけど、実はロボ子……ガッツリ女神様の影響下にあったのだ。
これまでは影響を受けても『愛し子カワイイもうどこから褒めたら良いのか分からないうう涙が出そうああ出ちゃったカワイイ愛し子カワイイぺろぺろしたい会社』だけだったので、まだ因果改変に対して抵抗出来ていた。
だが、ここに『チカコチャンカワイイコレハモウユルサレナイデモヤッパリカワイイカラユルス島』という二つ目の因果改変ゾーンが発生してしまっているせいで、ついにロボ子の耐久力を超えてしまったのだ。
そう、千賀子も気付いていなかったのだけど。
実は、『愛し子カワイイもうどこから褒めたら良いのか分からないうう涙が出そうああ出ちゃったカワイイ愛し子カワイイぺろぺろしたい会社』と『チカコチャンカワイイコレハモウユルサレナイデモヤッパリカワイイカラユルス島』は協力関係にあり、二つが揃うとまさに二人は最強って感じになってしまうのだ。
今回の場合、ロボ子は最初に『愛し子カワイイもうどこから褒めたら良いのか分からないうう涙が出そうああ出ちゃったカワイイ愛し子カワイイぺろぺろしたい会社』を通して宇宙関係をやろうとしたのがいけなかった。
そこで終わっていればまだ良かったのだけど、そこから『チカコチャンカワイイコレハモウユルサレナイデモヤッパリカワイイカラユルス島』がにょきっと生えてしまったのは、まさに誤算であった。
おかげで、この場で唯一正気のままでいる千賀子と、正気だと自覚出来ていない自称正気のロボ子という、誤解が誤解を招いてしまう……そんな状況になっていたのである。
「……まあ、よく分からないけれども、解決しているのならいいわ、それで行きましょう」
そして、そんな状況でも『まあいいか』であっさり流してしまうからこそ、誤解が誤解のまま突き進んでしまう時もあるのだが……まあ、それは置いといて。
とりあえず、スペースシャトルもあって、発射場もあって、人が見に来ても大丈夫な施設があって、そのための道路も整備されているのが分かった。
それじゃあ、後は千賀子が乗って月まで往復してしまえば終わる話……なのだけど。
「こういうのって、天気とか風とか見て決めるんでしょ? いちおう、出発予定日ってもう決めてあるの?」
兎にも角にも、またしても何も知らない千賀子さん状態なのだ。
実際、テレビ報道で初めてロボ子がこっそり企んでいた事を知ったぐらいだし、だいたい、千賀子の感覚としては昨日の今日みたいなものである。
とはいえ、そんな千賀子さんでも宇宙船の発射なんて綿密に予定を組んだうえで、当日中止なんて当たり前……というぐらいは知っていた。
「はい、明日です」
「そっか、明日なんだ──え、明日?」
だからこそ、まさか昨日の今日の明日とここまでスピーディーに展開が進むとは、さすがの千賀子さんも予想していなかった。
「明日って、見物客とか来ないでしょ? ここに来るまで宣伝ポスターとかまったく見なかったのだけど?」
「ご安心を、既に3年前から放送されていますよ」
「……??? ああ、うん、そうなんだ……」
もう色々と考えるのが面倒くさく思えてきた千賀子は、ありのままに受け入れることにした。
ていうか、なんか今回さすがの千賀子さん案件(略して、さす千賀)多すぎないかって……それも、致し方ない。
いくら影響を受けないとはいえ、だ。
『愛し子カワイイもうどこから褒めたら良いのか分からないうう涙が出そうああ出ちゃったカワイイ愛し子カワイイぺろぺろしたい会社』と。
『チカコチャンカワイイコレハモウユルサレナイデモヤッパリカワイイカラユルス島』のコンボ……これがまあけっこう凶悪だったようで、これまで幾度となく行われてきた改変の中でもトップクラスにスピーディーになってしまうようだ。
……まあ、千賀子としては、だ。
わざわざロボ子が放送で有人ロケット飛ばします&秋山千賀子が乗りますみたいな事を言っちゃったから、なんか中止出来ない空気になっただけでなく。
娘のエマから月のお土産を期待されたから、わざわざロケットに乗るだけで……早く終わらせられるのであれば、それで構わないというのが本音であった。
なので、明日とはずいぶんと早いなとは思いつつも、それじゃあ家に戻って家族に連絡してから……と、思っていると。
「マスター、残念ながら帰れません」
「え?」
「明日とは言っても、明日の早朝です。一般的なシャトルと同様の処置を取りますので、発射予定時刻のおおよそ3時間ぐらい前には、となります」
「え……」
「対外的にも宇宙服を装着してもらいますので、実際はもっと掛かります」
「……つまり?」
「深夜から朝方まで準備を行います。つまり、仮眠時間を入れても……帰る時間はほぼ無いかと」
「…………(すごく嫌そうな顔)」
「ご安心を、4号様がしっかり面倒をみておられますので……さあ!」
残念ながら、終わるまでは自宅に戻れそうにはなかった。
まあ、その代わりと言ってはなんだけど、思いのほか早く事が片付きそうだからヨシと……いや、だってね。
何度も言うけど、月に行く目的なんてロボ子が先走って発表したからなのと、エマから月のお土産を期待されたからで……ぶっちゃけ、さっさと済ませたいというのが本音である。
もしも第三者が千賀子の本音を聞いていたら『ふざけているのか!』と怒り出しそうな事だけど、残念ながら、それが千賀子の本音であった。
実際、千賀子としては、だ。
これがどれだけ人類にとって偉大な挑戦であろうとも、ズルにズルを重ねて裏技を駆使したうえでチートコードを使って達成する……という感覚の方が千賀子にとっては近しいわけで。
なんなら酒に酔っぱらって生み出してしまったかもしれない疑惑(月の神社のこと)があるから、あまり月に行くのも……という気持ちすらうっすらあったりする。
まあ、とにかく、だ。
いつまでもグダグダ嫌がったところで仕方がないわけだし、千賀子はロボ子に手を引かれながら……覚悟を固めるのであった。
……。
……。
…………そうして始まった搭乗準備だが、うっすら千賀子自身が予感していたとおり、さっさと事は進まなかった。
まず、少しでも体力を回復させるために仮眠を取れとのことで、寝る。
いきなり寝ろと言われても困る話だが、その程度でいちいち困るようでは女神様の愛し子などやってはいられない。
寝ると思えばスパッと眠って……起床。
ロボ子より健康チェックを受けて、問題なしという結果が出てから、このために用意した専用食を取る。
なんでも、胃に残留物が残りにくくも栄養価などが高いよう計算されているらしい。意外な事に、肉と卵が出る。
それから、ロボ子製の気象衛星よりリアルタイムで天気を確認……問題なしと女神様からも太鼓判を押された千賀子は、『オレンジスーツ』を着てシャトル行きの車へと乗り込む。
ちなみに、このオレンジスーツという呼び名は通称であり、基本的にオレンジ色で統一されているから。
海や山林などに不時着などをした際に、捜索隊に発見されやすい色だかららしい……なお、かなり重く、色々取り付けてあるので数十kgぐらいある。
それから、発射台へ……その際、遠くの方にていつの間にか大勢の見物人が来場している事に気付いて、その数にちょっとビビる。
千賀子がビビるのも仕方がないけど、見物人が集まるのも致し方ない。
なにせ、大阪という陸のメガロポリス的な都心から車で10分ほど、距離にして450kmも走らせたら行ける場所にスペースシャトルが発射されるというのだ。
そりゃあ、熱心なファンじゃなくても一目見ておこうと考える者が集まって当然である。
ましてや、乗り込むのがあの秋山千賀子ともなれば、一目見ておこうと仕事を休んでくる者が現れてもなんら不思議なことではなかった。
そんなわけで、女神パワーが関与しているので感知できない可能性は察していたが、それでも実際に現実に起こるとけっこうビックリしていた千賀子である。
まあ、驚いたところで中止になるわけでもなく、そのままシャトルへ。
その際、待ち構えていたテレビ関係者からインタビューをされたので、特に考えずに答え……そして、ここからがまた長い。
別に外部に見せなければいいのにって話だけど、なんかロボ子なりのこだわりがあるらしく。
ちゃんと現在の人類の科学力に見た目を合わせているので、ズルはよろしくないんだとか……いや、ズルとかそんな話じゃなくて……まあ、うん。
これまでのパイロットたちと同じく、待機中に催してしまったらオムツの中へシャーッとしてしまう。
そう、実はスペースシャトルの発射前や着陸時にて催してしまった時は、スーツ内部に取り付けられている超高性能オムツの中へそのままシャーッである。
なお、千賀子が使用したオムツはそのまま廃棄すると大変な事になってしまうので、厳重に密閉したうえで処分される。
それから、いよいよ諸々の確認作業も終わり……ハッチも閉まり、ついにシャトル周辺に散らばっていた各種車両も離れてゆく。
それから、カウントダウンが始まり……そして、0になった瞬間。
ブースターが点火し、轟音と共にシャトルは浮上を始め、肉眼では確認が難しくなるぐらいに離れてゆき。
しばらくしてから、放送にて燃料タンクの切り離しが無事に進み、月への軌道へと乗ったことが知らされると。
発射を見届けた現地の人たちも、テレビの向こうより固唾を飲んで見守っていた視聴者たちも、志を同じくする宇宙開発の関係者たちも。
ひとまず事故が起こることなく打ち上げが成功したことを喜び、歓声をあげたのであった。
……。
……。
…………とはいえ、だ。
そんなこんなで、ロボ子製のロケットブースターのおかげで月へと何事も無く超短時間で到着した千賀子が感じたのは、だ。
小さな一歩でも人類にとっては偉大な一歩……なんて事ではなく。
(下りる途中、『神社』が見えたな……)
仕事中、たまたま自宅の途中を通ってなんともいえない気分になる、あんな感覚であった。
※ 普通のスペースシャトルでは月には行けません、安全性を考慮したロボ子製のブースターなどのおかげでございます。