ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
──さて、やる事は簡単、月の石の採取である。
本来は宇宙服を着て、厳密なチェックを何十にも行ってから船外に……なのだけど、さすがにそこまで付き合うつもりはない。
神通力を駆使して、生身のまま船外へ。
まだ若かった頃の千賀子ならば短時間で限界だったが、今の千賀子ならば余裕を持って動き回る事ができた。
もちろん、ただ宇宙空間に対してバリアを張るわけではない。ちゃんと、月の環境に合わせてバリアの強さを変えているのだ。
というのも、だ。
実は、月面というのは人体に限らず、機械に対して、けして適応できる環境ではない。
まず、地球と違って大気という天然のフィルターや、磁場という天然のバリアが無いから、太陽風の影響をもろに受ける。
酸素が無いので燃えるわけではないが、瞬く間に全身が干からびるほどに焼けてしまい……それほどのパワーがある。
そして、電磁波によって機械関係もダメージを受け続け……それらの対策をしたとしても、今度は太陽ではなく地表、すなわち砂の問題だ。
地球と違って大気が無く水も無いし生物も居ないから、砂粒などが削れて丸くならない。
つまり、よ~く見ると砂粒の一つひとつがトゲトゲしい造形をしていて……これが、人体や機械に対してかなりの有害性を発揮する。
地球に比べて約6分の1程度しかない重力の関係から、月の砂は容易く舞い上がり……それを吸い込んでしまうと、鼻や喉や肺を傷つけてしまうのだ。
それだけでなく、宇宙船内部に入ってしまえば、砂は細かい隙間へと入り込んでしまって内部を傷つけ……結論を言えば、注意しないと後々大変になる、というわけだ。
なので、月に居る時は地上に居る時よりも念入りに強力なバリアが必要となり……だからこそ、今よりも出力が低かった千賀子は短時間しか生身での活動が出来なかったのである。
……さて、話を現在に戻して、だ。
やる事をさっさと済ませた千賀子は、さっさとシャトルへ──は戻らず、そのままワープにて月面にある『神社』へ。
なんでかって、単純にシャワーを浴びたかったからである。こういう時、別宅が近くにあると助かる。
「──お帰りなさいませ」
「あ、うん、なんとなく居るだろうなって思ったよ」
すると、なんか先回りしていたロボ子が待ち構えていて、色々と準備をしていてくれた。
暴走する時は本当にろくでもない暴走の仕方をするのに、そうでない時は痒い所をいつも掻いてくれるのだから、なんともニクイやつだ。
……女神様?
女神様はずっと千賀子の傍でニヤニヤしているから、カウントしてはいけない……とりあえず、『神社』で休憩。
しっかり食事を取って、ダラダラして、そのまま昼寝をして、むくりと布団より身体を起こした千賀子は……ゆっくり入浴を済ませる。
「ロボ子、いちおう私が月面を出発するのって、何日後?」
「明日の……約28時間後よりスーツの装着などを行いますので、タイムリミットは約28時間後です」
「ふ~ん、それじゃあ明日までは何もすることがないわけか……」
お風呂あがりで火照った身体を冷ます意味も兼ねて、ぐてっと、千賀子は畳の上で大の字になった。
エマが居る時などは、こんなはしたない姿を見せるわけにはいかないが、今は自分とロボ子だけなので、かなり自由である。
どれぐらい自由なのかって?
それは、パンツすら履かず素っ裸で大の字になっているぐらいだ。
そんな事でと思われるかもしれないが、これは冗談ではないし、千賀子は本気である。
パンツも履かず大の字になって、おっぱい丸出しで気ままに過ごす……それは自由の証。
夏の日差しが入り込む縁側にて股を開いて、太陽光をたっぷり浴びるのも自由の証。
特に意味はないけど月の光に向かって尻を向けて屁をこくのも、意味もなくセクシーポーズを取るのも、自由の証。
ただそれだけの行為だが、ただそれだけの行為を自由にやれるというのは、確かな幸福の一つでもあるのだ。
実際、千賀子は……なんとも表現し難い解放感に、ちょっとばかり浸っていた。
その横で、『はしたないなぁ……』といった感じの目をロボ子より向けられていたが、その程度で怯む千賀子ではなかった。
……言っておくが、エマや春人が疎ましく思っているとか、そんな馬鹿な理由ではない。
言うなれば、一人の時間というやつだ。
エマが幼い頃は目が離せなかったが、今はもう高学年になっているから、色々と自分でやりたいアレコレしたいと思春期に入りかけている。
春人はまだまだこれからだけど、4号がしっかり見ていてくれている。少なくとも、そこは誰に任せるよりも安心だろう。
(……冷静に考えたら、エマって家の中に私の分身がいることに欠片も不思議に思っていないわね)
ふと、今さらになってそんな疑問が脳裏を過ったが……同時に、『ママのやる事にいちいち頭を悩ませたらハゲちゃうわ』って笑顔で言われたことを思い出し、ちょっと笑う。
──このまま、寝てしまおうか。
『神社』の中は空調が常に最適な状態で保たれているし、寝たら寝たでロボ子が後片付けやら何やらを済ませてくれるだろうし。
久しぶりに、何も考えずにダラダラ寝てもいいかも……そう思いながらも、徐々にこみ上げてくる眠気を前に、千賀子はゆっくりと意識が──。
「マスター、報告があります。月の裏側にある月面基地より飛ばされた偵察機が、この神社に向かって来ています」
──落ちる前に、だ。
なんだか非常に聞き捨てならない言葉がロボ子より出てきたせいで、千賀子の目がぱっちり開かれたのであった。
……。
……。
…………まるで意味が分からなかった話だけど、あまりにも無視できない話だったので、むくりと身体を起こした千賀子が尋ねたら、ロボ子は特に隠さず教えてくれた。
その内容を簡単にまとめると、だ。
地球からはまだ観測出来ていない、地球から見て月の裏側に当たる場所に、どうやら宇宙人が密かに作った基地があるとのことだ。
実はロボ子はけっこう前からその存在を観測していたらしいのだけど、技術レベルから考慮して大した脅威でないと判断し。
基地の規模も地球侵略用というよりは、地球観測あるいは補給基地を兼ねた中継地点としての機能が大部分だと判明したので、監視に留めておいたとのことだ。
正直、その話を聞いた時はけっこう驚いた。
ぶっちゃけ、地球って狙われ過ぎだろ、ガチでウ〇〇〇〇ンが欲しくなるような状況じゃねえか……って。
でもまあ、驚きはしたけど、焦燥感は無かった。
ロボ子が焦っていないということは、何時でもロボ子単体でどうにかなる程度ってわけだし、最悪は己も出張ってなんとか……ところで、だ。
「偵察ってことは、なにか警戒しているの?」
「普段、気配が無い『神社』に何者かの存在を感知出来たから、様子を見に来るって感じでしょうか?」
「お、おう……言われてみたら、そりゃあ様子を伺いに来ても不思議じゃないか」
「どうしますか?」
「どうするって?」
「放置しますか?」
「放置してもいいんじゃないの? どうせ、中には入れないでしょうし」
そんな千賀子の言葉に、ロボ子は……軽く首を傾げた。
「入れはしませんけど、どうも、この『神社』は基地の所有物になっているようでして」
「はい?」
言われて、千賀子は訝しんで……ついで、ああまあそうなるのも致し方ないかなとちょっと納得する。
何も知らない者からしたら、他の生物が存在していない小さな衛星(しかも、大気を維持する重力もない)で、まさか既に誰かが所有している土地だとは思うまい。
ましてや、月の裏側に居る者たちは、地球の観測を行って……現在の人類の科学力を把握しているだろうし。
「なので、おそらく偵察機にてこちらの様子を確認した後に、私たちを追い出すために兵士を動かすかもしれません」
「あ~……それは、困るね」
まあ、それはそれとして、勝手に『神社』を自分たちのモノだと思われるのも困るので……仕方なく、本当に仕方なく。
「……仕方がない、ちょっと話し合いに行くとしますか」
千賀子は自由を捨てて、ロボ子より差し出された余所行きの巫女服へと……腕を通すのであった。