ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
──月にはウサギが餅をついているという昔話というか、月のクレーターの影がそう見えるからとか、月とウサギに関する話はけっこうある。
仏教では自己犠牲によって他者を助けたウサギが神様の手によって月に登ったとか、中国の昔話ではウサギが月で不老不死の薬を作っているとか。
中国より日本に伝わった際には、地上から見える月の陰影が、ウサギが餅をついているように見えて、そのような話に変わったとか……まあ、色々とあるわけだ。
で、だ。
これはまったくの偶然なんだけれども、月の裏側にて基地を構えている者たち……というか、種族もまたウサギ型の宇宙人であった。
というか、見た目はほぼ『二足歩行で移動する、とても知能が高いウサギ』である。
見た目はなんか可愛らしいのだけど、勘違いしてはいけない。
このウサギ宇宙人たちは確かに自分から先制攻撃を仕掛けたりするような強硬派ではないが、必要とあらばいくらでも動く……そういう合理性がある種族でもあった。
そして、そんなウサギ宇宙人たちがどうして月の裏側に中継基地というか、補給地点を作ったのかと言うと……単純に、周囲に敵勢力や敵性宇宙人の姿が無かったからである。
意外に思うかもしれないが、これはとても重要な事だ。
宇宙というのは、とても広い。
天文学的数字という別種扱いされる単位の数だけある星々や、その単位ですらも賄いきれない広さの宇宙だけど。
言い換えれば、そんな広い宇宙をある程度移動できる時点で、相応のレーダー機能……すなわち、索敵機能を有しているということで、敵もまたこちらを識別できるというわけだ。
だからこそ、とても重要なのだ。
なにせ、宇宙はとても広いというか広すぎるから、万が一交戦したとしても戦闘中に応援が駆けつけてくれる可能性は限りなく低い。
ということは、いかに誰の縄張りにもなっていない場所に補給基地を作り、他の敵対勢力がうかつに近づけないようにするのが重要で。
そう、宇宙空間における戦いというのは、言うなれば陣地の奪い合い、空間の奪い合いなのだ。
だからこそ、だからこそ、不審な建造物があるのは確認されていたけれども、だ。
熱源やエネルギー反応は微弱、月内部には不審な物は確認できず、各種センサーにおいても不審な動きが見られず。
内部調査記録でも『内部はボロボロで、おおよそ使用された形跡が推定400年ほど無い』と結論付けられ……最終的には不活性状態として判断したのも、致し方ない面はあった。
なんとも不用心だなと言われてしまいそうな話だけれども、これに関しては……動きを見せない謎の建造物よりも、太陽系外からやってくる敵性勢力への警戒に意識が向いたからだった。
銀河系の中では中心より離れてはいるけれども、ほとんど手つかずの太陽系というのはとても貴重である。
特に、とても丁度良い距離で生態系が形成されている地球という星は貴重で、これだけでもリスクを支払って独占する価値がある。
地球には少数ながら宇宙人の存在が確認出来ているが、監視した限りではたまたま移民してきているだけの一般人と判断。
つまり、ウサギ宇宙人たちにとっては手つかずの金脈を見つけたに等しく……敵性宇宙人に対する威嚇の意味を兼ねての、月の裏の基地なのであった。
……。
……。
…………そんなウサギ型宇宙人たちにとって、だ。
不活性状態だと判断されていた『謎の建造物』がにわかに活動を始めたという報告が出た時……まさしく、青天の霹靂《へきれき》であった。
それも、感知できたエネルギー反応があまりにも高かった。計器の故障かと最初は思われたぐらいに。
しかし、もしもセンサーが正常に作動したうえでの数値であるならば……そのパワー、この銀河の中心地にあるブラックホールよりもあるということになる。
いくらなんでも……誰しもがそう思いつつも、無視するわけにはいかない。
もしもセンサー系に異常がなければ、それほどの膨大なエネルギーがいきなり発生したわけで……なんにせよ、無視など出来るわけがない。
ゆえに、軍用偵察機による調査……ということになり、実際に緊急事態に備えていくらかの兵士をそちらに回し、何時でも現地に迎えるようにしていた……のだけど。
『──緊急事態発生! 例の建造物より、人間と思わしき生物の移動を確認! 映像を送るゆえ、次の命令を乞う!』
『──映像とデータを確認した……検査の結果、おそらくサイキックに近しい能力を保有していると思われる。見た目は人間に酷似しているが、別種の可能性が高い』
『──このまま監視を続行しますか?』
『──続行せよ。ただし、こちらから攻撃をしてはならない。もしも対象より攻撃を受けた場合は反撃せよ』
『──了解!』
『──以後、アレを『個体X』と呼ぶ。何か変化が起これば、些細な事でも報告するように!』
『──了解、任務を続行します!』
ちなみに、この会話を行っている2人以上……というか、宇宙人たちはみな、見た目はウサギ型の宇宙人。
なんともファンシーな光景に見えるかもだろうけど、このウサギたちは本気も本気、かなり緊迫した空気を醸し出したりしているので、決して茶化してはいけない。
……で、だ。
ウサギ宇宙人たちは、『謎の建造物』より出てきた人間に酷似した存在に対して、一定の距離を置いたまま偵察を続ける。
見たところ、大気が一切無いこの環境下にて、装備らしい装備を身に付けてないのに活動出来ているようだが……考えられる可能性は三つ。
一つは、宇宙空間に適応した生物……が、しかし、そういう生物に見られる特徴が全く無いあたり、コレは外す。
二つ目は、自分たちですら感知できない高度な科学力によって……可能性は非常に低いだろう。
それほどの科学力を有している存在なんて、ウサギ宇宙人たちが知る限り、非常に数が限られている。
と、同時に、その見た目も知れ渡っているわけで……で、残るは三つ目。
それは、強力なサイキック能力(あるいは、それに近しい)を有しており、それによって宇宙空間内でも活動出来ている……というものだ。
おそらく、この三つ目だろうとウサギ宇宙人たちはひとまずの判断を下し……同時に、その厄介さにどうしたものかと頭を抱えたくなった。
サイキック能力を特徴とする種族はけっこう居るが、基本的には自分たちの母星から外へ出る事は無い。
何故なら、そのサイキック能力によって日常の不満点……すなわち、科学発展の原動力となる不自由をいくらか解決してしまうからだ。
それゆえに、基本的には宇宙に進出してくる数は少ない……が、見方を変えれば、それでも宇宙に出てくる個体は、総じて厄介な場合が多い。
だって、単体で宇宙空間を移動し、単体で生命維持を続けているわけで……宇宙人同士の基本的なルールを知らない可能性がけっこう高いのだ。
これが、突然変異的なアレで出て来た個体ならともかく、種族的に同レベルの強さばかりで、たまたま出てこないだけの場合だったなら……下手すれば、種族間戦争の始まりである。
だからこそ、実際に偵察機に乗り込んでいる兵士も、送られて来る映像越しに様子を伺っている上官たちも、ひとまず静観するに留めていた。
……。
……。
…………が、しかし、そんな余裕も、『個体X』の移動する方向を見て無くなった。
なにせ、自分たちの基地へとまっすぐ向かって来ているのだ。このまま行けば、もう間もなく到着……と、その時であった。
『──っ! 個体Xに異変あり! これは……脱皮でしょうか? あるいは、装備……外しているように見えます』
『──結果が出た、おそらく装備を外したと思われる。しかし、脱皮の可能性も無視できないとのことだ』
『──指示を、攻撃した方がよろしいのでしょうか?』
『──待て、まだ──む、アレはなんだ? 早急に確認せよ』
『──了解。拡大します……これは、装備を切り替えているのでしょうか?』
『──おそらく、その可能性が高いと思われる』
カメラ越しに確認出来る個体Xの姿だが……装備を外したその姿は、やはり人間に酷似していた。
特徴としては、人間のメスだろうか。
乳房と思われる部位が発達しており、骨格や筋肉の付き具合が人間のオスとは形状が違う。体毛は……少ないように思える。
ただ、そのおかげで生殖器は確認できた。
形状から考えて、擬態でなければ女性器と呼ばれる、メスの形をしているから、メスで確定だ……ん?
『──本部、アレはいったいどのような装備なのでしょうか? こちらのデータには、該当するモノがありません』
『──映像を確認。おそらく、アレは人類が生み出した『バニースーツ』と呼ばれる装備の一種だ。今、そちらにデータを送る』
『──データ受信を確認。本部、これはいったいどのような機能を有しているのでしょうか?』
『──最新の情報とは言い難いが、アレはおそらく繁殖用の装備の可能性が高いとコンピューターがはじき出した』
『──繁殖?』
『──そうだ、もしかしたらアレは……基地の近くで交尾をして個体を増やすつもりかもしれない』
『──バカな、単為生殖を行えるというのか!? 本部、ここは大気の無い宇宙空間ですよ!?』
『──君の疑念はもっともだ。だが、バニースーツは繁殖を目的とした装備だというデータがある……可能性は否定できない』
その危険性に、偵察機を動かしているウサギ兵士も、本部のウサギ上官たちも、思わず背筋を震わせた。
しかし、ウサギ宇宙人たちの恐怖は……そこでは終わらなかった。
『──本部! おかしい、データにある『バニースーツ』とは形状が違う、すべて逆だ! 黒い装甲部分が露出し、肌が露出されているはずの部分が装甲で覆われている!』
『──こちらも確認した! コンピューターの推測では、おそらくアレは発情している可能性が極めて高いと出ている! 生殖器を露出させているのがその証拠だ!!』
『──おお、なんてことだ! 本部、こちらからも対象の発情を確認! 全身が紅潮し、不気味に周囲を見回して獲物を探っているようだ!!』
『──映像を確認! 直ちに攻撃せよ! 繰り返す、直ちに──いや、待て、中止だ! 攻撃中止!!』
『──中止でありますか!? どういう事ですか、本部!!』
『──コンピューターが観測した! そいつの背後に、超高次元存在と思われるエネルギー体が居る! うかつに手を出してはならない!!』
『──超高次元……!! アレは、理論上存在していると言われているだけの存在では……』
『──違う、本当に存在しているのだ! とにかく手を出すな、そのまま静観するのだ!!』
『──りょ、了解!!』
そう、ウサギ宇宙人たちは気付くのが遅れてしまった。そして、どうして自分たちが気付けたのかもわかっていなかった。
色々とあの手この手で騙されて逆バニー姿になったそいつの姿を見て、あまりに興奮っぷりにうっかり姿を見せてしまった、ということに。
残念ながら、ウサギ宇宙人たちは……まったく気付けなかったのであった。