ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
『──愛し子は、このまま殴り合いをご所望ですか?』
巧妙に隠されているが、千賀子アイにはきっちり確認出来る『宇宙人の基地』を目視した千賀子は、いざナムサンと乗り込もうとして……その前に、女神様に待ったを掛けられた。
なんとも珍しい事である。正直に言えば、不気味にすら思えてくる。
しかし、無視は出来ない。
基本的に女神様はノータッチ方針だけど、言い換えれば、口出ししてきた時は、何かしらを警戒しなければならない時でもあるからだ。
それが女神様自身から起こるモノなのか、はたまた、このまま無視して突撃した結果起こるモノなのか。
どちらにせよ、無視するという選択肢が一番よろしくないのはこれまでの経験上思い知っていたので、千賀子は素直に尋ねた。
「どういうことですか、女神様」
『──向こうは、かなり愛し子を警戒しております。このまま行けば、確実に迎撃されるでしょう』
「ちょっくら話し合いに行くだけですよ?」
『──話し合いがそのまま戦争の引き金になる、それはこれまでの人類が幾度となく証明してきたではありませんか』
「むむむ……!!!」
なんというか、ぐうの音も出ないとはこういう事なのだろう。なにか言い返そうかと思ったけど、千賀子の頭では上手い言葉など出てこなかった。
しかし、何も出てこなかったわけではない。むしろ、こういう時こそ千賀子の頭脳(笑)は本領を発揮するというもので。
「じゃあ、女神様は平和的に物事をうまく運べる術をご存じなのですか?」
『──もちろんですとも』
「私には分からんので教えてください」
『──いいですとも』
ぶっちゃけてしまえば、分からなかったら素直に聞く……これこそが、いくつになっても変わらぬ千賀子の武器であった。
『──簡単です、バニースーツを着れば良いのです』
「女神様、私こう見えて真面目に聞いているのですけど?」
『──おや、私も真面目に答えているのですよ』
「えぇ……???」
まあ、そんな千賀子の武器も、女神様の前では大した意味を持たないのだけれども。
まあ、それはさておいて、女神様の話を簡単にまとめると、こうだ。
まず、これから千賀子たちが向かおうとしている基地は、『ウサギ型の宇宙人』であり、その名のとおりウサギ宇宙人という種族であるらしい。
これに関してはロボ子からも、『あ、ウサギ宇宙人か……』といった感じで心当たりがありそうな……話を戻そう。
そのウサギ宇宙人の見た目は、二足歩行をするウサギ……といった感じだろうか。
少々足回りが長かったり、どことなく人型に近いように見えなくもなかったり……千賀子からしたら立ち上がったウサギに見える、といった感じだ。
科学技術レベルは、今の人類よりも何世代も先を進んでいると思っていい。
単純な物量(燃料など含めて)が違い過ぎて向こうは手を出して来ないが、もしも物量がいくらか縮まったら……といった感じらしい。
で、そのウサギ宇宙人たちなのだけど、宇宙人たちの中ではかなり理性的な種族ではあるらしい。
自分たちより強いと判断すると逃げに徹する傾向にあるが、総じて団結力が強く、1体でも倒すと種族全体を敵に回すというぐらいなんだとか。
ちなみに、女神様曰く『臆病』な方らしい。
これは別に悪い意味ではなく、未知や危険に対して非常に警戒心が高く、反面、こいつは敵ではないと認められると途端に心を開く傾向にある種族なのだとか。
これに関しては、ロボ子からも同じような内容を言われた。
ただ、女神様よりも少しばかり説明が詳しく、『仲間と認められなくても、敵ではないと判断されるのが重要』とのことだ。
敵ではない……まあ、確かに、それは大事な事だと思う。
どれほど些細な交渉事であろうとも、まずは『相手は敵ではない』と思ってもらうのが重要とは、誰の言葉だったか……まあ、そこはいい。
「それで、どうしてバニースーツを着たら友好的になるんですか?」
千賀子としては、まず気になるのがそこであり……むしろ、そこが気になり過ぎて他が気にならないぐらいであった。
『──愛し子よ、よくお聞きなさい』
「はい」
そんな千賀子に対して、女神様はキリリっと澄ました顔をした。ぎゅむむ、と顔を構成していた手が蠢いた。
なんともまあ、珍しく真剣な表情である。
こういう時、基本的に女神様はろくな事をしない。
だいたい千賀子が悲惨な目に遭ったり、あるいは、しばらく寝込んだりするような事態が待っている。
しかし、無視は出来ない(part.2)。
無視した結果を想像するのが怖いし、なんか直感的にもっと面倒な事態になるような気がするからだ。
これには、千賀子も居住まいを正して真剣な顔になる。
耐性の無い者が見たら発狂して自分の目玉を抉り出してしまうような光景だけど、慣れきった千賀子にとっては特に気にならない……で、だ。
『──バニースーツと言えば、黒です』
「はい」
『──黒と言えば、セクシーな巨乳美女です、30代半ばが一番似合います』
「はい?」
『──セクシー巨乳で30代半ば、これはもう愛し子以外誰が着ると言うのですか?』
「待って、なんか久しぶりに女神様の言っている事が理解できないわ」
『──いいですか? 愛し子と言えばカワイイ、カワイイと言えば黒、黒と言えば巨乳美女、巨乳美女と言えば愛し子、この愛おしさの螺旋を考えれば、バニースーツ以外に何があるというのですか?』
「…………(スーツをピシッと決めて、彼女欲しいよ~って嘆いているUMAを見たかのような顔)」
あんまりにも意味不明で理解が及ばない女神様の御言葉に、千賀子は困惑したままロボ子へと視線を向けた。
……ロボ子曰く、『方向性としてはあまり間違っていない』との事らしい。
ウサギ宇宙人たちの感覚というか、常識では、相手の毛並みに合わせるというのは友好を示すマナーらしい。
毛並みがボサボサなウサギ宇宙人に対しては、同じく毛並み(この場合、髪の毛など)をボサボサにして挨拶をする、といった感じだ。
だから、ウサギを意味するバニースーツを着るというのは、一概に頭がイカれた作戦ではない、とのことだ。
……ただし、この作戦には問題が一つある。
それは、『バニースーツを着たとしても、それを向こうが友好の印だと思ってくれるかは分からない』、とのこと。
そもそも、このやり方は毛皮を持つタイプの宇宙人が取る方法らしく、毛皮を持たない種族の場合は……正直、向こうの受け取り方次第らしい。
それじゃあダメじゃねえか……と。
思ってしまいそうだけど、これに関しては女神様から『──大丈夫、私を信じなさい』とのコメントが……かつて、これほど信用の無い言葉があっただろうか。
そもそも、友好的に見せるのであればバニースーツよりもウサギの着ぐるみを着た方がはるかにマシでは……と、千賀子は思ったし、実際に尋ねてみたら。
「マスター、それだけは止めた方が良いかと」
ロボ子から即座に否定された。
「人間に例えるなら、人間の着ぐるみを着た中身不明の存在が話しかけてくるようなものです……下手しなくても、撃たれる可能性が高いかと」
理由を聞けば、けっこう真っ当な意見だった。女神様も感心した様子で頷いて……いや、貴方が頷いたらダメでしょうに。
まあ、とにかく、だ。
たしかに、考えてみたら不気味極まりない。向こうからしたら、どれだけ気持ち悪い外見だとしても、中身が見えている方がまだ安心できるのだろう。
逆に考えて人間とて、見た目があからさまに人間の着ぐるみで人間っぽい話し方をするやつが来たら……おお、アメリカなら撃たれても文句が言えないレベルの不審者だ。
……とはいえ、だ。
理屈は分かったのだけど、それはそれとして、バニースーツである理由が……あ、これ永遠にループするなと思った千賀子は諦め、ため息とともに差し出されたバニースーツを受け取った。
着替えは……残念ながら、隠し無しでその場でした方が良いとのこと。
ウサギ宇宙人の偵察機が既にこちらを伺っているらしく、ここで下手に目隠しなんてしたら……なので、千賀子は渋々……本当に渋々、着替えることにした。
……恥ずかしくはないのかって?
そりゃあ、恥ずかしい。正直、相手が宇宙人とはいえジロジロ見られている最中に着替えるのは恥ずかしい。
しかし、見方を変えれば、だ。
向こうからしたら異種族のメスでしかないのに、こっちが一方的に恥ずかしさを覚えるのも……という気持ちにもなってくる。
人間だって、動物の視線が恥ずかしいと肌を見せるのを嫌がる人は稀なのだ。
不幸中に幸いというべきなのかは分からないが、ここに居るのはロボ子に女神様と、ウサギ宇宙人たちだけ。
それに、今さら裸の一つや二つで怖気づくような人生送っていないし……覚悟を固めた千賀子は、すっぽんぽんの状態でバニースーツを広げ──広げ……ん?
「…………あれ?」
なんだろう、思っていた形と全然違うことに、千賀子は首を傾げた。
これ……あれ?
とりあえず、着ていく。
まずは、ハイヒールブーツと一体化したかのようなロングストッキングサイズのそれに足を通し。
次に、上半身の……両腕と胸上から首元までをスラリと光沢のある黒のスーツで……え?
「これ、肝心の部分が何一つ隠れてなくない?」
薄々予感はしていたけど、ちゃんと着てから改めて自分の姿を確認した千賀子は、さすがに疑問を言葉にした。
実際、女神様より渡されたバニースーツは露出度合いとかそれ以前の問題で、隠すべき場所を何一つ隠していなかった。
ぶっちゃけてしまえば、隠さなくてもいい手足はキッチリ黒いラバーで覆われているのに、肝心の胸と股はむき出しなのである。
一般常識で考えれば、どう見ても痴女である。
申し訳ない程度に用意されているウサギ耳が無かったら、これがバニースーツとは気付かなかったぐらいに……いや、こんな事をダラダラと考えるよりも、だ。
「女神様、なんですかコレ?」
『──あいつらに合わせたバニースーツです』
「女神様、こういう時にそういう冗談はやめましょうよ」
『──いえ、本当ですよ』
さすがにここまでむき出しというか、変な造形のせいで逆に恥ずかしくなってしまった千賀子は両手で局所を隠し……問い質したのだけど。
『──弱点部位をさらすのは、攻撃の意思が無いという意思表示です。とても理に叶った作戦です』
「えぇ……」
思わず、千賀子はロボ子へと視線を向け。
「……心中お察ししますが、何一つ嘘は言っておりません。宇宙人たちの常識で考えれば、弱点部位をさらして交渉にあたるのは……攻撃の意思が無いという意思表示」
「えぇ……」
そしたら、まさかの女神様の擁護である。
「もちろん、すべての場合において、相手がそのように受け取ってくれるかは分かりません。弱点に見せかけて実は……というパターンがそれなりにありますし」
「……でも、効果的なパターンもあるわけね?」
「否定はしません、逆効果というパターンはごく稀かと」
言われて……仕方ない、そんな思いをこれでもかと込めた溜め息を吐いた千賀子は、おそるおそる……手を離した。
瞬間、千賀子の心身を襲ったのは──強烈な羞恥心であった。
ただでさえ、バニースーツという自分のような歳の者が着るにはいさかか……というところに加えて、局所が隠されていないというとんでも仕様。
これならば、いっそのこと素っ裸の方がまだマシでは……そう思ってしまう。
実際のところは不明だけど、こうも中途半端だと逆に羞恥心を煽られているようで……千賀子は、カッカッと頬どころか首筋まで熱気がのぼって来るのを抑えられなかった。
「……ほ、本当にこんな格好をしないとダメ?」
『──かまいませんよ、場合によってはどちらが勝つかの戦いになっても、愛し子がカワイイという気持ちを……ああ、カワイイペロペロ』
「うひぃ!? ちょ、やめ、女神様、今は止めてください!」
警戒する猫を構い倒すがごとく愛でようとしてくる女神様を手で制止しつつ……千賀子は一つ、熱のこもったため息を吐くと。
「──ええい! 女も度胸! やってやろうじゃないの!!」
羞恥で震える両足を叩いて気合注入してから……コツっと長いヒールで月の石を踏みしめて、基地へと向かうのであった。
……。
……。
…………なお、この時の千賀子は気付いていなかったのだけど。
敵対行為とかではなく、普通にロボ子が通訳という形ならば、こんな格好をしなくても良かったのかもしれないが。
それはそれとして、千賀子自身がすでにかなり警戒されてしまっていたので、余計な不信感を与えていた可能性もあり。
結局、今回ものらりくらりと女神様の言うとおりに事が進んでしまっていることに、千賀子はまだ気付いていなかったのであった。
※ もしも地上で千賀子がそんな恰好をしたら最後、少なくない数の死者が出てしまうので地上では絶対にそんな恰好は出来ません。
※ なお、うわキツは一定数の人たちに対してクリティカルヒットを生み出すだけで死者は出さない、配慮が行き届いた状態であります。