ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
すっかり忘れ去られていることだが、千賀子が月に行った理由は、そんな大それたモノではない。
具体的にはロボ子がバカみたいに先走った(というか、暴走?)結果と、エマからの期待を込められた視線を向けられた結果なのだけれども、だ。
とにかく、月への偉大なる一歩を成し遂げた千賀子は一躍時の人と……はならず、不思議な事に、あまり話題にはならなかった。
理由は、ロボ子曰く『色々と女神様の影響によって、日常の一部みたいに処理されてしまったのでしょう』との事らしい。
つまり、分かる人はちゃんと分かっていて、すごいぞと褒め称えていたのだけれども、大多数の人たちからしたら……という感じになっていた。
まあ、千賀子としてはギャーギャー騒がれても嫌なだけだから、思っていたより静かな反応で済んでくれたのは良かったのだけど。
ちなみに、月の石をお土産に持って行ったけど、エマの反応は薄かった。
まあ、月の石とはいえ、何も分からない人からしたらカラフルな石だし、地球上においてそこまで珍しい物質でもないし。
いちおう持ち帰った千賀子も、『いや、これ……うん、気持ちは分かる』という程度の感覚だったので、そこまで落ち込みはしなかった。
なんとなくだが、エマが思い浮かべていた月の石ってこう、光り輝いているとか、そんな感じかなって。
それが蓋を開けてみたら、カラフルではあるけど、それだけ……宝石のように透明なわけでもないし……で、だ。
とりあえず、ロボ子のよく分からん暴走も無事に終わらせたし、
なんかよく分からないうちに発生した『チカコチャンカワイイコレハモウユルサレナイデモヤッパリカワイイカラユルス島』はもう放置することに決めたし。
いったいあの競馬場はどこまで広がってゆくのかという不安を覚えることもあったけど、とりあえず、そういう諸々はすべて放置することにした。
……そうして、ひとまずしばらくは何も起こらないだろうと勝手に思っていたのだけど……まあ、そんなわけもなかった。
「……え、土地を売って欲しいって?」
「はい、そういうお話がちらほらと来ています」
「前からその手の話は来ていたよね……ってことは、前よりも増えている感じ?」
「お察しのとおり、断っても断っても次から次に電話が来ています」
今度は、千賀子が所有している土地を売って欲しいという商談の連絡が来るようになった。
今さらな話ではあるが、以前からその手の話はしょっちゅう千賀子に来ていたのだ。
ただ、千賀子が所有している土地は僻地も僻地で利用価値がほぼ0、むしろ所有しているだけで税金が取られるだけの土地がほとんどだ。
なので、何も知らない業者などは大して調べもせずに千賀子に電話を掛けてくるのだけど、それも最初だけ。
少し調べたら、千賀子が所有している土地のほとんどは転売しようにも、ちょっと住所を調べただけで『使い道が無い僻地』であることが分かってしまう。
なので、時間の経過とともに千賀子へのそういった話は減り、ここしばらくはかなり減っていたのだが……ちなみに、だ。
バブル景気が始まる以前から土地の転売は日本全国で行われ、人から人へと土地が渡り歩き、その差額を設ける業者が次々に登場し、テレビを騒がせている。
バブル景気が始まってからはさらに動きが激しくなり、売れそうな土地……いや、正確には、素人を騙せそうなそれっぽい土地が、だろうか。
兎にも角にも、その波は巡り巡って千賀子にも届いていて、減っていた電話が再び増えてきている……というのは、ロボ子から話を聞いていたのだけれども。
「ちょっと待って、私が持っている土地って、騙して売りつけるのも難しいぐらい僻地ってのはもうけっこう知られているのよね?」
「そうですね、よほど業界に無知でなければ、既にマスターのそこらへんの事情は知られていますね」
「……ってことは、そんなレベルで無知な業者が増えているのか……あるいは、それでも欲しいってぐらい、土地の転売が活発化しているってこと?」
「否定は出来ません」
その言葉を聞いた千賀子は……そこでふと、気付いてしまった。
「比較的当初に転売された土地って、今はどうなっているの? まだ、転売用として使われているの?」
「半分ぐらいはそうですが、半分ぐらいは観光用のホテルやリゾート施設として開発が行われているようですね」
「それ、土地売買の動きが悪くなってきたから、開発用に回されたわけでは……え、ちょっと待って、それってヤバくない?」
そう、気付いてしまった。
その動きが悪くなってきたということは、本当の本当に最前線の情報を得て売買を行っていた層が……ついに、動き始めたということ。
いったい何を……それは、バブルの不自然さにいよいよ目を向け始めたということ。
そういった者たちの一部は、本当に動きが早い。
そして、避けられる無駄なリスクは徹底的に避け、大きな損を避けるために小さな損を選ぶ選択を迷わない。
つまり、そういった者たちが動き始めたということは……いよいよ、後にバブルと例えられる今の歪な好景気を不安視し始めた、というわけだ。
しかし、実際にバブルが弾けるのは、もっと後……早くて年末、遅くとも3年後ぐらいにはなるだろう。
なにせ、動いた人の規模が違う。
ほとんどはまだまだ今の好景気が続くと妄信しているから、この時期に撤退を図る者に対して、大半の投資家は『臆病風に吹かれた』と判断するだろう。
実際のところ、いまはまだ早いというのは確かだ。ロボ子の話でも、まだ撤退を視野に入れる段階ではない……とのことだ。
現時点で、まだまだ株価は好調で、土地の転売が絶えずどこかで行われているのが、その証拠だ。
だから、まだ心配する段階ではないのだろうけど……しかし、一部とはいえ、そんな考えを持つ者が現れているということは、無視できない。
……今さらな話だけど、バブル景気の歪さは以前から見られていた。
東京のごく一部では、この世の春と言わんばかりに好景気が続いていて、夜の店では毎日のように札束が動いている一方。
バブルの影響を受けていない層は、上昇し続ける物価の波に晒されて、けして余裕のある生活を送ってはいなかった。
そんな歪な状況が続いたのも、様々な要因から生み出された存在しない好景気を信じていたからで……けれどもそれは、ちょっとしたきっかけで一気に弾けてしまう。
まさに、バブル。
そんなバブルがいよいよ……その事に思い至った千賀子は、改めて……ロボ子に尋ねてみる。
「『賽銭箱』のお金をもっと回して、引き延ばすことできそう?」
「あまりおススメはしません。『賽銭箱』のそれは劇薬です。局所的には良くても、世界経済に関与するレベルでばら撒けば、それが無くなった時の反動の桁が変わります」
「……おおよそ、どれくらい?」
「ほぼ100%の確率で、1929年の世界恐慌が軽く思えるぐらいの大恐慌が世界中で発生します。そして、その負債を誤魔化すための第三次世界大戦勃発でしょうね」
「言い換えれば、それをすると私は死ぬことが許されなくなるわけね」
「女神様が、マスターの没後も変わらず動いてくれるならば、避けられる事だとは思います」
──それだけは、絶対にないだろうなあ……と、千賀子は思った。
……よくよく考えてみたら、だ。
バブル景気の最中、自分はどこまでやれただろうか……と、千賀子は思う。
ロボ子よりアニメ映画を作るとのことで作ったり、それに合わせて各アニメ制作会社のスポンサーになったり。
競馬場の賞金幅を掲示板(1着から5着)ではなく、最大10頭までの特別レースを用意したり。
他にも自分が所有している牧場を通じて工事の依頼を地元に発注したり、整備の仕事を別に用意したり。
本当は使い道がないのだけど、まったく整備しないとそれはそれで危ないからということで、林業者に依頼を出して整備してもらったり。
とにかく、色々な方向からお金を動かして、来るべき時に備えて、なんとか持ちこたえてもらえるよう動いたり。
あとは、UMAとか、女神様とか、UMAとか、女神様とか……いや、まあ、そこはいい、とにかく、やれる事はやったかもしれない。
ただ、それでも、心のどこかでもう少しナニカをやれたのかも……と思うのは、傲慢な考えなのかもしれない。
(下手に今の好景気を不安視するような話をすると、それがキッカケになってしまうかもしれないから……うかつに誰にも相談できないんだよね……)
まあ、なんにせよ、千賀子に出来ることなんてあまり無いわけだ。
むしろ、色々な方面に寄付やら投資やらをしたことで、ある程度の範囲では物価上昇の波を耐えられているから、これ以上の何をしろって話ではあるのだけど。
とにかく、だ。
今後も継続して様々な方向から寄付やら投資やら何やらを行い、少しでもいざという時のダメージを軽減するしかない……と、千賀子はこの時も同じ結論を出したのであった。
……。
……。
…………まあ、それはそれとして。
「……あ、もしもし、官邸? 私、千賀子。今、総理に伝えたい事があるのだけど」
『わ、わぁ……(涙声)』
とりあえず、ビビビッとナニカを感じ取った千賀子は、さっそく官邸に電話した。
その際、何故かは知らないけど電話に出ている人の声が震えていたり、その後ろから『泣いちゃった!』とかいう総理の声が……まあ、仕事が忙しいのだろう。
素人である自分が下手に事情を聞いても向こうとて困るだろうし、あえてそこには触れず……千賀子は、さっさと話を進めることにした。
「あのね、このままだと、8月頃に飛行機落ちるかもだから」
『え?』
「ジャンボ機さぁ……落ちるかもだから、整備とかそこらへんをしっかりするようこそっと話を通しておいた方がいいかもね」
『……えぇ(涙声)』
「あと、けっこう細々とした事件が起こるけど、変にあたふたせず対応してね。それと、南米コロンビアの首都からけっこう離れたところの火山が噴火するかもで」
『…………』
「あ、噴火といえば、来年には伊豆大島の方で噴火が起こるかも……まあ、まだ来年だし、先に気にするべきは飛行機の方かな」
『…………そ、総理、どうしましたか、総理!?』
すると、電話の向こうが何か慌ただしい様子となり、電話が切れた。しばし、目を瞬かせた千賀子は……受話器を下ろすと。
「……総理も、忙しくて大変ね、ご自愛してもらわないと」
そう、話を締めくくったのであった。
……。
……。
…………なお、それからしばらくして。
『──速報:田中総理、職務中に倒れる。過労によるものか──』
「あらぁ……ロボ子、消化に良くて栄養のあるやつ、適当に見繕ってくれる?」
テレビの速報にて、そんなテロップを見た千賀子は、総理に滋養強壮の効果がある薬を渡すように、ロボ子へ指示を出したのであった。