ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
──チェルノブイリ原発事故というのは、1986年に起こった原子力発電施設にて発生した原子力事故である。
事故レベルは7。
分類としては最大級に相当する深刻な事故であり、当時としては……とにかく、当時としては最大最悪の原子力事故と定められた。
細々とした原因を挙げればキリがないが、大まかな要因を挙げるだけでも、そりゃあ起こるべくして起こったみたいな事故であった。
1. 根本的設計に欠落が見られ、事前のテストにおいても懸念事項を解決出来ていなかったのに、危険性を無視して強行してしまった。
2. 原発運転員に対する教育が不十分であった。
3. 運転員は昼のチームと夜のチームに分かれていたのだが、様々な事情から逆のチームが担当した。その際、十分な引き継ぎを行われていなかった。
4. 通常とは違う運転を行っていたため、どのような事態が発生するかを予測できなかった。
5. 低出力では不安定な炉だと分かっていたのに、低出力運転を続けてしまった。
6. 様々な事情から事前に立てていた計画から大幅に状況が異なってしまっていたのに、実験を続行してしまった。
7. この実験を行うために、安全装置を無効化していた。
といった感じで、むしろどうして事故が起きないと思ったのか……みたいな、どの角度から見ても『そりゃあ、そうなるよ』みたいな話であった。
……で、話を戻すが、この事故によって広がった放射性物質による影響は、すさまじかった。
ベラルーシ、ウクライナ、ロシア、ヨーロッパの広範囲に放射性物質が降り注ぎ、食品の摂取等による内部被ばくも含めて、相当数の人々に影響を与えたと言われている。
特に胎児や小児に多く影響を及ぼし、ガンや白血病や遺伝子異変を起こし、数十年の月日を経てもなお影響が残っているとすら言われるほどの……そんな中で、だ。
「マスター、さきほど日本全国に設置した対放射線フィールドを稼働。合わせて、フィールド内の除染処置を始めます。おおよそ30時間後には100%人体に影響が出ない程度には下げられるでしょう」
「ありがとう、ロボ子」
エマの事はひとまず横に置いといて、とりあえずは日本全域への……え、日本にも影響はあったのかって?
いちおう、観測はされたらしい。ただ、人体に影響を与えるほどではない微量であった。
とはいえ、微量でも本体は無かった量の放射線が混じっているわけで。
この頃はおろか、現代に至ってもなお、雨に混じって落ちてくるソレを防ぐ術などない以上は……ロボ子にお願いするしかなかった。
いちおう、千賀子だけでもある程度は防ぐことが出来る。ただ、こういう細かい事は苦手である。
というのも、千賀子の神通力は非常に応用が利いて幅広くカバーが出来るのだけど、それを制御しているのは千賀子自身である。
つまり、千賀子が注意を逸らしたりしたら、途端に効力が上下してしまうという弱点がある。
対して、ロボ子が要する機械を使った制御は、応用こそ利かないものの、機能の範囲内に収まってさえいれば抜群の効果を発揮する。
この場合は、ロボ子の方が向いている状況であり、千賀子としても、こんな広範囲を24時間体制で見張れってのは無理なので、ロボ子に……という具合であった。
……で、だ。
ひとまず、ロボ子のおかげで日本国内はなんとか影響を抑えられたわけだが……問題は、諸外国の方だ。
アメリカの……いつぞやに作ったというか買ったというか、アメリカンな分身がロボ子の手を借りて今も経営している競馬場と、それに関係している施設は同様の装置でなんとか対策できたが……問題は、そこ以外。
アメリカは、広い。広いを通り越して、広大だ。
やろうと思えば可能だけど、その点に関してロボ子は……あえて、何もしないという選択を取るとの事だ。
理由は、これで完全に除去する方向に動いたら、人類は必ず『事故が起こってもそこまで影響が広がらない』と都合よく考えてしまうから、らしい。
実際、日本には前例はいっぱいある。
たとえば、高度経済成長期において、公害認定されるまでアレやコレやが色々とごちゃごちゃしたのは、まだ記憶に新しい話である。
そして、それはアメリカとて変わらない。
ただ、アメリカと日本との違いは、国際的な発言力……らしい。
悲しい話だけど、もしも日本だけが放射線の被害を受けていたら、国際社会は動いてくれただろうか?
おそらく、アメリカやヨーロッパ諸国が被害を受けた場合に比べて非常に動きが悪く、なんなら黙殺すらしようとするかもしれない。
そして、ここでアメリカを始めとして諸外国まで裏よりこっそり手を回してしまうと、だ。
ロボ子曰く、『──思ったほど放射線は広がらず、影響は限定的だ』と判断してしまう可能性が極めて高いとのことだ。
そんな馬鹿な話があるかと言われそうだけど。
何度も言うが、自分たちに都合が良い情報なら、明らかに不自然な事でも利用するのが人間である。
かといって、程々に加減して……なんてのは、ロボ子曰く『面倒くさい、なんで私がそこまで面倒見ないとダメなのですか?』ってことらしい。
まあ、確かに、だ。
ここでロボ子が諸々を無毒化させてしまったら、原子力は事故を起こしても大した影響は出ないという結果を残してしまうわけで。
結局のところ、自分たちの不注意や楽観が招いた結果なわけで……運が悪かった、それがロボ子の本音であった。
「……なんか手厳しくない?」
「そうは言いましても、別に私は彼らのお母さんではないので。原子力が生まれたのは、結局のところは人々がより便利な暮らしを求めた結果なわけですから」
思わずそう言ったら、キッパリ言い返された。
「……まあ、こっちには私が住んでいるから手を回しただけだし、なんでもかんでも手を広げていたら私が潰れるし……そんなものかな?」
「そんなものですよ。それに、既にマスターは競馬場関係でずいぶんとアメリカ社会にもお金を落としていますから、それで十分と思わなければ」
ちょっとばかり思うところがあったけど、ロボ子の言う事も一理あるなと思った千賀子は、それで流すことにした。
実際、何でもかんでも千賀子が助ける義理はないわけで、むしろ、これで責められたら『じゃあお前はどうなんだ?』っては話になるので……この件は、これ以上は藪蛇だろう。
……ただ、それでも……どうしても、どうしても流せない事があって……それは、何も知らない者たちだ。
おそらく、爆心地より近い町にはもう、既に回復不可能な量の放射線を浴びてしまっている者たちが出ているだろう。
その者たちはもう、助からない。
放射線は、DNAに致命的なダメージを与える。そして、現在の人類にそれを治す技術は確立していない。
ロボ子にも聞いてみたのだけど、答えは『人間の身体が脆すぎて、治療は難しい』とのことだった。
外傷ならばともかく、DNAへのダメージとなると、どうにも……強行したところで、治療したことが原因で亡くなる可能性が極めて高いのだとか。
つまり、ロボ子でも千賀子でも、助けようがないのだ。
やれるとしたら、せいぜい不安を軽くしたり、死への苦しみを和らげるぐらいなのだけど……う~ん。
「……今さらこんなことを言うのもなんだけどさ、いちおう、コレは起こるんじゃないかなってのは……うっすら思っていたわけよ」
どうにも黙っていられなかった千賀子は、思っていた事をロボ子に話すことにした。
そう、千賀子は……うっすらとだけど、こんな事故が起こるんじゃないかなってのを察知していた。
でも、動かなかった。
何故ならば、動いてソレを潰したところで、また別の場所で似たような……程度の差こそあるけど、似たような事故が起こる気がしていたからだ。
『マニュアルは血で書かれる』とは誰の言葉かは知らないが、それはあらゆる分野において同じである。
千賀子の前世において原子力があれほど規制や基準が厳しいのは、少なからずチェルノブイリ原発事故があったからこそ生まれたものであるからだ。
ゆえに、この事故を潰したところで、結局は遅かれ早かれどこかで発生するのだ。
何故ならば、事故が起こっていないから。安全マニュアルは、死傷者が増えれば増えるほど分厚くなっていくわけで。
でも、それが分かっていたとしても……やっぱり、心のどこかで思ってしまうのは止められないわけで。
「……痛み止めとか、こっそり配布してみる?」
せめて、それぐらいはしてやるべきでは……と、思ったのだけれども。
「用意は可能ですけど、飲んでくれると思いますか?」
「あ~、それは、そうか……」
現実的な問題を出された千賀子は、どうしたものかなと首を傾げた。
いくら千賀子でも、何も知らない人たち……それも、人種が違うだけでなく生まれ育てた常識すら異なる相手を説得するのは非常に骨が折れる。
それこそ、『魅力』にて半ば洗脳レベルで押し切らねば、間違いなく問題が発生するぐらいに……っと、その時だ。
「ん~、適当にその人たちが信用できる相手に変身したら良いんじゃないの?」
「あ、3号」
ぬるりと姿を見せたのは、3号だった。
3号は外国支部の競馬場オーナーみたいな感じで、時々顔を見せる時以外はもっぱらそっちに居るのだが……どうしたのだろうか?
「いや、チェルノブイリが大変でしょ。なんとか競馬場とか厩舎とかに居た人たちは治したけど、それでエネルギーがすっからかん、補給して」
「ああ、はいはい」
言われてみれば、なんだか3号の顔色が悪いなと思った千賀子は、伸ばされたその手を取って……ぎゅんぎゅんとエネルギーを送った。
「……あの、3号様。どこか不備がありましたでしょうか?」
「ん? あ、いやいや、違うよ。ちゃんとロボ子のマシンは効果が出ている。私がやったのは、その前に被ばくしちゃった人たちの治療……さすがに疲れるわ、あの人数」
3号がそう言えば、ロボ子は安心したかのように……ところで、だ。
「3号、さっきの話なんだけど、信用する相手って具体的に誰よ?」
「ん? そんなの、天使に決まっているじゃん」
気になったので尋ねてみたら、あまりにも予想外の事を言われた千賀子は。
「……なんて?」
そう、またもや首を傾げたのであった。