ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
「実際なところ、放射線ってどれぐらいで無くなるの?」
「放射線の、どの物質かによって異なりますが、ヨウ素131と呼ばれるやつだと約8日ぐらいで半分です」
「あ、意外と早いじゃん」
「なお、ウラン238と呼ばれるやつは、約45億年です」
「えぇ、なっげぇ……」
ひとまず、だ。
千賀子だけでなく、3号が臨時に天使のフリをして順々に苦痛にあえぐ人々に一時の安らぎを与えて……いくしばらく。
損傷したDNAを治す事は無理でも、痛みを柔らかくすることは可能である。
ロボ子が用意したリンゴの木は、『食べれば不思議と苦痛が和らぎ、不安も和らぐ実を付ける』というもの。
ちなみに、このリンゴの木に関しては1からロボ子が用意したわけではなく、なんか珍しく女神様が少しばかり手を貸したらしい。
もう、その時点で不安でいっぱいである。
それって大丈夫なのかって思ったけど、ロボ子より『そこらへんはちゃんと私が確認し、修正しましたので』とのこと。
100%安心したとは言い難いが、それでも、ロボ子が検査したうえで『とりあえず、大丈夫』と判断したのであれば……ちなみに、だ。
女神様曰く、『可愛がっていた後輩が用意したやつを参考にしたやつ』らしい。
その後輩が用意したやつは、『食べると疲労回復を始めとして滋養強壮効果があって、一個食べたら老化を抑えて若返りの効果もある』のだとか。
それを参考にした女神様が用意したやつは、食べると『全身に致死量の快楽が駆け巡り、それなのに死亡せず、効果が抜ける48時間後まで幸せな状態が続く』というものらしい。
もちろん、副作用も依存性も皆無なんだとか。その点に関しては、ロボ子も否定はしなかった。
ただ、薬物的な依存性はないのだろうけど、精神的な意味での依存性は……相変わらず、この女神様はどうにも……まあ、今はいい。
ひとまず、当初の目的である、放射線による苦痛を少しでも和らいでもらえるように……というのは、達成しているっぽいので一安心。
ただ、千賀子がやるのはそこまでだ。これ以上手を貸してしまうと、余計な事態を引き起こしてしまう。
現に、チェルノブイリ原発事故の影響によって、世界中で『これからの原子力について』といった感じで論争が巻き起こっている。
別に、原子力事態が悪いわけではない。だが、何も知らない者たちに責任が無かったかと言えば、そんなわけがない。
快適な生活を求める人々の欲望が、原子力発電を生み出したのだ。そして、今の生活の維持を求める以上は、もはや原子力無くしては維持できない。
本当に原子力を失くしたいのであれば、昭和の……そう、千賀子がまだ小学生だった頃の、あの暮らしに戻すしかないのだ。
家に風呂が無いのも珍しくはなく、プライバシーなんて言葉が存在しない銭湯での入浴が基本だ。
入浴は2日に1回というのも不思議ではなく、今のようにジャグジーだとかそういうのもなかった。
今みたいに一家に1台どころか家にテレビが無い家もあって、全自動洗濯機だって無いし、電話だって各家庭には無かった。
地面はそこかしこ凸凹だらけ、穴が開いたまま放置されていることだって珍しくなく、なんならそれで死傷者が出るなんてことも珍しくはなかった。
車だって、今の車に比べて排気ガスの臭いは酷く、走り出す時にはまっくろな煙を吹いて、近くに居たら咳き込んでしまう人も多かった。
室内の明かりだって、今みたいに蛍光灯がどうとかじゃない。今に比べたら薄暗い白熱電球で、夜はどこもかしこも真っ暗で、空いているお店も数える程度だった。
食事だって、今みたいに和食に洋食、自由に食べられはしない。確実に、量も減るし値段も上がるだろう。
食料だけじゃない。服もそうだし、何もかもが今より値上げするだろう。いや、値上げどころか、作れる量も減るだろう。
自覚していない人は多いが、昨今の豊富な道具や便利な道具は、原子力を始めとした膨大なエネルギーがあって初めて作れるのだ。
ましてや、氷菓子を始めとして、現在のスイーツ関係はほとんど全滅だ。
それでも良いと人々が覚悟して受け入れるのならばともかく……だからこそ、ロボ子も『無関係なやつはいない、今回のコレは自分たちの不手際だと諦めろ』という態度であった。
「……これからも今みたいな便利な暮らしをしようと思ったら、避けては通れない痛みってわけ?」
「マスターもそうですけど、私は人類の守護者ではありませんから。影から手取り足取り導くつもりはございませんので」
なんとも冷たい言葉だが、それは間違いなくロボ子の本音であった。
車だって、動かすにはガソリンなどの燃料を使う。じゃあ、そのガソリンを精製するには、いったい何を必要とするのか。
日向に晒したらガソリンが生まれる……そんな話だったならば、この事故は起こらなかっただろう。
結局のところ、このエネルギーの恩恵を受けている以上は、大なり小なりの違いはあっても、まったく責任が無い人なんて……いないのであった。
……。
……。
…………まあ、それはそれとして、だ。
先ほども話したが、己が設けた『助ける範囲』で施しを行った以上はもう、事はもう千賀子の手を離れた。
これから先、人類は絶えず増え続けるエネルギー需要に対して、それを満たすためのリスクとのせめぎ合いを繰り返す。
さすがに、そこまで面倒を見る気が無い千賀子はもう、そこから先は静観に留めるのであった。
で、だ。
事故が発生してからそれなりに経てば、徐々に情報が日本にも伝わって来る。
おかげで、世間では連日のように『チェルノブイリ』の名前が報道され、なんとも言葉では表現し辛い不安がお茶の間に流れていた。
ただ、そんな不安ばかりなニュースばかりではない。悪い事もあれば、良い事もあるわけで。
この年、イギリスのチャルズ皇太子とダイアーナ妃が日本を訪問し、日本中で『ダイアーナフィーバー』と呼ばれる空前の社会現象を巻き起こ……ん?
チャールズにダイアナ……知らない子ですね。
とにかく、この二人……特に訪日したダイアーナ妃の髪型やロイヤルファッションがウケて、若い女性の間で大流行する結果となった。
他には、阪神競馬場で起こった大誤審騒動という名の珍事だ。
これはなんと、2着と3着のゴール順を反対にして発表してしまい、『当たっていたのに券を捨ててしまったぞ!』と暴動が起こり、大騒動になった。
なにせ、もしも当たっていたら万馬券の超大穴馬券。そりゃあ、殴り合いが起こっても不思議ではないだろう。
そして、さらに時は流れ……セミの声がミンミンとやかましくなってきている、8月。
「……あ~、やっば、小出しな感じで『恐怖の大王』が生まれそうな気配がする」
唐突に、その気配を感じ取った千賀子は……ポツリと呟いた。
その手はうちわを持っていて、タオルケットの上で寝ている春人を優しくあおいでいた。
場所は『神社』……ではなく、『冴陀等村』にある、公民館みたいな建物の中だ。
『神社』の中も外も快適なのだけど、あの空間は自然の中にあるわけではない。女神パワーのおかげで、蚊に刺される事もない。
そういう不自然な空間を当たり前だと思うのは間違いであり、『自然』というのは不便なのが当たり前である。
春人にもちゃんと自然の……そう、自然の緑というのをちゃんと体感してほしいと思ったわけだ。
ちなみに、エマは来ていない。学校の友達と、海に行っている。
万が一良からぬ輩が出てきたら遠慮なくお仕置きしていいと、ロボ子による偵察ロボ24時間リアルタイム監視を行っているので……とにかく、今の千賀子は冴陀等村に居た。
「……そうなのですか? 私の設置したセンサーには、まだそれらしい不自然なエネルギーの増大を感知してはいないのですが?」
「まだ実体化していないからね。以前からちょっとジワジワ感じてはいたけど……あ~、これはダメだな、実体化しそうだわ」
4号を呼び出し、あおぐのを交代して……巫女服へと着替える。思い返せば20年以上袖を通している、もうすっかり身体に馴染んでいた。
「では、『恐怖の大王』の問題はひとまず解決ですか?」
「いやいや、まったく。膨らんだ風船の口から、ちょろっと漏れた程度の話だから……小出しにすらならんと思う」
そんな事よりも、だ。
気になるのは、何がキッカケで漏れたのかという事だが……う~ん、チェルノブイリ……いや、それだと時期が少し遅いというか……ん~?
「ロボ子、何かキッカケになりそうな事件とか心当たりある?」
「現在進行形ですとチェルノブイリでしょうけど、この時間差を考えれば、まだ起こっていないか、起こる前か……少々、お待ちを」
そう言うと、ロボ子はピタリと動きを止めて……たぶん、頭の中にあるデータにアクセスして、ピックアップでも……っと。
「現時点で可能性が高いのは、来年の1987年4月より始まる、国鉄民営化でしょうか?」
「あ、それだ」
やはり、こういう調べ物はロボ子に聞くと早い。
巫女的シックスセンスでも、『あ、コレだ!』といった感じにピンときた事もあって……千賀子は、よっこらしょと軽くストレッチをしてから……4号に後を任せ、冴陀等村を後にするのであった。
千賀子「ちょっと出してんじゃねえよ」