ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
──国鉄(日本国有鉄道)が分割・民営化(後の、JR化)されたのは、1987年4月のことである。
原因は細かく探ると本当に多岐に渡るのだが、その中でも、もっとも目立っていたのは……巨額の赤字である。
1949年6月に発足し、政府が100%出資する公社として運用され、日本経済を支えていたのだが……それは、昔のこと。
黒字経営が一転して赤字に転じ始めたのは、高度経済成長期以降は特に、マイカーやトラックの普及、飛行機の低価格化が進んだことが原因である。
特に影響を与えたのが、採算が取れない地方ローカル線の建設や、全国一律の運賃とサービス維持……これが、重荷となって国鉄へと圧し掛かっていた。
また、鉄道への投資というのはどうしても10年~30年という月日を掛けた長期戦略になりがちで。
当時は早急に必要だったものが、ようやく完成した頃には使いようがなくなっていた……みたいな話がゴロゴロと続出した。
その代表例の一つが、トラックだ。
国鉄が黒字経営を記録していた昭和30年代は、貨物の運搬と言えば国鉄による運送であった。
しかし、トラックが普及したことにより、貨物量が減少。
これは貨物船も同様で、せっかく輸送量が大きい貨物船を建造してこれからと思ったら、トラックの普及により……早いものだと、数年で廃船になってしまったのもあったのだとか。
また、国鉄運営の構造的な問題も原因の一つであった。
民営ではなく国の公社である国鉄は、運賃値上げをするためには国会の承認が無いと上げられず……これがまあ、政治における人質的な扱いにされていたのだ。
これに合わせて、組合による激しい抵抗によって組織の合理化やカットが上手く進まず、結果的には手が出せないまま赤字だけがどんどん積み重なってゆき。
最終的には約37兆円という超巨額な赤字となってしまい、破綻止む無しからの民営化、という流れであった。
この話自体は実のところ、かなり以前から話題にはなっていたらしく、この頃(1986年現在)になるといよいよ現実味というか、確実に起こるモノと誰もが実感していた。
……で、話を戻すが、それでどうして『恐怖の大王』が実体化したのかというと……それは、国鉄に関わる人たちの負の感情である。
民営化に伴い、大規模なリストラ勧告、合わせて採用人数の縮小が発表され、毎日のように配置変換やリストラが行われていた。
それがどれぐらい苛烈だったかって、1986年のこの時の段階で、既に国鉄職員が40人近くも自殺していると言えば……いかに深刻な状況だったのかが察せられるだろう。
……ちなみに、だ。
一般にはあまり知られていないが、実はこの37兆円という巨額赤字……まだ、返済出来ていなかったりする。
JR各社が一部を引き継いで返せる分を少しずつ返済しているが、残りの大部分は国の借金(最終的には国民の負担)として、令和の今になってもまだ返済が続けられていたりする。
つまり、実は国民は現代に至ってもなお、この借金を返し続けているわけだが……まあ、このあたりは本題から逸れるので、一旦横に置いといて。
「──良かった、ちょこっと小出し程度だから、不意打ち全力ワンパンで倒せたわ」
場所は、伏す。
あえて挙げるならば、廃駅候補になっている寂れた線路の脇……人通りのないそこは、セミの声が四方八方から降り注いでいた。
その中で、黒い陽炎となって、そのまま空へ溶けるように消えてゆく『恐怖の大王』を見上げた千賀子は……ホッと安堵のため息を吐いた。
今回ばかりは、本当にギリギリ運が良かった。
どうやら、今回の『恐怖の大王』は本当に実体化したばかりで、まだ自らの方向性がしっかりと定まっていなかったらしい。
なにせ、千賀子が攻撃をする直前、列車のような形になろうとしていて……もしも攻撃が10秒遅かったら、少し手こずっていただろう。
おそらくだが、今回の『恐怖の大王』は列車型で線路を爆走し、内部より伸ばした腕で通りがかった人間を片っ端から引き込んで食らう……そういう存在だったのだと思う。
実体化したのが、まだ人通り皆無な場所で良かった。
もしも都心部などで実体化していたら周囲の目もあるし、対応が遅れたら数百人~数千人という犠牲者が出ていただろうから。
……とにかく、今回の戦いは終わった。
わざわざ他の人に見られる理由もないので、千賀子はさっさとワープで冴陀等村へと戻った。
所要時間、計20分程度の早業であり、消耗もほとんどなく、完全勝利と言っても過言ではない結果であった。
……。
……。
…………で、だ。
冴陀等村へと戻った千賀子は、巫女服から私服(自宅用)へと着替えて、4号より代わる。
まだ眠っている春人の寝顔を見て、しばし頬を緩めつつ……さて、と気持ちを切り替えた千賀子は、ロボ子をチラリと見やった。
「さっきのアレさぁ……もしかしなくても、今後も出る可能性あると思う?」
「可能性は極めて高いかと。現時点でコレですから、その規模はこれから先増えることはあっても、減る事はないと思われます」
「あ~……やっぱり、そうなるよねえ」
ロボ子の推測を、千賀子は否定しなかった。
これまでこういった公的事業の廃止やら何やらは起こっていたけど、さすがに国鉄という巨大組織の場合は規模が違う。
単純に配置が替わるだけでなく、リストラされる人も大勢いる。国鉄を目指して頑張って来た学生たちにとっても、暗い未来を生み出している。
もちろん、廃止絶対許すまじ……な、考えは千賀子には無い。
ロボ子に調べてもらったのだけど、正直なところ……潰れても致し方ないというか、いちおう、考え方は理解できた。
この頃のゴシップ記事などでは『国鉄の人余り』といった文面が踊り、それはもう無駄な人員で溢れかえっているみたいな印象を与えていたが……当然ながら、そんなわけもない。
いちおう、人余りであったのは確かだ。
ただそれは、貨物の運搬が減少したことによって、徐々に貨物担当の職員の仕事が無くなってしまったからである。
元々、国鉄は戦後の石炭から石油にエネルギー政策が移り変わるに合わせて、大量の離職者を吸収する形に(国営なので)なったわけだが……今度は、その国鉄そのものが、になったわけで。
いくらかは民間の企業に出向という形で転職出来たのだが、それが出来るのは少数で……それに加えて、今回は全体いっせいの人員削減だ。
改めて言うが、この一連の流れはけっして、穏やかに進んだわけではない。むしろ、そうなったのは少数派だ。
国鉄を目指していた学生たちからしたら、これまで目指して勉強していたのに、いきなり入れなくなったようなもの。
後に、希望退職者を含めて9万人を超えるリストラが起こったのだ……そりゃあ、破裂とまではいかなくとも、ちょっと出てしまっても致し方ない部分はあるだろう。
……ただ、今回が終わりというわけではなく、あくまでもまだ途中なのが問題で。
少なくとも、来年の1987年までは、ちょくちょく発生する頻度というか、割合が高くなるわけで……千賀子としても、その都度対策に回るのは大変……という気持ちがあった。
「……『春木競馬場』でいくらか雇う?」
それは、千賀子なりの妙案であった。
ぶっちゃけてしまうなら、もう千賀子は『春木競馬場』の規模を把握出来ていない。
なにせ、朝起きたらなんか土地が広がっていたり建物が生えていたり、よく分からない現象が起きるからだ。
ロボ子ですら『気付いたら増えているし、データでも前から存在しているとかいう気持ち悪い現象が起こるから調べたくありません』と明言するぐらいで……だからこそ、だ。
そんだけ広いのだから、ちょっとぐらい人を増やしても大丈夫では……と、思ったわけだ。
「難しい判断かと……オーナーであるマスターの言葉なら誰も拒否しませんが、特別扱いは無用の軋轢《あつれき》を生みます」
その案に対して、ロボ子は完全には否定しなかったけど、手放しには了承しなかった。
「それに、一部の鉄道職員から逆恨みされる危険性があります。どうして、俺たちは採用されないんだ、と」
「その時はこの拳と巫女パワーで黙らせるから」
「あ、そうですか……」
納得するロボ子に、千賀子はそう答え……ふと、ある事を思い出した。
「私から直接国鉄に電話を掛けるより、総理を通じて話を通した方が色々とスムーズじゃない?」
「そうですね、その方がよろしいかと思います」
……。
……。
…………というわけで、だ。
『──はい、こちら官邸の』
「もしもし、総理? 私、千賀子」
『──っ!? こ、これは千賀子様! 今日もお声に力があって、ますますの盛況具合をこちらでも耳に──』
「あ、そういう挨拶はいいの。そんな事より、来年行われる予定の国鉄民営化についてなんだけど、総理に代わって」
『え、あ、はい……』
さっそく、千賀子は仲租音総理へと電話した。電話に出た仲租音総理の声は、ちょっと力が無かった。
「たぶんだけど、組合の人たちが1000人ぐらい騒ぐと思うし、ストライキとかもされちゃうかもだけど、そこらへんはどうするつもりなの?」
『あ、あー……さすがに、貴女の頼みとはいえ民営化の廃止はできませんよ。アレはもう赤字が膨らみ過ぎた』
「別に、止めるつもりはないわよ。ただ、さすがに全員ってわけじゃないけど、何人かは『春木競馬場』の方で雇い入れる事ができるけど……どうします?」
『……ふむ、気持ちは有り難いし、少しでも職員の不満を解消できるのであれば、こちらとしては大助かりだが……しかし、いいのかい?』
「構わないわ。ただし、誰を入れるかはこちらの判断、そちらからコネを回されても私は一切聞かないってことを周知してくれたら……で、いいかしら?」
『それでも十分だ。10人でも20人でも、次の働き口を用意してもらえるだけでありがたい。それじゃあ、何人雇う予定なのかだけは決まったら教えて欲しい』
「分かったわ、急な電話でごめんなさいね」
そう、電話を切った千賀子は。
「さあ、これからもう一仕事よ」
「さっそく、ポスターを作りますか?」
「ええ、お願い。とりあえずはシニア向けに50人、寮付きで募集を掛けましょう」
採用面接に向けて、気合を入れるのであった。
※さすがに、国鉄の赤字の肩代わりはしません。やろうと思えば可能ですけど。例の会社があおり抜きで全国規模になるのが嫌なのでしません。