ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
その後の面接は、実にスムーズに進んでいった。
面接は、一度に5人ずつの集団面接。つまり、計10回行うわけだが……これがまあ、大変だ。
詰めに詰めて1回30分で収めても、終えるまで300分……つまり、5時間掛かるわけだ。
さすがに通しで5時間は共に疲れて大変だ。
応募者側は自分たちの番が来るまで待ち続けなければならないし、採用する側は5時間ずっと面接を行うわけで……終わる頃にはもう、双方クタクタというのも珍しくはなかった。
まあ、だいたいの場合は午前の部と午後の部に分けたり、完全にこの日は面接対応の日として宛がったり……ん?
他の仕事はしないのかって?
令和の働き方が当たり前になっている現代人(特に、若手)は想像すらできないだろうけど、この頃の働き方というのは令和に比べて密度がスカスカであった。
もちろん、業種によって今と変わらないところもあったけど、そういうところはその分だけ給料が良かったりしていた。
今は、その逆だ。
キツイけれども給料が良かった業種は軒並みキツイけれど給料が悪くなって……これ以上は話が逸れ始めるので、戻そう。
とにかく、だ。
この頃は一見すると残業&残業で毎日12時間働いていますみたいな職場もあったけど、その密度を見ると休憩時間やら何やらで、実はそこまで……という職場が多かった。
なので、別にこれ自体はそこまで珍しい事ではなく、別に『春木競馬場』だけが特別というわけではなかった。
そうして、だ。
面接がひと段落した後は、部下たちと顔を会わせて誰を採用するかを決めていくわけだが……ここで、千賀子のジャッジがまず入る。
その基準は、『こいつを入れると間違いなく周囲を引きずり込んで害になるので、まず除外する』、というものだ。
具体的には、特定の思想が強い者。
本人の中で完結して、誰かを引き込むつもりが欠片もないのであればまだヨシにするつもりだったのだが、そういう者は例外なく……なので、除外だ。
コレの何がヤバいって、ただ引きずり込むだけではない。
こういうタイプの者は例外なく自分たちで派閥を形成し、拒絶した者を『敵』に定めてあの手この手の嫌がらせを始めるからだ。
ただでさえ、そういう思想が無くとも派閥が生まれるのが人間社会……ここですら、定期的に千賀子が目を光らせないと、気付いたら……ってな感じだ。
そこに、わざわざ不穏分子を入れる理由が千賀子にはなく、容赦なくペシペシと指先で履歴書を弾いていった。
「え、この人を弾くのですか? 受け応えもしっかりしていて、業務歴も長いみたいですが……」
「──隠しておりましたけど、この人は組合の者っぽいですので。働く事よりも、組合を作る事ばかり考えておりましたから」
千賀子のその声には、いくらかの疲労がこもっていた……それも、無理はない。
千賀子は、包み隠さず正直に話せと言った。
それに対して、ほとんどの者は素直に語ってくれた。
人が入れ替わった際の最初の一人は取り繕い、それを千賀子が指摘する……というパターンは最後まで続いたけれども、それでも注意すれば素直に話してくれた。
素直な内容は、言うまでもなく……給料の高さや福利厚生にひかれてというのがほとんどで。
一人だけ、家族から強い反対(競馬そのものへのイメージだろう)を受けて『春木競馬場』への就職を諦めたという者がいたけど……問題は、ソレ以外の者たちだ。
具体的には、先ほど千賀子が語った思想の強い者たち。
この者たちは、言うなれば、国鉄の衰退を招いた一因というか、そういう組織に
(そもそも、いちおう雇われる側よね? 態度からうっすら上から目線が漏れ出ているというか……いや、私が気付ける程度には隠せているけど、なんでそれで雇われると思ったのかしら?)
とりあえず、巫女的シックスセンスで感じ取った範囲でも、だ。
普段から組合活動とかで業務を下に押し付けたり、手を抜いたり、色々とマイナス点が多かったので、普通に不採用である。
なお、もしも『どうして俺が不採用なんだ!』みたいな感じで突撃してきたら、巫女的呪いを叩きつけるつもりだから、それはいいとして。
「……この人は採用するのですか? えっと、藤堂明くん……退職勧告を受けたということは、何かやったのではありませんか?」
「あ~、ちょい違う。この人、働かずに仕事押し付けるだけでなく、手柄をちょいちょい奪う上司をぶん殴って干されただけ」
「えぇ……」
「正義感は強いけど、分別はちゃんとあるタイプだから。どちらかと言えば、我慢に我慢を重ねて堪忍袋の緒が切れたってやつ? 組合も守ってくれなかったから、もう意地を張って『こんな場所、こっちから辞めてやる!』ってな流れよ」
「お、おぉ……」
「かわいそうにね、夢と希望を持って入社したら、誠意をもって仕事をしている者が蔑ろにされて、そうでない者があの手この手で好き勝手しているのを見たら……やる気なんてあっさり無くしちゃうわね」
一つため息を吐いた千賀子は、国鉄も本当に内部的には末期なんだなと改めて実感した。
実際、この頃の国鉄の悪評の中には、後の世にも伝わっているぐらい、信じられないような話がチラホラある。
客に対してものすごく態度が悪くて、『いちいちそんな事を聞いてくるな!』と客に向かって怒鳴り返す職員も居たとか。
仕事を押し付けられて手が足りずにミスが出たらマイナス評価、押し付けている側は何もしていないのにプラス評価とかいうのが横行していた……なんて話もあるぐらいだ。
いちおう、ロボ子から現在の国鉄の内情をさらりと聞いてはいたが……それでも、現場で働いていた者から読み取る情報は、それ以上であった。
……。
……。
…………さて、それが終われば、合否判定の書類を郵送する。あと、先に電話だけでも入れておく。
これは令和でもまだやっている(webで完結しているのもある)ところはあるだろうけど、この頃はコレが主流だ。
郵送の場合はどうしてもタイムラグ(場合によっては、一週間ぐらい)が生じてしまうので、まずは電話だ。
これは、部下……ではなく、千賀子が行う。基本的に合否の関係なく全員に行う。
理由としては、どうして合否の結果が分かれたのか、それを納得してもらうためだ。
納得することは、とても大事だ。
それが受け入れがたいモノでも、納得さえしたら、時間を掛ければ受け入れる事が出来るから。
もちろん、『あんた思想がヤバいからアウト』だなんて馬鹿正直には言わない。
さすがにそういう人には、『あなた、〇〇の時に仕事をサボっていたでしょ、私はそれを見ていたから……』という体で誤魔化す。
実際に見たわけじゃないけど、ロボ子より本当にサボっていた事は確認しているから、嘘を付いているわけではないのだ。
なお、500人に電話ともなれば一日仕事どころか数日仕事になるが、それでも千賀子はやる。
それが、来てくれた者への誠意だと思っているからだ。
まず、電話を掛ける前にちゃんと『合格者』と『不合格者』が混ざらないよう分けて隔離し、きっちり名前と人数が合っているかを確認する。
これは千賀子だけでなく、面接に携わった人たち全員がチェックを行う。前の人がOKを出したから大丈夫だろう、そんな考えではさせない。
そうして、チェックにチェックを重ね、ロボ子にもこっそりチェックさせてから……ようやく、電話だ。
もちろん、向こうの都合もあるので、掛けるのは日中あるいは遅くても20時まで。
そうして準備を終えた千賀子は……『不合格者』から電話を掛けていく。
もちろん、誰もが冷静に話を聞いてくれるわけではない。中には激昂したり、泣き出したり……そういう人も居るだろう。
けれども、ちゃんと不合格になった理由を千賀子の口から添えれば、ほとんどの人は『社長自らそう思ったのであれば、これはもう致し方ない』といった感じで受け入れてくれた。
まあ、千賀子が危惧したとおり、逆ギレして暗に暴力を臭わせる者もいたけど、その点に関しては巫女的パワーをこっそり送ったからいいとして。
それが終われば……次は、合格者たちへの電話だ。
既に、これだけでも二週間ぐらい経っている。
既に合否判定の通知は届いているのだが、そちらは合否の結果しか書いていないわけで……自分で決めた事だからと千賀子は頑張って電話をする。
こちらの場合は、内容が内容なので気が楽である。
そりゃあ、不合格ではなく、合格判定の電話なのだから、当たり前といえば当たり前だろう。
理屈を考えるならば、先に合格者に電話をした方が良いのだろうけど……先に楽な方を済ませると後が辛いので、今回は逆である。
採用と判が押された履歴書の束には、藤堂明の名前もあり……電話した際、意外なことに彼はとても驚いていた。
既に通知は届いていたのだけど、何かの間違いかもという疑念がぬぐい切れず、電話が来たら落ちるモノだとばかり思っていたらしい。
むしろ、千賀子としてはそちらの方が意外であった。
看板でもそうだし、口頭でも『本音を出してもそれを理由には落としません』と明言していたのだが……まあ、いいか。
ちゃんと、合格した理由も説明する。
彼の場合は、『やる事はちゃんとやっていたし、仕事をサボるのに給料を満額受け取ろうとする者に憤りを覚えるのは普通の事。貴方のような人こそ残留させなければならないのに追い出したのであれば、こちらが雇い入れるのが社会への恩返しである』という理由からであった。
『──どうか、社会を嫌いにならないで。いつか本当に愛想を尽かしたとしても、今はまだ社会を愛し、隣の人を愛して』
そして、どうしても伝えておきたかった事は伝えておいた。
……電話の向こうの彼は、何かが琴線に触れでもしたのか、返答が途中から涙声になっていたが。
千賀子はあえて触れず、合格通知の中に入っている用紙の説明をして……それで、終わりであった。
……。
……。
…………そうして、ようやく計800名の面接を最後まで終えた千賀子は。
「……ロボ子、次も50人で募集を掛けるとして、次は何倍になると思う?」
「現在確認されている電話の総量からして、推定67倍ぐらいにはなるかと」
「……『春木競馬場』って、本当に人気なのね」
深々と、ため息を吐いたのであった。