ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
──倍率が約70倍になった第二回の募集の結果を、疲労困憊になってもやり遂げた頃にはもう暦は10月も半ばを過ぎた頃。
その間、ちょっとずつエマが色気づき始めている事にヒヤヒヤしたり、春人がヤンチャになってきたりと、千賀子の周りでは平穏が続いていた。
危惧していた8月の墜落事故も起きる事はなく、直前にて異常が確認されたことで延期となり……合わせて、総理たちの根回しによって、ちゃんと整備がなされているのかと発言が成され。
一斉点検を始めてみたら、出るわ出るわ、細かな不調の数々が……必然的に、テレビではその事が取り出されていた。
そんなある日、千賀子は──恐れていた予感の導火線に火が点いたのを見てしまった。
それは、テレビ放送の上部に流れた速報テロップ。
『──パリにて開催されたG7会議、ルーブルにて合意──』
一見した限りだと、なんのこっちゃみたいな一行である。おそらく、よほど事情通でなければ、なんのこっちゃ、と思ったことだろう。
ぶっちゃけ、千賀子も最初はそう思った。
とりあえず、ルーブルでG7と呼ばれる7ヵ国で何かしらの合意がされたのかなということだけは察せられた。
しかし、察したところで、それ以上の事は分からず……千賀子は素直に傍のロボ子に尋ねた。
「ロボ子、何がどうなったの?」
「──分かりやすく言い換えますと、バブル景気が加速します」
「は?」
「ちゃんと足並み揃えて動けば問題ないのですが、把握しているデータから推測する限り、うまく行かず結果的にはバブルを加速させるだけの結果になるかと」
「ふぁ~!?!?」
思わず、千賀子は変な声が出てしまうのを抑えられなかった。
……『ルーブル合意』。
それは、要は外国為替の誘導方向の違いである。
プラザ合意は、過度に進み過ぎていたドル高をドル安へと誘導して、アメリカの貿易赤字を減らすため。
これによって急激なドル安・円高が進行し、日本などは想定以上の円高に見舞われ、バブル景気と呼ばれる現象が発生した。
対して、ルーブル合意はというと、だ。
要は、プラザ合意によって進み過ぎたドル安に歯止めをかけ、為替相場を安定させることが目的である。
しかし、これは後の話になるのだけれども、合意は成されても各国の協調が不十分だったためドル安進行を止められなかったのだ。
そして、国際的な約束があっただけでなく、一向にドル安に歯止めが掛からないことで発生するアメリカの株価大暴落を防ぐために、金利を長期に渡って低い状態で維持するという選択を取ってしまったことが、結果的には悪手となってしまった。
基本的に、金利を上げれば景気や物価の過熱を抑える効果があり、逆に金利を下げるとお金を借りやすくなるので消費や投資が活発になり、景気を刺激する効果があるとされている。
で、だ。
どうして日本がそうしていたのかと言うと、理由は二つ。
一つは、アメリカからの圧力。
これを受けて、日本はアメリカを支えるために金利を低く保ち、お金を回す役目を押し付けられてしまった。
二つ目は、世界恐慌を防ぐためである。
とにかくアメリカのドル安が止まらず株価大暴落なんて事態が起これば、その先に待っているのは世界恐慌だ。
そんな事が起これば、日本もタダでは済まない。
いや、それどころか、グローバル社会に足を踏み入れていた日本も多大なダメージを受けてしまう事が確約してしまう。
それゆえに、日本は金利を上げて歪なバブルを止めなければならなかったのだが、低金利を維持するしかなかったのだ。
……ちなみに、だ。
けっこう前にもサラっと語ったが、バブル景気というのはそれまでの景気の中ではひどく限定的であり、局所的なモノでしかなく。
全体としてみれば異常なまでに地価を押し上げ、物価を押し上げ、むしろ大半は苦しい生活を送っていた……つまり、だ。
意外に思うかもしれないが、全体としてみれば、バブル景気と呼ばれている期間は不況なのである。
それも、円高不況。
最初こそ多少なり刺激を受けて本当に景気が持ち直したようには見えたのだけど、すぐに円高が進み過ぎて輸出が減ってしまっていたのだ。
それなのに、土地やら株の売買で表面的にはお金が市場に出回っていたから、ビル建設やら買い物が盛り上がっていたわけである。
そりゃあ、そんな状態でバブルが弾けてしまえば、10年単位の不況が発生して当たり前で……話を戻そう。
結論を言うなれば、国際的な身代わりになっているような状態だ。
現時点では金が余っているように見えているだけで、実体は金庫の中身をぶちまけているような状況だから、とにかくその時が来てもいいように内部保留しておけよってな感じだったけど。
問題なのは、『ルーブル合意』というやつは、要は円高を直接的に是正するわけではないということ。
各国が足並みをそろえてちゃんと動いていたなら良かったのだけど、そうならなかったから、結果的に日本は超低金利を続けるしかなく……その結果、バブルを抑えられず。
そして、あまりにも長期間低金利が続いただけでなく、国際的な約束によって低金利が維持されることが確定したこともあって。
──『国際的な確約があるから方向転換は起こらない……タダ同然で国がお金を貸してくれる……乗るしかない、このビッグウェーブに!!』みたいな。
それに加えて、株価や地価がバシバシ値上げして、転売で利益を出して、なんなら自分の会社が株を出せば、飛ぶように売れてくれるわけで。
──あれ、これ、銀行から金を借りなくてもやっていけるんじゃね?
とか、企業が思い始めてしまえば、利益を得られない銀行はめちゃくちゃ困るから、とにかく融資を受けませんかとじゃんじゃか融資を回し始め。
……といった感じで。
様々な要素が絡まり合いながら改めて浸透していき、芽生えていた不安が解消されたことで、ますますバブルを加速させた、というわけだ。
「……つまり?」
「どうせ政府の事だから、諸外国の約束を破って金利上げたりしないだろうし、今のうちにどんどん投資しまくれ~……ってな感じです」
「う~ん、この……」
「歪な好景気とはいえ、かれこれ3年4年は続いていますから……もうすっかり感覚がマヒしてしまっていて、何処も彼処もブレーキが壊れた車に乗ってアクセルをベタ踏みしているような状況ですね」
「でも、それって全体じゃないじゃん! 一部だけじゃん!」
「ええ、一部だけですけど、動かす金額が桁違いですから。一部でも事故を起こしたら、そこから玉突き事故確定です」
「わ、わぁ……」
あまりといえば、あんまりな状況に千賀子は思わず言葉を無くしてしまった。
実際のところ、こうなってしまえば、千賀子がやっている内部保留作戦の効果も薄れてくる。
なにせ、金を持っている層からどんどん投資の話が出てくるわけで、それはもう笑いが止まらないみたいな生活を送っているなんてのが見えてきたら、どうなるか。
考えるまでもなく、内部保留している預金を投資に回そうとする者が出てくる、というわけだ。
こうなれば、千賀子が資金をばら撒くほど、『ちょっとぐらい……』な気持ちを育ててしまうわけで……なんとも、さじ加減が難しい状況になってしまった。
こればかりはもう、仕方がないのだろう。
人の意思は、人が思うほど強くはない。それを、千賀子は己自身のことでよく分かっている。
生まれもって意思が強いモノは、だいたい他のモノにはないナニカを持っている。己の持つ『力』が、まさにソレだ。
それが超常的なモノでなくとも、色々あるのだ。
平均を超える身長、人から信頼を置かれやすい顔立ち、病気とは無縁の健康な身体、勉強すればしっかり記憶できる頭、助けてくれる家族や友人。
それらを、物心付いた時から自覚なく得ている者は気付けない。それらがどれだけ得難く貴重なモノなのか、ということを。
──だからこそ、千賀子は責めようとは思わなかった。己もまた、ナニカが違っていたら、その立場になっていたのだから。
ちなみに、だ。
千賀子の前世では、『ルーブル合意』が成されたのは1987年のこと。つまり、1年早い。
この世界ではプラザ合意が3年早く起こったあたり、その余波なのだろうけど……見方を変えたら、黄色信号が灯ったわけだ。
……。
……。
…………しばし考えていた千賀子は、ロボ子に尋ねた。
「とりあえず、このままのやり方を続けても大丈夫なの?」
「リスクはありますが、やらない理由はありません。大企業などが甚大なダメージを受けたのは、楽観視して多額の融資を受けたり投資をしたりしたからですから」
「なんとか、ダメージを抑える方法はある?」
「金利を上げて加熱する異常な好景気を抑える必要がありますが、これだけ暴走してしまえば効果が出るまでに相当なタイムラグが生じるでしょう。約4年ほどバブルが続いたのであれば、同じく4年掛けて少しずつやるしかありません」
「お、おぉ……」
「しかし、時間が掛かれば掛かるほど出血は続きますので……こればかりは、実際にその時に合わせて調整するしかないかと」
対して、ロボ子の返答はとても簡潔であった。
要は、収入30万なのに、無利子だからと毎月20万借りて、50万円の暮らしを何年も送ってきたからだ。
これの何が厄介って、その収入が毎年ごとに倍に上がっていたから、いつでも返そうと思えば返せると勘違いしてしまったから。
だからもう、ここから先は……でしかなく。
「国鉄の件もそうだけど、次から次に問題が噴出してくるわね」
「歪な好景気ですから。そろそろ、抑えられなくなった負の側面が吹き出し始めたというわけです」
「……とりあえず、総理に金利とか上げる時は、焦らずゆっくりとだけ伝えておくよ」
「その方がよろしいかと」
せめて、やれる事はやろうと……千賀子は、やるせない気持ちになったのであった。
……。
……。
…………が、しかし。
そんな千賀子の願いも空しく……事は、千賀子が想定していたよりも早く、やってきてしまったのであった。
真・恐怖の大王「よいしょ、よいしょ……そろそろ出番だ、よいしょ、よいしょ」