ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
『──おや?』
始まりは、『神社』にてテレビを見ていた時、女神様のそんな呟きからだった。
基本的に女神様がナニカを発した時はだいたいヤバい事が起こるのだけど、今回のように『意外な事が起こったぞ』といった感じの呟きを聞くのは、今回が初めてであった。
「……どうかしたんですか?」
個人的に無視しておきたい気持ちはあったけど、千賀子としても、その声色の呟きを聞くのは初めてであった。
だから、興味半分、恐怖半分、そんな感じで、ちょっと警戒しつつ──だからこそ、なのだろう。
『──少し、意外でしたね。もうすぐ現れる『恐怖の大王』は手強いかもしれませんね』
「え?」
女神様より、はっきり手強いと明言されたことに、千賀子は……ゾクッと背筋に嫌な予感が走った。
いったいどうして……それは、千賀子自身が女神様の言う『恐怖の大王』の実体化を予感していなかったからだ。
つまり、次に現れる『恐怖の大王』は、千賀子の予知能力の外。あるいは、千賀子の予知能力ですらも観測出来ない存在だということ。
それはつまり、これまで千賀子が相手にしてきた『恐怖の大王』とは根本から違う……あるいは、桁外れに強いかもしれない『恐怖の大王』が現れるかもしれない、ということだ。
「ロボ子、感知出来ている?」
「……いえ、マスター。こちらの各種センサーには、エネルギー値の異常は確認されていません。むしろ、ここしばらく続いていたわずかな揺れが治まりつつあるくらいです」
「……私も同意見だわ。ずっと感覚を広げているけど、それらしい違和感が何一つ感じ取れない」
手早く私服から巫女服へと着替え終えた千賀子は、深呼吸して意識を集中する。
むしろ、ロボ子の言う通り……以前に比べて日本中に広がっていた負のエネルギーが落ち着き始め、むしろ濃度を減らしているような感覚すらある。
正直、女神様から言われるまで、なんとかこのまま落ち着いたままなら……と、安心すらしていた。
けれども、女神様から『もうすぐ現れる』と明言された以上は、もうすぐ現れるのは確定している。
女神様は愛し子である千賀子のカワイイ姿を見るためにあの手この手でナニカをしてくる時はあるけど、こういう無駄な脅かしはしてこない。
だからこそ、分かる。
千賀子が認識できない『恐怖の大王』は確実に近いうちに現れ、そして、それはもう避けられないということが。
「……場所はもう祈るしかないとはいえ、タイミングは……いつになるんだ?」
しかし、そうなると気になるのは、出現するタイミングである。
現状、考えられる中でもっとも可能性が高いのは、バブル経済が弾けた時……ではなく、それより少し後。
弾けてしばらくはまだ余韻が残っているから楽観視していられるけど、それから間もなくして、人々が実感し始めたあたりで……おそらくは出現するモノだと判断していた。
総理を通じてだけでなく、ロボ子に世界情勢の動きをリアルタイムで監視してもらい、弾けてからは何時でも動けるようにと準備していた。
だから、現れてもちょっと出ちゃった程度のモノで、本体みたいな『恐怖の大王』が出てくるのは、もう少し後の事になるかと……っと、思ったその時であった。
「──え?」
唐突に、ロボ子が目のレンズを収縮させた。
チラリと千賀子が視線を向けたら、「少々お待ちを──」ロボ子はその場で静止し──ついで、ギョッと目を見開いた。
「どうした事でしょう、どうして既に──おかしい、先ほどまでそこに居なかったのに、重役たちが集まっています」
「どういう意味?」
「直前まで誰も居なかった場所に、何故か政府や銀行の重役たちが集まって──いえ、私は既に認識していた?」
「……どういうこと?」
「ありえない、どうやって私のスパイロボットの監視を掻い潜ってこれだけの人が──消えた?」
よほど、スパイロボットから送られてくる映像を理解出来ないのだろう。
普段の冷静沈着な姿からは想像が出来ないぐらいに動揺を露わにしているロボ子を見て……千賀子は、一つため息を吐くと。
パン、と。
手を叩いた。
それは音だけでなく、巫女的パワーが込められたショック的なモノで……相手がロボ子であっても、気付けの役割を果たした。
「落ち着きなさい、ロボ子。何が起こっているのか、何が見えているのか、一つずつ貴女が見たモノを正確に教えて」
マスターである千賀子の指示を受けて、ようやく我に返ったのか……ロボ子はキュインと目のレンズをもう一度収縮させると……説明を始めた。
まず、ロボ子が異変を認識したのは、国会議事堂のとある一室に集められた、銀行や政府の重役たちの姿だった。
当然ながら、そこは24時間体制で常にロボ子が監視している場所である。
様々なセンサーを秘密裏に設置しているので、誰かが中に入った時点でロボ子は認識することが出来た。
だが、ロボ子は気付けなかった。
センサーが無効化されているわけではない、むしろ、センサーは正常に作動していた。
数時間前に、ちゃんと重役たちが入室したという情報をロボ子へ送っていた。そして、ロボ子自身、それをちゃんと認識して確認していた。
……確認していたというログが残っているのに、ちゃんと重大な情報であると数時間前に認識していたのに……どういうわけか、ロボ子は今しがたまで、それを千賀子へ報告しなかったのである。
これは、明確な異常事態であった。ゆえに、ロボ子はすぐさま己に異常が起こっているのかをチェックした。
……結果は、全くの白。何一つ以上は発見されなかった。
己をハッキング出来る存在によって行われた可能性を考えたが、その痕跡は全く見られない。
そして、そうこうしているうちに、何故か国会議事堂の一室に集まっていた人たちが一斉に消えた。
突然、跡形もなく、初めから存在していなかったかのように、椅子の乱れも無く、埃などの痕跡すらも確認出来なかったのだ。
一人だけ監視漏れが起こったならばともかく、最低でも十数人規模の動きをまったく監視出来ていないというのは……そりゃあ、ロボ子も動揺して当たり前だろう。
「……言われて、私もちょっと総理の気配を集中して探ってみたけど……確かに、不自然だわ」
そして、そこで初めて千賀子も違和感に気付いた。
どうにも、気配の感じ取り方が以前と違う。
以前は、なんとなく今は〇〇に居るな……といった感じで位置を感じ取れたけど、今は霧が掛かってしまったかのように気配がブレている。
かといって、気配そのものが曖昧になっているわけではない。
どういうわけか、複数の場所にて同時に居る、といった感覚がして。
これは、単純にロボ子に異常が起こってミスをしたわけではないと、すぐに千賀子は──っと、その時であった。
ぽろろん、と。
テレビより、速報を知らせる音楽が流れた。思わず、千賀子とロボ子はそちらに視線を向け──
『──日本銀行、大規模な金融引き締め実地を発表──』
──直後、ロボ子は信じられないといった様子で珍しく声を荒げた。
「ありえない、既に手続きが全て終わっています。何度も確認しました、間違いありません」
「え?」
「どういうわけか、根回しが既に終わっています。総裁の顔ぶれも変わって──マズいです、マスター、始まりました」
「なにが?」
「バブル崩壊です。ついに始まりました。いえ、既に始まった後になっています」
「は?」
一瞬、千賀子は何を言われたのか分からなかった。
あまりにもロボ子の言葉が足りていなかったからなのだが……もう一度落ち着けと手を叩いてから、千賀子は詳しく話を聞いた。
その話を簡潔にまとめると、だ。
どうやら、既に金利は一気に6%にまで上がった状態のようだ。本来は少しずつ景気の状況に合わせて金利を上げるべきなのだが……今はそこはいい。
とにかく、何故かいきなり6%にまで上げられた後になっていて、そのうえで、なんと政府(大蔵省:後の財務省)は総量規制を掛けたというのだ。
この、『総量規制』とは何か。
要は、『銀行は不動産向けの貸し出しに対して厳しく制限しなさい』という、超強力なルールであった。
不動産業界が頼めばいくらでもお金を貸してくれる時代が続いていたのだが、銀行は突然、そのルールを変えたのである。
これは過熱する土地売買やバブルを止めるための劇薬として行われたモノだが……現実的には劇薬なんてものではなく、心臓を完全に止めるほどの毒薬に等しい処置であった。
何故ならば、それまでいくらでも銀行からお金を借りて土地の売買を行っていた人たちが、一夜にして1円も借りられなくなったのである。
これによって、何が起こったのか。
まず、土地の買い手が一気に0へと下がってしまった。
なにせ、いきなり銀行の融資が軒並み0になったのである。市場から、土地を買おうと動いていた者が消えたのだ。
次に、買い手が付かないゆえに、地価が一気に大暴落した。
当然、買い手がいないから、土地を売りたくても売れない状態に陥った。
多大な融資を受けて土地の売買を行っていた者は、とにかく赤字になるのだけは避けようと、次から次に価格を下げて売り始め……これが、地価の大暴落へと繋がった。
次に、この大暴落によって資金繰りが一気に悪化した業者の増大。
規制によって市場が失われた結果、新しく融資を得られないばかりか、既存の借金の返済も迫られた結果、多数の不動産業者や建設会社が倒産し、それが連鎖的に続いてしまった。
そして、当の銀行も……『不良債権』と呼ばれる回収できない借金の山が圧し掛かってしまった。
なにせ、借金のカタ(担保のこと)にしていた土地の地価が数分の1、あるいはそれ以下まで下がってしまったのだ。
そのうえ、貸し付けた業者が倒産してしまえば、無い袖は振れないというやつで……これが、長らく続く不況を生み出す原因なのであった。
これの何が恐ろしいって、政府は当初『毒を持って毒を制する』といった程度の認識だったということ。
けれども実際には『心臓を止める』ほどの劇薬で、あまりの破壊力に翌年になってこの規制を解除したのだけど、もう遅すぎた。
既に不動産市場の崩壊は止まらなかった。
そのうえ、規制の対象外になっていた一部の銀行などが生き残るために共同して作った『抜け穴』にて起死回生を狙ったのだけど、失敗。
これによっていくつもの金融機関が連鎖倒産してしまうという危機が発生し、これを防ぐために公的資金が流入され……さすがに話が逸れて来たので、戻そう。
──とにかく、だ。
この規制と抜け穴によって、ただでさえ深手過ぎてどこから手を付けたら良いのか分からないぐらいの傷がさらに悪化する事態に……というのが、バブル崩壊後の大不況を生み出す原因であった。
「……状況的に、今はどうなの?」
「既に規制が行われた後です。どういうわけか、一ヵ月前の段階で規制が始まった──という認識になっています」
「……私の記憶が確かなら、そんなの寝耳に水なのだけど?」
「私もそうです。しかし、ログを確認したら、それが行われたというデータが確認出来ました……それなのに、私もマスターも、いえ、人々は誰一人としてそれを認識出来ていなかった」
「ちょっと待って、先月はまだバブルが続いていたでしょ?」
「はい、続いていました。続いているのに、バブルが弾けたという観測データが出ていて、株価が上がっているのに下がってもいたという意味不明な状況になっています……なのに、誰もそれを認識出来ていなかった」
「……ああ、なるほど」
そこまで聞いたあたりで……千賀子は、今回の『恐怖の大王』……いや、千賀子が恐れ続けていた、かつて女神様より示唆されていた一番ヤバい状態の『恐怖の大王』……その能力に気付いた。
それは──因果改変能力。
すなわち、女神様の領域。
起こっているのに、起こっていない。起こっていないのに、起こっている。両立しないはずのソレが、両立した状態になる。
それは……これまでのように、力押しでどうにかならない可能性を意味する……最凶最悪の能力であった。
「──っ」
そして、その事に思い至った直後──千賀子は、己が見られていることに気付き──視線の先へと、ワープした。
……。
……。
…………そこは、東京タワーの頂点。高さ333mよりさらに上空……そこには、空中にて佇む一人の女が居た。
「──来た、来た、来た」
「あんた、その姿は……」
その女は、千賀子の出現に合わせて振り返る。その姿を見て、千賀子は言葉を無くした。
何故ならば、女の顔は……いや、何もかもが、己の生き写しと言っても過言ではないぐらいに、何もかもがそっくりだったからだ。
まるで、鏡の向こうより引っ張り出したかのように……違いがあるとすれば、その目に眼球はなく、黒い眼孔がぽかりと空いていた。
「知った、学んだ、考えた」
「……悪趣味ね」
「ふふふ、貴女のこと、ずっと見ていた」
「あら、話せるの?」
そう尋ねる千賀子に対して、そいつは……千賀子の姿をした、『恐怖の大王』は、ぽつぽつと語り出す。
「死は救いである。死は幸福である。死は安寧である。死を恐れる理由は何も無い」
「話せないの?」
「死は次の始まりである。死は幸福の始まりである。死は安らぎの始まりである。死は、自由への第一歩である」
「……あんた」
「どんな者にも、死の先にあるのは自由である。だが、私は強制しない。ただ、死の先にあるモノを見せるだけ」
「そう、もう黙りなさい」
「ゆえに、私は救いを与えよう、幸福を与えよう、安らぎを与えよう──すべてが終われば、私もそこへ行こう」
「──ふん!!!」
これまでで一番殺意を込めた拳は──そいつに届く事は無かった。
その前に、消えたのだ。感覚的に分かった、それは千賀子が愛用しているワープ能力。
ただのワープであるならば、千賀子は終えた……だが、そいつのワープの先を、千賀子は追えなかった。
──苦しみに喘ぐ必要はない。死は、この世界に生れ落ちたその時より貴方達の隣に立つ、隣人である。
ただ、その言葉だけがどこかから響き……後に残されたのは、苦渋に満ちた顔で虚空を睨む……千賀子だけであった。
激動昭和・熱狂日本列島戦国バブル時代編、終了。
次回、最終章……激動昭和・日本列島大不況終末時代編、です