ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
バブルが続いているはずなのに、バブルが破裂している。
一ヵ月前に破裂しているバブルが、何故か今も続いている。
片や、バブリーなんて言葉が生まれるほどの好景気の中で、ゴーゴーガールなんて言葉が生まれるほどの熱狂が続いていて、1万円札を掲げてタクシーを呼び止める話があれば。
片や、バブルが弾けたことでナイアガラがごとき勢いで業績を悪化させてしまい、あっという間に破産してしまって社長が夜逃げしたとか首をくくったなんて話が、同時に流れて来る。
常識的に考えて、あまりにも異常な光景であった。
というのも、バブル崩壊の影響はそんな局所的なモノではない。
主要のみならず地方銀行も軒並み大ダメージを食らい、建設会社がバタバタと倒産していったのだ。
影響を受けなかった業界の方が少数派で……しかし、いきなり翌日から連鎖して倒産していったという話ではない。
例えるなら、火に掛けたヤカンを想像したらいい。
火を止めたところで、いきなり冷たくなるわけではない。そこに氷を入れたって、冷えるまで時間を必要とする。
それは、景気とて同じ事。
規制されて地価が下がったとしても、いきなり100万円の土地が10円になるわけでもない。
とにかく損が出る前にと急いで売却に動く者から、規制は一時的と思って静観していた者、その動きにはバラツキがあった。
影響が完全に表面化して、どちらの業界にも属していない人々の生活にまで影響が出始めたのは、それから数年後の事。
それゆえに、バブル崩壊が起こってもしばらくはバブルの余熱が続いていて、持ちこたえていた。
……だからこそ、いきなり破産して夜逃げに走る者や悲観して首をくくる者が出ることが不自然であった。
いくらなんでも、あまりにも判断が早過ぎる。
何故なら、まだ実際に統計として出たわけではなく、あくまでも計算上、紙面の上での話である。
一部ではまだバブル景気がどうとか騒いでいる者が居る中で、いきなり『死』に近しい、あるいは『死』の選択を選ぶ者が出てくるのは……やはり、アイツだろう。
「ロボ子、報告を」
「はい、まずはこちらをご覧ください」
場所は、『神社』。その空気は、ここ数年すっかり見られなくなっていた、張り詰めた空気で満ちていた。
最後に開いたのは、何時だったから……室内には、千賀子と分身たち全員が勢ぞろいしていて、ロボ子が進行役を務めていた。
部屋の照明が落とされ、薄暗くなった部屋にプロジェクターが……スクリーンに映し出されたそこには、様々なグラフや文章が表示されていた。
「現状、マスターのご実家、明美様の家業は安定しております。マスター所有の馬の保養所としてある種の観光名所みたいになっているおかげで、今すぐ経営が苦しくなるといった状況にはありません」
「並びに、道子様のご実家の家業も同様です。ただ、こちらは少しばかり影響が出ているが、現時点ではマスターの助言によって最小限にダメージを抑えられているようです」
「続けて、『春木競馬場』と、その関連施設」
「これに関しては女神様だけでなく、マスター自身の力がいくらか及んでいるため、影響を受けても有り余る資金によってほとんどダメージになっておりません」
「一部職員より、『親戚の会社が倒産した、景気が一気に悪くなっているが、ここは大丈夫だろうか?』といった声が上がっております」
「対症療法として、給料は上げもせず下げもしないとの指示でしたので、その通りに致しました……よろしかったのですか?」
「それでいいのよ」
ロボ子の問いに、千賀子は頷いた。
「不自然なタイミングで給料を上げたりボーナスを出したりすると、逆に疑われるわ。こういうのは変化を出してはダメ、先月と同じく、先々月と同じく、きっちり給料が出るっていう現実は、不安を和らげてくれるから」
その答えに、ロボ子は頷き……続けて、説明を再開する。
「続いて、双の葉牧場、相撲部屋、各大学への寄付に関してですが……これも指示のとおり、寄付は前年と同じく同額を行いました」
「双の葉牧場は、大丈夫?」
「現時点では多少なり影響は出ているようですが、ロウシの墓の管理費という名目で行われている寄付金が、かなり生計を助けているようです」
「それは良かった……相撲の『穂高部屋』では何か話していたかしら?」
「角界はむしろ相撲ブームが起こっているとかで、満員御礼が続いていて景気が良いそうです。『穂高部屋』も気合が入っているとか」
「なるほど、大学は?」
「高度化する知識と、それに比例して高額化する設備への投資によって、学生たちの負担が増大傾向にあります」
「予算が減らされたの?」
「予算は変化していません。ただ、予算だけでは足りない分を授業料などの学費から徴収する方向に動いているかと」
「……それは良くないわ。時期が悪かった、そんな一言で我慢させ苦労させることを正当化だなんて、学校側こそやってはいけない」
「と、なれば?」
「いくつか条件を付けたうえで、学費を上げたところに寄付金を増やしましょう。もちろん、生徒たちに還元しない場合は覚悟せよと通達したうえで、ね」
「了解致しました──続いて、所有している牧場関連施設とレース関係ですが……こちらは、少々マズイ可能性が浮上しています」
「と、言いますと?」
「都心部より広がったバブル景気の波がようやく北海道へと届いたのは去年の始めくらいでして……タイムラグが生じるところが、この因果改変減少により、早くも不況の影響が出始めています」
「ふむ、北海道の牧場の方にはどれぐらい影響が出ているの?」
「預託《よたく》してもらえる馬を回してもらえないか、あるいは、厩務員として雇ってくれないか、そういった連絡がチラホラ来ているようです」
「……さすがに、そのためだけに馬を買うのはしないわ。タマモクロスを最後にするって宣言しましたし」
「では、どういたしましょうか?」
「よし、今回は特別レースを開きましょう。通常の競走馬レースに加えて、ばんえい競馬のレースもよ」
「なるほど、合法的に資金を回すわけですね?」
「レース場も借りるわ。安全にレースを行うためにという名目で、整備工事を臨時に行いましょう。規模を大きくすれば、その分だけ影響も大きくなるでしょう」
「了解いたしました──それは、こちらで対応しておきますか? 既に連絡はしておきましたが……」
「いえ、私が顔を見せて、少しは安心させておきましょう」
そこで、千賀子は目を瞑り……それから目を開けて、静かにロボ子を見つめた。
「アイツの所在は?」
「残念ですが、現時点では……ただ、都心部のごく一部で、『いずれ終末が訪れ、そこで世界は終わるだろう』といった感じの終末思想が囁かれているとか」
「あくまで、噂の段階か……調べるにしても、どこで噂が広がっているのかは分からないのでしょう?」
「お察しのとおり、不明です。あくまでも、そんな話を耳にした、その程度の情報です」
「それなら、注意して静観に留めなさい。私は今から北海道に飛んで、話を通しに行くから……みんなも聞いたわね。各自、とにかく動揺を抑えることに務めて」
分身たちは、深々と頷いた。それを見やった千賀子は……さっそく、ロボ子を連れて北海道へと向かった。
……。
……。
…………千賀子の前世において、この時期のホッカイドウ競馬は、所によって暗雲が分かれていた状況にあった。
いわゆる、一般的に有名なサラブレッド(競走馬)の競馬は赤字が続いていて、『ばん馬』と呼ばれる大型馬レースのばんえい競馬は黒字が続いていた。
これにより、サラブレッド競馬の土日開催が中止されたりして、この競馬によって経営を維持していた多数の牧場が経営的な苦難に見舞われていた。
そりゃあ、そうだ。結局のところ、レースが開催されて初めて競馬関連業界全てにお金の流動性が生まれるのだ。
車が無かった戦前大正明治とは違い、1986年(昭和61年)にもなれば、馬の需要はほぼほぼ競馬以外には無い。
その競馬が中止となれば、そりゃあ経営難に陥る牧場が現れてもなんら不思議ではなかった。
「──ああ、すみません! お待たせしました!」
「いいえ、こちらこそ、急な来訪でごめんなさい」
場所は、市役所。どうやら今回も市長当選していたらしく、その顔は見覚えがあった。
さて、やる事は……基本的にロボ子に丸投げだ。
細かい契約書だとかそこらへんの手続きなんかは千賀子にはサッパリなので、ロボ子に任せた方がはるかにスムーズに事が進む。
さすがに明日明後日で開催できるものじゃないし、そこらへんのタイムラグはあるが……もちろん、そこらへんは既に考えている。
──レース場の整備費を千賀子が出すことで、レース開催日まで雇用を生み出すのだ。
レースを開催するだけでも莫大な資金が流れ、それだけでも広範囲に渡って染み込んでくれるが……ただ、それまでの繋ぎが無い。
平時ならともかく、今はバブル崩壊の波が押し寄せている。その繋ぎの間でも、仕事があるだけでかなり精神的な負担が減るだろう。
とはいえ、基本的にコースの整地はトラクターやウニモグと呼ばれる車両を使い、専用の機械を引っ張ることで整地する。
普通にやるなら、大した雇用は生み出せない。
「……そういえば市長さん。ここに来るまでに部下にレース場を視察させたのですが、どうにも雑草が派手に生い茂っているようですね」
「え?」
「せっかく整地するために出した車両が壊れでもしたら大変でしょう。私としては、2週間ほど人の手による整地を行った後で、通常通り機械による整地を行い、その後で最終確認として人の手で再び整地を行う。ああ、それと、施設の整備や清掃も必要でしょう……というのがよろしいかと思うのですが?」
だから、あえて千賀子は遠回しに……わざと仕事の規模を拡大させる。
「資金は出せるのですが、札束を並べたところで、結局は動いてくれる人が居なければどうにもなりません。募集を掛けましたら、人が集まってくれると思いますか?」
「……っ!! あ、集まります! 募集を掛けた即日から電話が、確実に来るはずです!」
「まあ、それは良かった。では、そのように手配しましょう……そうなれば、人によっては宿舎などが無いと通えない人もいるはず……大して質は上げられませんが、いくつかホテルを手配しましょう」
「──ありがとうございます! 本当に、ありがとうございます!!」
何度も頭を下げる市長に、(お礼は女神様に言って……とは、言えないか)千賀子は内心にて苦笑をこぼしつつ、笑みを持ってそれを受け入れたのであった。