ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話   作:葛城

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第277話: まあ、あんたほどの人がやるなら……

 

 

 

 ──因果改変能力の恐ろしさは、現時点では女神様以外に認識できない点にあるだろう。

 

 

 起こった事が起こっていない事になり、起こっていない事が起こった事になる。そして、その事に気付くことは不可能である。

 

 現時点で、どれほど遡って因果できるのかは分からない。そして、どれほど因果を改変できるのかも分からない。

 

 過去に選んだ選択肢を少しだけ変えて結果的に失敗へと導くのと、選択肢そのものを無かった事にするのとでは、かなり意味合いが異なる。

 

 もしも前者であるならば、博打に打って出るような選択肢を取っていない者には効果が薄く、後者であるならば無差別に……おそらく、今の恐怖の大王は、前者だろうと千賀子は思った。

 

 なんでかって、これは千賀子の直感なのだけど、アイツの影響範囲はまだ狭いと思ったからだ。

 

 先日の自殺の件だが、アレは子どもとその親が、リスクのある株や土地売買に手を伸ばしてしまったところを、たまたま目に留まってしまった……のだと思う。

 

 以前ならともかく、既に因果改変にてバブル崩壊は発生してしまった。

 

 少々の因果改変にて、株や土地売買のタイミングをずらし、『まだ売らなかった』という選択を取った状態にすれば……後は、勝手に下がってゆく株価と地価で自滅するだけである。

 

 言い換えれば、その二つに手を出していない者に対しては効果が薄いので、ひとまず……しかし、油断は出来ない。

 

 

『もしも、あの時に違う選択肢を取っていたら……』

 

 

 というのは、どんな人間にもある。

 

 車を運転している時、自覚していないけど危険な行為が多発していて、でも結果的に事故を起こしていなかった者や。

 

 深酒をして自宅に戻って寝た者が、たまたま足の置き場を間違えたという選択を取られてしまい、そのまま階段を転げ落ちて打ちどころが悪かった……という事も可能になる。

 

 全員が、アイツの因果改変攻撃によって影響を受けるわけではない。

 

 だが、この世には『ヒヤリハット』という言葉があるように、人間はただ生きているだけでも、様々な些細なリスクをクリアしたうえで無事で居られるのが現実で。

 

 それだけでなく、弱り目に祟り目という言葉があるように、恐怖の大王であるアイツは、そこを利用して突いてくるわけだ。

 

 それゆえに、いくら千賀子でも日本全体に手を広げて影響を防げなんてのは不可能で……後手に回るしかないのが現状であった。

 

 

 ……とはいえ、だ。

 

 

 対策がまったくできないかと言われたら、そうではない。

 

 結局のところ、『負の念』というのは、放出されるプラスとマイナスのバランスであり、ある程度は互いを中和することが出来る。

 

 人間、ちょっとぐらい嫌な事があっても、美味しいご飯を食べたり、好きな音楽を聴いたり、親しい間柄の人と共に過ごせば、それだけでも嫌な事が気にならなくなるものだ。

 

 具体的には、『春木競馬場』に務めている者たちがソレだ。

 

 彼ら彼女らとて嫌な気持ちにはなるだろう。

 

 でも、務めている場所では不景気の影響は感じられず。

 

 仕事場の空気も悪くなく、毎月きっちり給料が振り込まれ、ちゃんと社会の一員になっているという意識があれば……アイツも、そう簡単には突いてくる事ができないわけで。

 

 ──とにかく、景気を良くして人々の気持ちを上向かせてしまえば、それだけでも対抗策になるのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………で、だ。

 

 

 他人事とはいえ、目に見える形で『恐怖の大王』の所業を認識した千賀子は、規模を大きくすることにした。

 

 すなわち、当初計画していた競馬レースの開催数を増やしたのだ。

 

『札幌競馬場』、『旭川競馬場』、『岩見沢競馬場』、『函館競馬場』の四つを借りて、そちらも整備&整地してから、特別記念レースを開催することに決めたのである。

 

 これは、当初の予定には無かった。

 

 しかし、自殺がもたらす影響、それが波紋のように広がるのをヨシとしなかった千賀子は、ここに来て自発的に予定を変更して規模を大きくさせた。

 

 具体的には、もともと予定で進めていた『帯広(北海道東部)、一般競争とばんえい、ともにある』の他に。

 

 

『札幌(北海道西南部)、芝とダート、ともにある。ばんえいはは無い』。

 

『旭川(北海道中央より上)、右回りダート1300m、ばんえい200m』。

 

『岩見沢(北海道中西部)、右回りダート周回1200m、ばんえい直線200m』

 

『函館(海沿いに近い東南)、こちらも、色々とコースあり』

 

 

 合わせて五つ全てに、レース開催の申し込みをしたわけである。

 

 しかも、時期は今すぐではない。というか、今からでは間に合わない。

 

 北海道で行われるレースは本州とは逆で、基本的に夏の季節にて開催されるからだ。

 

 つまり、1年間かけてじっくり整備を行うという意味で、時期によって規模こそ違うものの、来年の半ばぐらいまでは仕事が生まれる……というわけだ。

 

 これにより、開催地より遠方ゆえ恩恵が薄かった地域にも金を流し、経済の流動を活性化させることにした。

 

 景気というのは、言うなれば走り出した車みたいなものだ。

 

 止まった車を動かす際には多大なエネルギーを必要とするが、走り出してしまえば、止めるのも動かすのも、はるかに少量のエネルギーで済む。

 

 というか、多大なエネルギーなんてレベルじゃない。景気というのは止まれば、本当に動かすのが大変なのである。

 

 だからこそ、完全に止められてしまえば下手しなくとも連鎖的にアイツの扇動や改変によって死者が増大する……その前に食い止めたい……それが、千賀子の思惑であった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そうして、場面は少しばかり移り、『帯広競馬場』にて。

 

 

 千賀子が予算を出してしっかり整備に整地にとやってもらったので、見違えるようにきれいになっていた。

 

 座席など、亀裂が入っていたり、汚れが酷かったりなどが確認されたやつは随時交換していったから、少々色合いがカラフルになっているけど。

 

 本当は全部変えた方が良いのだけど、こういう場では色合いはともかく、椅子の形状やサイズは合わせた方がいい。

 

 というか、直接取り付けるタイプだと合わせないとダメなので、適当に倉庫にあるやつを……なんてのは出来ない。

 

 なので、さすがに座席全部は間に合わないということで、破損や劣化が激しいモノに限定した。

 

 他には、施設内の蛍光灯などを取り替えたり、ボロボロで錆びついてしまっているロッカーを替えたり……細々と、色々な部分に手を回して、当日。

 

 

 

『リニューアル・千賀子ばんえい記念:ダート200m』

 

 本賞金:1着2500万円/2着1500万円/3着1000万円/4着400万円/5着150万円/その他、出訴奨励金や出走手当・計1500万円。

 

 

 

 それは、ばんえい競馬最高峰レース『ばんえい記念(BG1)』に引けを取らない、超高額レースである。

 

 ちなみに、『ばんえい記念』と呼ばれるようになったそのレース、実は1998年にて改称された名称だったりする。

 

 歴史的には1968年に『農林大臣賞典』、1978年に『農林水産大臣賞典』、そして1998年に、である。

 

 

 で、話を戻そう。

 

 

 このレースの何がすごいって、上位5着に入らなくとも、一般レースの掲示板入りを果たしたのと同じぐらいの賞金が出るのだ。

 

 しかも、なんとこのレース……なんと改修中の全ての競馬場で開催する予定というのだから、もはや気が狂っていると思われても不思議ではない話である。

 

 

 だが、誰もそれを冗談とは思っていなかった。

 

 なにせ、あの秋山千賀子がやると公言したのだ。

 

 

 あの人がやると決めたなら絶対にやるのだと、誰もが理解し……ゴクリと、唾を飲み込んでいた。

 

 しかも、彼女はわざわざ音楽隊に話を通して、音楽隊の身体や楽器が冷えないよう温室ルームを用意し、楽器も直前まで温めた状態にしただけでなく。

 

 演奏者や客たちや関係者一同が寒がらないようにと、わざわざ飲み放題のコーンスープや甘酒を発注して、店を設置したのである。

 

 時期が時期なので寒いだろうという、ただそれだけで、店まで設置する。

 

 そのうえ、自ら『ばんえい君』なる馬の着ぐるみを着て、『がんばれよ!』と書かれたどデカい旗を振り回して登場したのだ。

 

 この女、そこらの男よりはるかにバイタリティがある。

 

 その気合の入れ方はとんでもなく、千賀子の噂を知っている人からも、『す、すげぇ……』と圧倒されたぐらいであった。

 

 そんなわけだから、レース中の熱気はすさまじいモノがあった。

 

 なにせ、1着で2500万円プラスαである。

 

 この頃の平均所得がおおよそ430万円だと言われているから、そりゃあもう、各自の気合の入り方も桁違いであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………なお、千賀子記念レースは、北海道だけでなく、『春木競馬場』でも開催されていたりする。

 

 

 

『第〇〇回午前はダートだよ千賀子記念:ダート・2000m(右・良)』

 

 本賞金:1着8000万円/2着4000万円/3着1500万円/4着500万円/5着250万円/その他、出訴奨励金や出走手当・計3000万円。

 

 

 

 まず、中距離ダートレースが午前中に開催され。

 

 

 

『第〇〇回午後は芝だよ千賀子記念:芝・2000m(左・良)』

 

 本賞金:1着1億2000万円/2着6000万円/3着2500万円/4着1000万円/5着400万円/その他、出訴奨励金や出走手当・計4000万円。

 

 

 

 とかいう、とんでもねえレースである。

 

 同じ日の午前と午後に記念レースを開催する怪物がいるらしいが、いったいどこの石油王なのだろうか。

 

 ただ、その点に関して人々は驚かなかった。

 

 これが見知らぬ誰かだったら『す、すげえ、二つも開催したのか……』みたいな感じだけど、それが秋山千賀子だったらどうなるか。

 

 

『──やりやがった、あの人、ついに禁断の同日開催をやりやがった!!』

 

 

 だいたい、こんな感じであった。

 

 これの何が恐ろしいって、誰もが『あの人、ついに気が狂ったのか、経営は大丈夫なのか?』みたいな心配をした者が皆無で。

 

 大半は『え、あ、そうか、まだ同日に2度開催はしたことないのか……』みたいな反応で。

 

 親しい間柄の人からは『あなた、少しは落ち着きなさいよ……』といった感じで。

 

 残りの人たちからは、『違う、そうじゃない』とツッコミを入れられる……そんな状態であった。

 

 ちなみに、この時も着ぐるみでの登場で。

 

 実況席から、世界広しといえど自ら着ぐるみにて登場するオーナーがいましたでしょうか……みたいな事を言われたぐらい。

 

 それぐらい、良くも悪くも信頼がある千賀子はその日、中継を見ていたお茶の間に多くの笑いを届けたのであった。

 

 

 

 

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