ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
人を傷つけたり苦しめるのは良くないと道徳の世界では語られるが、実は古来より傷つけたり苦しめる事がいくらか合法的に許されている場合が一つある。
それは、『経済』と『競争』が絡んだ場合である。
意外と気付いていない者が多いかもしれないが、この二つの皮を被れば、相手を追い込んでも許されるし、なんなら路頭に迷わせても合法なのである。
もちろん、どこの国にも、何時の時代にも、経済の分野は様々なルールが設けられ、時の権力者たちの手によって制限が課せられてきた。
いったい何故かって、経済と競争は合法的に人を救いもすれば、殺しもするからだ。
当然ながら、完全に管理された経済は必ず腐敗する。
人が人である限り、光り輝く志の下で作られたとしても、時を経れば必ず悪意が混じり、そこから腐敗して、最後は原形すら分からなくなる。
かといって、完全に自由な経済というのは、人が思うよりはるかに格差を生み、それが固定化される。
格差が固定化された社会もまた、確実に疲弊し、腐敗する。
元がどれほどの大国であろうとも、関係ない。人が人である限り、膨れ上がった欲望と驕りが無自覚のままに根元から国を腐らせてしまう。
それを人の歴史は幾度となく証明し続けてきた。そこに、人種の違いは一切関係ない。
そして、競争もまた人を殺す。
それは単純な弱肉強食という話ではない。完全に人の社会が弱肉強食だったならば、人は今のような発展を遂げていない。
人が今の地位に至るまで発展を遂げたのは、大なり小なり弱者と呼ばれる者たちにも手を貸し、力を合わせてきたからだ。
もちろん、そこにも限度があるだろう。だが、その限度の幅は、他の生物に比べて広い。
今に至るまで人が絶滅に至らなかったのは、他の生物よりも優しかったからで、同時に、時には自らを犠牲にしてでも他者を助ける愚かさがあったからである。
それを、千賀子は……女神様というフィルターで守られながらも、知っていたし、理解していたし、肌身に染みていた。
だからこそ千賀子は。
『春木競馬場』という、冷静に考えたらめちゃくちゃヤバい時限爆弾であることを分かっていても、ソレを止めようとはしなかった。
何でもかんでも手を広げて助けようとは思わない。そこまでする義理が千賀子にはなかったから。
あと、本当に何でもかんでも手を広げてしまうと、人々が際限なく集ってくるのを分かっていたから、あえて分かりやすい基準を設けてそれを徹底した。
具体的には、『競馬』と『土地』だ。
ソレ以外の部分は篤志家としての一面が大きい。
あくまでもそういった面を強調しているし、『恵まれない〇〇に……』といった感じで近付いてきた者に対してはけして甘い顔を見せないことも周知徹底させた。
そのおかげで、完全に無くなりはしていないけど、それでも一番酷かった時期に比べたらだいぶマシな状況になっていた。
でも、せめて、自分が生きている間ぐらい、自分が手を出した範囲ぐらいはなんとかしてやろうという気概が千賀子にはあった。
そして、それを成せるだけの力が、女神様を通して千賀子にはあった。
他の者たちは有限ゆえに非情な選別を余儀なくされても、事実上無限である千賀子は……千賀子だけは、まるで湯水のように金をじゃぶじゃぶ市場に流すことが出来ていた。
それで結果的には自分の大切な人たちや知り合いが助かるのだから、そこらへんの基準は少し緩かった。
だが、しかし。
「いや、さすがに船は……」
『そこを、なんとか……!!』
まさか、新たに総理に就任した仲租音総理より、造船会社へ出資してみないかというお誘い電話が来るとは、千賀子も想像していなかった。
田中総理の時は、一度としてそういったお願いの電話はなかったのだが……まあ、それは置いといて。
仲租音総理の話を簡潔にまとめると、だ。
どうやら、いっこうに下がる気配が無い円高……はて、バブル景気が崩壊したはずだが……ここらへんはもう千賀子自身にもしっちゃかめっちゃかだから、もう考えないようにしている。
とにかく、円高によって、日本の造船会社が苦境に立たされているのだということで、どうか手を貸してくれないか……というわけだ。
なんで円高で造船会社がって、それは船が売れないからだ。
船というのは、基本的に車以上に高額である。そして、基本的には車よりも寿命が長いと言われている。
もちろん、それはちゃんと整備したうえでの話。
船の故障は車よりも命に関わる場合が多いので、結果的に車よりも長持ちするわけで……話を戻すが、この造船会社がダメージを受けるのはかなりマズイらしい。
曰く、『車に並んで、船が売れないというのは非常にマズイ、製造技術が遅れてしまえば、その分だけ多大な不利益が生じる』とのこと。
なるほど、言われてみれば、日本は島国。
輸入品の9割以上は船による輸送なので、ここがダメージを受けるのだけはマズイ……というところか。
船が売れたら修理用の部品が売れるし、必要に応じて整備用の人件費を掛けられるし、国外に売れたらそれだけでも宣伝になるのだろう。
しかも、車と同じくそう簡単にホイホイ買い替えるわけではない。
一隻売れたら、何か事故や故障でも発生しない限りは10年以上は買い替えたりしないから……が、しかし。
言い換えれば、別の会社の船を買われてしまえば、同じ事である。
いつぞやのゴールドラッシュのように、飛ぶ勢いで次から次に売れるものではなく、その分だけ顧客を失うということになるわけで。
(船か……必要性が高いのは分かるけど、これまで私は造船関係には本当に一切手を出してこなかったけど、はたして手を出してもよいのやら……)
理屈としてはまあ、分かる。
円高なのか円安なのか、バブルが膨らんでいるのか弾けているのか、『恐怖の大王』による因果改変によって、いまいちハッキリしなくはなっているけど。
おそらく……いや、確実に、今の日本で自由に動かせる金を多く保有しているのは、己だろうと千賀子は分かっていた。
道子の家みたいな資産家たちもお金は出せるのだろうけど、千賀子ほどじゃない。
それに加えて、そんないきなり何億~何百億なんて金を動かしたら、それこそどんな混乱を招くか分かったものではない。
女神様の後ろ盾がある千賀子だからこそ、そういった混乱を招くことなく大金を動かせるのだけれども……まあ、う~ん。
「……少し考えさせてちょうだい。何でもかんでも、私を貯金箱扱いされても困るわ」
『なにとぞ、なにとぞ……!!』
一つため息を吐いた千賀子は、そう言って電話を切った。
「……気のせいかもしれませんが、マスター、少し感心していませんか?」
「感心……かは分からないけど、大した御人だと思ったわ」
それを見ていたロボ子より、そう尋ねられた千賀子は……けして否定はしなかった。
なにせ、あの『秋山千賀子』に対して、真正面からお金の工面を申し出て来たのである。
これまで、あの手この手で言葉を替えたり同情を引こうとしたりしてきた者は大勢居たけど。
まさか、現総理になった人が、真正面から金を出してくれと言って来るとは思わなかった。
なにせ、最初の一言が『単刀直入にお願い申し上げる。日本の造船のためにいくら金を流せますか?』、である。
要求を告げた後は腰を低くしてお願いしてきたけど……正直、それを帳消しできるだけの印象を千賀子に与えていたのであった。
「田中総理は、何だかんだ私に対して甘いというか、遠慮があったっぽいけど……この人はそれが無いから、良くも悪くも素直だわ」
「では?」
「それとこれとは別よ。いくらなんでも手を広げ過ぎだわ……ここまできたら、もう私ってば影の支配者じゃないの」
「……違うのですか?」
「違うってば」
真顔で首を傾げるロボ子に、千賀子は苦笑と共に否定し……客観的に見たら否定できないのだけど……とにかく、千賀子としてはこれ以上は……という気持ちがけっこうあった。
まあ、客観的に今の千賀子の立場を考えたら、だ。
1.日本有数の大地主(ただし、所有している土地は二束三文)
2.日本唯一のスペースシャトル&発射設備と、それらを運用できる『チカコチャンカワイイコレハモウユルサレナイデモヤッパリカワイイカラユルス島』持ち主。
3.世界最大規模の複合アミューズメント施設のオーナー、
4.日本唯一の競馬場個人所有オーナー。
5.日本屈指の名伯楽にしてG1競走馬所有の個人馬主。
6.日本最大級の篤志家であり、財界・政界・角界・学会に対しての繋がりあり。
7.大阪において唯一無二の影響力を持つ女。
8.もしもヘアヌードになれば、数十億~数百億単位の金が動く女。
9.紀元前よりその名が知られ、来年くらいに創業48日になると人々が夢見た『愛し子カワイイもうどこから褒めたら良いのか分からないうう涙が出そうああ出ちゃったカワイイ愛し子カワイイぺろぺろしたい会社』のオーナーでもある。
箇条書きにしただけで、これだけのヤベーのを挙げられるのだ。
一つあるだけで超大物扱いされて各業界が一目置くというのに、千賀子はそれを9個も持っているのだ。
正直、この時点で千賀子自身まったく制御できていないのに、ここからさらに10個めは……もう、お腹いっぱいにも──っと。
「お母さん」
「あら、春人、どうしたの?」
とてとて、と。
廊下の向こうより姿を見せた春人の姿に、千賀子は笑みをもって出迎えた。
春人も、気付けば小学生……男の子だからなのか、色々とやんちゃな部分が見え始めてきたけれども、まだまだ甘えた盛りである。
「チョコ、買いに行きたい」
「チョコ……ちゃんと、言いつけは守ったの?」
「うん、頑張ったよ!」
ふんす、と鼻息荒く胸を張る春人を前に、千賀子はロボ子を見やり……事実だと頷かれたので、千賀子はにっこりと笑みを浮かべ……春人の手を引いたのであった。
ちなみに、『言い付け』とは、千賀子やロボ子より出されるお手伝いや、勉強や運動、である。
……。
……。
…………春人が言う『チョコ』とは、千賀子の前世でも流行った『ビックリマン・チョコ』という名のお菓子である。
形状は、チョコ入りウエハースである。
今生のこの世界では『びっくりしたな・チョコ』という名前になっているが、イラストや設定はとてもよく似ていた。
で、このチョコだけど、どうも小学生の間でとても流行っているらしい。
言っておくけど、チョコじゃなくて、同封されている『シール』の方だ。
このシールが、いわゆるコレクター品みたいな扱いになっていて、それはもう大人気で飛ぶように売れているようであった。
「……それ、当たりなの?」
「うん、ひょこおいひい」
「物を食べながらしゃべってはいけません」
「ふぁい」
モゴモゴとチョコを食べる春人より差し出されたシールはラメ入りなのか、キラキラと光を反射していた。
以前見せてもらったシールにはそんなモノはなかったから……たぶん、レア物というやつなのだろう。
「……せっかくだし、私も食べてみるね」
「おいひいよ」
注意した傍から……いや、まあ、いいか。
場所は、コンビニ。店を出てすぐにムシャムシャ食べている春人をその場に置いて、千賀子も一個持ってレジへ。
そういえば、最近はこの手の菓子を食べていないなあ。
と、思いつつ、店員(男)から、デレデレっとした視線を向けられつつも、足早に春人のもとへ戻る。
ペリッと袋を開けて、チョコウエハースを食べてみれば……おお、意外と美味い。
毎日出されたら飽きてしまうが、時々食べる分には歯ごたえもあって、中々に甘さが丁度良かった。
「……お母さん、どんなシールが入っていたの?」
「ん? ん~? ちょっと待って」
袖を引かれて、そういえばそれが本命かと思い出した千賀子は、袋の中に残っているシールを取り出した。
──最終章なので、ガチャです──
そこに描かれていたのは、『びっくりしたな』のキャラ調になった女神様の姿で、そんな言葉が書かれていた。
それを認識した瞬間、千賀子はブハッと咽てチョコを吐き出した。「わっ、お母さん、大丈夫?」突然のことに、春人は驚いていたが、千賀子は片手で春人をなだめつつ……ふと、振り返ると。
『──びっくりしましたか?』
そっと、千賀子へとダーツの矢を差し出す……女神様の姿であった。