ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
周囲の時間は、止まっていた。
だがそれは、物理法則を用いた時間停止ではない。
時間が止まっているのに辺りの明るさは止まらず、しかし、取り付けられた時計の針は止まっていて、周囲の人々も動きを止めていた。
それは、春人も例外ではなく……ウエハースチョコを手にしたまま、ピタリとその場にて静止している。
そんな中で、だ。
──さあ、今回は一発だけです。
その言葉と共に差し出されたダーツを受け取った千賀子は、同じく、眼前に用意されたルーレットを見やる。
ルーレットの形状自体は、これまでと同じだ。投げること自体は、もう慣れた。
問題なのは、この中身……何が当たるか、それが大事なのだが……そこで、千賀子は気付いた。
(……あれ?)
これまでと違い、ルーレットに記されたモノに違いが無い。
見たままを語るならば、女神様の姿がデカデカと一面に描かれているだけで、これまでのように様々な項目が書かれている部分は一つもなかった。
これは、どういう意味なのだろうか?
もしや、完全目隠しみたいなアレかなと思って女神様に尋ねたら……女神様は、嬉しそうに顔の手をグニャグニャと蠢かせた。
『──最終章なので、今回は100%大当たり仕様です』
「は?」
『──最終章ですから。ハズレはありませんよ』
「は?」
『──もちろん、今回のルーレットはこれまでとは異なり、レア度はありません。オンリーワンのルーレットです』
「女神様、私がそのようなルーレットを欲しいと思いましたか? そういうのはお気持ちだけでけっこうです、すぐに元に戻してくださいませ」
『──まあ、なんと心優しき愛し子なのでしょう。そんな貴方だからこそ、このルーレットはご褒美みたいなものと思ってください』
「女神様、元に戻さなくていいっすよ。そもそも、こんなちゃちいルーレット出されるのは拍子抜けっていうか、チャチな代物っすね」
『──まあ、愛し子の元気な反抗もまた愛おしい、あまりの愛らしさに涙が……う、うう、そんな貴方にも、このルーレットはご褒美みたいなものですよ』
「ちくしょう、どちらを選んでも結果は一緒じゃないか……!!」
『──当たりではありますが、どの当たりが出るかはランダムです。さあ、貴女を想って用意致しましたよ……』
「なんて恐ろしい……」
思わず、千賀子はその場に地団太を踏みそうになった。
しかし、これから100万回踏んだところで、もはや女神様の結論が変わらない事は察していたので……仕方がない。
とりあえず、促されるがまま……投げる。
案の定というか、ダーツは狂いなく的へと当たり……パーッと光り輝いたかと思えば、ルーレット盤は……千賀子の前に、一枚の札へと形を変えた。
『スキル:あまねくすべての集い』
それは……正直、意味が分からなかった。名称の意味が分からないが……なんだろう、大勢の人たちの力を借りるのだろうか?
なんとなくだが、それが当たっているような気がしなくもない。ただ、出来るならばあまり使いたくはない気が……まあいい。
とりあえず、千賀子としては『魅力』系の大当たりが来なくて良かったというのが本音であった。
だって、女神様ったら露骨に残念そうというか、一番当たってほしかったのが当たらなくて……みたいな雰囲気醸し出しているし。
まあ、だからといって、『スキル:すべての魂の戦い』が安全とは限らないというか、むしろ、何時爆発するか分からない類の能力に思えてくるのだが……で、だ。
女神様によるダーツタイムが終われば、世界に時間が戻る。それに合わせて女神様も姿を消し、先ほどまでの喧騒が戻って来た。
「……お母さん? どうしたの、ボーっとして?」
「え? あ、ううん、なんでもないわ。それじゃあ、帰りましょうか」
「うん」
これまでの経験上、無駄にアレやコレやと考えたところで、結局はその時にならないと分からない事なので……千賀子は、未来の己に後を任せることにしたのであった。
……。
……。
…………で、その帰る途中、千賀子は足を止めた。
正確には、テクテクと歩いている途中、春人が足を止めたので、千賀子も合わせて足を止めたからで……視線を追いかければ、そこにはゲームセンターの看板が輝いていた。
そう、ゲームセンターである。
1986年にもなれば、ゲームセンターには多種多様なゲームが置かれ、客層も少しずつ変わり始めていた。
まあ、それでも、この頃はまだまだ不良のたまり場といったイメージが強く、実際、まだまだ客層は高校生以上で。
現代のように完全子供向けのようなゲームが増えたのは90年代半ばに入ったくらいの頃で、大人も遊べて家族全員で……というコンセプトが増え始めたのは00年代に入ってからである。
まあ、00年代に入ると、メダルゲームよりも100円玉を使用したゲームが流行り、これが後に様々な媒体へと広がっていくわけだが……で、だ。
「……駄目よ、春人には早い。行くなら、小学校を卒業してから」
「ん~……中を覗いちゃダメ?」
「覗いてもいいけど、ゲームはさせないよ。それに、中はタバコの臭いとかするけど、臭いの嫌でしょ?」
「臭いの平気、見たい」
「……いいわ。でも、お母さんと一緒に居る時だけよ? もしも一人で勝手に行ったら、いっぱい怒るからね?」
小さくもはっきり頷いたのを見た千賀子は、春人の手を引いて……中へと入った。
その瞬間、千賀子たちの耳は、ガラス扉越しでも響いて喧騒によって騒がしく塞がれてしまった。
現代では周辺への騒音やら何やらで様々な対策が施されたりしているが、この頃にはまだまだそんな考えは薄い。
二重のガラス扉なんて使っている店は皆無で、音量もとにかく騒がしくといった感じで、慣れていない者は店から出ると耳鳴りが出るぐらいであった。
ちなみに、だ。
千賀子が店に入った瞬間、店内に居た……まあ、客層的に男性ばかりだが、彼らの視線が千賀子へ向けられ……驚きに目を白黒させていた。
まあ、それも無理はない。
もう年齢的に『オバサン』なのだが、その見た目は20代前半。それでいて、遠目からでも一目で分かるぐらいのナイスバディ。
そんな目立つモノがありながらも、顔を隠しているのだ。
むしろ、これで目立つなという方が無理な話であり、客層的には年頃な者が9割近いこともあって、余計に注目を集めていた。
そんな中で……春人は、顔をしわくちゃにしていた。
おそらく、思っていた以上に音がうるさかったのと、タバコの臭いがこもっていたから……それも、致し方ない。
大人ですら、慣れていなかったら思わず顔をしかめるぐらいのやかましさだ。
ゲーム画面のキラキラとした輝きは確かに子どもである春人の気を引いただろうが、それ以上に、音と臭いが想像以上だったようだ。
……いちおう、店を出るかと声を掛ける。
すると、中をもっと見たいという事なので、春人の手を引いて店内をゆっくり見てまわる。
この頃のゲームセンターに置かれているゲームだが、後に家庭用にも流用されたり、アレンジ移植されて人気が増したゲームが多い。
『スペランカー』、『アーガス』、『ファンタジーゾーン』、『ワールドカップ』、『ワンダーボーイ』等々。
後に世界的大ヒットシリーズとなる『ストリートファイター』が表舞台に出て来たのは来年の1987年で、いかにこの頃はアーケードゲームに力が入っていたのかが察せられるだろう。
まあ、この頃はまだ現代のような高性能ゲーム機なんてものは開発されておらず、また、表現規制の問題もあり。
家庭用ゲーム機への移植ともなれば、どうしても1ランク2ランク下げるしかない……ということもあり。
より質の高い、より規制の掛かっていないゲーム=ゲームセンターのアーケードゲームというのが、この頃の常識みたいなものがあった。
そんな中で、千賀子は……大して広くもない店内をゆっくり回り、時には春人を膝に乗せてゲーム台の前へ座る。
この頃のイスって、現代に比べて固いというか、そこまで質が良いモノがなくて……座りっぱなしだと、お尻が痛くなってしまう。
高さもゲーム機に合わせているだけで、高さの調整なんてのもできないので……で、だ。
「……もう、いい?」
「うん」
しばらくパチパチとボタンを意味もなく叩いたり、ゲーム画面を眺めたりしていたが……そこで飽きたのか、春人は素直に千賀子の言うことを聞いた。
そうして、あまり長居をするのもなんだし、さっさと店を出ようとした……その時であった。
(……ん? なんだアレ?)
それは、100円玉など現金を使って遊ぶのではない、いわゆるメダルゲーム機と呼ばれるアーケード台であった。
その台の前に、一人の女が座っている。後ろ姿なので、顔は見えない。
だが、後ろ姿でも十二分に人の目を引き付ける、ナイスバディな……とはいえ、千賀子の気を引いたのは、そこではない。
気を引いたのは、その女がプレイしているゲームが……他とは比べて、明らかに画質が良かったからだ。
画面には、釣り糸を垂らす様々なキャラクター(一緒に、数字が表示されている)が表示され、その針の先……水の中を泳ぐタコの姿があった。
そういうものへの知識が疎い千賀子でも分かるぐらい、明らかに……よく見ると、機体もずいぶんと綺麗で……ん?
「……あんた」
しばし眺めていた千賀子は、そこでようやく気付いた。
気付いた瞬間、『いや、そんな馬鹿な……』とは思ったけど、見れば見るほど、そのようにしか見えず……それゆえ、千賀子はおそるおそる尋ねた。
「まさか、『恐怖の大王』、じゃないわよね?」
「え?」
「──何をしているの?」
そうしたら、振り返ったその顔……まさかの本物であった。
あまりにも想定外な事態、予想すらしていなかった状況に、千賀子は目を白黒させ……だが、それよりも、だ。
「メダル……飲み込まれちゃった」
「えぇ……」
空っぽになったプラスチックの箱を手にした恐怖の大王は、ぐったりと項垂れている姿に……千賀子は、言葉を無くしたのであった。