ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
──『恐怖の大王』──
この世界ではそう呼ばれることになる存在は、人々の負の念が凝縮した存在であり、人々が望むことで生まれた存在でもある。
……人々を殺し、人々を不幸にする存在が、人々が望むのかって?
けっこう誤解されがちだが、不幸を望むことに正当性や道義などは関係ない。
人生が
道義に外れた反社会行為を行いつつもなんらお咎めを受けるどころか、自分よりも恵まれた生活をしている者に対して『罰を受けろ……』と願うのも、そう。
人のルールなど、関係ない。
どんなルールを皮にして被ったところで、『誰かの不幸を、誰かの苦しみを、誰かの痛みを』、望んだ事実は変わらないのだ。
だからこそ、千賀子がこれまでどれだけ手を尽くしたところで『恐怖の大王』は生まれ、それを根本から止めることは不可能だったのだ。
なにせ、女神様から『本当に恐怖の大王をどうにかしたいなら、人を減らすしかない』と千賀子に伝えたくらいだから……本当にどうにかしようと思ったら、それしかないわけだ。
もちろん、千賀子はそんな選択肢を選べない。
選べないからこそ、溜め込んで溜め込んで溜め込まれて……完全な状態で『恐怖の大王』が出てくることをさせない選択を千賀子は選び取っていた。
その都度、削りに削られた『恐怖の大王』を蹴散らすことで、弱体化させ続けた。
しかし……それでもなお、ついに『真・恐怖の大王』は誕生してしまったのだが……ここで一つ、誰もが予期せぬ事が起こった。
それは、幾度となく千賀子の手で破壊された恐怖の大王は……なんと、千賀子に対抗するために、千賀子をコピーする事を試みたのである。
それは、非常にうまくいった。
本来、ただ奪うだけの存在であり、そこに意思など存在しないところに、『秋山千賀子』という人格モデルが追加された。
もちろん、完全に千賀子の人格をトレースしたわけではない。あくまでも、モデルにしたうえで、そこに恐怖の大王がミックスされた状態に、というわけだ。
……その結果、どうなったか。
それまで、ただ滅ぼすだけの存在に『心』が生まれた。
そう、今の恐怖の大王は、これまでの恐怖の大王とは違う。
根本的な部分はすべての命を滅ぼす性質であろうとも、そこに千賀子をコピーすることで生まれた……『真・恐怖の大王』なのだ。
……で、だ。
そうして自我を得た恐怖の大王は……彼女はまず、己の力を高めるために、これまでと同じく人々の絶望を生み出すことにした。
それ自体は、特に難しいことでなかった。
彼女がどうこうしなくとも、人間たちが勝手に争い合い、負の念を生み出す……やる事としたら、少しばかり手を回してやる、それぐらいであった。
因果改変だって、別にそこまで消耗するわけではない。
もちろん、根っこから作り変えるレベルともなれば、さすがの彼女とて非常に大変だが……幸いな事に、そこまでする必要はない。
そんな事までしなくとも、同じ人間が勝手に誰かを不幸にしたり、誰かを蹴落としたり、誰かを蔑ろにしてくれるからだ。
だから、ちょっとだけ。
ほんのちょっとだけ後押ししたり、ほんのちょっとだけ選択肢を変えたり、ほんのちょっとだけ欲望を促すだけで……後は勝手に、人間たちが動いてくれる。
……とはいえ、それで瞬く間に彼女の力が増していく……というわけではない。
負の念というのは、言うなればマイナスの力。
対して正の念……すなわち、ポジティブな心や思いによって中和されてしまい、それどころか、彼女自身にもダメージを与えてしまう。
つまり、秋山千賀子という女が世界を盛り上げ、人々の心に安心を与え続ける限り……彼女は力だけでなく、その身を削られるも同然の状態になるわけだ。
だから、彼女は……事を一気に進めることはせず、少しずつ確実に力を蓄え、確実に滅ぼせるよう頃合いを見て動こうと考えていた。
言うなれば、ルーチンワーク。
ひたすら待ちの態勢を維持しつつ、少しずつ真綿で首を絞めるように動けば……それが、一番リスクが小さいやり方なのであった。
……。
……。
…………まあ、それはそれとして、だ。
(う~ん、どうしましょう)
彼女は、退屈を持て余していた。自我を持ったからこそ、彼女は暇の潰し方に苦心していた。
(最近、あの子たちは私が抱き着くと腰を引いちゃうし……あまり、刺激的?)
とりあえず、河川敷にて石を用いた水切りで遊び、その際には仲良くなった少年たちとスキンシップをして楽しんだり。
(田舎は、ゴミ掃除をしただけでも注目を集める……う~ん、これが余所者扱い?)
遊んでばかりもなんなので、川のゴミ掃除(ゴミは、大王パワーで分解)をしていたら、学生からすごく見られたり。
なお、その際の彼女の恰好は、パンツ一枚だけである。そりゃあ、濡れるからね、仕方がない。
他にも、暇つぶしがてら色々なモノに手を出したり、ついでに、コイツ私を差し置いて他人を不幸にしやがると腹が立って因果改変したり。
何度も言うが、今の彼女は『秋山千賀子』を基にして生まれた『真・恐怖の大王』である。
だから、本来の恐怖の大王とは性質が少し違い……まあ、根本は変わらないのだけど……とにかく、彼女は違う事をしたくなった。
幸いと言うべきかは判断に迷うが、彼女は千賀子とは違い、やろうと思えば素顔を晒しても正確に認識できない状態になれる。
なので、彼女は『春木競馬場』へ向かった。
──え、コイツ、何してんの?
事情を知る第三者が居たら、おそらく、そう考えた者は多いと思う。たぶん、千賀子もそれを知っていたら、同じ言葉を発していただろう。
でも、彼女には理由があった……行かなければならない理由が……そう、それは。
「──まいど!」
「うまっ、うまっ……」
「お姉さん綺麗だから、おまけしとくよ!」
「うまっ、うまっ……」
「あれ、オーナーに似て……よく言われないかい?」
「気のせい、うまっ、うまっ……」
『春木競馬場』のグルメを堪能するためである。
そう、彼女は『秋山千賀子』をベースにした自我を持っている……そして、彼女の場合、お目付け役となるロボ子がいない。
すなわち、グルメフィーバー万歳道中の始まりである。
お金は、ちゃんとある。
生意気にも自分を差し置いて悪い事をしているやつから因果改変能力で奪い取ったから、札束が10も20もある。
その代わり、奪い取られた者は道を踏み外さなかったという因果に改変され、結果的に彼女はダメージを受けていたりするのだが……そこらへんはコラテラル・ダメージとして諦めて、だ。
『──まあ、愛し子に似ていますね、頭を撫でてあげましょう』
「──っ!?」
途中、ぬっと姿を見せた女神様から頭を撫でられ、ガチビビりした彼女はそのまま……レースにも挑む。
当然……負ける。
いや、当てようと思えば、当てられるのだ。
ただ、無理に当てるとさすがに千賀子に気付かれるし、別に金が欲しいわけでもないから……とはいえ、だ。
初めから(確率100%)負けると分かっているレースというのも、つまらない。
いや、別に、勝とうが負けようが……どちらにせよ、わざと負けるのを選ぶのも……そこで、彼女は考えた。
──そうだ、ゲームセンターに行こう、と。
競馬に限らず、賭け事はどうにも性に合わない気がする。勝ってもダメだし、負けたら他に利益が回って……だからこそ、ゲームセンターだ。
そこならば、いくら勝とうが負けようが利益が他所に回ることなんてない。せいぜい、店に多少なり利益を生むだけだ。
だが、たかが一人が100円玉をジャラジャラ投入したって、それで店の経営に影響が出るわけもなく……で、だ。
意気揚々とゲームセンタ―に向かった彼女だが……そこで彼女は初めて、己の身体というか、ある事に気付いた。
それは──己が、ゲームが下手だということに。まあ、無理もない。
なにせ、生後半年にも満たない存在だ。いくらベースとしてコピーしたとはいえ、肉体の経験値があまりにも少な過ぎた。
いちおう、目では追えるのだ。
ただ、目で追ってボタンを押すまでの間にどうしてもタイムラグが生じてしまい、1面はクリア出来ても2面で敗北してしまう。
せめて一つぐらいはクリアしたいなと連コインをするも……結局、1万円ほど使ってもどうにもならなかったので……彼女は、考える。
──そうだ、メダルゲームにしよう、と。
メダルゲームは、何時の時代もターゲット層が子どもである。やり方も単純明快で、反射神経をそこまで必要としないゲームが多いだろう。
なので、彼女はさっそくメダルゲームをしようと……しかし、そこで彼女は思った。
もうちょっと、楽しいメダルゲームが良いなあ、と。
なので、彼女は因果改変能力をちょっとばかり応用して……現在よりも未来に開発され設置される、メダルゲームを出現させた。
それは、今はまだこの世界には生まれず、千賀子の前世の世界にあった……『どぼちゃん』という名のメダルゲームである。
このゲームは、現代ではお馴染みとなったボタン連打にてキャラが反応する……そういう機能が搭載されている。
なお、この世界では名前が異なっているが……とにかく、ふんすと鼻息荒く準備を終えた彼女は、メダルをチャリンと入れた。
「……あ」
結果は、失敗。
ボタン連打をしたのだけど、致し方ない。
気を取り直して、もう1回。
「……あ」
結果は、失敗。
ボタン連打をしたのだけど、致し方ない。
気を取り直して、もう1回。今度はメダル2枚、成功すれば倍の報酬だ。
「……あ」
結果は、失敗。
かなり本気でボタン連打をしたのだけど、致し方ない。
気を取り直して、もう1回。今度はメダル3枚、成功すれば3倍の報酬だ。
「……あ」
結果は、失敗。
だいぶ本気になってボタン連打して、その際に胸がたぷたぷたぷたぷと弾みまくり、周囲の客の注目を浴びまくっていたのだけど、致し方ない。
鼻息荒く、もう1回。すっかり手慣れてメダルは3枚、成功すれば3倍の報酬だ。
「……ふん!」
結果は、失敗。
超本気になって──この野郎、恐怖の大王をなめやがってとすっかり熱くなってしまった彼女は、足早に両替機にてジャラジャラとメダルを用意し、再びボタン連打。
さすがに回数を繰り返せば、そのうち成功する。
しかし、メダルを100枚費やして、60枚戻ってくればいいくらいの勝率……これでは勝ったとは言えない。
──メダルゲームのくせに調子に乗りやがって。
頭に来た彼女は、そのまま持っていた100円玉を全てメダルに変えて、チャリチャリチャリリンとメダルを注ぎ込んでゆき。
「メダル……飲み込まれちゃった」
「えぇ……」
最後に、なんとか起死回生の一手をと一番倍率の高いやつを狙ったのだけれども負けてしまい。
ゲームの操作説明が表示されている画面を空しく見つめていた彼女と、何やってんのとガチで困惑する千賀子が、たまたま遭遇したのは……そういう事情があったからであった。