ピックアップガチャ(固定)スキル持ちの転生TS美少女が行く、激動昭和なお話 作:葛城
──双方唐突に再会を果たしたわけだが、双方ともが何の準備もしていなかったので、双方ともが困ってしまった。
まず、千賀子。
傍に他人どころか、己の命に代えてでも守り切る覚悟ができている春人がいる。
まともに真正面からぶつかったら、大勢の死傷者が出てしまう。
当たり前だが、『真・恐怖の大王』を前にして、周りに気を使いながら勝利を得る……なんてのは不可能である。
そもそも、『巫女』の力は攻撃には向いていない。
無理やり出力を上げて攻撃力を引き上げているだけで、純粋に攻撃に特化した攻撃の前では、普通に押し負けてしまう。
言うなれば、巫女的パワーで身体能力を上げまくって超人みたいに動けるだけで、銃なんかで撃たれたら普通に重症を負うのだ。
逆に、『巫女』は自分を含めて、誰かを守る力に特化した能力ではある。
誰かを傷つける方向ではどうしても1段2段はパワーを落としてしまうが、誰かを守る方向ならば、『巫女』の本来の性能を発揮できる。
つまり、現状は完全に千賀子が不利であった。
当たり前だけど、千賀子の体力は無限ではない。
彼女が本気で千賀子を仕留めるために動いたならば、守る範囲が広ければ広いほど、千賀子の負担は大きくなる。
対して、彼女はそんな事に気を使う必要はない。
むしろ、手当たり次第に四方八方に攻撃するだけで、千賀子の行動を抑えられるわけで……だからこそ、千賀子が不利なのである。
しかし、だからといって、このまま戦闘に持ち込めば彼女が勝つ……というわけでもない。
そりゃあ、途中までは押せるだろう。真正面からの戦いでは、相性的には彼女が有利だから。
でも、もしも彼女が戦いの途中でエマや春人を始めとして、千賀子の知り合いを害してしまえば、どうなるか。
そうなった時、間違いなく良くて相打ち、悪ければ重傷を負わせただけで己は倒されるだろう。
それを、ベースが千賀子だからこそ、彼女も理解出来ていて……それゆえに、彼女もここで勝負を決しようとは思わなかった。
「……1万円」
「はい?」
なので、だ。
千賀子はかなり身構えていたのだけど……そんな千賀子の内心を他所に、彼女は攻撃ではなく……千賀子へと、1万円を差し出した。
「両替、して」
「……え?」
「両替機、紙幣は1000円までしか対応していないから……」
「えぇ……?」
さすがの千賀子も、まさか恐怖の大王が両替を頼んでくるとは想像すらしていなかったので、普通に驚いた。
まあ、驚いたとはいえ、わざわざ断る理由はない。変に断って機嫌を損ねたところで、千賀子にとって損しかないし。
「……ロボ子」
「──はい、こちらに」
とりあえず、いつものようにこっそり護衛しているロボ子の名を呼べば、どこからともなく姿を見せたロボ子が、スッと千円札の束を差し出してきた。
きっちり、10枚。ご丁寧に、10枚目を折って9枚を束ねた状態にしてある。
ちゃんと枚数を確認してから、1万円と交換する。
受け取った彼女は、足早に両替機へ……彼女はあまり慣れていない手つきで、紙幣を両替機へ──が、しかし。
──うぃ~ん。
読み込みエラーで戻ってきた紙幣を前に、彼女は首を傾げ……もう一度入れ直す。
──うぃ~ん。
再び、1000円札は戻って来た……それを見て、首を傾げた彼女は、別の1000円札へと入れ替え……投入。
──うぃ~ん。
再び、1000円札は戻って来た。
……これは、このゲームセンターに置かれている両替機の質が悪かったり、装置が劣化しているとか、そういうわけではない。
現代では読み取り装置の性能が向上し、よほど連続して使われていたり、装置が劣化さえしていなかったら、ほぼ読み取ってはくれるのだが……この頃は、そうではない。
1986年のこの時点では、小さなシワや汚れがあるだけでエラーとして検出され、何度も何度も入れ直す……なんて事がけっこう多発していた。
だから、別に彼女の投入の仕方が悪いわけではない。
この頃はもうゲームセンターだろうが駅だろうが何だろうが、キレイな紙幣入れてもエラーで戻って来るなんてのは当たり前な話であった。
「……やって」
「えぇ……ま、まあ、いいけど」
明らかに気分を害したっぽい彼女の姿に、なんだコイツ……とは思いつつ、とりあえず、受け取った1000円札を投入。
──うぃ~ん。
読み込みエラーで戻ってきた紙幣を前に、千賀子は首を傾げ……もう一度入れ直す。
──うぃ~ん。
再び、1000円札は戻って来た……それを見て、首を傾げた千賀子は、別の1000円札へと入れ替え……投入。
──うぃ~ん。
再び、1000円札は戻って来た。
それを見て、一つため息を吐いた彼女は……フッと笑みを浮かべると。
「ロボ子」
「はい、マスター」
両替機能を有した最強のロボ子を呼んだ。
ロボ子も手慣れたもので、「うぃ~ん」1000円札を受け取ると同時に声で効果音を出して。
「じゃらじゃらん」
これまた効果音と共に、千賀子の手に100円玉を10枚置いた。それをしっかり受け取った千賀子は、そのまま彼女に手渡した。
「それは、ズルイ」
「ずるくない」
納得がいかないといった様子の彼女だったが、それ以上は特に何かをするつもりはなく……受け取った100円玉をさっそくメダルへと両替し終えた彼女は、再びメダルゲームを始めた。
……。
……。
…………とりあえず、今回は放置しておくべきなのだろうか?
現状、今の状況では千賀子から手を出すのはリスクが高すぎるし、かといって、このまま放置していくのも……っと。
「お母さん、帰ろう」
「あ、うん、そうね」
しばし見つめていると、何時までもその場から動こうとしない千賀子に焦れたのか、春人が手を引いてきた。
傍から見れば、『真・恐怖の大王』である彼女は、ただの女性だ。
なにやら、認識改変(?)っぽいナニカを行っているのは分かるが、とりあえず、誰彼構わず命を奪うといった類のソレではないのは分かる。
……とりあえず、様子見しておこうという気持ちにはなった。
後々、必ずぶった押さなくてはならない相手だというのは分かっている。けれども、状況があまりに千賀子に不利だ。
そのうえ、これは直感的な話なのだけど。
おそらく、ここで眼前の彼女を倒したところで、おそらく『真・恐怖の大王』は完全には倒せないと思う。
恐怖の大王は、人々の負の念より生まれる存在。すなわち、すべての人々の心に宿り、育まれ、実体化されるモノ。
少なくとも、『真・恐怖の大王』を本当の意味で倒して、その力を著しく弱体化させようと思うのであれば、それ相応の手段を考えなければならないだろう。
なので、今回は……仕方がないけど見逃すしかない。下手に刺激しない方が良いと、千賀子の直感はそう答えを出していた。
……いちおう、マーキングだけでもしておくべきだろうか。
そう判断した千賀子は、巫女的パワーにて彼女へ……だが、それは無理であった。
やはり、どれだけ見た目がとぼけていたとしても、『真・恐怖の大王』は伊達ではなく……難なく弾かれてしまった。
では、カメラを用いて物理的に監視を……残念ながら、カメラでは一切感知できないようだ。
光学・重力・熱源・すべてのセンサーが一切反応せず、『そこには異常が見られない』という結果が残るだけであった。
むしろ、肉眼ならば存在を認識できるだけマシと捉えるべきなのだろう。
この分だと、人を雇って監視させようとしても、その人の認識が操作されてしまうので、結局誰も監視なんて出来ないだろうし……まあ、うん。
「坊や、君はとても良い子だ、メダルを少しあげよう」
「お母さんから、知らない人から物を貰ってはいけませんって言われているから、貰えないの」
「──ふん!」
「あうん、酷い……」
とりあえず、春人に手を出そうとしたので、千賀子は彼女の脳天を叩いたのであった。
彼女も冗談のつもりだったのか、特に反応はなく……一人、ロボ子だけが『……そっくりだなあ』と、どこか生暖かい目を剥けていたのであった。
さて、そんな彼女をしり目に、だ。
1986年の年の瀬が近付きつつある11月半ば……それは、アラスカ州のフェアバンクス上空を飛行中にて、とある事件が起こった。
それは後に『日航ジャンボ機UFO遭遇事件』と呼ばれる事件で、要は未確認飛行物体を目撃した、というものだ。
このUFOはジャンボ機の3倍以上にもなる巨大な球体で、約50分ほど、逃げようとしたジャンボ機に並走するように移動し、そのまま姿を消したのだという。
これは貴重だけでなく、副操縦士も目撃しており、機内のレーダーにもはっきり映っていただけではなく。
後に、ブラジルのサンパウロ上空に、貴重たちが目撃したモノと同じ形状のUFOが、大勢の人々に目撃されたとかで、この話題は世界中に広がった。
しかし、それはまだ起こってはいない。
起こるのは、これから数ヵ月先なのだが……しかし、一部の人たちの動揺を他所に、なんとなく察した千賀子は……ロボ子に尋ねた。
「何か、心当たりある?」
「この前、ちょっとヤンチャな宇宙人たちが夜空のミルキーウェイを爆走していましたので、私のドライビングテクニックで黙らせました」
「おまえ、なにやってんの?」
「峠を攻めるには、あの子たちは若すぎましたね」
「聞きたいのはそこじゃないんだけど?」
「最近は、けっこう私の顔と名も知られた様子で……ふふ、生半可な走り屋は、私の顔を見ると頭を下げてきますよ」
「おまえ、なにやってたの?」
とりあえず、総理たちから何か聞かれたら、適当に誤魔化すことにして……だ。
千賀子はせっせ、せっせ、なんとかバブル崩壊のダメージを軽減させようと、西に東に動き回っていた。
なにせ、少年少女の自殺者数が増えているという報道が出たのだ。
これの何が悲しいって、巫女的直観による判定だけど、彼女は何も手を出していない。つまり、人間社会が自ら生み出してしまった自殺者たちなのだ。
このニュースを見た時の千賀子の感情は……とても、言葉に出来るようなものではなかった。
しかし、いくらショックを受けたとて、それで何かが改善されるわけでもなく……ここで己が狼狽えては、と千賀子は気を引き締めるのであった。